クーゲルのガルガンティア   作:エウロパ

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第二話 漂流者Ⅱ

錆びだらけの通路をカンカンと音をたてて一人のツインテールの少女が走っていた。

 

通路には工具や部品が入った箱がいくつも置かれていて少女は身軽にそれを避ける。

 

「おっと、危ないぞ!」

「ごめん!」

 

たまに通行人とぶつかりそうになりながらも少女は足を止めず肩にかけたバックに沢山の手紙や荷物を積んでそのベージュ色の髪をなびかせながら走り続けた。

 

少女が進むにつれて周囲の音が大きくなってくる。

ドリルで何かを削る音。金属を叩きつける音。チェーンソーで何かを切る音。そして仕事をする様々な人の声。

 

ここは修理船なのだから当たり前のいつもの通りの光景だ。通路の天井や壁には配管が張り巡らされている。

 

14歳の少女、メルティは黒のチューブトップにミニスカートという歳のわりに大人びた服装の少女だった。

 

メルティはしばらく走り続け、やがて吹き抜けになっている大きな格納庫の二階、キャットウォークに出る。走ってきた勢いのままに、手すりから体を乗り出した。

 

「うわぁ、でっかーい!」

 

今、修理業者やサルベージ業者の間では最近サルベージされた物が凄いと噂になっている。

 

メルティはそれを手紙の配達の合間に聞きつけたのだ。

本来、ここにはメルティの友人が配達しに来る予定だったが無理を言ってメルティに配達を代わってもらっていた。

 

メルティは自分の下に見えるその〝お宝〟を見て素直にスゴい!と思った。

 

そこには確かに噂通りのスゴい物が横たわっていた。

 

脚台の上に乗せられ仰向けに置かれた……人型の大きな機械?の様なもの。

高さは八メートルくらいだろうか。その周りには作業をする修理屋が小さく見える。

 

その巨体の色は大体、全身、紫で統一されていて表面は錆の一つもなく異常なほど綺麗だ。メルティが普段、見慣れている作業用機械とは全然違う。

 

まさに、紫の巨人だ。

 

実物を見て、さらに興味をそそられたメルティは結構な高さであったがキャットウォークの下に組まれた作業用の足場へと、柵を乗り越え飛び降りた。

 

一階へと降りたメルティは近くに手紙を届ける相手を見つけると紫の巨人のすぐ近くへと駆け寄った。

 

「ベローズ!」

「ん?メルティじゃないか」

 

メルティは健康的な褐色肌をしている女性、サルベージ業者のベローズに話しかけた。

 

「はい、これ。リジットからの伝言。明日までここ使って良いってさぁ~誓約書」

 

メルティはバックから書類の封筒を取り出すとベローズに渡す。

 

「ったく、細かい女だな」

 

ベローズが封筒を開けて書類を見始めた間を狙ってメルティは紫の巨人に近付いて眺め始めた。

 

「それで?これなんなのー?」

「それが分かったら苦労はねぇよ」

 

突然、横から男が声をかけてくる。

男は金髪のリーゼントで工具を手に持って近づいてくる。

 

修理屋のピニオンだ。

チャラチャラしてはいるが、この船団の中ではかなり有名な腕利きの修理屋だ。

 

「中を調べようとしたが……外装をひっぺがすどころか傷一つつけられねぇ。こんな機械、どうやって組み立てたのかも想像つかねぇや。それに見ろよこれ」

 

ピニオンは紫の巨人の肩の部分を近くに行って指差した。その指し示す指の先を追ってみると、そこには何らかの記号か文字のようなものが書かれていた。

 

「何んて書いてあるの?」

「さーな。こんなの、さすがの俺も初めてだ。文字かどうかも怪しいがな」

「大体、見つけた時から妙な代物だったんだよ。そいつは」

 

ベローズが近くにやって来る。

 

「錆びてもいなきゃ腐ってもいない。いつものお宝とは全然違う」

「素材も金属とかじゃなさそうだしな」

「ふーん。なぁんだ。それじゃぁ意味無いじゃん」

 

メルティは少し残念そうに言った。

だが、噂になった理由もはっきりした。つまりは、何もかもが得たいの知れないものという事だ。

 

「バラせなかったらお宝も、糞もねーんだよ」

「こっちは約束通りの値段で買い取ってもらうよ?ピニオン」

「はぁ!?冗談だろ!?」

 

ベローズの言葉にピニオンが大きな口を開ける。

 

