クーゲルのガルガンティア   作:エウロパ

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第八話 船団の扉

「おお……」

「おい……あれ、戻ってきたぞ……」

 

戦闘員達が各々、心配そうに不安そうに上空を見上げる。キィイイイイイイン……という駆動音が連結アームの周囲に響き渡る。

 

人々の目線の先にあった物。それは戦闘から戻ってきたストライカーだった。

 

ストライカーは独自の駆動音を響かせ連結アームに近づくとスピードを落としスムーズに着地する。

 

ストライカーが着地するのを見て戦闘員達が嫌々そうに銃をストライカーに向けた。

 

当たり前だ。目の前であのような圧倒的な力を見せつけてきたのだから。海賊船が一瞬で火の海……自分達は何て物に銃を向けていたのだろうかと……これで怖くない者など居わしないだろう。

 

だが、そんな事はクーゲルとストライカーの知った事ではなかった。

 

 

 

「ん?何だ……」

 

クーゲルは今の現状に眉を寄せる。

全天モニターに映し出されたガルガンティアの戦闘員達に違和感を感じたのだ。ストライカーに銃を向ける戦闘員達の顔が恐怖で怯えきっている……。

 

「同胞の救出をしたのだから歓迎くらいあってもおかしくはない筈だが……」

『不明』

「……まぁ良い。ハッチを開けろ」

 

クーゲルは納得できない様子でストライカーに命令するとコックピットハッチを開けた。外の空気を吸うためにクーゲルはヘルメットのバイザーを上げる。

 

 

 

すると、怯えきった戦闘員達の間を縫うように掻き分けて少女がこちらに向かって走って来るのが見えた。少女は連結アームに近づくとクーゲルの方に顔を向ける。

 

「クーゲルさん!」

 

その少女はエイミーだった。

 

エイミーも他の戦闘員達と同じ様に不安そうな表情をクーゲルに向ている。

 

「何があったの!?ベローズ達は!海賊は!?」

「フィチス、ウィングダンク、トライブ――――」

 

焦ったようなエイミーの質問にクーゲルは冷静に応答した。

 

『防衛対象船舶に人的被害はない。敵対勢力は全滅させた』

「全滅って……海賊を皆、殺しちゃったの!?」

『肯定。敵対勢力は全滅させた』

 

クーゲルの言葉をストライカーが翻訳してエイミーに伝える。すると、エイミーは困惑しきった表情をクーゲルに向けた。

 

「…………うそ」

 

エイミーはそう呟くと首を横に振りながら後退りした。

 

 

やっぱりそうだったんだ……と、エイミーは一番恐れていた事が目の前で起きてしまった、いや、自分がクーゲルに頼んだが為に起きてしまった事に深い後悔を覚えた。

 

クーゲルは別に悪くない、悪いのはちゃんと説明しなかった自分だ。だが、そんな事は頭では分かっていても顔の表情と口からは別のものが込み上げてしまう。

 

「……ク、クーゲルのバカッ!」

 

エイミーは涙目になりながら、そう叫ぶとクーゲルに背を向け走り去った。

 

「……どういうことだ?」

 

逃げるように走り去っていくエイミーを見てクーゲルは理解できなさそうにするとクーゲルはふと、自分の後ろにいるメルティから視線を感じた。

 

「…………」

 

しかし、クーゲルがメルティの方を向くとメルティもなにも言わずただ無言でクーゲルから顔を背けるだけであった……。

 

 

 

 

 

<海賊船団が全滅だと?>

 

フェアロックの驚きに満ちた声が無線機から響いた。

 

「船団どころか私の船に乗り込んでいた連中も全員さ……」

<死人を出した以上、奴らは必ず報復を仕掛けてくる……>

 

ベローズの説明に対してフェアロックが悩んだように言う。

 

「まったく……とんでもない事をしてくれたもんだ!」

「船団長!一刻も早くあの男を追放しなければ!!」

「海賊に引き渡してみては?」

 

リジットが無線機の前でビシッと背筋をただして進言した。クラウンも顎の下に手を当てて考えながらフェアロックの聞いている無線機に言う。

 

だが、それに対して護衛船団の長であるウォームが反論する。

 

