翌日。
「ピニオン!!どういうこと!?」
「ひぃぃぃ」
ガルガンティア船団の先頭、オケアノス号のブリッジにリジットの怒声が響いた。
ブリッジにはエイミー、リジット、ピニオン、クラウン、フランジ、フェアロックの六人がいる。ここで、クーゲルと紫の巨人の処遇。メルティの救出方法についてエイミーの報告も交えての議論がされていた。
「そんなこと言われても、しょーがねぇだろ!?あんときは……あんときはだな……」
ピニオンが腕を組んで苦しそうな表情を浮かべる。
こうなったのはエイミーの報告がきっかけだ。クーゲルの身の上話はいくらエイミーが説明しても誰も信じようとしなかったが、その後に言った、事の始まりはピニオンにあり。という話をするとその場にいた全員が動揺した。
そして今、全員の視線がピニオンに向けられている。
「あんときは、何なの?」
リジットが腕を組んでピニオンに言う。
「……それは……し、しかたねぇーだろ!!俺だって混乱してたんだ!!」
言うことに困ったのかピニオンは言い訳を大声で言った。
「はぁ……まぁ今は良いわ。でも、ピニオン。責任は取って貰うわよ?」
「分かってる……メルティが人質にされたのは……俺の責任だ」
ピニオンが俯いて悔しそうに言う。
「「…………」」
ピニオンの苦しそうな表情を見て、この場にいる全員が無言になった。
ピニオンはガルガンティアの中でもかなり有名な修理屋だ。有名故にこの場にいる者は全員、普段のピニオンを知っている。それだけにピニオンのこんな表情は皆、初めてで言葉が見つからなかった。
「……リジット、ピニオンが彼らに危害を加えてしてしまったのは想定外だったが、これで彼らと交渉できる素材が揃ったのではないか?」
「どういうことです?」
フランジの突然の発言にリジットは首を傾げる。
「彼らが言ったではないか。人質は自衛的処置だとな、今思えばあれはピニオンの攻撃、そして我々の彼への行動で敵対していると彼らに認識させてしまったのだろう。悪い事にせよ、お互い共通の認識ができたからには交渉もしやすくなるだろう」
「なるほど…………ですが、あのようなユンボロを持っているのに何故、人質など……」
リジットが理解できないと言う表情をする。
だが、その答えはすぐに出た。
「それは……」
「……船団長?」
リジットは隣で車イスに座っている老人、フェアロックに顔を向けた。フェアロックが口を開いたことで全員がフェアロックの方を見る。
「それは、彼らも同じ人間だという事だ」
「どういう意味でしょうか……?」
「人間とはどれだけ圧倒的な力を持っていても、自分の身に突然降りかかった火の粉には咄嗟の行動というものを取ってしまうものだ。それが、どれだけ理屈に合わない物だとしてもな……」
フェアロックが永年の経験から話をする。
その場に居たものは全員が静かにフェアロックの言葉を聞いていた。
「……それでは皆、彼らとの交渉をする事に異論はないな?」
クラウンが全員に問いかける。
それに対して全員が頷いた。
「リジット」
「分かっています。それでは、これよりメルティの解放交渉の準備に入ります!皆さんも準備をお願いします!…………」
<…………地形を確認!間違いない。あのユンボロが沈んでいた場所だ!>
カーキナス号のブリッジに先に潜水した偵察の潜水ユンボロからの通信が届く。
今、ベローズのサルベージ船カーキナス号はストライカーが沈んでいた海域にやって来ていた。ストライカーと同じ物や関連する物が沈んでいないか確かめる為だ。
この海域には旧文明の遺跡が沈んでいる。ベローズ達サルベージ屋はこういった海底から使える物を集めて船団が必要としている物資を提供している。ストライカーもその過程で見つかったと言うわけだ。
ベローズは通信を聞くとマイクを手に取る。
「よし!気合いを入れてかかれ!!」
