ここはいつもの美神除霊事務所。
所長は脱税に精を出し、巫女は午前のメロドラマに夢中で、狐はゴロゴロ丸くなる。
怠惰で退屈なダラダラの空間。
そんな空気になじまない活発少女が一人。
人にはない尻尾をピンと立てて、シロがなにやらの雑誌を見て興奮していた。
目をキラキラと輝かせて、フムフムと頷いてみたりホウホウと感心したり、とても楽しげな様子だ。
興味を引かれたタマモがひょいと見てみると、そこには純白の衣装があった。
「へえ、馬鹿犬はこういうのがいいんだ。てっきり和式派だと思ったのに」
「和式も良いでござるが、このうえでぃんぐどれすというものもなかなか良さそうでござる」
シロが見ていたのはウエディングドレスの専門誌だった。
白を基調にした華やかで清楚なドレスの数々は、他の衣装には無い荘厳さをかもし出す。
「これなんか拙者に似合いそうでござる、先生はなんて言ってくれるか……ウェへへ」
桃色に染まった脳がシロを妄想の世界へ誘う。
発情期か、とタマモは呆れ顔だ。
「ちぃーす」
噂をすればなんとやら。
煩悩少年現る。
彼が来たことで、事務所の空気がにわかに活気付く。
「先生! 先生!」
もっともそれが顕著なのは、バイタリティの塊と言える狼少女だ。
尻尾をふりふりしながら横島の元へ走り、雑誌を見せ付ける。
「先生はどういう花嫁衣装が好きでござるか? これなんて凄く良くて、拙者にぴったりでござるよ」
横島が雑誌を覗き込んで見ると、そこにあったのは純白のウェディングドレスを着こんだ美女がブーケを投げている姿が映っていた。美女はスタイルもよく、貞淑に見えながらも色気がある大人の女性だ。
横島はマジマジと花嫁を見つめたあと、シロと見比べてみる。
そして、大きく溜息をした後に、
「十年早い!」
声を高らかに上げ、宣言するように言った。
シロはパチパチと目を瞬かせて、喉からきゅ~んと切なげな鳴き声をあげる。
「ど、どうしてござるか!? 拙者はこんなにもぷりちーであるのに!」
右手を頭の後ろにやり、左手を腰に当てる。
うっふ~んなポーズだ。
色気はゼロ。まったくゼロ。完全にゼロ。あるのは微笑ましさのみ。
横島はそんなシロを一瞥すると、
「十一年早い!」
「延びたー! 延びたでござるー!! 何ででござるかー!?」
「俺はガキには興味ないんじゃー! 実年齢一桁のお前にこれくらいがちょうどいいんだよ」
そこに一切迷いはない。
こっそりと美神とおキヌちゃんが、グッと拳を握りしめてガッツポーズをしているのはご愛嬌か。
ガキとガキと連呼されて、流石にシロもむっとしたようで表情を厳しくして横島を見つめる。
「先生は拙者は子供子供と言うけど、これでも大人のれでぃとしての落ち着きと嗜みだって」
「シロちゃん、昨日余ったステーキあるんですけど、食べますか~」
「食べるでござる~!」
おキヌが狙ったかのようなタイミングで持ってきた肉に、シロは喜色満面でかぶりつく。
「色気より食い気ね」
「花より団子ってやつよ」
満面の笑みで肉を頬張るシロを見て、美神とタマモが容赦ない批評をする。
肉を持ってきたおキヌちゃんは、クスクスと幼子を見るような優しく黒い笑みを浮かべていた。
「なんひぇてごひゃるか! へっしゃふぁふぉんひゃにふりしーひゃのに(何ででござるか! 拙者はこんなにプリチーなのに!)
ハムスターの如く、限界まで肉をほお張りながら大人の女を主張するシロ。
一同はそんなシロを呆れたように見た後、そっと横島に視線を投げかける。
視線に気付いた横島はニヤリとしながら頷くと、
「十二年早い!」
「また延びたでござるーー!!」
「いつまでも馬鹿騒ぎしてるんじゃないわよ! 全員揃ったなら、さっさと仕事に行くわよ!」
美神が一喝して、ようやく今日の仕事が始まる事となる。
狼少女は何年早い?
