第一話 漂流者
《永きに及んだ漂泊の時代は終わり我ら人類はあまねく銀河に繁栄の世界を手にいれた》
男の頭の中に流れてくる漆黒の宇宙空間の映像……これは夢だ。教導レム睡眠。機械が人工的に夢を見せているのだ。アジテーターのナレーションが流れる。
《それがアヴァロン》
宇宙空間に浮かぶ一つの輝く巨大な宇宙ステーション。
皿を逆さまのような形をした電磁シールド下の超密度回転球が真空の宇宙空間から膨大なエネルギーを抽出し、そこから両極一直線にプラズマの光軸を放つ。
その光軸を囲うように直径15キロにも及ぶ一枚の花弁のような居住区画が円になるように12基ほどが連なりプラズマ光軸の回りをゆっくりと回転している。
《麗しき理想郷、科学の叡智と開拓の意思が築き上げた楽園の輝きをみよ》
アヴァロン……宇宙に進出した人類が造り出した理想郷。
その正体は遥か昔に寒冷化によって滅びた地球を脱出した人類がコツコツと造った巨大移民用コロニー。
安定した重力、豊かな自然、正常な空気、自然繁殖した動植物を加工して作り出された非合成食品、そしてそのコロニーを守る透明な防壁が恐ろしい宇宙線や放射線を防ぐ。まさに同盟に暮らす人ならば誰もが憧れる理想郷。
《これこそが諸君の故郷、四億七千万の全市民が諸君の勇気ある献身を称え栄誉ある兵士の名をその胸に刻んでいる》
《称えよ人類銀河同盟に約束されたくおんの未来を、ここより人類の躍進は始まってゆくのだ》
《だが、諸君、忘れてはならない》
壊れ穴だらけに喰い尽くされた宇宙ステーションの残骸が現れる。ステーションには無数の巨大な醜い生物が群がっていた。
《この非情なる宇宙の深淵には時に容赦ない悪意が潜むことを……》
そして醜い生物がアップで現れた。
昔、図鑑で見た巻き貝のような形の強靭な外骨格。
そして憎悪さえ覚える醜い触手。
《我ら人類の前途を脅かすヒディアーズの跳梁を断固として阻止すべし!》
ヒディアーズ、人類の敵だ。
奴等はその進化の果てに絶対零度の宇宙空間の真空にまで適応し、さらには強力なグレイザー(ガンマ線レーザー)の発射機関まで自らの肉体に手にした。
《かような下等生物に人類の躍進を阻まれてはならない!》
我ら人類銀河同盟の誇る全長数キロはある航宙艦の艦隊が現れる。艦隊はただちに加速重粒子砲を発射しいくつもの青い閃光がヒディアーズの群体に直撃する。
いくら進化しても奴等は所詮、欲望のままに動く下等生物。知性と統制の取れた我ら人類の敵ではない。
ヒディアーズからも無数の薔薇色のグレイザーが次々と発射され人類銀河同盟の艦艇が次々と破壊されていく……。
だが、奴等は手強い。
人類銀河同盟は発足時から奴等との戦いを続けてきた。
奴等に対抗するために巨大な航宙艦を幾つも造り強力な兵器を開発しそれを使うために私達兵士が同盟の計画的な子作りで産み落とされ戦場に送られる……。
ヒディアーズさえ居なければ!!ヒディアーズさえ存在しなければ!!クーゲルの中に怒りが溢れてくる。
これまで一体、何人もの若い将兵が無残にも消えて逝ったであろうか。
《英雄達よ大いなる試練の時に奮起せよ無念のうちに散った幾多の犠牲を!今なお危機に瀕している未来の同胞達を忘れるな!》
ここで教導レム睡眠は終わった――――。
――――宇宙空間に一筋のグレイザーの紫色の光線がまるで木が地に根を伸ばすように広がった。
その光線は少しでも触れればあらゆるものを瞬時に蒸発させる死の光だ。
射線上に居た人類銀河同盟軍の巨大な航宙艦が次々と死の光に触れ爆散、この宇宙空間に蒸発していく……。
グレイザーの光を放射しているのは肉塊のような醜い形状をした巨大な花。その醜い花の正体はヒディアーズの巣を防衛する直径40万キロにも及ぶ防衛プラットホーム、ブロッサムセイル。グレイザーの光の発生源はまさにそれからだった。
<敵、要塞特殊砲の攻撃、艦隊主力を直撃!>
<主力戦艦の被害甚大!シールド護衛艦は壊滅!!>
<ヘクセレナ艦隊、全艦大破!!>
