魔法少女リリカルなのは 炎の紋章を持つもの   作:コウチャカ・デン

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第9話 「海上での決戦」

「そろそろ決戦が近くなってきたかな?」

「まだ1/3程度残っているのに?」

 

 珍しく日中の月村邸に滞在するマークのつぶやきに、忍が答える。探索の当てがなくなり、参考意見を聞くためにマークが協力を依頼したのだ。

 

「俺は索敵が苦手だからな。そろそろ決戦予定地を張ってないと、参加できない可能性があるんだ」

「難儀なものねぇ」

 

 さらに言うなら、転移や飛行を使う少女たちに比べて機動力も低いのだ。一応擬似的に転移を行える杖もあるが、射程が圧倒的に短いので戦場につくころには使用限界を超える可能性がある。

 

(新しいものを作ったりできないからな……大事に使わないと)

 

 時間さえあれば手入れを行うことで、その耐久をある程度回復させることも可能だ。だがそれは下級の武具に限る話で、神器クラスになるとなかなか修復は難しいのだ。

 

「っと、思考がずれたな……とにかく! 今まで確認できた発見地点は……これ。確認こそできなかったが、おそらく回収済みの地点が……ここ。で……これが探索済みの範囲だ」

「……結構広いわね」

「海鳴市全域が捜索範囲だって話だったからな」

 

 マークの持つ情報を忍の用意した地図に書き込み、検討を開始する。忍も今回の協力の要請を重く受け止めているので、かなり真剣に地図を見ている。

 

「現在参加を確認した以外の存在が実は参加している、という可能性は皆無だ。俺は、予想以上に広範囲に散らばった可能性が高いとみている」

「わたしは探し物の詳細について知らないから、そこのトコは何とも言えないけど……こっちの可能性はないの?」

 

そう言って忍が指差したのは、海だ。

 

「現在発見された場所をうまく囲むと……ほら、中心が中心だから、海が結構な範囲で入ってるわよ」

「……」

 

 正直、マークの認識不足といえるだろう。あるいは先入観というべきかもしれない。無意識のうちに探す範囲から除外していたようで、忍の発言は目から鱗だった。だが同時にできれば嘘だといってほしい現実だった。

 

「確かに……確かに海の可能性の方が高い。というより、もうそれ以外ない気がしてきた」

「そこまで言ったら言い過ぎでしょ……」

「いや、下手に範囲を広げるよりずっと現実的だ。だがこれは……どうやって戦域に行く?」

 

 空を飛べないのが、ここまで大きな意味を持つとは思わなかった。マークにとって戦は陸で行うものであり、どんなに海に近くても船上だ。だが事の中心にいる少女たちには必要ないものである。彼女たちは空を自由に飛べるのだから。

 

(……使うか?)

 

 一瞬だけ隠している力の使用を考えるが、その考えを脇へと押しやる。自身を正義と名乗ることができる状況でなければ、討伐対象になりかねないし、何より戦いから逃れられなくなるだろう。。

 

「船を用意しましょうか?」

「そこまでの時間はないだろう」

「じゃあ、水上オートバイは?」

 

 その名前を聞いて、マークは首をかしげる。全く何のことかわからないのだ。

 

「あ~なんて言えばいいのかな……一人乗りの小型艇?う~ん……もう! 見た方が早いわね! ノエル、すぐ用意して」

 

 そう言って忍は返事を聞くことなく、マークを引き連れ海に向かう。マークはその際乗った車に大層興味を示したが、優先順位の低いことと言われ、肩を落としながら浜辺へと降りていく姿が見られた。

 

 

「これよ!」

「これか……」

 

 微妙にテンションが低かったマークも、その機体を見て元に戻る。ここら辺は何とも普通の男の子のようだ。

 

「ホントはしっかり説明すべきなんだろうけど、今回はパス。習うより慣れろってやつね!」

「大丈夫なのか……?」

 

 いくらか警戒するかのような事を言ってはいるが、そこにはすでに機体に跨りあちこちいじるマークの姿があった。

 

「(よろしいのでしょうか?)」

「(ん~? なにが?)」

 

 その横でノエルが忍に耳打ちする。マークに聞かれてはまずい話かと思い忍は数歩後ろに下がる。

 

「(彼が免許の類を所有しているとは思えないのですが……)」

「あ……」

 