「先生と一緒! せんせーと一緒!」
シロは機嫌よさそうにスキップしながら、鼻歌まで歌っていた。
ご機嫌の理由は簡単だ。今回の依頼は、彼女の敬愛する横島と二人っきりだからである。
対して、横島は疲れたような顔をしていた。
文字通り、この狼少女の手綱を握るのは物凄くしんどいのだ。
(ほんっとにガキだよなあ。成長したら……すごいんだけど)
思い浮かんできたのは、女神アルテミスを宿したときのアダルトなシロの姿。
すらりと伸びきった手足に、凹凸があるスタイル。野性味がありつつ、その中に背筋がゾクゾクする色気があった。
(あんなふうになるのに一体どれくらい掛かるんだろーな)
あの姿のシロは正にどきどきものだった。
もしあの姿で色仕掛けをやられたら、一発で落ちてしまうだろう。
それでも、あの姿で色気より食い気をやられたら百年の恋も冷めてしまうかもしれないが。
ぼんやりとそんな事を考えていると、シロが走り寄ってきて彼の腕を取った。
「朝の続きでござる。先生にモテモテになるにはどうしたらいいでござるか?」
「そうだな~男にモテたいならやっぱり……」
「そうじゃないでござる。男ではなく、先生にモテルにはどうしたらいいのか聞いてるんでござる!」
横島以外は眼中にない。
まっすぐなシロの視線に射ぬかれ、横島の頬が少し赤く染まった。
(か、可愛いじゃねえか!?)
こうもストレートに好意をぶつけられれば、少しは心が動かなければ嘘だろう。
何の駆け引きも計算も存在しない、正に子供の想いだが、それでも想いは想いである。
しかも、シロはまちがいなく美少女であり、将来はグラマラスな美人になると保障つきだ。
少し動揺する。だが、やはり答えは変わらない。
「……九年早いっーの」
横島はそう言ってまとわり付いて来るシロを引き離す。いくら未来で美女になろうと、今は子供。
今を生きる横島には、将来を見越しての青田買いなど主義ではない。
しかし、横島は気づいただろうか? 『早い』と言ったとき、その声に僅かながら迷いが含まれていたことに。
明確な拒絶の言葉に、しゅんと肩を落としたシロだったが、すぐにあることに気づいた。
「短くなった……短くなったでござるー!!」
「こら! だからくっ付くなって!!」
超絶プラス思考なシロに、横島は苦笑いを浮かべながらも、腕に感じる小さな膨らみの感触に少しドギマギする。
その様子は妹が兄を慕うように見えるが、少し歳の離れたカップルにも見えないこともなかった。
依頼の屋敷に到着する。
都会の一等地からは外れた所にあるとはいえ、かなり広い敷地を持つ家だった。
依頼内容は凶暴な化け犬退治。長く生きた犬が理性を無くし妖怪化して凶暴化したのだ。
そこで美神は犬よりも格上の力を持つ人狼のシロと、それをサポートする横島の二人に仕事を割り当てた。
「それが……無くなってしまいまして」
そう、依頼は既にない。
理由は簡単だ。横島とシロの眼前にあるものが転がっている。
三メートルはあるだろう巨大な化け犬の死骸。
紛れも無く、今回のターゲットの姿に思える。
何故、断定できないのかと言うと、化け犬の姿はあまりにも老いていた。
巨大ではあるが、骨と皮だけの老犬で、とても暴れていたとは思えない。
「つい先日まで若々しく凶暴だったのに、今日このようになって転がっていました。目撃者が言うには、何でも黒い人影がこいつにまとわりついていたらしいです」
これは精気を吸い取られたのだろう。
強力で凶悪な化け犬をここまで出来る以上、木っ端妖怪ではない。
となれば大妖怪だが、こちらは現れる時に周囲に異変を起こして現れることが多い。こんな小さい異変を起こすことは無いだろう。
だとすれば、確定ではないが横島の経験上、恐らく相手は魔族だ。
「この急激な老いはこの化け犬だけではないのです。
