ライフ4000とかすぐ消し飛ぶんじゃが   作:満満不満足

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第3話

 本当に、この世界には驚かされてばかりだ。

 まさにアニメやら漫画のようなデュエルモンスターズ至上主義にして、他の追随を許さないカード関係への力の入れっぷり。そりゃあディスクを装備していなければ不審者を見るような眼差しを向けられるってもんだ。

 カードがアホみたいに高いのはいい。街中で突如始まるデュエル? 全然問題無いね、見てて楽しいし。揉め事はとりあえずデュエルで解決する? ……問題は、無いんじゃないか? 何事においてもデュエルが優先される? うん…………うん。ここまでは理解も納得は出来た。

 さて、突然ではあるが現在俺と深夜は列車の車内に居た。車内はとても広々としていて、FF6の魔列車のような豪奢な内装。少なくとも、俺のような一市民では一生乗る機会などやって来ないであろう列車だ。

 

「おい白砂(はくさ)。お前さっきからめちゃくちゃ虚ろな目ぇしてるけどよ、もしかして酔ったか?」

 

「……いや、酔ったとか、そういうわけじゃないんだ。ああ、そういうわけじゃ」

 

 俺の言葉にわけがわからないと言った風に首を傾げながら、隣に座る深夜。

 車内は明るいが窓から見える景色は真っ暗だ。これは今が夜中だからではなく――海底トンネルを走っているからだ。

 んで、なんで豪奢な列車に乗って海底トンネルを走っているのかというと、今日俺達が入学する遊ヶ丘に向かっているからだった。

 離れた海域に位置する島があった。遊ヶ丘はその島に建てられており、この列車は俺達のような入学生を乗せて海底トンネルに敷かれたレールを走っているのだ。

 ……なんで船や飛行機じゃないんだろうな。聞けばこの列車、行き先は遊ヶ丘しかないという。何故造った。

 

「あ、じゃあ入学を前にして緊張してんのか。そらそうだよな。『レベル』が無いのに遊ヶ丘に入学する奴なんざお前しかいねえだろうし」

 

 はい出たよー。『レベル』とかいうわけわからん用語。だがこの世界ではふっつーに浸透しており、当たり前のように使われている……のだそうだ。そもそも『レベル』とはなんなのか。あれだ、バトルシティでのデュエリスト一人一人に設定されていたデュエリストレベルを思い浮かべてもらえれば話は早い。

 要はこの世界でのデュエリストはみんなこの『レベル』を持っているのだ。無論、遊ヶ丘を目指す入学生も。俺を除いて全員が持っているという。

 

「『レベル』ねえ……。深夜は幾つなんだっけ?」

 

「俺は5だ。あともう少しで6に上がるんだけどよ、でも中々勝てねえんだわ」

 

 どうすればこの『レベル』とやらが設定されるのかというと、答えは単純なもので大会に出ればいいそうで、設定してもらった『レベル』を上げたい場合は世間様が休日や祝日を迎える度に至る場所で大小様々な大会が開かれるから、そこで勝てばいいわけだ。

 ただ一回二回勝てばいいわけではなく、自分の『レベル』に合った大会で何度も勝たなければならない為上げるのは結構大変らしい。

 

「ふーん? じゃあ前に俺がデュエった多賀岩くんは『レベル』幾つなわけ?」

 

「……あいつは7だ。だから最上級クラスだな」

 

 意外に高いな。でもLP4000の世界であんなデッキ使ってりゃ納得である。

 

「そういや朝飯がまだだったな。食堂行こうぜ」

 

 そうだ。贅沢な事にこの列車には食堂車もあるんだった。そこで注文するとすんごい金額を要求されそうで敬遠していたが、入学生はなんと食事がタダらしい。無料(タダ)で! あるらしい! いやぁ、タダって素晴らしいね。でももしお粗末なのが出てきたら――

 

「――すっとろいなぁ! いつまで待たせたと思ってんだよ!」

 

「も、申し訳ありません!」

 

 座席を立とうとした時に聞こえてきた男女の声。なんだなんだトラブルか? 声のした方を見るとそこは座席の一角。座席に偉そうに踏ん反り返った、ゴテゴテの趣味の悪いアクセサリーを幾つも身につけた小柄な少年。しきりに頭を下げて謝っている給仕の女の子。