「何でも良いから拾ってこいって言ったのは、あんただからね」

「クソッ……この守銭奴が」

 

ピニオンが嫌そうな顔をして表情を歪めるとベローズは、してやったり!とでも言うようにニヤっと笑った。

 

「でもさ……」

 

メルティは紫の巨人を見ながら呟いた。

 

「今にも動き出しそうじゃない?危険じゃないの?それに上に居る時に見たけど……」

 

メルティは心配そうに言った。

 

「あれの事か……」

 

ピニオンは少し困った顔をした。

ピニオンやメルティが言っている〝あれ〟とは紫の巨人が持っている謎の道具の事だ。

 

実は紫の巨人はサルベージされた時からその道具を持っていた。それは何の道具かは分からないがピニオンには一つ分かる事があった。いや、ある程度、察しが良い者ならば見ただけで気がつくだろう。

 

「ありゃ、たぶん武器だな」

「武器!?」

 

ピニオンにメルティは大声を上げる。

 

「でも安心しろ。壊れているのは間違いねぇよ。ウンともスンとも言わねーからな」

 

心配しているメルティに対してピニオンは反論を返す。

 

「まぁ、リジットも用心のためにこんな外縁の区画を指定したんだろ。何かあれば切り離しちばえば良いし」

「おい!バカヤロー、この船は俺ん家だ!切り離されてたまるか!」

 

ベローズが気軽に言うと二階のキャットウォークから作業服を着たこの船主が叫んだ。

 

「はい、はい、リジットに言っとくよ」

 

ベローズは船主に向かって適当に言った。

 

「そういうわけでメルティ。当分は面白い事はねーぞ。さっさと配達の仕事に戻んな」

「なーんだ。それじゃあ私もう行くねー。少しはバラしておいてよー」

「できるもんならなぁ……」

 

メルティはベローズからサインを書き終わった書類を最後に受け取って格納庫を後にした。

 

「とは言ったものの……」

 

ピニオンは紫の巨人を見て溜め息を吐いた……。

 

 

 

 

 

『脳波計測、基礎律動異常なし』

 

クーゲルの耳にストライカーの合成ボイスが響いた。

 

「ん……」

 

クーゲルは重い瞼をゆっくりと開く。

目の前にはいくつもウィンドウが開かれ心電図や脳波、バイタルが映し出された。

 

『クーゲル中佐の覚醒を確認。蘇生成功。緊急事態プログラムにより、貴官の生体機能を人工冬眠によって保管した』

 

カチコチに固まった肩や首の周りをクーゲルはほぐす。

そして、ヘルメットの黄色いバイザー越しに見慣れたコックピット内を見渡す。

 

あの状況で生き残れていたのかとクーゲルは考える。

 

クーゲルはよく、あの状況下で生き残れたなと心底意外に思った。ワームホールに突き落とされたのだ。てっきり死んだものと考えていた。

 

『経過時間は、二六万六八一五分。当機も全システムを凍結していたが外部刺激にともない十二分前に再起動した』

「……半年も眠っていたのか。ストライカー、今何が起きている?」

 

頭の中で瞬時に計算し、その結果に自分で驚く。

人工冬眠は訓練で何回かやったことがあるか半年もというのは流石に無い。

 

それにあの戦いから半年もたっているなんて……。

 

『事態はパイロットの状況判断を必要とするものである。よって貴官の覚醒プロセスを実行した』

 

ストライカーはそう言うと全天スクリーンを起動して機外の様子を映し出した。その映像を見てクーゲルは驚きの余り目を見開いた。

 

「なんだ、これは……」

 

ストライカーは大きな格納庫のような場所に横たわっていた。その周囲を沢山の男女が作業をしている。中にはストライカーの上にのっている者もいる。

 

[オン、モヴェルボーデ!(あたしらは引き上げるよ!)]