草も木も他の動物も、突然老いて死ぬ事件がここ最近多発してまして。
てっきりこの化け犬の仕業かと思っていたのだが、どうも違ったようですな」
依頼主の男性は唐突と状況を語っていく。
弱いのから力を吸って強くなっているんだろう。
それが分かった横島は、他人事のようにうんうんと頷いて出口に寄り始める。
「そうかそうか、大変な事件だなあ。それはそれとして依頼の方はもう出来ないのでキャンセルということで……またの機会をお持ちしております」
足早と去ろうとした横島であったが、その腕をがしっと男に掴まれた。
「それで、依頼の方ですが」
「嫌だー! 俺はやらんぞ。魔族と何か戦ってられるかー!」
「おお、既に敵を特定しているとは、流石は業界一の丁稚様!」
「業界一の丁稚ってなんやねん!! つーか、俺はやらんぞ。爺さんになるのはまだ早すぎるー!!」
「大丈夫でござる。老人になろうと先生は先生! 拙者がきっちりと下の世話まで介護するでござる!!」
「え~い! 俺が老人になるのは確定なんか!?」
「先生が言ったのにー!」
どこからともなく尿瓶を取り出したシロが得意げに喋り、横島はツッコミをいれる。
すったもんだあったが、もし報酬を受け取らずに帰ったら美神に折檻されるのは間違いない。
神魔よりも雇用主の方が恐ろしいのは、神魔すら認めていることだ。
大きくため息をつきながら、結局この仕事を引き受けることになる横島とシロであった。
シロの鼻を頼りに広い敷地を進んでいくと、雑木林であっさりと相手は見つかった。
コウモリの羽を持ち、全身が黒の光沢で覆われた人型の悪魔。
手には巨大なフォークを持ち、頭には小さい二本角が生えている。
その姿は、大多数の人が思い描く悪魔像そのものだ。
「悪魔でござるな~」
「悪魔だな」
「まったく捻りがない格好でござる」
「ほんとにな。なんつー手抜き悪魔だ。てっきり美人のサキュバスだと思ったのに」
開口一番に種族でも力でもなく、見た目を駄目だしされて悪魔は面食らったようだった。
「い、いきなり外見を貶されるとはな。人を見た目で判断するなと教わらなかったか」
「いや、お前は人じゃないだろ」
「それはそうだが……う~む、しかしな……やはりもう少しオシャレでもしたほうがよいか……」
「そうでござる。裸で出歩くのは危険でござる」
「だが、悪魔の服とは難しいのだぞ。シッポや羽に角、それに体のあちこちから突起もあるのだからな。下手に服を着ると変態ようになるし、オーダーメイドだから値段も高いのだ」
「あ、それは理解できるでござる。拙者も尻尾の穴を開けるのが面倒で、下手をすると壊れてしまって大変だから、美神殿にお~だ~めいどしてもらってるでござる」
「お前ら、万年貧乏でいつもGジャンGパンの俺に謝れよ!」
ちょっとしたお洒落談義に花が咲くが、流石にあかんと皆が気を取り直した。
「ふはははは。こうも早く退魔士がくるとはな。俺の危険性に気づいたと見える」
「あ、いや。別な用件で来たんだけど。何か流れでな」
「……なんだ……そうなのか」
「先生! そこは空気を読むでござる。互いにカッコイイ口上を述べたほうがファンも付くでござるよ!」
「おお、そうだな! 良し、さあ、最強のGSである俺が極らくに――――」
「先生の一番弟子! 犬塚シロ、参るでござる!」
「こらー! 先生の名乗りを邪魔する弟子がいるかーー!!」
「結局、我の台詞が無いのだが……もういい。我が呪法を受けるが良い。まずはそこの小僧だ」
悪魔の赤い目から光が発射されて、それが横島に命中する。
すると、世界から色彩が消え失せる。
幻術か、何らかの催眠か。横島は慌てて文珠を取り出そうとするが、何故か体が動かない。
悪魔は赤い目を輝かせ、横島の瞳を、その内面をのぞき込む。