 聞こえてくる話に耳を傾けるとなんて事はない、あの少年はただ自分が後回しにされたのが気に食わないだけのようだ。自分を優先しろ、他の奴は後にしろとか、アホちゃうかあいつ。

 

「……感じ悪いなぁ」

 

 未だぐちぐち言い続ける少年と頭を下げ続ける女の子。少年の取り巻きらしき連中は何も言わずただニヤニヤと笑うばかり。俺達以外の周りの生徒達も、ちらちらと直接見ないようにして様子を伺っているだけで助けに入ろうとしない。

 

「あのクソガキ、どっかで見た事あるな……」

 

 少年を見て深夜が呟く。どっかで見た? あんなインパクトのあるクソガキを見かけたら忘れられそうにないと思うんじゃが。しかし深夜は唸るばかりで一向に思い出す素振りを見せない。

 

「ちょっとブッ飛ばしてくるわ。あのガキ、いつまでも喚いて煩くてかなわん」

 

「おいおい! 入学前だぞ!」

 

「何言ってんだ、入学前だからこそだろうに」

 

 全く、チャラい風袋のわりに変なところで日和るんだから。我侭言ってるアホにほんの少しお灸を据えるだけだというのに。

 

「ちょっとあんた! さっきからうっさいのよ! 聞いてればくっだらない事でぐちゃぐちゃ怒鳴ったりして! 恥ずかしいと思わないの!?」

 

「……はあん?」

 

 お? なんだかんだちゃんと注意出来る人間が居たらしい。長いポニーテールの女の子で、ブレザーを着用しているのを見るにあの子も俺達と同じ入学生なのだろう。注意されたアホはというと鬱陶しそうにその子を睨んでいる。

 

「待ってればその内来てくれるんだから大人しくしてればいいのよ! それを猿みたいにキーキーキーと喚いてバッカみたい! 見た目と一緒で中身も幼いのね!」

 

 注意を通り越して暴言になっているが大丈夫なのだろうか。言葉の暴力というのも存在するわけだし……やっぱり暴力はいけないよ!

 

「……いや、お前が言うなよ」

 

「あれ、声に出てた?」

 

 頷く深夜。失礼な、未遂なのだから問題は無い。

 

「舐めた事言ってんじゃねえよクソ(あま)ぁ! お前僕に喧嘩売ってんの? 言っとくけど僕の『レベル』は7だよ? もしかして勝てると思っちゃってるわけ?」

 

「ッ!」

 

 ……ん? なんで今『レベル』の話になるんだ? しかし女の子は『レベル』を聞いて怯んだ様子。その怯んだ様子を見てか、アホは強気な表情で座席から立ち上がるとディスクを向ける。

 

「ほら、かかって来いよ。サクッとブッ潰して晒し者にしてやるからさ。喧嘩売って返り討ちにされた間抜けってな!」

 

 …………あーそうだった。揉め事はとにかくデュエルで解決でしたねー、なんとも平和な事で。女の子もディスクを構えると両者距離を取り――

 

『デュエル!』

 

「深夜、食堂車に行こう」

 

「は? でもお前――」

 

「大丈夫だって。デュエルで怪我するわけでもないんだからへーきへーき」

 

 フィールとか衝撃増幅装置とかは無いんだろ? なら可愛いもんだ。負けた方はマインドクラッシュされなければ、魂の牢獄に封じられるわけでもないんだし。そう考えるとまだこの世界は優しい方だよな。

 

★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆

 

 如何に豪奢な列車とは言え、食事が無料な以上大したものは期待出来そうにないなと勝手に思っていたが、まさか良い方の意味で裏切られるとは思ってもみなかった。

 こんなにも美味しいご飯を食べられるなんて、私はなんて幸福な新入生なんだろう。遊ヶ丘様万歳、遊ヶ丘様万歳。

 と、幸福に浸りながら車内に戻ると【ダイス・ポット】のような耳障りな笑い声が聞こえてくる。笑い声の主は先ほどの注意されたアホで、女の子はというと悔しそうに歯を食いしばりながら俯いていた。

 

「ぶはははははッ!! 弱すぎだろお前! 『レベル』幾つだよ!」

 

 アホに合わせて取り巻きも笑っており、非常に不愉快な空気が車内に蔓延していた。先ほどちらちらと様子を伺っていた周りの新入生だったが、絡まれたくないのか今は視線を向けようともしていない。

 未だ不愉快に笑い続けるアホと助けようとしない周りの新入生。……イラッとくるぜ!