 

機体の外で赤毛のポニーテイルの女が何かを言った。言っている意味はクーゲルには一切分からない。

 

「こいつらは何者だ?何を言っている?」

『未知の言語である。いくつかの古代言語に類似性あり。解析中なれどデータが不足』

「……人類銀河同盟じゃない。未加盟の漂流部族か?」

 

クーゲルは機体外の様子を見て自身の見識を述べる。

 

漂流部族。

人類銀河同盟には常にヒディアーズとの戦いがつきまとう。だが、その永い歴史においては戦いに疲れ同盟を裏切った者達が少なからず存在したと言われている。

 

その中で奇跡的に生き残った者は独自のコミュニティを形成していると言われ、そうした者達は総じて漂流部族と呼ばれていた。

 

「こいつら、マシンキャリバーを見るのも初めてなのか?」

 

クーゲルは呆れた様子で言った。

漂流部族の者達は銀河同盟の科学技術の結晶であるマシンキャリバーの装甲に対してガスバーナーや切削機で挑戦していた。

 

『当機を損壊しようとする意図が監察できるが実行手段が無い模様。極めて文明度の低い集団であると推測される』

「この様子ではハッチも開けられまい。それよりも現在位置はどうだ?」

『座標の特定は不可能。計測基準点を喪失している』

「どういう事だ?」

 

クーゲルが聞くとストライカーは目の前の台座に置かれたコミュニケーターから銀河系全体の図が投影された。

 

その銀河系の上にいくつもの光が点滅する。

計測基準点と呼ばれるポイントだ。

 

『推測、当機はワームホール防衛の際にヒディアーズの攻撃を受け計量時空への転移に巻き込まれた後、無作為に選定された座標において通常空間に同期したものと思われる』

「なんてことだ……」

 

全てを理解した瞬間、クーゲルは絶望感に包まれた。

無作為に選定された座標とはそれ即ち、クーゲルとストライカーはこの広大な宇宙の何処かに来てしまったという事を意味しているのだ。

 

想像していたより事態は最悪だった。

 

『救難信号を発信しつつ貴官の人工冬眠を継続していたが事態は静観しがたい状況に推移しつつある。方針を検討されたし』

「……見た目では人類の眷属のようだが、連中の正体が分からないうちは、どうしようもないな」

『隔壁の構造は極めて脆弱であると予想される。当機単独でも破壊して脱出することは可能である』

「ダメだ。気密服を着ていない事からすると壁の外は真空かもしれん。無駄な犠牲を出すことは後々面倒ごとに繋がりかねん。とにかく今は状況の確認が最優先だが……気がつかれない様に外の様子を調べたいところだな」

 

 

 

 

 

しばらく経つと格納庫を照らしていた明かりが一つ、また一つと消え、それと同じようにストライカーを壊そうとしていた漂流部族の作業員も少くなり、ついにたった一人になった。

 

金髪のリーゼント男だ。

 

男は最後までストライカーの装甲相手に手作業で格闘していたがもう諦めたようでストライカーの腕の傾斜を利用して滑り降りると、何か独り言を言ってストライカーに一蹴り入れると、格納庫の照明を消して格納庫から去っていった。

 

静まる格納庫。

 

「よし……行くぞ」

 

ストライカーのコックピットハッチがプシューと空気が抜けるような音をだし開かれる。

 

クーゲルはコミュニケーターを取ってコックピットから出ると格納庫の床に降りた。

 

「重力は1Gか。漂流部族にしては良く調整しているな。空気はどうだ?」

『主成分は窒素、酸素、二酸化炭素、生存に理想的な比率。ほか、微細成分も検知されるが有害物質は検出されない』

「吸える空気なら吸っておこう。手持ちの酸素は温存したい」

 

クーゲルはヘルメットのバイザーを上げた。

 

「すぅ……ッ、何だこの臭いは……」

 

嗅いだ事の無い臭いがクーゲルの鼻をつく。

あまりの臭ささにクーゲルは手で鼻を覆い被せた。すると、フッと近くの台に置かれていた工具が目に入る。

 

先程までストライカーの装甲と格闘していた連中が使っていた工具類だ。そこにあるのはチェーンソーやバール、レンチ、ガスバーナー……。

 

同盟の一般的な工具とは天と地ほどの差があった。もちろん同盟が天でこいつらが地だ。同盟ではこの手の工具はレーザー類を使った物が一般的だ。

 

「旧式にも程がある……ここのやつらは一体……」

 

クーゲルが独り言を言っていたその時。

格納庫の扉の方から物音が聞こえた。足音と金属が扉が開く音……誰かが戻ってきたのだ。

 

「まずい……」

 

クーゲルはすぐにストライカーの影に隠れた。

 

 

 

 

 

「まだ夜も明けてねぇーだろうが……」

 

格納庫の明かりが再び灯りピニオンの面倒くさそうな声が上がった。ピニオンに続くようにメルティも入ってくる。

 