「それで奴等が収まる事か……」

「おい!おい!ヤツが海賊と組んじまったらどうすんだよ?それに、まだ、メルティが人質に捕られたまんまなんだぞ!?」

リジットやフランジ、クラウンがクーゲルを追い出そうという話をしている事にピニオンも反論した。

 

「ならば、どうしろと言うのだ!?」

「だから、こっちから仕掛けてヤツは海に落としちまってよ……」

「それでは、どちらにせよ人質にも被害が及ぶ!!それに、あの紫の巨人の力を見ただろ!こちらもただでは済まんぞ!?」

「それじゃあ、どうやってメルティを助けるんだよ!!」

「それは……」

 

<……今、我々がなすべき事は……>

 

フランジとピニオンの言い争いを聞いていたフェアロックが口を開く。

 

<……海賊の動向を見極め対策を立てることだ。男の処遇はそのあとで良い>

「んな!?そんじゃメルティはどうすんだよ!!」

<もちろん救出する。船団の住民は皆、家族だ。……だが、今は目の前の問題の解決に全力を出さなければならない>

「っ……!!」

 

「「…………」」

 

船団長の言葉に皆、言葉をつぐむ。

フェアロックの言っている事は正論だ。確かにメルティの救出も重要だが海賊を殺してしまった以上、奴らは必ず報復を仕掛けてくる。

 

正直言って海賊の戦力はガルガンティアの護衛船団よりも強力だ。まともに戦えば船団住民に確実に被害が出る事は必至。それだけは回避しなければならない。

 

だが、ピニオンは納得できなそうに手を握りしめていた。

 

 

 

 

 

「随分と嫌われたものだ……」

 

クーゲルはストライカーを包囲するガルガンティアの戦闘員達の様子を見た。

 

ガルガンティア側の包囲網にはクーゲル達が海賊掃討から帰ってきた後、明らかな変化があった。

 

クーゲルの目算では海賊からガルガンティアの同胞を守れば少しは待遇の一つも変わるはずだった……しかし、現実は違った。

 

包囲網の戦闘員達は先程の時よりも明らかに大型のユンボロイドを持ち出し今までいたユンボロイドにも装甲板がつけられ完全武装の状態となった。

 

『彼等の行動は論理的分析が困難』

「交渉の糸口になるかと思ったんだがな……」

 

どうやらストライカーにも彼等の行動は理解できないらしい。それはクーゲルも同じだ。

 

クーゲルは、メルティを見る。

 

「…………」

 

メルティは先程からずっと膝を抱えて俯いたまま座って黙ったままだ。

 

「……はぁ……ストライカー、船団の住民の我々への対応を見ると、もしかしたら、俺達は地球の戒律やルールを破ったのかもしれん……状況の好転が絶望的だとしたら……メルティを解放して船団を離れる事も考えなければならんかもな」

『同意する。メルティの情報によると船団は複数存在する事が示唆されている。ガルガンティア以外の船団への移動も考慮すべきである』

「そうだな……」

 

 

 

 

 

「こんな事になっちゃうなんて……」

 

エイミーはストライカーを高い所から見渡せる場所にやって来ていた。その表情は明らかに落ち込んでいる。

 

「宇宙で戦ってたって本当だったんだ……あたし、余計な事しちゃったのかな……はぁ……」

 

エイミーは溜め息をつきながら相棒のモモンガ、グレイスを撫でた。

 

「探したぜエイミー!」

 

突然、後ろからエイミーの良く知っている声が聞こえた。エイミーは後ろを振り返る。

 

「ベローズ……どうしたの?」

 

声の主はベローズだった。

その肩には大きな荷物が抱えられている。

 

「ちょっと頼みがあるんだが」

 

ベローズは笑顔でエイミーに言った……。

 

 

 

 

 

 

 

どうして……止められなかったんだろう……と、そう思いながらメルティは膝を抱えて塞ぎこんでいた。

 

何が起きたのか……クーゲルが何をしたのか……水平線の向こうから立ち昇る黒煙を見て、それを理解した時、メルティは本当なら一刻も早く逃げ出したい気分になった。

 

だが、それは恐怖の感情ではない。

自分が止めていれば、こんな事には……そう思い詰めていたのだ。メルティはずっとクーゲルの側にいた。

 

