魔法少女リリカルなのは 炎の紋章を持つもの 作:コウチャカ・デン
基本的に打たれ弱いので一言ある方は、マイルドに、オブラートで包んでいただけると幸いです。
プロローグ
かつて、その大陸で、『暗黒戦争』と呼ばれる戦いがあった。『暗黒竜』と、後に『英雄』とよばれる人間たちとの戦いだ。
数多の犠牲を払い、この戦いは人間たちの勝利に終わる。しかし、いかに英雄といえど人間である。人の命は儚く、闇の力、いや欲望の力とは強大であった。
かつて封印されたものの復活。新たに覇を目指す者、絶望に落ちる者、そういった者たちが際限なく現れ幾星霜もの間、戦いは繰り返された。そしてそのたびに多大なる犠牲を払い続けた。
時には滅びの未来を変えるために、未来から英傑がやってきたこともあった。『異界の門』を越え、異界から『英雄』がやってきたことも、また逆にこの世界から『英雄』が旅立っていったことも少なくなかった。
そんな戦いの中、その歴史に終止符を打つべく人々は立ち上がった。
方法としては褒められたものではない。だが、あまりにも長く続いた戦いは人々からそれ以外の手段を奪うには十分だったのだ。
すなわち争いの根源の封印。今までと違うのは、敵対するものだけでなく自分たちの希望となる力も共にも封印するということだ。地上に力が残らなければ、外側から封印を解くことは絶対にできない。だがそれは、外側から封印ができないということでもある。
「このような役割を君に託すことになったのは、私の不徳の限りだ。……他に人がいない今だから、正直に言おう。私は……」
「それ以上は言ってはいけないよ、我が友よ」
見るからに神聖な衣装をまとった青年が、20は年上であるだろう豪華な衣装をまとった壮年の男性の言おうとする言葉を止める。
「俺がこの役割を果たすのは、当然のことだよ。この戦いに最初から参加していた身としては、今日まで戦いを終わらせることのできなかった俺にこそ責任がある」
もはや数えることもできない年月を戦い続けたという青年は最も新しい、そして最後であるだろう友に言う。
「俺は、長い時間を生き過ぎた。戦いのないときは眠りにつき、無理やりつなぎ合わせた命だ。もう100年も起きていられない以上、現状最も有効的な使い方をするのが当然だろう?」
外側からできないなら内側から。当然だがそれだけでは意味がない。それは内側から好きにあけられるということなのだから。
「だから、この封印は俺がやる。力量的にも、俺以外に任せられるものはいないだろ?」
この世界、異界も合わせて古今東西最強の存在が、全霊を持って封印を行う。それ以外にこの方法を実行できる手段はない。
かつて異界にあったものを含め、今現存する強い力を持ったものをすべて自身と共に封印することは、彼にとって決定事項だ。壮年の男性も、彼の意思を覆すことができないことはわかっている。
「それでも、私は諦められないんだ。100年だけと君は言うが、それでも人にとっては十分な時間だということぐらい君にもわかるだろう?」
「それでも、俺はやめられないんだ。君が封印に付け足したものが、せめてもの譲歩だよ」
彼らの話が続く中、ゆっくりと青年の足元が光り始める。封印を行うのは青年と、青年の持つ類稀なる力を持つ道具たちだが、それをさらに時間と場所で強化しているのだ。今更止まることはできない。いや、止まることはできるがそうすると次は封印に、ある術式を加えることができなくなるのだ。
「わかっている……わかっているさ! 理屈では、君が言うことが絶対正しいことぐらい! 私も王として、この選択をするしか無かったことも! それでも私は、君に幸せになってほしかったんだ!」
長い、長い時を戦場で過ごした青年に、平和な世界を見せたかった。そこで過ごしてもらいたかった。だから、あの術式を付け足したのだ。結局封印自体を中止することができない以上、できることはこうして会話をすることともう1つ……。
「せめて、こうして最後に祈るくらいはかまわないだろう?」
「『封印が必要なくなった時、自然とこの封印が解ける』なんて正気の沙汰とは思えないけどな」
そう、男が行ったのは、遠い未来に希望を預けること。青年が摩耗していった理由の一つが、目を覚ますたびにかつての友がもういないのだと知ることだと知っていても、ほんのわずかな希望を残したかったのだ。
「封印が必要なくなった時……なんてあいまいな条件だし、発動することなんてないと思うけど」
そういって、自分から最後の封印を起動する。青年とて、友と平和な時を過ごしたくないわけではないのだ。そういった思いを押し込めるため、最後の時へと足を速める。
「では、これからの世が平和であることを願っているよ」
「ああ、この道の先に君の幸せがあることを願っている」
そうして、青年はこの世界から姿を消した。交わした言葉が、青年に届いたかどうかはついにわかることがなかった。だが、これで一つの戦いが、ようやく終わったのだと、終わってしまったのだということだけは確かだった。
「王よ、儀式は……」
「ああ、問題なく終わった」
封印を行った場から離れると、すぐに周辺を警護していた騎士たちが現れた。
「なら、これで……!」
「いや、あくまで魔王やそれに類する存在による破滅の可能性がなくなっただけだ。完全なる平和が約束されたわけではない」
「それだけでも十分でしょう。これで、我々が1歩1歩積み重ねたものを、一息で破壊し尽くすような存在がいなくなったのですから!」
王は、その表情を変えないようにするのに、全霊を振り絞った。彼の言葉には、あの青年も含まれていると感じ取ってしまったが故だ。
「……そういった心の緩みに、魔は宿るのだ。これから数年が、最も危険な時期と知れ」
「! ……失礼いたしました!」
そういって姿勢を正す騎士たちを先導する形で、この場を去る。これもまた、王が封印を止めることのできなかった理由の一つでもあるのだ。
(この世界の恩人である彼に! なぜそのような思いを抱ける!)
それもまた、王は理解している。彼は強すぎたのだ。圧倒的に、理不尽にすべてを蹂躙できる程度には。そこまで考え、王は肩の力を抜く。
(もう、わたしにできることなど、たかが知れている。だが、彼が再び目覚めたときに、この選択が多くの命を救ったのだと、正しかったのだと、そう、安心できるものを残さなければならない!)
この時代は、後に様々な称賛を浴びる時代となったが、それを彼の青年が知ることができたのかは、確認するすべを持つ者はいなかった。