爆走兄弟レッツ&ゴー!! 第二回世界GP 作:モンキー・キック
サバンナソルジャーズと沖田カイ、そしてカリーム・ハメドが日本からアフリカに帰ってきてから二日。
とある深い森の奥にて──
「んー………遅いですねぇ」
カイはビークスパイダーを手に持ち、カリームが来るのを待っていた。
そこへ──
「お〜い!コ〜チ〜!!」となぜかサバンナソルジャーズの面々がやってきた。
ミシェル「ハァ、ハァ…や、やっと見つけた!」
「どうしてあなたたちがここに?」と驚いた表情のカイ。
「シンディから聞いた」
そう応えたジュリアナの表情はいつにも増して険しかった。
そして次の瞬間──
ガッ!──と、ジュリアナはカイの襟元を掴む。
ジュリアナ「カイ…あんた一体どういうつもりなんだ」
ヴィッキー「じゅ…ジュリアナこそ、どういうつもりなのよ!」
クレモンティーヌ「そうだよ、コーチにそんなことして!」
“サリマ”を除くメンバー三人がジュリアナを止めようとしたが──
「あんたたち…腹が立たないのか!!?」
ジュリアナのその言葉に止めようとした三人は何も言えずに立ち止まってしまう。
ここでサリマが口を開いた。
「カイコーチ…ジュリアナがなんでここまで怒っているか………分からないわけじゃないですよね?」
カイ「…はい、僕があなたたちに内緒でしようとしてること………ですよね…それについては謝ります、すいませんでした」
パッ──とジュリアナはカイから手を放した。
ジュリアナ「カイ、どうしてそこまで“あの男”に拘る?」
カイ「今、このチームに一番必要だからです」
ジュリアナ「くっ…確かに前回の大会でそれらしい結果は出なかった………でも…でもそんなに私たちだけじゃ頼りないのか!!?」
カイ「い、いえ、そういうわけでは──」
ジュリアナ「くそっ!」
ヴィッキー「あっジュリアナ!?」
ジュリアナはその場から走り去ってしまった。
サリマ「三人ともジュリアナを頼む」
ミシェル「それはいいけどサリマは?」
サリマ「私には見なければいけない義務がある…サバンナソルジャーズのメンバーとして“奴”の走りを」
ヴィッキー「…わかった!ミシェル!クレモンティーヌ!」
ミシェル「うん」
クレモンティーヌ「いこう」
三人はジュリアナを追って走った。
カイ「サリマ、色々とすいません」
サリマ「うん…まぁジュリアナには正面から言っても断られるだけだしね」
カイ「…ええ」
サリマ「フフ、本当はジュリアナも含めて他のメンバーもコーチの考えはある程度は理解してる…ただ、どうしてもカリームとは因縁があるからね」
カイ「アフリカチャンピオン大会ですか?」
サリマ「やっぱり飛行機の中で奴から話は聞いていたんだね」
カイ「………はい」
サリマ「…コーチ、私たちには奴の力が本当に必要なんだな?」
カイ「ええ…決して、彼が単純に強いレーサーだからというわけでも、あなたたちだけじゃ頼りないってわけでもないんです…ただこの二つの力を合わせればもっと凄いチームになると思うんです…アフリカ代表『サバンナソルジャーズ』として」
サリマ「なるほどね………わかった!私たちはカイコーチを信じる」
カイ「ありがとう、サリマ」
一方その頃、ジュリアナは──
「くっそー!…私だってホントは分かってる…けど!」
ザッザッザッザッザ…ドン!──
ジュリアナは森を駆け抜ける中、誰かに当たってそのまま尻餅をついた。