ベローズが勢い良く言うと、その声が甲板にいる潜水ユンボロの運転手に伝わり続々と甲板から海水へと潜水を始めた。
「ベローズ!終わったよー!」
ベローズの部下のルエルが甲板から発進完了だと大きく手を振ってベローズに合図を送る。ベローズはそれにグーサインを出して頷いた。
だが、ベローズはこの時気づいていなかった。遠くからカーキナス号に忍び寄る船の存在に。
リジット達がメルティの救出準備をしている頃、クーゲルはメルティと一緒にストライカーの足に背をつけてアームの上で座っていた。
メルティはお腹が空いたようだったのでクーゲルがまたレーションをあげて今、それを吸っている。
クーゲルは全然、空腹ではない為レーションを食べてはいなかったが、ストライカーの推察によると、宇宙で育ったクーゲル達、同盟人と地球人では体内の消化器系に若干の違いがある可能性があると言う。クーゲルはメルティの顔を見た。
メルティはレーションを吸いながら少し嫌そうな顔をしている。どうやら非合成食品を食べ慣れている地球人類の口には合わないらしいかった。だが、この調子なら、しばらくは静かにしているだろう。
「……ストライカー」
クーゲルはストライカーに話しかけた。
「ここは生活物資が豊富で、原住民の脅威度も低い」
『条件付き同意する』
「戦線に戻れんのなら友軍が救難信号に気づくのを待つしかあるまい。協力関係を模索するのが得策だと思う」
『同意する』
クーゲルは背後を向いてガルガンティアの船団を見た。
(戦線、友軍……この星で暮らす人達には関係ない。ヒディアーズとの死闘は……こことは無縁なんだ……)
そんな事を考えていた、その時だった。
ガルガンティア中から突然、甲高い警報音が鳴り響く。
「なっなんだ!?何が起きている!?」
クーゲルはレイガンを構えて立ち上がる。
横を見ればメルティも驚いて立ち上がっていた。
数分前。
「はぁ……結局、誰も信じてくれなかったなぁ……」
エイミーは溜め息をつきながら言った。
エイミーはリジット達の部屋から出て行ったあと、再びクーゲルとメルティ、それにストライカーが見える船まで戻り、そこのキャットウォークから足を投げ出して座り込んでいた。
「でも、普通に考えたら信じられないよねぇ……はぁ」
エイミーはクーゲル達の方を見る。
クーゲルもストライカーもメルティも相変わらず連結アームに座ったままだ。状況は今のところ動いている風には思えない。
「メルティ……クーゲルさん……」
その時。
甲高い警報音がガルガンティア中に鳴り響いた。
「……ッ!?」
警報音を聞いた瞬間、エイミーは目を見開く。
海賊だ!!エイミーは即座にそう思った。
この警報音は海賊が来た時に鳴る非常事態の警報だ。
つまりガルガンティアに危険が迫っているか、誰かが近くで襲われているのだ。エイミーはすぐに走り出した。
近くに二人組の男を見つけて、そこへ向かってキャットウォークを走る。その二人組の男も警報音で慌てているようだ。エイミーはその二人組の近くまで来ると急停止した。
「ねぇ!!何が起きたの!?」
エイミーが二人組の男に問いかける。すると男は息を荒げながら口を開いた。
「サルベージ船が海賊に襲われてる!ベローズの船だ!!」
「ベローズ達が海賊に!?」
「そうだ!俺達はもう行かなきゃならない!まっすぐ家に帰れよ!!じゃあな!」
二人組の男はエイミーにそう言い残すと走り去っていった。
「ベローズ達が……」
エイミーもまさか海賊に襲われているのが自分の知り合いであるベローズだとは思いもしなかったので驚いていた。
〝――肯定。しかし、当機をあのような貧弱な装備の作業機械と比べること自体が不適切である。当機の性能はこの船団の保有する全ての戦力を凌駕している――〟
「あっ……そうだ」
エイミーはストライカーの言った言葉を思い出す。
(あんな話が全部本当だとは思えないけど……もしかしたら!!)