<旗艦キャメロットⅡ轟沈……>
<作戦継続不能!全艦ただちに撤退せよ!!>
要塞特殊砲の攻撃を受けた直後、膨大量な報告の通信が宇宙空間を瞬時に飛び交った。報告はどれも深刻な現状を伝えている。
ブロッサムセイルの攻撃で今回の作戦の主力部隊が壊滅したのだ。
この作戦は銀河同盟の総力を上げた絶対に成功する作戦のはずだった。
今回の作戦の目的はヒディアーズの巣を守るブロッサムセイルの要塞特殊砲を新兵器であるディメンストリュームで無力化し露出した巣にクローザーパス、別名、量子次元反応弾と呼ばれる爆弾を設置し巣を消滅させるというものだった。
しかし、ディメンストリュームで一度は無力化に成功したものの、ブロッサムセイルの要塞特殊砲は異常なスピードで再生し、すぐに反撃を受けてしまった。
通信を対ヒディアーズ殲滅兵器の人型兵器であるマシンキャリバーで構成される部隊の隊長、クーゲル中佐は愛機のマシンキャリバー、ストライカーXー3752のコックピット内で聞いていた。
「何だと!?」
クーゲルは突然の被害報告に驚愕し目を大きく見開いた。作戦が途中まで順調に進んでいただけに驚きは増していた。
「これだけの戦力でもまだ、勝てんのか……」
クーゲルは悔しさのあまり圧し殺した声を出した。
それとほぼ同時にコックピット内に電子音が鳴った。
『クーゲル中佐』
女性の合成ボイスが響く。
ストライカーに搭載されているパイロット支援啓発インターフェイスシステムの声だ。
インターフェイスシステムは各マシンキャリバーに搭載されている。その機体のパイロットの体調、情報、戦闘等を支援している人工知能だ。
「なんだ?ストライカー」
『ワームホールスタミライザーは四分後にエキゾチックマターの供給を停止。クローザーパス設置部隊は速やかに空母ラモラックへ帰投されたし』
クーゲル達、銀河同盟軍は後方にある惑星の影に設置されているワームホールを通ってこの宙域にやって来た。そのワームホールを維持するために必要なエキゾチックマターを停めるということはワームホールが閉じるという事を意味している。
つまり、すぐに逃げろと言っているのだ。
「全機聞いての通りだ!クローザーパスを投棄して撤収しろ!置き去りにされるぞ!!」
クーゲルは通信回線を開き自身が指揮するマシンキャリバー隊の各機に呼び掛けた。
<デルタ中隊、搭乗しているクローザーパスから全機降りろ。量子次元反応弾ごと全て投棄する!クーゲル中佐の命令に従い撤退だ!ほら、行け!行け!行け!>
<クローザーパスの量子次元反応弾を機雷モードに設定する!安全キーを抜いてから撤収だ!>
クーゲルの命令通り各機は進撃を中止し後退し始めた。
クローザーパスが投棄され無重力に身を任せて漂い始める。
一部のヒディアーズは投棄されたクローザーパスに一目散に喰らいついた。
ヒディアーズはクローザーパスの装甲を破壊しエネルギーコアの耐圧壁を壊した瞬間、周辺のヒディアーズを巻き込みながら爆散する。
<こいつらクローザーパスをエネルギーコアごと喰うつもりなのか!?>
<放っておけ!急いで突入支援挺に戻れ!>
<ダメだ!ヒディアーズの攻撃が強すぎる!>
陣形が一時的に崩れた所を見計らってかヒディアーズが攻勢を強め始める。グレイザーが放たれ味方のマシンキャリバーは次々と爆散した。
(まずい……このままでは被害が拡大する……)
どうすれば良いか。クーゲルが考えていたその時。
一機の黒いマシンキャリバーがヒディアーズの方へ向かっていった。
「レド!何をしている!」
それに気がついたクーゲルはすぐにその機体の通信回線を開いた。
クーゲル隊所属、レド少尉。
クーゲルの部隊の優秀なパイロットだ。
彼の機体は銀河同盟軍の主力量産機のマシンキャリバーであるチェインバーだ。ストライカーはあくまで指揮官機であり下級士官には配備されていない。
<ここは、自分が支えます!>
「何!?」