「ふふふ、見えるぞ。貴様の欲望が、願望が! 乳尻太もも乳尻太もも乳尻太もも乳尻太もも……清清しいばかりに女ばかりだな」
分かりやすいにも程がある横島の欲望に呆れたような悪魔だが、とにかく楽に終わりそうなのでほくそ笑んだ。
「小僧よ、私と契約するのだ」
「アホか! 何が契約だ、ただ精気を抜かれて死ぬだけだろうが!」
「貴様のような霊能力者なら、別に死ぬわけではない。ただ少し精気を頂戴して、老けるだけだ」
「だから、それが嫌だって言ってんだろうが!!」
「ほう、本当に嫌か。少し年を取れば、きっと貴様は女にモテルタイプだぞ」
「俺が女にモテルタイプ!? んな嘘に……いや待てよ。そういえば美神さん、クソ親父にほいほい付いて行った事が!」
「そうだろうそうだろう。女は年下よりも年上が好みだ。老けるのを待ってもいいが、十年も待っていられるか。それに待っている間に相手も年を取るのだぞ」
悪魔の声は妙に横島の心に響いた。
契約すれば少し年を取って、それで無理めな女である美神を落す未来が脳内に映し出される。
未来は不確かだ。ゆえに希望を持つ。
今の自分はダメダメでも、未来の自分はカッコイイかもしれないと、何の根拠も無く信じてしまうのが人間である。
いかにネガティブでも、自身の未来を完全に諦めることや否定することは出来ない。どれだけ確率が低くても、宝くじが当たる可能性はゼロにはならないように。
悪魔はそこを呪術を持って突くのだ。
年を取っても良い。
そう言ってしまったら、契約は完了する。
悪魔とは、元来は破壊者というよりも誘惑する者であり、堕落させる者なのだ。
この辺りも、この悪魔は個性がない。
「俺が老けたら美神さんにモテモテ……確かに以前、俺が老けた時も何か好印象だったような……ん?」
そこで横島ふと思い出した。
美神に外見を褒められたことなど滅多に無い。だが、一度だけ合った。
人口幽霊一号の試練を突破した時だ。一歩ごとに歳を取ってしまう部屋で、美神をお姫様抱っこして進んで中年になって『いい男』と褒められた。
やはり美神はダンディズムに弱い一面があるらしい。それは良い。だがダンディを通り越し、さらに老いた時の、その行く末は。
ピカー!
「禿げんのはいやじゃあーーー!!!」
結ばれる寸前の契約が一気に揺らいだ。
上手くいきそうな契約が外れかけ、悪魔は慌ててフォローをはじめる。
「大丈夫だ! きっと禿げないぞ! 物凄くダンディーなちょい悪オヤジになるって!」
「嘘だー! 俺はハゲるんやー! ツンツルテンなんだー! 太陽拳なんやーー!!」
いかに悪魔が甘言を弄しようと、実体験として頭部に風を感じた身なれば効くはずも無い。
鈴が鳴るような音と共に世界に色彩が戻る。呪法を打ち破ったのだ。
横島は気づくと、シロに抱きつかれていた。
「先生! 気づいたでござるか。あの魔族の目ビームをが先生に当たったら、先生が動かなくなってしまって」
涙目のシロに言われて、どうやら催眠に囚われていたのだと気づく。
先の言葉も、心に直接訴えてくるから妙に効いたのだろう。
嫌らしい手だが、欲深き人間には有効な手だ。とりわけ、美神除霊事務所の面々には効果的な手段だ。
「くっ! まさか俺の呪法を破るとは! ならば次だ」
次に悪魔はシロに視線を向ける。
「拙者をたぶらかそうとしても無駄でござる! GSは悪魔のいいなりのにはならないのでござる!!」
霊波刀を悪魔に突きつけて、明朗に宣言するシロ。
きっちりポーズも決めている。
「こらー! それは俺の台詞だぞ~!!」
「師匠のものは弟子のもの。弟子のものは弟子のものでござる」
「俺の弟子がジャイアニズムに汚染されとる!? 誰の影響で……って言うまでもないか」
「ええい! 俺を無視するな!! これでも食らうが良い!!」
また悪魔の目が光って、目ビームがシロに発射される。
「させっか! サイキックソーサー!」