エイミーは目的地をクーゲル達の居るアームの方に変更して走って行った。
「ヤバイよ……仕掛けてきやがった!!」
カーキナス号のブリッジにベローズの切迫した声が響いた。
ベローズの見つめる先には重厚な装甲と強力な砲を備えた海賊船が黒い帆を広げてカーキナス号のすぐ近くを航行している。
その数、三隻。カーキナス号は完全に囲まれていた。それだけではない。海賊は高速で水上を移動するボートまでもを展開していた。
「クソッ……」
「ベローズ……どうしよう?」
「ルエル……きっと大丈夫さ」
ベローズは弱気になった部下のルエルを励ますように言うと無線の受話器を手に取った。
「保安長!!」
ベローズは叫ぶ様に言う。
無線の相手はカーキナス号を護衛する護衛船の船長だ。
だが、ここまでの襲撃はベローズも予測していなかった為、連れてきた護衛船は護衛船の中でも一番小さい船だった。これでは海賊の軍艦相手に対抗できない。
<ダメだ!数が多すぎる!!>
「なんてこったい……とりあえずサルベージ班は海中で待機せよ!」
ベローズは海中にいる潜水ユンボロの班に指示を出す。
今は海上より海中の方が断然安全だ。
海賊のボートから機関銃の銃弾がカーキナス号や護衛船に容赦なく撃ち込まれる。護衛船も必死に機関銃やロケットランチャーで応戦するが高速で移動するボートにはなかなか当たらない。
さらに、それだけではなかった。
「ベローズ!あれ!!」
「なっ……カイトだって!?」
ルエルの指差す方向に海賊の予想外の戦力が現れる。
なんと海賊はボートの後部にカイト装着していてカイトが続々と空に上がり始めたのだ。ボートから離れたカイトは羽根を広げ、プロペラを回しスピードを上げ一斉に攻撃を始める。
そんな中、一機のカイトが護衛船に向けてロケット弾を発射した。そのロケット弾は火を吹きながら護衛船に直撃、護衛船に穴を明けそのまま爆発を起こした。
護衛船は爆散し見るも無惨な姿へと変貌する。
その頃、ガルガンティアでも詳細な情報が届きカーキナス号支援の為に護衛船七隻が全速力で向かっていた。今度の護衛船は海賊の船とも戦える重武装船だ。
オケアノス号のブリッジでも様々な情報が飛び交う。
「敵は九隻と小型ボート多数!カイトによる襲撃も始まっています!!」
「援軍は!?」
リジットが叫ぶ様に聞く。
「間に合うかどうか……」
自信のない部下の報告にリジットは歯を噛み締める。
メルティの件とはいい、あの謎の男の事といい、なんでこうも問題が起きるの!!とリジットは心の中でそう叫んでいたのだった。
『新たな動力のノイズ多数』
「確認しろ!」
クーゲルがストライカーの報告に指示を出す。
「一体何が起きているんだ……」
クーゲルが情報の収集にやっけになっている一方でクーゲルの隣にいるメルティはしきりに船団の方を気にしていた。その船団では人々が慌てふためいている。
「そうだ。メルティに状況を……」
メルティに聞こう。クーゲルがそう言いかけた時だった。
「《クーゲルさん!!》」
「っ!」
突然離れた所から大声で知っている少女の声が聞こえた。クーゲルがストライカーの足の影から頭を覗かせる。
「エイミー!」
少女の正体はエイミーだった。
エイミーはその華奢な体を動かして船の屋根から、こちらに向かって走ってきていた。
「《あっ!エイミー!!》」
メルティがエイミーを見て手を大きく振るう。
エイミーは屋根から飛び下りストライカーを包囲する戦闘員の合間を縫ってアームの前へとやって来た。
それを見てクーゲルもストライカーの影から出てエイミーの前に出る。するとエイミーは焦った様子ですぐに用件を語り始めた。
「《ベローズ達の船が海賊に襲われたの!!》」
「《ベローズ達が!?》」
エイミーがクーゲルにしゃべった内容にメルティが反応する。
「つまり敵襲か……」
クーゲルは与えられた情報で速やかに理解した。
「《あんた達強いんでしょ!?超強いユンボロ何でしょ!?助けて!力を貸して!!》」
エイミーは今までクーゲルが見たこと無いほど焦っている。
『援護を求めている』
「……受けよう。取引材料だ」
『人質はどうするか?』
「あーそうだな……」
クーゲルは一瞬目を瞑り腕を組んで考えた。