 幸福な新入生である俺は平和的に両者を諌めようと前に出ようとするが、そんな俺に向かって深夜は言う。

 

「おい待てよ白砂。今更だがよ、思い出したぜ。あいつの事」

 

 そして語られるアホの情報。

 あのアホの名は果々(かか)龍馬(りょうま)。果々財閥とやらの御曹司――金持ちのところの子供で、物心ついた時からプロのデュエリストから指導を受けている凄腕デュエリストだそうだ。シンクロとエクシーズを使いこなす天才で、その実力の高さで数々の大会で優勝を掻っ攫っていく様は痛快の一言。今最も『レベル』8に近いデュエリストとして各界から注目を集めている。……とかなんとか。

 実力があって? 財閥の御曹司? それどこのサンダーだよ。っと、それはともかく。

 

「なあなあどんな気持ち? 良い子ぶって止めに来たのに情けなくブッ潰されてどんな気持ち? かーっ! やっぱ僕ってマジ強すぎ! そら圧勝しちゃうわ!」

 

「流石っすよ果々さん! あの女、手も足も出せねえでやんの!」

 

「やっぱ果々さんのマジックコンボはすげえや!」

 

 やんややんやと騒ぐアホと取り巻き。その姿は冗談抜きに苛々させてくれる。

 

「……じゃあ何か? 周りの連中は実力のある金持ち様から睨まれるのが怖いからあの女の子をほったらかしにしてるってのか?」

 

「……あんましデカい声では言えねえけど、まあ、そうなるんだろうな」

 

 聞いていて頭の痛くなる話だ。確かに理解は出来る。まだ自分達は入学すらしていないのだ。それなのに今からあんな頭の悪い金持ちに目をつけられでもしたら、これからの三年間どんな目に遭わされるのかと堪ったもんではなくなるだろう。…………ふむ、ならプランBだな。

 

「まっ、僕は果々財閥の人間だし? なんつっても雑魚相手だったから? これぐらい余裕だっつうの!」

 

「……ちょいと外すわ」

 

「あん? どこ行くんだよ?」

 

 一旦車両から出て俺はある物を懐から取り出し、それを装着する。多分、無策で行くと深夜は俺を止めるだろう。わざわざ睨まれるような事はしなくてもいいだろう、と。だから、今こそこいつの出番だ。こんな事もあろうかと用意していた物だったが、本当に出番が来るとは。

 

「待たせたな」

 

「それはいいけ、ど゛――っ!?」

 

 俺の顔を見て、深夜はあんぐり口を開ける。どうやらこのカッコ良さに痺れているようだ。流石は俺の友、このカッコ良さが理解出来るとはな。

 

「そこの少年! 勝ちを誇るのは構わないが、誇りすぎるその様は些か滑稽であるぞ」

 

「ああ? んだよ、またいちゃもんつける馬鹿が――なんだお前!?」

 

 振り返ったアホ――果々が俺の顔を見て驚愕する。これに反応して先ほどの女の子と取り巻き、そして周りの新入生もまた、俺を見て同様の驚愕を見せる。

 周りの人間から注目を浴びるが、しかし以前のカードショップでのデュエルとは違い恥ずかしさは感じない。その理由は目元を覆う派手な蝶型のマスク、パピヨンマスクのおかげだ。

 この騒ぎを止めに入ると逆恨みされて目をつけられ、これからの学校生活が危うくなる。

 ならば、こうして顔を隠してしまえばいいわけだ。そうすれば後々になって止めに入ったのが俺だというのがバレる事は無くなる。うん、これは我ながら素晴らしい名案だ!

 

「デュエルとは勝敗はあれど勝者も敗者も関係無く、見ていた者含め関わった者須らくを笑顔にさせるもの。だというのに勝者が敗者を嘲笑っていては、それは勝者などではなく憎しみを生む一介の悪党でしかない! 何故自らの敗北を受け止めた少女を笑う必要がある?」

 

「わけのわからねえ事をぺちゃくちゃと喋くりやがって! クソ生意気な奴だなあ!? 何者だ!」

 

 ――ッ! 元々正体がバレないようこのマスクを被ってこんな仰々しい喋り方で喋っているんだ。その上で何者だと問われた以上、俺はこう返すしかない!