 だが、時すでに遅し。ついさっきまで目の前にいたマークは、すでに海面を滑るように走って沖へと向かっていた。

 

「……」

「……ちょっと、先に手をまわしておきましょうか」

「かしこまりました」

 

 

「今回は運が良かったな」

 

 忍たちを置いて沖まで出てきたマークは一人、自身の幸運をかみしめる。つい先ほど、フェイトの魔力を感じたのだ。

 

「これのコントロールについて不安は残るが……戦場に向かえないよりまし、か」

 

 転ばないように慎重に魔道書を取り出す。さすがにこの戦場でうまく戦えるとは思はないので、いつもより余裕を持って2段階魔法のレベルを上げておく。

 

「さて、じゃあ突撃! って、ぎゃあぁぁぁ!」

 

 そうしてマークは結界の中に突っ込み、雷撃の洗礼を浴びた。

 

「マ、マーク!」

「大丈夫かい!」

「な、何とか直撃は逃れた……けど、また無茶をしたみたいだな!」

 

 悲鳴を聞いたフェイト達が侵入者に気付き声を上げるが、存外平気な様子で走り回るマークを見て安心する。

 

「これぐらいしないと、これ以上集めるのは難しいから」

「だけど、手伝ってくれるかい? さすがに2人は厳しくてね!」

「りょーかい! 方針は速攻か?」

「うん!」

 

 そのような会話を交わすうちに、暴走したジュエルシードが水流をまとう。その数、実に7本!

 

「水か……実態を持たない相手っていうのも珍しいが行くぞ! 『ギガファイアー』!」

 

 先手必勝とばかりに放たれた一撃は、水流のうちの一本に直撃し爆発する。その爆発はいとも簡単に纏う水を吹き飛ばし、ジュエルシードが姿を見せる。

 

「そこ!」

「わか、ック!」

 

 だが残りの6本に阻まれ、封印には至らない。少し手間取るうちにジュエルシードは再び水を纏い、マークたちに襲い掛かってくる。

 

「嘘だろ! クッ、このッ!」

「マーク!」

 

 どうやらマークの一撃が気に食わなかったようで、水流は実にその半数以上がマークへと向かって殺到する。

 

(反撃する余裕が無い! クソッ、せめて足場があれば!)

 

 水上バイクを必死に操り回避をするマークだったが、相手は水だ。それはすなわち、マークの足場すべてが敵という事でもある。フェイト達も援護をしてくれているが、正直焼け石に水といったとこであまり効果が見られない。

 

「ウォッ!」

《大丈夫!?》

 

 エンジン音などで周りの音が聞こえていなかったのだろう。フェイトが念話で話しかけてくる。

 

「なんとか! だけど、俺のことは無視して封印を優先しろ!」

《でも!》

「足手まといになりに来たわけじゃないんだ! いいからやれ!」

 

 慣れない念話を使う余裕はなく、怒鳴りながら返事をするがフェイトはそれに了承できない。当然だろう。今は何とか防いでいるが援護が途絶えればどうなるのか、想像するのはたやすい。

 

「3分だ! 1本減れば何とかなる!」

「~~~! わかった! アルフはこのままマークを援護して!」

「あいよ!」

 

 マークの上げた具体的な数字に、フェイトが折れる。どのみちこのまま均衡を保っていてもじり貧である以上、どこかで勝負をかけなければいけなかったのだ。

 

「フォトンランサー!」

 

 複数発の攻撃を一本の水流に集め一気に片付けようとするフェイトに、マークを追っていた水流の一部が迎撃に回る。

 

「させるか! 『ギガファイアー』!」

 

 追ってくる水流の本数が減り、残ったものもアルフによって動きを鈍くしているわずかな隙に、フェイトへ向かった水流に妨害を加える。だが狙いが甘く、ほんの数秒の時間を稼ぐことにしかならなかった。しかしその数秒で十分だった。

 

「ジュエルシード、封印!」

「やった! これで……!」

 

 楽になる、その想いが気の緩みにつながったのか、アルフの拘束していた水流が解き放たれる!

 

「なっ!」

 

 タイミング、位置、数、どれも最悪と言って構わないものだった。技後硬直というほどではないが、それでも魔法を放った反動を抑えてバランスを取っている最中。

 

(ああ、回避は不可能だ……)

 

 せめてここが草原で、水上バイクが馬だったら、などというIFを考えてしまうてしまうほどどうしようもなかった。だが、だからと言って諦めるわけにはいかない!