そして結論に考えが至ると目を開いた。
「連れて行こう……」
『……容認できない。非戦闘員の搭乗は原則認められない』
「今は緊急事態の状態下だ。人質を失うのは得策ではない……。ただし、一応、乗せるときに下手な真似はするなと伝えろ。メルティに限っては無いとは思うが……こちらに危害を与えようとした場合は実力で止めろ」
『……了解』
「……どうしたストライカー?様子がおかしいぞ?」
クーゲルは眉を下げた。
ストライカーの反応がいつもと違う気がしたからだ。
『問題ない』
「そうか……なら良いが……よし!行くぞ!!ストライカー!!援護しながら乗せろ!!」
『了解』
ストライカーがそう言うとクーゲルはストライカーの足の間を抜けてメルティの居る場所まで戻った。エイミーもアームの入り口付近まで下がる。
メルティを見ると心配そうにクーゲルを見つめていた。
『メルティに告ぐ』
「え?」
ストライカーの影からエイミーとクーゲルの話を聞いていたメルティにストライカーが急に話しかけてきた。
『当機は海賊に対する掃討作戦を行う。貴君にはこれよりクーゲル中佐と共に当機に搭乗してもらう。貴君は重要な人質であり、ここへ残すことはできない』
「わ、私が……クーゲルさんと一緒にストライカーさんに乗る!?」
『そうだ。拒否権は認められない。また、搭乗した際、中佐に対し危険な行為を行った場合、当機が実力で排除する』
「そ、そんなこと急に言われても……」
メルティが困っているとクーゲルがエイミーの方から戻ってきた。そして、メルティの近くに寄ると目を見つめた。
「『悪いが協力してほしい。今、君を失うわけにはいかないんだ』」
クーゲルにもやはり、罪悪感があったようで表情を歪ませていた。その表情を見たメルティはゆっくりと頷いた。
「……分かりました」
ストライカーは数時間ぶりに膝をついた状態から動き出した。ストライカーは立ち上がると船団に背を向ける格好で後ろを向き再び片膝をつけた。
そして、その大きな手の平をクーゲルとメルティに差し出す。
「行くぞ」
クーゲルはメルティの手を引いてストライカーの手に乗った。ストライカーの手はコックピットのすぐ近くまで上がる。
そしてコックピットのハッチがプシューと空気の抜けるような音と共に開いた。クーゲルはそれを確認すると、コックピットに乗り込み、メルティをエスコートしてコックピットに乗せる。
「足場が悪いから気をつけてくれ」
「《は、はい……》」
クーゲルに手を引かれながらメルティは足場の悪いコックピットを恐る恐る歩いた。そのままアームシートの後ろの部分に立つ。
「狭くて悪いがそこに居てくれ……飛ぶと多少揺れる。俺の肩に掴まって貰ってもかまわない」
「《は、はい……分かりました》」
「よし……」
クーゲルはそう呟くとアームシートとパイロットスーツを接続させた。パイロットスーツに光の奇線が走る。
そして、ストライカーはコックピットのハッチが閉められ、全天モニターが起動した。
「《う、うわぁ~~!》」
後ろではメルティが全天モニターに驚きの声を上げる。
「《す、すごい!!本当にユンボロとは全然違う!!》」
クーゲルはなにも言わず、出発の準備をした。
何もない時だったら説明する事もできようが今は非常時だ。説明する余裕はない。
クーゲルはこの地球に来てから一番厳しい顔をした。
その物々しい様子にメルティは体をビクつかせる。
「フローター作動」
クーゲルがそう言うとストライカー周辺にメルティやエイミー達が聞いたことのない駆動音が鳴り響いた。
ストライカーの頭部上に質量球体とエネルギーリングが出現する。そして、ストライカーの両足が強烈な風と共に連結アームの上をゆっくりと離れた。
ストライカーを包囲していた戦闘員や住民達からは、どよめきの声が上がる。
「《うおぉ!?……また、飛んだぞ!?》」
「《メルティが!メルティが連れていかれる!!》」
そんな住民達を放っておいてエイミーは目を見開いてストライカーが飛び立ちガルガンティアから急速に離れて行くのをただ黙って見つめていた。
クーゲルさんならベローズをきっととエイミーは思った。
「あのユンボロが動き出しました!!」