だからクーゲルが悪い人じゃないのは、もう分かっていたし、クーゲルが "宇宙" から来た〝兵士〟だっていう事も、ただ信じきれていなかっただけで分かっていた事の筈だった。

 

クーゲルは兵士だ。海賊から仲間を助けて何て頼んだらこうなるのは当たり前の事だったのだ。

 

メルティはこっそりとクーゲルの紫の瞳を見る。

 

(何が起きているか分からない瞳をしてる……)

 

あの時……ストライカーさんのコックピットでクーゲルさんに、しっかりと説明していれば……クーゲルさんを止めていれば、こんな大変な事にはならなかったのに……とメルティは思っていた。

 

クーゲルはさっきからストライカーと、宇宙の言葉でしきりに会話していた。

 

(せめて……クーゲルさんの喋ってる言葉が私にも、分かれば良いのに……)

 

「あたし……どうしたら良いの……?」

 

メルティは潤んだ瞳を隠すように顔を深く膝を抱えた腕に埋めたのだった。

 

 

 

『上方に飛行物体』

「何!?」

 

クーゲルは立ち上がった。

上を見上げると赤いカイトが空を飛んでいる。カイトはどんどんクーゲル達の居る連結アームの先端に近づいていた。

 

クーゲルはとっさにレイガンを構える。

すると、今まで黙っていたメルティが急に立ち上がってクーゲルを止めた。

 

「《待ってクーゲルさん!!あれは敵じゃないよ!!》」

「…………」

 

メルティの静止を受けてクーゲルはレイガンを下ろす。

カイトには二人が乗っていて、それは連結アームの先端に着地した。

 

「エイミーか……しかし、もう一人は一体……」

 

エイミーはカイトの後ろにもう一人、女を乗せていた。

 

クーゲルはもう一人の女の顔をまじまじと見る。そして、思い出したぞ……目を覚ました時に格納庫にいた女だ。一体、何をしにここへ……と思い出す。

 

すると、エイミーがクーゲルの前に出た。

それも、真剣な表情だ。

 

「あのさ……さっきはゴメン。怒ってる?」

「レムカム、スエティン」

『問題はない。謝罪は不要だ』

「本当に?よかった」

 

クーゲルが怒っていない事を知ってエイミーは安心した。

 

安心するエイミーの後ろからベローズがやって来る。クーゲルはそれに警戒しレイガンをいつでも構えられる様にした。

 

「そう警戒すんなよ。私はベローズ、あんたと話をしたくてね。差し入れだ」

 

ベローズはそう言うと持ってきた荷物の袋を開けた。

そして、その袋から物体を取りだした。

 

 

 

「あっ……あ…………」

『生物の死骸を摂取するよう求めている』

「……またか」

 

クーゲルはあからさまに嫌そうな顔をする。

ベローズがクーゲルの為に持ってきた物……。それは、クーゲルからすれば、またしても……生物の死骸……ベローズからすれば、大きな鶏肉の塊だった……。

 

クーゲルにとって初めて地球で食べた食料……アジの開きがすっかりトラウマになっていただけにクーゲルは地球の料理は皆、こうなのかと半ば警戒していた。

 

 

 

ジュウジュウ……と鶏が焼ける音がクーゲルの耳に響く。ベローズは鶏肉を切り分けて一緒に持ってきた簡易ストーブの上で焼いていた。

 

クーゲルとメルティ、エイミーとベローズは小さなストーブを囲んで座る。

 

エイミーとメルティは鶏肉を箸で挟んで食べていた。

メルティに限っては二日ぶりの、まともな食事だったので凄い勢いで食べている。そんな中、最初に話始めたのはベローズだった。

 

「クーゲル……だったよな。何で海賊船団を皆殺しにした?」

 

ベローズが優しい口調でクーゲルに聞く。

 

「グルング、ディントエト、ドインフェ――――」

『敵の排除に理由が必要なのか?』

「……!」

 

クーゲルの回答にベローズは何か異質な物を感じた。

この回答だけでも、この海の人間ではない事が良くわかる。

 