 

「ウオォォォ!」

 

 水上バイクを蹴り、その身を空中へと投げ出す。もはや魔道書を抱える余裕もなく、放り投げる。

 

(『リワープ』の杖を使って離脱できるか!?)

 

 直後、水上バイクを水流が砕くのが視界に入る。

 

(ダメだ! 間に合わ……)

「マーク! つかまりな!」

「!」

 

 とっさに声のした方に手を差し出すと、噛み付かれた。

 

「は? って、えぇ!?」

 

 そして思いっきりひっぱりあげられた。

 

《呆けてないで、さっさとつかまりな!》

「ア、アルフか?」

《それ以外に誰だっていうんだい!?》

 

窮地を逃れ、ようやく自分を引っ張り上げた存在を確認する。そこにいたのは、狼の姿をしたアルフであった。

 

《さすがにこのままじゃきついからさ、背中の方に移ってくれないかい?》

「了解……それと、しばらくの間、騎獣役頼めるか?」

《キジュウ?》

「騎馬みたいなもんだ」

 

 完全に機動力を失ったマークにはどうしても必要な存在だ。それにこのような形であっても、空を飛べるのであれば十全の力を発揮できる。

 

《オーケー! それでまだあんたが戦えるなら安いもんさ!》

「よし、じゃあ行くぞ!」

 

 残念ながら魔道書を回収するほどの余裕はなさそうだったので、マークは仕方なく、そう仕方がなくだ。さらにランクを上げた魔道書を取り出す。

 

《いったい何冊持ってるんだい!?》

「1冊ずつだ! さっきのとは違うものだぞ」

 

 デバイス一つで複数の魔法を使う魔法体系のものにはわかりづらかったのであろう。内心で首をかしげるが、それでも危なげなく水流を躱して進んでゆく。

 

(あれ? こんなに楽に躱せてたっけかな?)

 

 ふとそんなことを思うが、水流が1本減ったことを思い出し納得する。

 

「そろそろ行くぞ! 『ファラ……』!」

「どうしたんだい!?」

 

 アルフは突然魔法の使用を中断したマークをいぶかしむ。だが、本人から答えを聞く前になにがあったのかを悟った。

 

「……来たみたいだね!」

「ああ、ナノハの方か……」

 

 上空から、そろそろ馴染みとなった魔力を感じる。フェイトも気付いたようで、水流を躱しながら視線をマークたちに向ける。

 

《どうしよう?》

《……様子見が上策、かな》

《先手を打った方がいいんじゃないのかい?》

《相手の目的もジュエルシードだ。さすがにあの水流の相手をしながら戦うのは無謀ってもんだろ?》

 

 マークはかすかに困惑しながらも、できれば敵対しないようにうまく戦うことを提案する。それより重要なのは、なぜこのタイミングで出てきたのか、という事だろう。

 

(てっきり最後の最後に全部かっさらっていくつもりなのかと思っていたが……まさか独断専行!?)

 

 組織に所属するものとしては最悪の判断だろうが、個人としてはなかなか興味深い行動である。そもそもなのはは管理局の人材ではなかったな、などとマークは思い返す。

 

「待ってくれ! 僕たちは戦いに来たんじゃない!」

「……お前も来たのか」

 

 マークたちの沈黙を戦闘のための話し合いと見たのか、ユーノは戦場に出てきた途端に弁解を始める。

 

「暴走したジュエルシードが融合すればまずいことになります! ここはまず、協力して封印を!」

「ふむ……」

 

 ユーノは言うことを言ったら、敵対する気がないことを証明するかのように背中を見せ、水流の拘束を開始する。だがマークは自身に向けられた説得を、生返事で返すのみにとどめた。

 

《どう……しよう?》

《フェイト、そこは自分で決めなきゃだめだ》

 

 おそらくフェイトにも共闘の話を持ちかけたのだろうが、どうも決断には及ばなかったようでマークに尋ねる。だが、マークの返事はフェイトの望んだものではなかった。

 

《え?》

《……確かに普段は相方だなんて名乗らせてもらっているがな、俺らの大将はフェイトだ。それを忘れちゃいけないよ》

 