クーゲルはレドを止めようと思ったが味方のマシンキャリバーが突入支援挺に着艦するのを見てレドの提案に乗ることにした。
この場を今、クーゲルが離れる事はできないし、この混乱した状況では陽動に適した機体をすぐに見繕う事は難しいかった。
「200秒粘ればそれでいい!無茶はするな!」
<了解!>
レドはそう言うと通信を切りヒディアーズの群体へ単機突入を行った。
「死ぬなよ……レド」
『優位提言。当機も撤退を推奨する』
「ダメだ。部下を置いてはいけん」
『了解』
クーゲルはそう言うと突入支援挺に着艦する味方を援護するため突入支援挺に近づくヒディアーズを攻撃した。
レドのおかげで数は減ったがそれでも、数の上では敵が圧倒しており味方を攻撃していた。
クーゲルも行動を取った。
無数のグレイザーを避け、回転、加速、急上昇を繰り返しディフレクタービームで周囲に集まってきたヒディアーズを一掃。
敵の陣形が崩れたところで、すかさずビームファランクス砲で攻撃する。
『突入支援挺、戦線の離脱を開始』
「よし!レドに撤退を……」
『警告。マシンキャリバーKー6821に非常事態』
「何処だ!?」
クーゲルの目の前にウィンドウが開かれ、ある宙域の様子が拡大表示された。
「不味いな……」
拡大表示された場所にはレドのチェインバーがヒディアーズに取りつかれているところが映し出された。
「ストライカー!すぐに向かえ。援護に入る!!」
『了解』
ストライカーは即座に急加速し速度を限界まで上げレドの元へと急いだ。すると通信が入る。
<援護要請!捕まって動けない!!>
<誰か助けてくれ!>
クーゲルが通信を出した機体を確かめるとチェインバーの居る宙域のすぐ側でクローザーパスに二機のマシンキャリバーが取り残されて無数のヒディアーズに取り囲まれている様子が見えた。
「レドは、あいつらの援護に向かう途中で襲われたのか」
『対象のヒディアーズ、当機の射程圏内に捕捉』
「よし。レドの機体になるべくダメージを与えないように攻撃する」
『了解』
「レド!」
クーゲルは巧みにストライカーを動かしレドのチェインバーに絡み付いているヒディアーズにビームファランクス砲を発射した。
ストライカー型マシンキャリバーのビームファランクス砲の特徴である紫色の光線が正確にチェインバーに絡みつくヒディアーズを殲滅する。
<クーゲル中佐!?>
「時間だレド。戻れ!」
<しかし、それでは!>
「あいつらはもうダメだ!諦めろ!これ以上エネルギーを消耗させるな!」
援護要請をしていた二機のマシンキャリバーは母艦型ヒディアーズに覆い被さられる形で見えなくなっていた。一方のクーゲルとレドの機体は撤退の為にそこから、どんどん離れていく。
<援護要請!援護要請!>
<完全に囲まれた!敵はクローザーパスの量子エネルギーを吸収するつもりだ!もう機体がもたない――>
辛うじて繋がっていた通信もノイズが入り始め機体が強力な圧力で潰れていく音がクーゲルの耳に届いた。
だが、助けることはできない。
撤退までの時間は限られている。
そして数秒後、悲痛な悲鳴を最後に二機からの通信は途絶した。その瞬間、クローザーパスも限界を向かえたようで母艦型ヒディアーズをも飲み込んで爆発する。
クーゲルとレドは機体の速力を限界まで上げてブロッサムセイルの正面にある矮星へと急いだ。
矮星の裏側へのルートを進むと後ろに見えていたブロッサムセイルが見えなくなっていく。
矮星の裏側にはワームホールドライブが設置されている。クーゲル達は、その前を陣取るように居る友軍の空母ラモラックへと速やかに向かわなければならない。
今頃、空母ラモラックは先に脱出した突入支援挺を回収している頃だ。
ラモラックに近づくにつれてストライカーはラモラックやその周辺からの通信を傍受する。
<通過回廊接続維持、ティレモシースイング開始!>
先に残存部隊を収容した空母がワームホールへと突入を始める。残りはラモラック一隻だけだ。
『空母ラモラック、ティレモシースイング開始まであと40秒。39、38――』