「宇宙ではどうだか知らないが……ここでは殺生は何よりも戒められている」

「ヴェダ、ネイエ、トゥーア――――」

『生物を殺して食用とすることは問題とされないのか?』

 

クーゲルは焼けた鶏肉をフォークに刺して見せた。

これにはベローズもメルティもエイミーも少し悩む。そしてメルティとエイミーはベローズの答えを待った。

 

「確かに、あたし達は魚や鳥を殺して食ってるさ。けれど、それだって自分達が生きるのに必要な分だけだ。無駄な殺生はしちゃいない……ましてや海賊は人間だ!同族だ!軽々しく命を奪っちゃいけない……」

「アックラウ、テンレーベ、ネイン――――」

『人間の殺傷を禁ずるのであれば何故、兵器を保有する?』

「その気になれば命も奪える……そう脅そうとすることで海賊は相手を従わせようとしてるのさ。だからこっちも黙って殺されたりしないと態度で示す……つまり、お互いが大砲を見せびらかしている内は交渉の内なのさ」

 

なるほどな……核抑止力の様なものか……と、クーゲルは以前に指揮官として啓発された時の事を思い出した。

 

大昔、人類が地球にいた頃、人類はいくつかの勢力に別れていた事があるという。

 

各勢力は強力な軍事力を保有していたが大きな戦争には発展しなかった。その理由がお互いの軍事力と地球上に無数に存在した核兵器のお陰だったというのだ。

 

互いに威嚇し合うことで相手に戦争を起こす気力を出させない……。今の地球には核兵器ほどの強力な兵器は無いだろうが、その代わりが大砲という事なのだろうとクーゲルは思考した。

 

「あたし達の言葉に魚を釣ってきた者には真水を与えよってのがある」

「『人間の相互援助を推奨する言葉か?』」

「そうさ、皆で必要な物を持ち寄らなければ生きてはいけないからね」

『だが、海賊はその規則を遵守しない』

 

これにはストライカーが自発的にベローズへと質問した。

 

「もちろん、私達はそんな事を認めるわけにはいかない。命も財産も海賊なんぞに渡したりできるもんか。……けどね。それには、私達を襲っても得にはならない。連中にそうやって伝えるだけで十分なんだよ。ところが、人死にがでると話は別さ……奴らは立場を取り戻すためにより多くの血を流さなきゃ引っ込みがつかなくなる。どうだ?分かってくれたか?」

 

「……ウングムッティ」

『事情は理解した』

 

クーゲルはガルガンティアの事情を不納得ながらも受け止める事にした。

 

メルティやエイミーが、よかったぁーと口にして安心した様な表情をする。

 

クーゲルは焼き上がった鶏肉を口に放り込んだ。

 

(これは……普通に美味いな……)

 

クーゲルはアジの開きで随分と警戒していたが、鶏肉の味は口に入れると良い食感と味が広がり、予想外に美味しいと感じた。

 

「とにかく、皆がなんと言おうと海賊と戦うには、あんたの力が必要だ」

 

ベローズは袋をゴソゴソと探ると四角い原始的な端末を差し出した。

 

「通信機だ。あんたには他の連中とも話し合ってもらいたい」

 

クーゲルは通信機を受けとる。

 

「それと……」

 

ベローズは真剣な表情でメルティの方を見て、それからすぐにクーゲルの目を見た。

 

「ん?」

 

メルティが首を傾げる。

 

「あんたは、悪い人じゃ無さそうだが……あれを見てみろ」

 

ベローズは船団の方を指差した。

クーゲルとメルティはベローズの指差す方向を見る。

そこにはガルガンティアの戦闘員達とは違う一般の住民達が少なからずいた。皆、心配そうにこちらを見つめている。

 

「あっ……」

 

メルティがそう声を漏らした。

 

「じいちゃん……それにサーヤも……」

 

そこに居たのは殆どメルティの家族や友人、知り合い達だった。

 

皆、メルティが心配で見に来ていたのだ。

その中には金髪のリーゼント、ピニオンの姿もあった。ピニオンはメルティの視線に気がつくと大きく手を振った。それにつられるようにサーヤも他の皆も声をあげる。

 

「おーい!メルティ!大丈夫か!!」

「メルティー!私達は側に居るからね!!」

「仕事の心配はすんなー!!」

 