オケアノス号のブリッジにストライカーを包囲していた戦闘員から報告が上がった。
「何ですって!?」
リジットは報告を聞いて取り乱した。
リジットはストライカーのいる連結アームが見える窓ガラスに駆け寄った。
見るとストライカーの頭上に奇妙な球体が現れて三本の光の輪が光っている。それだけではなく、ストライカーは再び空中に浮かんでいた。
「何をするつもりなの!?」
リジットは目を見開いたのだった。
「《と、飛んでる……》」
メルティが全天モニターの下を見て、さっきまで自分達がいた船のアームが遠ざかるのを感じた。
「……発進」
クーゲルがそう命令した瞬間、ストライカーはエネルギーリングを光らせ空高く飛び立つ。
「キャッ!?」
メルティは急な上昇で体制を崩しかけクーゲルの肩をギュッと掴んだ。
ストライカーがみるみるうちに上昇しガルガンティアから凄いスピードで離れていく……。
三隻の海賊船に完全に包囲されベローズのカーキナス号は海賊に敗北の状態に陥っていた。
バンダナや布を頭に巻いたゴロつき達がマシンガンや剣で武装してカーキナス号の甲板に乗り込んでくる。彼らは下劣な笑みを浮かべ、くだらない略奪成功の勝利に酔しれていた。
彼らは船内を物色し、金目の物を次々と強奪していく……。
そしてその魔の手がついにベローズとルエルのいるブリッジにまで及んだ。
三人の海賊がブリッジに踏み込んできたのだ。
彼らはルエルを捕まえるとベローズに近寄ってきた。そいつは上半身裸にさらしを巻いて髭を生やした、だらしのない男だった。如何にも海賊らしい格好だ。
海賊の男はベローズの顎を掴むとニヤニヤ笑いだした。
「ガルガンティアのベローズってのは、お前かぁ?」
「取るものは盗ったろ!さっさと失せな!!」
ベローズは男に楯突く。
金目の物は盗られても心だけは渡すつもりはなかった。
「いつまでもちんけな船団についてねぇでウチへ来いよ。ラケージ様もお前の腕は見込んでるんだ」
「笑わせるな!海賊風情が!!」
「ほぉ~……へへへへ」
ベローズの抵抗を見た男はまた笑いだすとルエルの方を向いた。そして、その汚い腕をルエルの豊満な胸へと向けるとルエル服を剥ぎ取った。
「イヤッ!!」
「何しやがる!!」
ベローズが海賊を止めようとするがルエルや他の船員が捕まっている以上、こちらから手を出す事はできない。
「下手に突っ張らねぇ方が身のためだぜぇ?」
「くっ……貴様!!」
絶望的な状況……このままでは……、
その時だった……。
キィイイイイイイイン……と遠くから聞いた事のない奇妙な音が響く。
「な、なんだ?」
「この音は……どこから?」
その音にベローズもルエルも海賊達も辺りを見回した。
この時、海賊達は何も知らなかった。この音の正体が彼らに死を告げに来る死神の足音だと言う事に……。
全天モニターの一面に海が映し出されている。
やがてすぐにクーゲルの正面、水平線の付近に幾つかの小さな点が現れた。海と船を見慣れたメルティにはそれが船だとすぐに分かる。
すると、クーゲルの前にウィンドウが開かれた。
そのウィンドウは遠くの船の部分を三重に囲うと拡大して表示する。その周りには距離等の数値が忙しなく動いてる。
(あっ……ベローズの船だ。でも……海賊の捕まっちゃってる……)
メルティにはコックピットのあちこちで表示されている文字や数値の意味は未知の言語で分からなかったが拡大された船を見てすぐに分かった。
『大型目標の敵味方識別を完了』
拡大表示された十隻の船が赤色と青色で識別された。
赤が敵で青が味方だ。
『小型標的の識別を要請』
「よし」
クーゲルの了解を得たストライカーは海上すれすれの飛行からホップアップに移行し質量球体の出力を上げた。エネルギーリングか大きくなりストライカーは上昇を開始する。
「《うわわわわ!?》」
一方のメルティはというと非常識な光景に驚いたり揺れに耐えたりと忙しそうにしている。
上昇の影響で海水が質量球体の重力に引かれて盛り上がる。だが、ストライカーの上昇の方が早いためすぐに質量球体の重力圏内から外れて盛り上がった海水が爆発するように弾けた。