「しょーがないじゃん。朝になったら作業始めちゃうでしょ?そしたら、ますます探しにくくなるじゃん」

「俺なんか一睡もしてねぇての……」

「それに、ピニオンじゃないと鍵開けられないし」

 

メルティは歩きだすと昼に歩いた辺りを重点的に床を良く見て何かを探し始めた。そして、紫の巨人の近くまでやってくる。

 

「あれぇー……ここに落としたと思ったんだけどなぁ」

「そう言えばメルティ、お前、何落としたんだよ?」

 

ピニオンもメルティに続くように紫の巨人の近くにやってくるとメルティに聞いた。

 

「ん~?サーヤから貰ったブローチ。昨日、配達の途中で落としちゃったみたいでさー」

「まぁ何でも良いけどよ。今は銀河渡りの最中なんだぜ?無駄に電気喰ったら、またリジットに……」

 

ピニオンはそこまで言うと、ふと何気なく床を見た。

そこは紫の巨人の頭付近でその床にはピニオンが装甲と格闘した跡、チェーンソーやドリルの砕けた金属片がうっすらと積もっていた。

 

だが、その上に新しい足跡がついていた。

 

「なんだこりゃ……っ!?」

 

ピニオンは最後にここを出た時の事を思い出した。

その時にはこんな足跡無かったはずだ。それに、これはピニオンが使っている靴の足跡ではない……。

という事は……。

 

ピニオンは台の上から1メートルはある大きなレンチを取り出した。

 

「メルティ、そいつから離れろ!こっちへ来い!」

「はぁ?どうしたの?」

「いいから早く!」

 

意味がわからずメルティは首をかしげたが、ピニオンのあまりにも、真剣な言い様にブローチを探すのを止めてピニオンの側に行った。

 

「もぅ、何なのさ」

「いや、ちょっとな……」

 

ピニオンはレンチを構えて辺りを見回した。

 

さっきまであんな足跡は無かった。

という事は、ここに、自分達以外の誰かがいる……。

 

「おい!誰か居るんだろ!?隠れてないで出てこい!!」

 

ピニオンは叫んだ。

声が格納庫に反響しやがて、シン……と静まる。

その様子をメルティは呆れた様子で見ていた。

 

「……なにやってんの?」

「いや……誰か居ると思ったんだがな……気のせいだったみてぇーだ」

 

ピニオンがそう言ったその時だった。

 

カツン――紫巨人の方から足音が聞こえた。

 

「っ!誰だ!?」

「うそっ!?マジで誰か居るの!?」

 

ピニオンとメルティが紫の巨人の方へと目を向ける。

すると、紫の巨人の影から奇妙な男が現れた。男は両手を上に上げている。

「な、何だ、てめぇーは!?」

 

ピニオンが男にレンチを向けた。

 

「何、あの人……」

 

紫の巨人の影から出てきた男は奇妙な服を着ていた。

その服は暗い紫色でぴったりと体全体を包んでいる。無理やり例えると言うのならそれはウエットスーツの様な水着のような服だった。

 

そのスーツを着ている男は明らかにメルティよりも年上という感じで異様に白い肌、白い髪、そして紫の瞳といったあまり見ないタイプの人物だった。

 

「……イケメンだ」

 

メルティはボーッとした様子で言った。

 

「メルティ!そんな事言ってる場合じゃねーぞ!」

 

ピニオンはメルティを一喝するとレンチを握る力を強くした。ピニオンの目線の先には男が手に持っている謎の道具に注意が注がれている。

 

あんな道具は見たことねぇが、あれゃ間違いなく武器だな……。ピニオンはそう思った。

 

それは、ピニオンが今まで一度も見た事の無い形をしていたが、その形状から間違いなく何らかの銃火器である事にピニオンは気がついた。

 

「「…………」」

 

両者の間に無言の衝突が続く。

ピニオンの頬を汗が一滴滴り落ちた……。

 

すると一番最初に沈黙を破ったのは男の方だった。

 

「――――、――――」

「な、何を言ってやがる!?」

 

ピニオンが声を荒上げた。

男は言葉を話始めたが何を言っているのかピニオンとメルティには一切内容が理解できなかった。聞いたことの無い言葉だったのだ。

 

「――――。――――」

 

しかも、ピニオンが混乱していると、さらに混乱する事態が起きる。

 

『我々、敵意、否定』

「だ、だ、誰だ!?まだ、隠れていやがったのか!?」

 