皆からの声援がメルティのところに響く。

 

「みんな……」

 

メルティは涙目になった。

その様子をクーゲルが見る。

 

「あいつらは、メルティの家族や友人達さ。皆、仕事を放っぽりだして心配してんだよ」

 

「…………」

 

クーゲルは俯いた。

 

クーゲルも本当なら、こんな人質を捕るような事はしたくはない。だが、状況が状況なだけに仕方のない部分があった。

 

「…………」

『人質は当方の自衛的な処置である。平和的に交渉を進めるには今や人質の存在は重要である』

 

クーゲルが返す言葉に困っているとストライカーが勝手に答えた。

 

「まぁ……あんたの言いたい事は分かるさ……初めて来た所で、あんな金髪リーゼントに急に襲われたらそりゃ警戒するだろうしね。でもね、平和的に交渉をしたいって思ってるんだったら、それを行動で示しな。人質を捕った状況で信用しろなんて言っても誰も聞いちゃくれない。むしろ、あんたを敵だと勘違いさせる事にもなる」

 

クーゲルはベローズの言葉にしばらく考え込んだ。

そして、これまでとは180度違う事がクーゲルの口から出る事になった。

 

「…………ウングムッティ――――――――――」

『事情は理解した。人質は適切な時期を見計らい速やかに解放する。ただし、此方からも条件がある』

「……その条件は?」

『条件は――――』

 

「良かったねメルティ!!帰れるって!!」

 

エイミーがクーゲルの解放するという言葉に喜びメルティに話しかけた。しかし……。

 

「う、うん…………」

「どうしたの?」

 

歯切れの悪そうな顔をするメルティにエイミーは首を傾げる。

 

「……なんでもない」

「そう?それなら良いんだけど…………ねぇメルティ、もしかしてクーゲルさんが心配?」

「え?……そんな事……誘拐犯だし……」

 

メルティはエイミーから視線をそらす。

その一方でクーゲルとベローズの話はもう纏まった様だった。

 

「あんたの条件は分かったよ。私も全力で何とかするよ」

 

ベローズの言葉を聴いてクーゲルは頷いた。

すると、話し終わるのを見計らっていたかの様にエイミーがクーゲルに話しかけた。

 

「あの、クーゲルさん。メルティが居なくても大丈夫……?」

 

エイミーはクーゲルに聞く。

それにメルティもベローズの目も釘づけになった。

 

そして、クーゲルは翻訳文を読むとメルティの方を向いてゆっくりと縦に頷いた。

 

「そっか……それなら……良かった」

 

メルティが小さく返事をする。

そのやりとりを見ていたベローズは立ち上がった。

 

「まぁ、結果はどうあれ、あんたは私を助けてくれた。この肉は、あたしからの礼だ。じゃあな」

 

そう言い残すとベローズは交渉で満足した結果を得られた為、ストライカーの足の間を通ってガルガンティアへと戻って行った。

 

ベローズはメルティとクーゲルの関係を気にかかっていたが、これからクーゲルとメルティの時間は増えるだろうと心の底では思った為、今は何もしないと決めた。

 

「それじゃあ私も帰るね。メルティ、クーゲルさん、頑張って!」

 

エイミーは立ち上がるとカイトを背負う。

 

「クーゲルさん、ベローズ達を助けてくれてありがとう。感謝してる!じゃあね~!!」

 

エイミーはそう言うと海の方へと走りカイトの羽を広げて連結アームより飛び立った。

 

「本当にありがとー!!」

 

 

 

 

 

クーゲルがベローズやエイミーと話しているその頃、ガルガンティアより離れた海域に凡そ30隻にも及ぶ海賊船の大船団が集結していた。

 

その先陣を切るのは赤いロブスターの旗印を掲げた赤い海賊船だった。そのブリッジに全身ずぶ濡れに濡れた男が、この船の主である女海賊にある報告をしていた。

 

「状況は大体、分かりましたわ……」

 

部下からの報告を聞いた玉座の様な大きな椅子に座る彼女、大海賊ラケージは不愉快そうな表情を浮かべた。

 