そしてストライカーは海賊の攻撃に十分な高度、距離まで取るとクーゲルの前に新たに丸い拡大ウィンドウが表示された。拡大の大きさは先程よりも大きい。
標的は勿論、敵の船だ。
拡大された船は四隻と多数のボート。
真中に護衛対象の青い識別の船とそれを囲うように赤い識別の船舶が三隻。さらに、それらの船の内部や甲板にいる人間も赤と青に敵味方識別をされる。
『識別完了。デフレクタービーム、スタンバイ』
「……殲滅」
クーゲルは据えた目でいつもの様に、いつもやっている事を命令した。
クーゲルにとっては、いつもヒディアーズに対してやっている事を逆に人間に向かってやる事に過ぎなかった。
その瞬間、ストライカーの機体の青い奇線が光だし全身からデフレクタービームが発射される。
発射されたデフレクタービームは海賊船〝だけ〟に迷わず命中した。本来は兵器としてあまり使わず、スペースデブリの排除が目的の物だが文明度の低い彼らには過剰すぎる代物だった。
海賊船は命中から一秒も絶たずに爆発した。
だが、さすがに大型船。ストライカーはまだ、浮かんでいる海賊船を見つけると必要にもう一撃を喰らわせた。
エンジン、動力炉、弾薬庫、海賊船の重要区画を正確に撃ち抜き爆砕させる。海上はストライカーの攻撃で波が荒れ狂い小型ボートや残骸は揉みくしゃにされた。
一方の海賊達はというと突然の未知の攻撃に混乱していた。
「な、なんだ――」
「どうした――――」
だが、彼らが理解する事はもうない。
カーキナス号の甲板にいた海賊は自分に何が起きたかも理解する事なくストライカーのデフレクタービームによって正確に貫かれ霧状に蒸発したからだ。
それはカーキナス号船内の海賊も同じだ。
人類銀河同盟が誇るマシンキャリバー、ストライカーを前にして安全地帯は彼らには存在しない。
ストライカーがカーキナス号のすぐ側を横切る。
それを見ていたベローズとルエル、それと海賊三人は目を丸くした。髭の海賊が驚きに満ちた顔で叫ぶ。
「なんだってんだ――――!?」
そこまでだった。
髭の海賊がそういった瞬間、三本のビームがブリッジの窓ガラス越しに撃ち込まれ、残った三人の海賊も他の海賊と同じ様に自分の身に何が起きたか理解もしないままに霧状に蒸発する。
「あっ……ああ……」
ベローズは目の前から海賊達が霧のように消えたのを目の当たりにして言葉を失った。ブリッジの窓の外にはあの紫の巨人が優々と空を舞い遠くに飛び去っていくのが見える。
その様子はガルガンティアからも見えていた。
オケアノス号のブリッジでベローズを初めフランジ、クラウン、他の船員、それどころか船団長のフェアロックも衝撃を受け驚きのあまり口が半分開いていた。
カーキナス号ではベローズが呆然と甲板に降りてきていた。
あれだけいた海賊が誰一人として存在しない。そして、火の海とかした〝海賊船だった物〟を呆然と見回した。
「な……何て事……」
今のベローズには、これくらいの言葉しか出てこなかった。
一方のクーゲル達は爆発し沈んで行く海賊船を後目にクーゲルとメルティが乗ったストライカーは旋回しメルティに負担をかけないようにガルガンティアへとゆっくり進路を戻していた。
その、コックピットの中ではメルティが呆然としている。
「えっ……」
……な、何が起きたの?と、メルティには一瞬過ぎて何が起きたのか全く理解できなかった。
メルティはモニター越しに、全てを見ていた。
海賊船が青い光の矢に貫かれる様子も爆発する様子も……全てを。だが、全てが一瞬の出来事だった。
しかも、その全てがメルティの知る常識と照らし合わせて、非現実的過ぎた。理解が全然、及ばない。
ただ二つ、メルティにも分かった事はがあった。それは何かとんでもない事が起きたという事。そして、彼らが本当に宇宙から来たと言う事だけであった……。
ガルガンティアのクーゲル達を包囲していた戦闘員とクーゲルに助けを頼んだエイミーはストライカーが飛んでいった方、水平線の彼方を見ていた。
水平線からはモクモクと巨大な黒い煙が幾つも立ち上っている。それを見ていた誰もが目を丸くして呆然としていた。
無論、エイミーも……。
「なんなの……あれ……」
その光景を見ていたガルガンティアの住人は全員、呆然とただ立ちすくしていたのだった。