 

「正義の華を咲かせる為に、美々しき蝶が悪を討つ……。自らの家柄を盾にした上でのその尊大な振る舞い、見苦しい事甚だしい! 美と正義の使者、華蝶仮面――推参ッ!」

 

 これは決まったな……。果々も取り巻きも、深夜のようにこのカッコ良さに痺れ何も言えないらしく、呆けた顔を晒していた。しっかしこれって確か元ネタがあったよなあ……なんだったか……。

 

「かちょうだかがちょーんだか知らねえがいい年して恥ずかしくないのか!」

 

「そうだそうだ! 高校生のやる事じゃねーぞ!」

 

「…………………………」

 

 この取り巻き共は後でボコるとして――目的の果々は既にディスクを構えていた。いやあ、話が早いね。流石デュエル脳、嗚呼素晴らしきかなデュエル脳。俺も合わせてディスクを構える。この世界での荒事の解決法がデュエルである以上、俺もそれに則るのが筋というものだろう。

 

「お前ら退いてろ。要はこいつもこの女と同じように僕にブッ潰されに来たわけだ、なら相手してやんねーとなあ? 果々財閥の人間として、挑まれたデュエルは受けなきゃなんねーのがつれーとこなんだよな」

 

 とかなんとか言っちゃっているが、果々の顔は嗜虐的に歪んでいる。今の台詞といい、一切自分が負けると思っていないその姿はどこまでも腹立たしい。だが、俺も負けるつもりはない。偉そうな事を口にしながらしゃしゃり出たのだから、そらあ勝たねば嘘ってものだ。

 

『デュエル!』

 

 お互いの開始宣言が揃う。先攻は果々だ。

 

「僕のターン! 僕は【レッド・ガジェット】を召喚! 効果によりデッキから【イエロー・ガジェット】を手札に加える! そしてカードを一枚伏せてターンエンド!」

 

《果々》

 LP 4000 手札四枚

 モンスターゾーン 【レッド・ガジェット】☆4 ATK1300

 魔法&罠ゾーン   セット一枚

 

 ガガガガガジェット!? ガジェットっすか……。嫌だなぁ、でも【血の代償】は禁止になっているから……待てよ? この世界エラッタ前のカードが使われているし、カードの価値やらカードプールは前と比べ物にならないほど混沌としているんだ。

 しまった、この世界の禁止制限を確認しときゃ良かった。でも、まあ、流石にマジで代償入れてたりってのはない……と思いたい。

 

「ドロー! ……モンスターをセット。そしてカードを一枚セットし、魔法カード【手札抹殺】を発動。お互いに手札を全て捨て、捨てた枚数だけドローする」

 

「ちっ……」

 

 舌打ちする果々。苦い顔をしているという事は良いカードを屠ってやれたらしい。この世界、相手の墓地の確認が出来ないから本当に困る。公開情報とは一体……うごご。

 さて、引いたカードはっと。……これなら“こいつ”をセットしなくてもよかったかな? まあ結果論になるか。

 

「更にカードを一枚セットしてターンを終了する」

 

《華蝶仮面》

 LP 4000 手札二枚

 モンスターゾーン セット一体

 魔法&罠ゾーン  セット二枚

 

「ドロー! へへ、セットカードを割らなかったのが運の尽きだったな! 僕は【イエロー・ガジェット】を召喚! 【グリーン・ガジェット】を手札に加える! そしてレベル4のイエローとレッドでオーバーレイ! この二体でオーバーレイネットワークを構築! 歯車を背負いし機械仕掛けの戦士よ! 鋼鉄の拳を眼前の敵に叩き込め! エクシーズ召喚! ランク4! 【ギアギガントX】!」

 

 出てきたのは機械デッキのお供である【ギアギガントX】。機械デッキを扱うデュエリストなら是非とも一枚は入れておきたいこのカードも、当然この世界ではありえないぐらいの高額カードだ。流石金持ち、やる事が汚ねえぜ! 改めて遊戯王は札束で殴りあうゲームだという事を教えてくれる。

 

「こいつの効果を使う前に――リバースカードオープン! 【血の代償】を発動だ!」

 

 まままままマジで入ってたぁぁぁ!? ウゾダドンドコドーン!