最後のカウントダウンが始まった。
ギリギリこの調子なら着艦できそうだ。
クーゲルが少し安心したその時、コックピット内に警報が鳴った。ストライカーがクーゲルの目の前にホログラムを表示しワームホールスタミライザー周辺の図を出す。
『警告。多数のヒディアーズの追撃を確認』
「馬鹿な……」
ヒディアーズの速度は戦いで消耗したストライカーやチェインバーの速度を上回っていた。
「ラモラックにヒディアーズを近づけさせるわけにはいかん!」
このままでは追いつかれる……。
どうすれば良い……。
クーゲルは一瞬目をつむり考えると、すぐに状況の打開策を思いつきレドに通信回線を開いた。
「レド。お前だけでも着艦しろ。奴らは俺が足止めする」
突然のクーゲルの言葉にレドは驚愕した表情を見せた。
<中佐!それでは軍旗違反です!中佐を置き去りにはできません!>
レドはクーゲルのとんでもない命令に反発した。
「お前はまだ若い。俺よりもより多くの敵を殺せる。これが俺の判断だ」
クーゲルはレドに微笑みかけた。それに対してレドはハッとした表情を浮かべる。
「人類銀河同盟 に栄光あれ!達者でな」
<中佐!!>
クーゲルはそう言うと通信を切った。
ストライカーは撤退するルートを外れてチェインバーから離れて後方のヒディアーズと対峙、攻撃を開始する。
「ストライカー!何としてもワームホールへのヒディアーズの接近を許すな!」
『了解』
ストライカーはあらゆる兵装を使用する。
デフレクタービーム、ビームファランクス……。幾多もの光線がヒディアーズを殲滅する。
しかし、現実は非情だ。
『警告。ヒディアーズが当機単独の迎撃能力を凌駕。後退を推奨する』
「ダメだ!ワームホールが閉じるまでは攻撃を続けるんだ!」
ヒディアーズの数はクーゲルの予想以上だった。
僅かだがクーゲルと同じ様に撤退せずに友軍が留まって居ると言うのにも関わらずヒディアーズの進撃は止まらない。
いつ突破されても、おかしくはない状況だ。
『空母ラモラック。ティレモシースイングを開始』
「そうか……あとは、ワームホールが無事に閉じれば……」
『警告。多数のヒディアーズが防衛線を突破。ワームホールへ接近中』
「まずい!!」
クーゲルはすぐにストライカーをワームホールのすぐ手間に移動させ、ストライカーの全身に搭載されたデフレクタービームで迎撃した。
しかし、次の瞬間、コックピット内に鈍い音が響いた。ヒディアーズの突進を防ぎきることができなかったのだ。
ストライカーは衝突の衝撃で後ろへと、弾け飛ばされ物凄い勢いでワームホールへと突入してしまう。ヒディアーズはと言うとその状況にも関わらずストライカーを組敷く。
ストライカーが危険を察知し、すぐにバニシングスマッシャーで取りついたヒディアーズを殲滅する。だが、その時はすでに遅かった。クーゲルの乗る機体はワームホールへ。エルゴ領域、事象の地平線へと落下していった。
クーゲルの体に想像絶する衝撃が走り、やがて視界が歪んでいく。クーゲルの意識はそこで無くなったのだった……。
少し早いけど……
祝!翠星のガルガンティア3周年!!
本日、『翠星のガルガンティア ~遥か、邂逅の天地~』が発売になりました。
その記念として勝手ながら放送当時書いていたこのSSを投稿しようと思い投稿しました。
なんかスイマセン……。
アニメ2期のねがいは諸般の事情で叶いませんでしたが今後も奇跡が起きて2期ができる事を祈りつつ、今後もガルガンティアを応援したいと思います!
さて、このSSの事ですが皆さん。
ガルガンティアを見ていた人は、もしかして一度は考えた事無いでしょうか?
〝もし、ガルガンティアにやってきたのはレドではなくクーゲル中佐だったら……〟
このSSはそんな事を考えながら妄想して書いたものです。
駄文も多いと思いますが楽しんでいただけたら幸いです。
感想や文章がおかしい所などがありましたらお教えて下さると嬉しいです。