「ガルガンティア……以前から気にくわないと思っていたけど……ここまで舐めたまねをしてくださったなんてね……」

「キャプテン、その空飛ぶユンボロってのが気になりますが……」

 

側に控えていた赤鼻の男、マロッキがラケージに進言する。

 

「マロッキ!」

「へ、へい」

「そんな程度で騒いでいては益々舐められてしまってよ?」

「は、はぁ……」

「私達を舐めたものがどうなるか……」

 

ラケージは手元に置いてあった鎖を引いた。

 

「あぁん」

 

女の声が上がる。

鎖はラケージの玉座の足元、女奴隷の首に繋がっていた。女奴隷はパラエムとパリヌリという名前の二人。ラケージが引っ張った鎖はパラエムの方へと繋がっていた。

 

ラケージは玉座から立ち上がり不敵な笑みを浮かべる。

 

「どんな秘密兵器を持っていようが、あたくしの敵ではないわ」

 

その表情は自信に満ちていた。

 

 

 

 

 

「ウォーム司令!貨物船アトゥイ号から通信!近海で海賊の大船団を確認!」

「っ!?来たか!!」

 

ウォームが護衛船マーウォルス号のブリッジで部下の報告を聞いて驚く。

 

「緊急避難のため当船団との連結を求める。とのことです」

「至急、この事をガルガンティアにまわせ!!」

「はっ!」

 

ウォームの指示ですぐにオケアノス号へと打電が打たれた。打電はオケアノス号の通信士に伝わり、その情報が瞬く間にブリッジに響いた。

 

フェアロックはすぐに関係者を集めて会議を開く事を決定。一時間以内にブリッジに関係者が集った。今、ブリッジに居るのはフェアロック以下、リジット、フランジ、クラウン、ベローズ、ピニオン、ウォームそれとガルガンティアの各ギルドの代表達だ。

 

「30隻!?ここらの海賊の殆ど全部か!?」

 

詳しい情報を聞いたフランジが驚きの声を上げる。

 

「しかも、その中に赤いロブスターの旗印を見たと……」

「大海賊ラケージ!!」

 

クラウンがまさかの大海賊の登場にこてまた驚きを隠しきれない。

 

「進路は?」

 

フェアロックが冷静にリジットに聞く。

だが、冷静なフェアロックも若干焦っているのは変わらないようで声のトーンがいつもと違った。フェアロックの質問を聞いてリジットが目の前の机に置かれた海図を指差した。

 

海図の上にはガルガンティアの進路を示す矢印の模型と海賊船団の進路を示す矢印の模型が置かれている。

 

「目撃されたのがこの海域……その時点で東南東に向かっていたそうなので……当船団が目的で間違いないでしょう」

「夜には遭遇する事になる!船団長!航路を変えましょう!」

 

クラウンが海賊の進路を聞いてフェアロックに提案する。だが、フェアロックは首を横に振った。

 

「無駄だ。こちらの船脚では逃げられん」

「しかし……山ほど大砲を積んだ海賊船が30隻ですぞ!?我々の防衛船団小型哨戒挺を入れても十五隻、とても防ぎきれません!!」

 

「「…………」」

 

クラウンの言葉にその場にいた全員が言葉をつまらせた。クラウンの言っていることは全て本当だ。護衛船団には30隻もの海賊船を防ぐ能力はない。

 

「交渉の手段を探るのも……」

 

リジットがダメもとでフェアロックに言ってみる。リジットには、もうこれ位しか思いつかなかった。

 

「……連中は復讐に来るのだ。血を流さなければ収まらん」

 

「「…………」」

 

フェアロックの言葉に全員が、やきりれないといった様な顔をする。もう、何も案が出ない雰囲気になったその時……。

 

ベローズがフェアロックの近くに寄った。

 

「船団長」

 

話始めたベローズに一同は顔を向ける。

 

「あの男の力を借りよう」

 

「「なっ……」」

 

ベローズの突然の言葉に全員が驚く。

この場であの〝男〟等という言葉の意味は一つしかない。それは、今、メルティを人質に捕っている男、クーゲルだ。

 

「な、何を言い出す!?ヤツは……」

 

ベローズの進言にクラウンがふざけるな!と言わんばかりにベローズに言う。

 