 

「LPを500払い、手札から【グリーン・ガジェット】を召喚! 効果で【レッド・ガジェット】を手札に加え、更に500P払い今手札に加えた【レッド・ガジェット】を召喚! 効果で【イエロー・ガジェット】を手札! グリーンとレッドでオーバーレイ! 二体目の【ギアギガントX】をエクシーズ召喚! まだまだ行くぜぇ! 500P払って【イエロー・ガジェット】を召喚して【グリーン・ガジェット】を手札! 500Pで【グリーン・ガジェット】を召喚して【レッド・ガジェット】を手札!」

 

 はあ……本当に懐かしい。まさか久しぶりに代償ガジェを相手にするとは思わなかった。禁止制限の緩いであろうこの世界でも、召喚先であるエクシーズが馬鹿みたいに高いのだ。だからやる奴なんていないだろうと完全に思い込んでいたが……これワンキルされるんじゃね?

 

「んじゃあ【ギアギガントX】の効果発動だ! オーバーレイ・ユニットを一つ使い、デッキからレベル4以下の機械族モンスターを手札に加える! 僕が加えるのは【ジェネクス・コントローラー】だ! 500P払い【ジェネクス・コントローラー】を召喚! そしてぇ! レベル4の【グリーン・ガジェット】にレベル3の【ジェネクス・コントローラー】をチューニング! 二つの種族に生み出されし戦士よ! 三つの属性を操り眼前の敵を討て! シンクロ召喚! 【A・ジェネクス・トライフォース】! 二体目の【ギアギガントX】の効果! デッキから【ジェネクス・コントローラー】を手札に加え500Pを払い召喚! 【レッド・ガジェット】と【ジェネクス・コントローラー】をチューニング! 二体目の【A・ジェネクス・トライフォース】を召喚!」

 

 機械機械アンド機械の果々のフィールドは見ていて壮観だ。だが自身は【血の代償】の使いすぎでLPは残り1000。……このデッキが前のレッドアイズデッキだったらなあ!

 

「待たせたなあ? んじゃ、さくっと終わらせてやるよ! バトルだぁ! まずは【A・ジェネクス・トライフォース】で攻撃! こいつはシンクロ素材に使ったチューナー以外のモンスターの属性によって効果が変わる! こいつのシンクロに使った非チューナーである【グリーン・ガジェット】は地属性! よってこいつが攻撃する場合、お前はダメージステップ終了時まで魔法と罠を使えねえ! おら喰らえぇ!」

 

 下された命令に従い、トライフォースは三角形のブラスターと一体化した右腕を俺のセットモンスターに向け――全てを焦がし焼き尽くすのではと思えてならない熱線を撃ちだした。

 

「破壊されたモンスターは【ハネクリボー】! 【ハネクリボー】が破壊され墓地へ送られた場合に発動出来る。このターン、俺が受ける戦闘ダメージは全て0になる!」

 

「戦闘ダメージが0だぁ!? クソッ、モンスターの効果は封じられねえからな……。俺はカードを二枚セットしターンエンド!」

 

《果々》

 LP 1000 手札三枚

 モンスターゾーン 【ギアギガントX】★4 ATK2300

          【ギアギガントX】★4 ATK2300

          【A・ジェネクス・トライフォース】☆7 ATK2500

          【A・ジェネクス・トライフォース】☆7 ATK2500

 魔法&罠ゾーン  【血の代償】(永続罠)

           セット二枚

 

 やっと俺のターンか。しっかしまあ回る回る。この世界ではエラッタ前のカードが使われているんだ。もしもトライフォースではなく、どこぞのダークなボンバーさんを出されていたらと思うと……。あ゛ータマヒュンタマヒュン。

 