ジュリアナ「イテテェ、一体なんだ…ってお前!?」
ジュリアナがぶつかったのはカリームであった。
カリーム「…」
ジュリアナ「今からカイとレースか!?」
カリーム「…ああ」
ジュリアナ「フン!そうか、まぁ私には関係ない──」
ジュリアナはその場を去ろうとしたが、それを引き止めたのはカリームの意外な言葉であった。
「お前は見ないのか?」
ジュリアナ「なっ…今言っただろ!私には関係ないと!!」
カリーム「関係ないか………もしかするとチームの一員になるかもしれんレーサーの走りをリーダーのお前が見ないとはな…とんだ腑抜けだ」
ジュリアナ「言わせておけば…お前がサバンナソルジャーズの一員になることは絶対にない!」
カリーム「なるほど、つまりお前は“カイが負ける”ことを望んでいるわけか」
ジュリアナ「そ!そういうわけじゃ………あーくそっ──」
それから5分後──
カイの元にカリームがやってきた。
ザッザッ──
カイ「フフ、ようやく来ましたか」
サリマ「一人だけじゃないけどね」
カイ「えっ?…あっ」
カリームの後ろにはジュリアナ、そしてそれを追ったヴィッキー、ミシェル、クレモンティーヌの姿もあった。
カイ(…ジュリアナ)
ジュリアナ「あーもうそんな安堵の表情で見つめるな………一応リーダーとしてコーチの実力を再確認してやる!それだけだ」
サリマ「まったく素直じゃないんだから」
カリーム「無駄話はいい、とっととレースを始めてもらいたいんだが…」
カイ「そうですね、それじゃあまず単純なルール説明を…サリマ、お願いします」
サリマ「はい…まずはこの生い茂った場所からひたすら南方向へまっすぐ走り、少しして森を抜けて乾燥地帯が続くがそこからまたしばらく走ると今度は大きな木が見えてくるはずだ…今回はその大きな木自体がゴールだ」
カイ「いかがでしょう?」
カリーム「問題ない」
ジュリアナ「スタートは私がやる」
「ジュリアナ…そうですか、ではお願いします」
カイは笑顔でジュリアナに頼んだ。
ジュリアナ「それじゃあ二人ともマシンのスイッチをいれて」
カチ──
ウィィイイン…
カイとカリームは中腰になってマシンを構える。
ジュリアナ「よし、いくぞ…レディ………ゴー!!」
シャアアア…
ゴォオオオ…
ビークスパイダーを先頭にレースはスタート。
カイ(さすがにあの車体ではスロースターターのようですね)
ビークスパイダーとデザートゴーレムの差はどんどん開いていく。
カイ(それにいくら彼のマシンがオフロード仕様とはいえ、この森の中では僕のビークスパイダーが圧倒的に有利です)
スパン!スパン!──
ビークスパイダーは空気の刃で邪魔な木の枝や葉っぱを切り裂いていく。
デザートゴーレムもそれらをものともしない走りだが、ビークスパイダーに比べるとかなりのロスが生じ遅れをとる。
サリマ「さすがだね、カイコーチ」
クレモンティーヌ「うんうん、あんな奴には負けないよ」
ジュリアナ「いや…問題はこの森を抜けてからのダートだ」
シャアアア…
スパン!スパン!──
カリーム(なるほど、空気でできた刃をボディにコーティングしているわけか)
ミシェル「見て!もう少しでカイコーチのビークスパイダーが森を抜ける!」
シャアアア…キュルキュル!
それからしばらくしてデザートゴーレムも森を抜けた。
ギュルギュルギュル…ゴォオオオ!!