同じ手は食わないと、ビームに霊気の盾を投げつけて爆発が起こった。
「助かったでござる! さすが先生で……はれ、何か視界が可笑しく」
シロは横島を認識しつつも、しかし術に掛かったようで目がトロンとなった。
「ちっ、中途半端に術が掛かったか。だが、十分だ。貴様のような小娘の欲望を引き出すなど容易い!」
魔族がシロの内面をのぞき込む。そうして見えた欲望が、なんとも可愛らしいもので魔族はニヤリと笑った。
「これはまた簡単だな。小娘よ、私と契約しろ。そうすれば大人にしてやるぞ」
「本当でござるか! 大人になれるのでござるか!!」
「うむ、では契約を――――」
「アホー! そんな簡単に怪しげな契約に飛びつくんじゃねえーー!」
「だって、拙者が子供だから先生は娶ってくれないのでしょう。あと十年も待っていられないでござる!」
シロの叫びに横島は顔をしかめた。
これは不味い。非常に不味い流れだ。
魔族の契約にシロが乗せられてしまうという恐れもあるが、それ以上に危険な臭いを感じる。
「分かった。後八年だ。八年もすればお前もバインバインだろうから手を出すぞ。だから契約すんな!!」
「嫌でござる! 八年なんてGS美神が本誌で連載されたぐらいの長さでござる! 三十九巻分でござるよ!!」
「うう、それは長いな。よし、分かった。後七年だ! 七年したら手をだしてやるから……な!」
「七年なんて、七五三の一番上でござる!! 嫌でござる!」
「じゃあ、六年だ。六年なんて大したこと無いって」
「小学一年生と小学六年生の大きさは全然違うでござるよー!」
「アホか! せっかくの子供時代を楽しめよ。裸のねーちゃんと一緒に風呂も入れるんだぞ!」
「そんなの全然嬉しくないでござる! 悪魔殿、拙者の精気を奪って大人に!」
「ああーーー! じゃあ五年だ。五年経ったら手を出してやるから。それに大人になったら子供料金で乗り物に乗れなくなるぞ!」
「料金については、狼の姿で盲導犬に扮すれば無料でござる!!」
「え~い、このバカ弟子め!! 分かった、四年後だ。これが限界だからな!! 今のお前の体は中一ぐらいだろ。
せめて高校生になってもらわなきゃどうしようも無いんだって! 恋人になったら俺はエロイ事は絶対にするし、体が出来上がっていないと危ないから四年は絶対だ!!」
横島が吼えた。それは魂の叫びだった。
彼の叫びをシロは反芻して「やっぱり先生は優しくてエッチでカッコイイでござる」と小さく言うと、満面の笑みを浮かべた。
「やったー! 言質は取ったでござる! 悪魔殿、ナイスプレイでござる!!」
悪魔の手を握り、シロは飛び跳ねながら喜ぶ。
まさか嵌められたかと横島が悪魔を睨むと、悪魔はブンブンと首を横に振った。
どうやら実年齢一桁の少女に手玉に取られたらしい。シロは悪魔を利用して、横島が女扱いするのは十年後から四年後まで引き下げたのだ。
あまりの事に横島は青ざめる。
もしも四年後にシロに手を出すと、美神やおキヌちゃんに知られたら一大事だ。
「はっ? 俺は何も言ってないぞ。四年後? 何のことだが?」
シロが何を言おうと、俺は言っていないと押し通せばいい。
どうせ何も証拠は無いのだから。シロからは嘘つきと呼ばれるだろうが、こういうのは証拠が無ければ誰も信用しないはずだ。
横島は姑息で小心者だった。
だが、シロは横島の発言を受けて、安心して欲しいと言いながら小型の端末を取り出す。
「大丈夫でござる。きちんとこのようにスマホで録音して、PCに送信済みでござる!」
「どこでこんな技術身につけやがった!」
「これぐらい出来ないと美神殿の裏仕事なんて出来ないでござるよ」
ニカッとさわやかに笑うシロの笑顔に、純白のキャンバスを黒く染め上げていくような主人公兼ヒロインの雇用主の恐ろしさを思い知る。