「ドロー。俺は【サイバー・ドラゴン・コア】を召喚。……召喚に成功したのでデッキから「サイバー」か「サイバネティック」と名のついた魔法・罠カードを手札に加える。この効果でデッキから【サイバー・リペア・プラント】を手札に加え、そして発動。このカードは自分の墓地に【サイバー・ドラゴン】がいなければ発動出来ないが、前のターンの【手札抹殺】で一体存在する為発動可能だ。デッキから機械族・光属性モンスターを手札に。俺は【サイバー・ヴァリー】を手札に加える。このままターンを終了する」

 

《華蝶仮面》

 LP 4000 手札三枚

 モンスターゾーン 【サイバー・ドラゴン・コア】☆2 ATK400

 魔法&罠ゾーン   セット二枚

 

「おいおい、おいおいおいおい。あんだけカッコつけて絡んでおきながら雑魚モンスター立たせて終わりかよ? 前のターンも雑魚をセットして? んでそいつの効果でその場凌ぎの延命? お前マジ何がしてえんだよ、勝つ気あんのかよ!? ぶははははははッ!!」

 

 取り巻き達と共に爆笑する果々。

 周りの新入生は不安そうに、深夜は心配そうに俺を見ており、ポニテの女の子は既に俺が負けるとでも思っているのかその目は何の期待も映していない。

 ……正直なところマジで今ヤバいんだよね。手札も現状は糞の役にも立ちゃしないし。

 

「ドローォ! バトルだ! 【A・ジェネクス・トライフォース】で攻――」

 

「バトルフェイズに入った瞬間、墓地から【超電磁タートル】を除外して発動! このバトルフェイズを終了する!」

 

「あぁぁぁぁ!? んなもんいつ落として――ああクソッ! 【手札抹殺】か! あーうぜえ、僕はこのままターンエンド!」

 

《果々》

 LP 1000 手札四枚

 モンスターゾーン 【ギアギガントX】★4 ATK2300

          【ギアギガントX】★4 ATK2300

          【A・ジェネクス・トライフォース】☆7 ATK2500

          【A・ジェネクス・トライフォース】☆7 ATK2500

 魔法&罠ゾーン  【血の代償】(永続罠)

           セット二枚

 

 このターンも凌げたはいいが、しかしジリ貧である以上はどうしようもない。あと一歩が足りない――そう、有名な“妖怪一足りない”のせいで動くに動けないのだ。

 

「ドロー……っ!」

 

 ドローしたカードを見てふと考える。待てよ――これはキたんじゃないか? 果々のセットカードが怖いが……かかし握ってるしへーきへーき! 推して参るッッ!

 

「俺は手札から【賢者の石―サバティエル】を発動! このカードは自分の墓地に「ハネクリボー」モンスターが存在する場合に、LPを半分払って発動出来る。デッキから「融合」魔法カードか「フュージョン」魔法カードを手札に加える! 俺が加えるのは【サイバネティック・フュージョン・サポート】だ!」

 

「はあん? LPを半分払って発動? お前かんっぺきに勝つ気ねえじゃん! マジなんの為にしゃしゃり出て来たんだよ!」

 

 好きなだけ笑っているがいいさ、すぐにそのアホ面を凍りつかせてやるからな!

 

「そして【サイヴァー・ヴァリー】を召喚し効果発動! このカードと【サイバー・ドラゴン・コア】を除外し、カードを二枚ドローする!」

 

【リミッター解除】は来なかったか……。とはいえ現状では最高とも言える二枚が来てくれた! フィールドからモンスターもいなくなった事だし――

 

「きみのフィールドにモンスターが存在し、俺のフィールドには存在しない為俺は墓地から二体目の【サイバー・ドラゴン・コア】の効果を除外して発動! 俺はデッキから【サイバー・ドラゴン】を特殊召喚する!」

 

 思えば、漸く今回のデュエルでまともなモンスターを出した気がする。

 白銀の身を輝かせては荒々しく咆哮を轟かせる機械の竜は、レッドアイズとはまた違ったカッコ良さだ。

 

「ハッ! ようやっとまともなモンスターを出したみたいだけど――そんな攻撃力のモンスターでどうする気だ?」

 

「俺はセットしていたカードを発動する! 【針虫の巣窟】を発動、更にもう一枚の【針虫の巣窟】も発動だ! 二枚の効果により、計十枚のカードを墓地に送る!」

 

「……LPを半分払って、その上自分のデッキを削ってってお前なにがしてえの? 雑魚モンスターで凌いで凌いでようやっとまともな奴出したかと思えば、今度は自分のデッキ削り? なんか萎えてきたんだけど」

 

 呆れたように嘆息する果々。俺のプレイに周りの面々も何をしたいのかとその疑問を顔に貼り付けている。耳を澄ませば果々のように、自らのデッキを削る俺の行為を馬鹿にする声が聞こえてくる。……つ、辛くなんかないぞ!