デザートゴーレムの走りは一気に変わった。
カイ「来ましたね」
デザートゴーレムはもの凄い勢いでビークスパイダーとの差を詰める。
カイ「さぁここからが本番ですよ!カリームくん!」
カリーム「フッ…俺のデザートゴーレムをブロックするのは容易ではないぞ」
カイ「望むところです!」
カイはここで前方にデカイ岩があるのを確認した。
カイ「…やりなさい!ビークスパイダー!!」
激しい音と共にビークスパイダーは回転しながら岩に突っ込んでいく。
ミシェル「まさか!?」
サリマ「いや、そのまさかだ…コーチはあの岩をも切り裂くつもりだよ」
クレモンティーヌ「え〜!!?」
ギュイイイン!!──
ビークスパイダーは岩を貫きそのまま華麗に着地を決める。
ヴィッキー「凄い!」
ジュリアナ「まぁ岩と言ってもあれは砂でできたものだからビークスパイダーなら余裕だよ」
貫かれた岩はそのままガラガラガラ──と崩れてしまう。
そのためデザートゴーレムの道は完全になくなった。
ジュリアナ「カイコーチはこれを狙ったのか」
クレモンティーヌ「でも少しだけズルい気が…」
サリマ「あれもまた一つの戦略だよ…そして誰よりそれを理解してるのはおそらくカリームだ」
クレモンティーヌ「それって?」
サリマ「まぁ見てれば分かるよ」
カリーム「デザートゴーレム!」
その声に応えるようデザートゴーレムは怯むことなくトップスピードで崩れた岩へと突っ込んでいく。
ドガガァアアアン!!──と凄い音がなったが、デザートゴーレムはその障害をもろともせずに進んでいく。
サリマ「コーチも凄いけどやっぱりカリームの奴も凄いね」
ジュリアナ「…」
カリーム(あれほどの“力”を持っていながらマシンに直接アタックを仕掛けてこないとはな──)
「もしかして意外ですか?マシンに攻撃しないのが」と、カイはまるでカリームの心を見透かすように言った。
カリーム「!?…いや、お前はそんなつまらないレースをする奴じゃない…見れば分かる」
カイ「まぁあの岩もあなたのマシンならものともしないと分かってやったことです」
カリーム「俺はそんなことより貴様がそこまでの実力を持っていながらなぜ“レーサー”ではなく“コーチ”を選んだかだ」
カイ「それも見れば分かるでしょ?」
カリーム「…ただ一心にあいつらのことを思ってるってことか…」
カイ「フフ…あと一つ、これも分かると思いますが実は僕は昔バトルレーサーだったんです」
カリーム「…」
カイ「でもね…僕をそんな世界から抜け出させてくれた人たちがいるんですよ」
カリーム「…TRFビクトリーズか?」
「ええそうです………っと、さすがに野暮な話が過ぎましたね──あっ!ほら!ゴールの木が見えてきましたよ」
カイは一本だけ大きく聳えてる木を指さして言った。
カリーム「ほう、あそこか」
ゴォオオオ!!…
デザートゴーレムは一気にビークスパイダーに並ぶ。
カイ「これは驚きました…(もしかしたら“ダート”ではあのライジングトリガーやジャミンRGをも凌ぐ…世界最速かもしれませんね)でも絶対に負けません!ビークスパイダー!!」
空気の刄のコーティングは最大限まで大きくなった。
そしてその力でバンパー部分から数センチ車体が浮き、そのままビークスパイダーはダート路面を気にすることなく直進。
カイ「いけ!ビークスパイダー!!」
カイのビークスパイダー。
カリームのデザートゴーレム。
二台はほぼ同時に木を横切りゴールした。
結果についてはそれを間近で目にしたカイとカリームにしか分からない。
ジュリアナ「カイ!どっちが勝ったんだ!?」
サバンナソルジャーズのメンバーも全員その木の周りに集まった。
カイ「ジュリアナ…皆さん………結果は──」
カリーム「俺の負けだ」
サリマ「本当?」
カリーム「ああ…このカリーム・ハメド、第二回世界GPでサバンナソルジャーズの力になってやる」
ジュリアナ「フンッ!何を偉そうに!カイコーチに負けたくせに…いいかい?アンタは確かに今日からサバンナソルジャーズのメンバーだ、だけどあくまで補欠!ほーけーつ〜〜!!分かったね!!」
こうしてサバンナソルジャーズのメンバーは先に自分の家へと帰っていった。
カイ「カリームさん…」
カリーム「…何も言うな、これは俺の意志だ」
カイ「しかし──」
カリーム「いいんだよ、お前の彼女たちへの思いは今のレースで十分に伝わった…それだけだよ」
カイ「………ありがとう」