 先程はつい出過ぎた真似をしてしまったが、そこは譲ってはいけない場所だ。……だが、ただ決めろと突き放すわけではなかった。

 

《ただ、自身の望むままに動くといい。もし、最初の一歩を踏み出す勇気が足りないのなら……いや、ここは俺の役目じゃなかったな》

 

 一瞬何の事だか分らなかったが、答はすぐに示された。アルフは水流に対して鎖を伸ばし、バルディッシュがそのフォームを変える。

 

「アルフ、バルディッシュ……!」

 

 フェイトは感極まった声で2人の名を呼び、その想いを意志へと変える。

 

(マークも、ありがとう……)

 

 声に出さずに、フェイトは自分を相方と呼んだ青年にも感謝を述べる。高まっていく魔力は、フェイトの資質により雷を帯びて満ちてゆく。

 

「わかった、残りはきっちり半分こだ」

 

 その返事を聞き、少し離れた位置に移動していたなのはも笑みを浮かべ、合図を出す。

 

「じゃあ、せ~の!」

「『サンダーレイジ』!」

「『ディバインバスター』!」

 

 溜めに溜めた、おそらく今の二人の最大の一撃が炸裂する。その予想以上の威力と余波にマークたちは距離を取らざるを得なかった。

 

「なんつー威力だ……」

「いや、僕もこれほどとは……」

 

 驚愕する男2人を置いて、アルフは一人満足げであった。おそらく主人の力を認められたのがうれしいのだろう。

 

(二人がかりとはいえ……今の一撃は神器に迫るぞ!)

 

 マークとしては10歳にも満たない子供が、これほどの一撃を持つことに驚いていた。だが、それでもかつての戦場を見渡せば似たようなレベルの子がいたことを思い出し、何とか冷静さを保っていた。

 

「友達に……なりたいんだ」

 

 そんな中、小さいがどこかに響く声が聞こえた。見れば空中にたたずみ、見つめあう少女たちの姿があった。

 

「……」

 

 マークはつい声を出しそうになるが、なんとか堪える。だが、そんな思いを無視するかのように、結界の、いや、世界の外側から雷が迸った。

 

「なっ!」

《なんで!》

 

 ユーノとアルフも驚愕を浮かべるが、マークのそれは2人の比ではなかった。

 

「まさか……今の魔力は……」

 

 だが幸か不幸か、今は考える余裕などなかった。雷はフェイトを貫き、なのはを押しやる。

 

《マーク!》

「おう!」

 

 わずかな躊躇ののちに、アルフはジュエルシードへと向かう。ここでジュエルシードを得られなければ、何のために無茶をしたのかという事になってしまう。だが、当然のようにそれを阻むものが居た。

 

《管理局!》

「駆け抜けろ!」

《!!》

 

 マークは思わず止まりそうになったアルフを叱咤し、さらに加速させ、アルフの背から跳躍する!

 

《なっ!》

「なに!?」

 

 2人の驚愕を置いて、マークはクロノの頭上を越えて、ジュエルシードを確保する。

 

「戦場に出てこなかった奴が今更来てもね、認められないな」

 

 マークは静かにそれだけ告げ、そのまま落下していった。それも当然と言えるだろう。彼には単独で飛行するすべがないのだから。

 

《ちょっ!》

 

 とっさに追おうとしたアルフの眼前に、3つの宝石が投げつけられる。

 

『きっちり半分こ、だろ?』

 

 そんな言葉が聞こえた気がすると同時に、マークの意図を理解する。要は『一緒に行動する気がない』という事だ。

 

「はあぁぁぁ……!」

 

 そうとわかれば、もうここには用はない。人型の戻ったアルフは、渾身の一撃を海に叩き込み、視界を奪ったその隙にフェイトを連れ撤退する。

 

(ここまで来ると芸術的とすら言えるな)

 

 海から頭を出し、なぜか封印されていた丸太(注 槍です!)にしがみつきながら、2人の遁走を評価する。と、そうしている間に、彼の捕まる丸太に若き執務官が降り立った。

 

「マークさん、あなたを公務執行妨害で逮捕します」

「……その前に一ついいか?」

「……なんだ?」

「助けてくれ、泳げないんだ」

 

 これにはクロノも、開いた口がふさがらなかった

 

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