 墓地を見れば最高の落ちだ――ってこれ固まりすぎじゃね!? これはディスクが仕事しすぎた結果こうなったのか、はたまた全く仕事しなかったからこんな内容なのかと疑問は尽きない。

 だが! これで俺の勝利は確定した! ちょっと深夜! 遊星バトル流しといて! 遊星バトル!

 

「俺はまだ自分の勝利を諦めたわけじゃない! 手札から【融合】を発動! フィールドと手札の【サイバー・ドラゴン】二体で融合召喚!」

 

 あっ、やべ。召喚の時の口上どうしよ。…………まあ無くてもいいやろ、今度なんか考えとこ。

 

「現れろ! 【キメラテック・ランページ・ドラゴン】!」

 

 ソリッドビジョンで見るキメラテックはとても攻撃力2100とは思えない程に禍々しい姿だった。【サイバー・ドラゴン】とツヴァイ、ドライの頭部が用いられたその姿はまさにキメラと呼ぶに相応しい。

 

「【キメラテック・ランページ・ドラゴン】の効果発動! このカードが融合召喚に成功した時、融合素材の数だけ相手の魔法・罠カードを破壊出来る! 俺はセットカード二枚を破壊する!」

 

「チッ――! リバースカードオープン! 【神秘の中華なべ】! 更に【リミッター解除】を発動だ! まず【リミッター解除】で僕のモンスター達の攻撃力は二倍になる! そして【神秘の中華なべ】の効果により僕は【A・ジェネクス・トライフォース】をリリースし、その攻撃力分――元の二倍になった5000P回復する!」

 

【リミッター解除】を伏せていたか。LPも回復されたが、ここまで来ると5000P程度全く問題無い!

 

「そうだよなぁ。僕のLPはあと1000。どうせお前、手札に【リミッター解除】があるんだろ? そいつを使えば僕に勝てる! とか思っちゃったんだろうけどそうはいかねえよ? 言っとくけど僕の手札には【貪欲な壺】が二枚あるんだ。LPも回復したし次のターンで一気に――」

 

「――それはどうかな」

 

 確かにかなり有用な使い方をして見せてくれたが、なんで俺がLPを半分払ってまであのカードをサーチしたのかを考えてはいないようだ。キメラテックを出したのはあのセットカードが怖かったから退かしたかったってのと、墓地にモンスターを送りたかったからってだけだ。

 

「はあ!? まだなんかあんのかよ! もうさっさと僕にターン渡せよ!」

 

 今までの舐め腐った態度から一転、焦りを見せる果々。今までに色んな大会で結果を残してきたのは伊達ではないらしく、果々はなにやら嫌な予感を感じているらしい。そしてその嫌な予感は、当たっている。

 

「【キメラテック・ランページ・ドラゴン】のもう一つの効果を発動! デッキから機械族・光属性モンスターを二体まで墓地へ送る。俺が墓地に送るのは【サイバー・エルタニン】二体だ!」

 

 攻撃回数が増える方は……説明しないでもいいか。どうせこいつでは攻撃しないし。

 

「LPを半分払い、魔法カード【サイバネティック・フュージョン・サポート】を発動! このターンに機械族モンスターを融合召喚する場合、その融合モンスターに決められた素材を自分の手札・フィールド・墓地から選び、除外して融合素材にする事が出来る!」

 

「墓地から、だと……? って事は!?」

 

「手札から【パワー・ボンド】を発動! このカードは機械族融合モンスターを融合召喚出来るカード! こいつで融合召喚した場合そのモンスターの攻撃力は元々の攻撃力分アップする! 俺は手札から【速攻のかかし】、フィールドから【キメラテック・ランページ・ドラゴン】、墓地から【サイバー・エルタニン】三体、【サイバー・ドラゴン】三体、【サイバー・ドラゴン・ツヴァイ】三体、【サイバー・ドラゴン・ドライ】三体、そして【速攻のかかし】を除外して融合召喚!」

