九鬼家本社テラス
深夜、九鬼本社の屋上で一人の侍女が夜空を見ながらワインを飲んでいた。
「こんな所にいたのか、鹿角」
「このような所にいてはお体に良くありませんぞ?」
物音もなく現れたのは二人の執事であった。一人は獅子を髣髴とさせる金髪に髭を蓄えた大柄な老人『ヒューム・ヘルシング』。もう一人は青みがかかった髪を整え執事服をキッチリと着こなした老紳士『クラウディオ・ネエロ』。そして『鹿角』と呼ばれ長い黒髪と奥ゆかしい雰囲気を醸し出し儚げで若干痩せこけている初老の侍女『本多鹿角』は二人を見ながら微笑した。
「どうしたのです?ヒューム、クラウディオ。そのような顔をして?折角の見事な月夜なのですからそのような顔をしてはダメではないですか?」
「フンッそんな事はどうでもよい。それより、九鬼を辞めると言うのは真か?」
「・・・さて、何の事でしょう?」
「惚けても無駄ですよ。先ほど、マープルから話を聞きましたので」
クラウディオの咎めるような声音で言及され、鹿角は観念したようにため息を吐いた。
「全く、マープルったら辞めるまで秘密にしといてねって言っておいたのに・・・」
「下らん隠し事をするんじゃない。それより何故だ?」
「貴方達なら分かるはずですよ?ヒューム、クラウディオ」
ヒュームの咎める視線を鹿角は真っ向から受け、逆に問いかけた。
「それほどなのですか?」
「・・・・ええ。速くて一月。長くて三か月の命だそうよ。九鬼が誇る世界最高の医療班からのお墨付きです」
儚げに微笑む鹿角にヒュームもクラウディオも何も言えなかった。鹿角は不治の病に侵されていた。その事に気づいたヒューム達古株の従者達であったが、気付いた時にはもう遅く手の施しようがなかった。
「でも後悔はしてないわ。私の遺伝子を取り入れた武士道プランも軌道に乗ったし、私の家が代々受け継いできた技と家宝も帝様と局さまが責任を持って保管してくれると約束していただいたし、あの子の名前もマープルに伝えた。・・・・でも唯一心残りがあるとしたら・・・・」
そう言って鹿角は自分のお腹辺りをさすり、悲しそうに微笑した。
「出来れば、私がお腹を痛めて生みたかった。子を生せないこの体では叶わない願いだけれども、せめてお腹を痛めて産みこの手で抱きたかった・・・」
武士道プランで生み出されるクローン達が誕生するのは早くて半年後、その頃には鹿角の寿命は尽きている。
「ヒューム、クラウディオ。お願いがあるの」
「・・・・なんだ?」
「何でしょうか?」
「私が受け継いできた技術と技をあの子に享受してほしいの。もう、本多家で生き残っているのは私だけ。でもその私もあの子が生まれる前には死んでしまう。だから、今まで私と付き合いが長かった二人に頼みたいの」
真剣な表情で頼みかける鹿角に二人は苦笑で返した。
「フンッ生憎と槍は門外漢だ。が、お前には借りがあるからな。それで帳消しにしておいてやる」
「私も、何処まで教えることが出来るか分かりませんが、承りました」
「ありがとう・・・」
そう笑う鹿角の表情は病に侵されているとは思えないくらい明るい笑顔だった。
それから二日後九鬼家従者部隊メイド長『本多鹿角』は辞任した。後任はしばらくの間、順列2位のマープルが兼任し、後に忍足あずみがその後任になるがそれはまだ先の話である。そして鹿角が辞任した三ヶ月後、『本多鹿角』はこの世を去った。その死に顔はとても安らかであった・・・・・。
こうして、公式的には『戦国最強』と謳われた『本多忠勝』を先祖に持つ本多家は滅亡した。
しかし、戦国最強の血筋はまだ残っていた。それも武士道プランのクローンという形で・・・・・。