するとベローズは、ポケットから無線機を取り出して電源を入れた。

 

「聞こえるか?クーゲル」

『…………用件は何か』

 

無線機からストライカーの合成ボイスが響く。

クーゲルは地球語を喋れない為、ストライカーが代わりに答える。

 

「海賊がこちらに向かってきている。このままだと夜には一戦交えなきゃならない」

『接近中の船団はすでに捕捉している。要請があれば貴君らを支援する用意がある』

「……船団長、話してみてくれないか?」

 

ベローズは無線機をフェアロックの前に出す。

 

「バカな!こうなったのもあの男のせいではないか!!」

「いや……あの空飛ぶユンボロが使えれば、どれだけ戦いが有利になるか!!」

 

フランジはベローズ、と言うより得たいの知れないクーゲルとかいう男に怒っていたが、ウォームは仕事柄、戦いの事が良く分かっている為、ストライカーを味方につけるべきだと声を上げる。

 

「……リジット、お前が出ろ」

「分かりました」

 

リジットはフェアロックに頷くとベローズから無線機を受け取った。

 

「私はリジット、船団長に変わって貴方と話をするわ。良いわね?」

『問題ない』

「確認させて。貴方は私達を助けると言っているけど、当船団の住民を人質に捕っている状況で、それは卑怯ではなくて?」

 

リジットは言葉を選びながら慎重に喋った。

本来なら海賊が攻めてきたのはお前のせいだ。と言いたかったのだが今はメルティが人質に捕られている。

早計な事はできななかった。

 

『……理解している。仕方のない事だったとは言え、貴船団の住民を人質に捕った事は遺憾に思っている』

「それじゃあ!」

 

リジットが勢いで人質を解放する様に言おうと声を上げた、その時クーゲルの側から意外な返答が返ってきた。

 

『こちらには人質を速やかに解放する用意がある』

「……どういう意味かしら?」

『我々は貴君らと取引がしたい』

「……何故、私達と?貴方達の武力を持ってすれば私達も壊滅させられるんじゃないかしら?」

『肯定する。当機だけでこの船団を消滅させることは可能』

 

ストライカーの発言にブリッジにいた者達の顔が強ばる。

 

「ではなぜ、そんな脆弱な私達を貴方は助けようとするのか?貴方なら海賊としても充分生きていけると思っていたけど……」

『ベローズが発言していた。貴君らは魚を釣った者に真水を与えると。海賊がその規則を遵守しない組織だという事も聞いた。よって貴君らとの取引が最も有益であると判断する』

「……取引ができる相手だと考えたのね。それで、要求は?」

『クーゲル中佐の身の安全の保証。貴船団への無期限駐留。及び、クーゲル中佐の必要な兵站を補う為の物資の無償提供である。この要求が了承されれば速やかに人質を解放する』

「……要求は分かりました。少し待っていてください」

 

リジットは一時的に無線機を切るとフェアロックの方を向いた。

 

「船団長、私はあの男との取引に応じて良いのではないかと思います」

「な、何を!?」

 

フランジがリジットに驚いたように声を出す。

 

「船団長!あの男の話など聞いてはいけません!!」

「うむ……」

 

フェアロックは目をつぶって、しばらく考え込んだ。

 

「……魚を釣ってくるという者に真水を与えない訳にはいくまい」

「それでは……」

「交渉は成立だ」

 

リジットやベローズが微笑んだ。

クーゲル、お前の言った条件は全て達成したよと、ベローズは心の底でクーゲルに対して独り言を言った。

 

クーゲルがベローズに言った条件は二つ。

一つは、クーゲルと船団の上層部の連中と話をさせること。そしてもう一つはクーゲルの要求が最低限通る様にクーゲルをフォローする事だ。

 

(もともと、あたしは、あんたと上の連中に話し合いをしてもらうつもりだったから難なくできた。ただ、二つ目の要求が最低限通るようにフォローするってのは、どんな無茶な要求が来るのかと思ってちょっとビクビクしたよ。でも、まぁ、常識の範疇に収まる要求で良かった。これから先は、全部、あんた次第さ……)

 

ベローズは心の中でそうクーゲルに語りかけるのだった。

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