 

 素材にした数は合計で十五体。ああ、惜しかったな……。【リミッター解除】握ってても十万には届かないか。まあ、デュエリスト一人余裕でぶちのめせるだけの攻撃力はあるし……いやでもなぁ。

 

「殺意を滾らせ現れよ! 【キメラテック・オーバー・ドラゴン】!」

 

 現れたその瞬間、列車が大きく揺れる程の咆哮をキメラテックは轟かせる。その咆哮は先ほどの【サイバー・ドラゴン】の比ではなく、咆哮だけで敵対する者を殺しにかかっているようだった。

 

「キメラテック……オーバー……? な、なんなんだよそいつはぁぁ!

 

「【キメラテック・オーバー・ドラゴン】の元々の攻守は素材にしたモンスターの数×800Pになる。素材に使ったモンスターの数は十五体。よってこいつの攻守は12000となり、【パワー・ボンド】で召喚した為その倍の24000となる!」

 

 先の咆哮で萎縮していた果々が、攻撃力を聞いた途端その顔を真っ青に染める。取り巻きも笑ってはいられないようで、固まっていて動かない。

 

「これで最後――墓地から【賢者の石―サバティエル】を三枚を除外し、【キメラテック・オーバー・ドラゴン】を対象に発動! そのモンスターの攻撃力はターン終了時まで、フィールドの攻撃力が一番高いモンスターの攻撃力分アップする! フィールドで一番攻撃力が高いのは【キメラテック・オーバー・ドラゴン】。つまり攻撃力は倍になる。その攻撃力は48000!」

 

 ……サイバー使ってて五万にすら届かないってのも情けない話だ。これも俺の運命力が低いからかね。

 

「なん、だよそれぇ……! ふざけんなよ! 48000!? 馬鹿じゃねえ――」

 

「【キメラテック・オーバー・ドラゴン】で【ギアギガントX】を攻撃! ジュウゴレンダァ!」

 

 それぞれの首から放たれるブレスはあまりに凄まじく、車内に居る全ての人間の視界を真っ白に染め上げた。轟音故にそれ以外は何も耳に入らず、まさに一瞬にして全ての人間を支配したと言える。

 視界が晴れると攻撃対象にした【ギアギガントX】は塵すら残らずに跡形も無く消し飛んでおり、数瞬遅れてデュエル終了のブザーが響き渡る。

 

「………………?」

 

 あれ、おかしいな。デュエルは俺の華麗な勝利で終わったというのに、何故誰も動き出さないのだろう。俺の想像では俺を褒め称える賞賛の声が其処此処で飛び交い「華蝶仮面凄い!」「カッコ良い! 抱いて!」とやんややんやと迫られる筈なのに。

 果々はというと漸く状況を理解したのか再起動し、かと思うとその瞳に涙が浮かび――

 

「う゛わ゛あ゛ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!! ひぐ、えぐ――びえ゛え゛ぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!」

 

 oi――じゃなかった、おい。なに泣いとんねん。たった一回負けたぐらいで泣きすぎじゃね? え、ちょ、ちょっと、マジでふざくんなよ、俺が悪者みたいじゃねえか!

 なんだよこれマジで。あんだけ偉っそうにしてたくせにいざ負けるとこれかよ!

 やべーよやべーよ。これじゃあ華蝶仮面が正義の味方どころかちびっ子泣かすマンになっちまうよ。こういう時は……そうだ! 相手の健闘を称えればいいんだ!

 

「少年」

 

 呼びかけると、泣きながらも視線だけは俺の方を向く。一応俺の声は届いているらしい。

 

「――確かにきみは強かった。でもそれは……間違った強さだった」

 

「ぶあ゛あ゛あ゛ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!! うぐっ、おえ゛っ――う゛わ゛あ゛ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!!!!」

 

 余計に泣いた!? もうなんなんだよ泣きたいのはこっちだよ! あーもうっ! とにかく、笑われ、馬鹿にされまくっていたポニテの女の子は助ける事は出来たんだ。もう俺逃げてもいいよな!

 

「ど……どこにあるやら次元の狭間」

 

 去り際の俺のこの言葉は、自信を持って震えていたと断言出来る。

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