自分とて碌に物を教わった記憶は無いのに、気づいたら重火器やトラップの扱いを覚えていたのだ。美神の弟子育成能力はかなりのものがあるのだろう。
「楽しみでござるな。新婚旅行はどこがいいか……やっぱり肉が安いコメリカ……いやいやその前に先生の親御に面通しを……これからは先生ではなくアナタと呼んで」
完全に妄想のスイッチが入ったシロは、既に四年後の世界に飛んでいるらしい。
横島はこれからの折檻に思いをはせて、ただ真っ白になっていた。
「俺を無視するなー!!」
すっかり蚊帳の外に置かれていた悪魔が、角をピンと伸ばして怒りを露にする。
手には凄まじい霊力が集まり、その肌は艶々と黒光りした。
「もうよいわ。趣味には合わんが、生きたまま食らうてくれる! たかが人間の退魔士が魔族に勝てるとでも思うたか!」
「随分と余裕だけど、なんか理由でもあるのか?」
「フッ、いいだろう。冥土の土産に聞かせてやる。我が装甲はあらゆる攻撃を受け止める頑強さを持っているのだ。錆でもしない限り我に攻撃を通すことが出来ん!」
「……親切なやっちゃなあ。ほい」
横島は無造作に、自身の霊力の結晶である文珠を悪魔に投げた。
文珠に刻まれた『錆』の文字。『錆』の文珠が錆色の光を放ち悪魔に降り注ぐ。
ピシィ!
自称、無敵の装甲が錆びついて、呆気なくヒビが入る。
悪魔はまなじりを限界まで広げて驚愕した。
「何だと、我が装甲が!? これは……文珠か! まさか貴様はあの最低賃金の横――――」
それが悪魔の最後の言葉となった。
ひび割れた装甲に、突撃したシロの霊波刀が食い込んで、悪魔は最後まで地味に祓われた。
完璧に仕事を終えて、帰路に着く二人。
狼少女の足取りは軽く、鼻歌交じりで軽快なステップを踏んでいる。だが、青年の足取りは重かった。
「えへへ~後三年……あと三年でうぇでぃんぐどれす~」
「違うだろ! 後四年だ! しかも結婚するとは言っとらんぞ!!」
「細かい事は気にしちゃだめでござるー」
機嫌良さそうにスキップしながら、シロは満面の笑みで答える。
そんなシロに、横島は居心地の悪さを覚えていた。
所詮、口約束だ。もしもその時が来たとしても、自分も彼女もどうなっているか分からない。
きっと「そんな約束をしたこともあったな~」とほのぼのした思い出に変わるだけだろう。
「先生」
呼びかけられて、振り向いた横島は思わずうめいた。
シロの銀髪が夕焼けを受けてキラキラと輝いている。表情は希望と愁いを合わせた、月の如き儚さを感じさせる。
それは少女の可愛さでも、大人の色気でもない、神秘的な美しさだった。
「拙者、良い女になるでござる。だから。あと少し待って欲しいでござる。振られるにしても、せめて美神殿と同じ舞台に立って戦って負けたいのでござる」
「ん」
それだけ言って頷くのが精一杯だ。
もしも、今下手に口を開いたら、後三年とでも言ってしまいかねない。
あと四年。それぐらいなら待ってもいいかな。そう思う横島だった。
そして、次の日。
「センセー!! 良い女になる為に一緒に(百キロぐらい)散歩するでござるー!!」
「え~い! 結局それかー! やっぱ後九年だ九年!!」
抱きつかれて迷惑そうにする横島だったが、どことなく幸せそうに見えない事もなかったとさ。
投稿テスト。軽く短編を書いて見ました。気軽に評価や感想をお願いします。機能にも慣れたいので。
ロリコンで何が悪い! と開き直ってみる。
作者は横島にロリコンの気は無いと考えてますが、煩悩全開時にシロがいたことがあったので横島はロリもいけると言った友人がいます。逆に、実はシロはロリではないのでは、と言った人もいます。
実際どうなんだろう? 個人的にはロリに欲情するようだとギャグシーンがギャグにならない可能性があって苦手だったりします。ロリはあくまでもお約束でありネタでないと。