男の言葉の後に突然、無機質な女性の声が格納庫に響いたのだ。ピニオンはさらに混乱し辺りをキョロキョロと見回しながら叫ぶ。

 

周りを見回すが自分意外にはメルティと目の前の男以外の人間はどこにも見当たらない。メルティも同じ様に周囲を見るが結果はピニオンと同じだ。

 

あるのは紫の巨人だけだ。

巨人が声を出すわけがない。

 

考えれば考えるほどピニオンの頭は混乱した。そして混乱は頂点に達する。

 

『我々、情報ヲ、求ム……』

 

そう女性の声が聞こえた瞬間。

 

「こ、こんちくしょー!!」

 

ピニオンはレンチを高く振り上げ走り出した。 それはある種、一般人としては当然の行動だったのかもしれない。突然見知らぬ者が銃火器を持って現れ、知らない言葉で話しかけられ、さらには何処に潜んでいるか分からない謎の第三者の声までがする。身の危険を感じるには十分過ぎる状況だった。

 

「ちょ、ちょっとピニオン!その人助けを求めてるんじゃ!?」

「うおおおおおおおおお!!!!」

 

メルティの静止も聞かずピニオンはすでに男の方へと向かって行く。

 

「――っ!?」

 

ピニオンが男のすぐ側まで来てレンチを振り下げた瞬間、男はピニオンの攻撃を綺麗に避けると後ろに跳ねて距離を取った。

 

「こ、この野郎!避けんじゃねぇ!!」

 

ピニオンがレンチを構え治す。

すると男は突然、メルティの方をチラッと見た。

 

「……え?」

 

メルティは何故、男が自分の方を見たのか分からなかった。だが、その事をメルティが考える時間は与えられていなかった。

 

「おりゃああああああ!!!!」

 

ピニオンがもう一度男にレンチで殴りかかる。

すると今度は、男はレンチを当たるか当たらないかのギリギリの距離で攻撃を避けて隙ができたピニオンの横側を目も止まらぬ早さで走り抜けた。

 

「えっ?」

 

男は物凄い早さでメルティの方へと向かって来る。

 

「ええっ?えええっ!?!?」

 

メルティは突然の事に動揺しどうすれば良いか分からず逃げようと思いついた時にはすでに遅かった……。

 

「キャっ!?」

「メルティ!?」

 

ピニオンが叫ぶ。

メルティが気がついた時には、すでに男に捕まり羽交い締めにされた後だった。メルティは男の顔を見る。

 

「イケメン!じゃなくて……ちょっと!離してよ!!何すんのよ!!」

 

メルティは男の腕を持ったり叩いたりして何とか羽交い締めにしている腕を外そうと試みたが腕力は男の方が上で逃げる事はできなかった。

 

「エイガウバチス!」

『大人シク、シロ』

 

男がメルティにイライラした様子で何かを言った。

それに続くように謎の女性の声も続く。女性の方は片言ながらも意味は分かる。

 

「……もしかして」

 

メルティの頭に一つの仮説が浮かんだ。

 

「もしかして……翻訳してるの?」

 

最初は良く分からなかったが男が喋った後に謎の女性の声がしている。しかも、女性の方は言っている事が片言だが理解できる。

 

その事からも翻訳してるのでは?と言う考えが出てきたのだ。

 

「エンフィ、ネイエ、フェッファウ!」

 

また、男が未知の言葉を使う。

今度はメルティにではなくピニオンに向けてだ。

男は空いている方に持っていた銃の様な形をした道具をピニオンに向ける。

 

『武器ヲ、捨テロ』

 

やっぱりだ……この女の人は何処に居るかは分かんないけど、この男の人の言葉を翻訳してるんだ。

 

メルティはそう理解し始めていたが一方のピニオンの方は、そうはいかなかった。

 

「訳わかんねぇ事ゴタゴタ言いやがって……こんチクショオオオオオ!!!!」

 

メルティを人質に取られた焦りと今まで経験のしたことの無い事態にピニオンの頭は完全に冷静さを失っていた。

 

ピニオンがレンチを振り上げ男に向かってくる……。

それを見た男はピニオンに向けていた銃の引き金を引いた。

 

 




クーゲル中佐はレドより頭が良いのでは?と思ったのでレドとは状況が少し変わった話に今回はなっています。
ストライカーもOVA見てると地球語の習得がチェインバーよりも早かったように思えたのでこんな感じになりました。


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