魔法少女リリカルなのは 炎の紋章を持つもの   作:コウチャカ・デン

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第10話 「マークの逮捕?」

「いや~さっぱりした」

「こっちはあなたの荷物チェックで散々だったがな!」

 

 さすがに海水に濡れ、べとべとのまま艦内を歩き回られるのが嫌だったのか、シャワーを浴びることは許可された。もちろん持ち物はすべて押収されたが、マークにとって重要なものはすべて封印状態にあるため、痛くもかゆくもなかった。

 ちなみに、その海水でべとべとの荷物をチェックしたクロノは、あまりに何も出てこなかったせいか少しイラついている。

 

(それはそうと『ギガファイアー』については痛かったな……)

 

 あの場で放棄し、回収できなかった魔道書について思いをはせる。封印領域に仕舞う余裕はなかったので、仕方ないと言えば仕方ないのだが……

 

「ま、済んだことか……」

「? ……何を呟いているのかは知らないが、着いたぞ」

 

 考え事をしているうちに、目的地となった会議室に着いたらしい。

 

「こうして直接会うのは初めてね……改めて自己紹介といきましょうか?」

「必要無いだろ、リンディ・ハラオウン提督」

「それもそうね、マーク君」

 

 その呼び方に、何か妙な感覚に襲われるマークだが、外見年齢は十代でもなんとかなるぐらいなので、『君』付けもあり得るかと割り切る。

 

「とりあえず、いくつか質問してもいいかしら?」

「拒否権なんてないんだろ?ハラオウン提督」

「確かに事情聴取といった面もあることは否定しないわ」

 

 それにしては拘束着こそ着ているが、手錠まではつけられていない。その理由は、アースラについてすぐ、ジュエルシードをなのはに渡したためだ。本人いわく。

 

『フェイトとナノハで半分こ、だろ?』

 

 とのことらしい。このようなことがあり、どうにか敵でも味方でもない状況を維持している状態である。

 

「そうかもしれないけど……同意があった方が気分がいいじゃない」

「ま、それもそうだな……じゃあ、俺に答えられることなら」

 

 それとなのは達のことだが、どうやらマークがシャワーを浴びているうちに叱られていたようで、少し落ち込んでいる。一応護衛なのか、関係者だからなのかこの場にいるが、微妙に切り替えができていないようでもある。

 

(あるいはこの子がいた方が、俺が無茶をしないって思われてるんだろうな)

 

 それも事実なのでどうしようもない。もはや逮捕されたときに開き直ったマークは、何の気負いもなく腰を落ち着かせる。

 

「そうね、質問の前に言っておかないといけないことがあったわ」

「ん~俺の故郷についてか?」

「察しが良くて助かるわ」

 

 そうしてテーブルの真ん中に出てきた画面に、『NO DATE』の文字。

 

「残念ながら、わたしたち管理局が把握している世界のうちに、あなたの言う大陸や国が確認された世界はなかったわ」

「そっか……その場合ってどうなるんだ? 今後も管理局の保護下に居なきゃならなくなるのか?」

 

 予想よりずっと落ち着いたマークの様子に微妙な違和感を感じながらも、リンディは現在管理世界の中心となっている『ミッドチルダ』で生活してもらうことになる可能性が高いことを告げる。

 

「ま、そこらへんは後日に頼めるか? 一応希望の様なものもあるから」

「そうね、今回の件が終わらなければ、あなたの処遇も決定しないでしょうからね」

 

 その発言にそこはかとなく嫌そうな顔をするが、こればかりは自業自得だろう。

 

「でも、何で彼女たちに味方することになったの? はっきり言って何の関係もなかったでしょ?」

「確かになんの関係もなかったけど、しいて言うのなら関係ができたからかな?」

 

 この世界で出会ったから、それが手伝った理由だとマークは告げる。マークにとっては知る由もなかったが、それはなのはがこの事件にかかわった理由とほぼ同じといっていいものだった。

 

(ひょっとしてこの事件は、そういう事件なのかしらね)

 

 時々、このように人の集まる事件がある。滅多にあることではないが、リンディには今回の事件に、抗えない流れを感じた。

 

「まあ、最初はそれでいいとして、先ほども手を貸していた理由にはならないわ。犯罪行為だとわかっていたでしょう?」

「それでも手伝うといったからな。俺の中ではそっちが優先だったんだよ」

「……管理外世界では多い主張ね、余所の世界の法など知ったことかってこと?」

「そこまで言うつもりはないが……実際の行動はそうなってしまったからなぁ」

 

 正直なところ、リンディにはこのことはそこまで責めるつもりはない。管理外世界で管理局の法を押し付けるという事、それが無茶なことぐらい理解している。

 

「まあ、そこら辺のことを追及するのは私たちの専門じゃないから、また今度ね?」

「専門家に責められるなんて勘弁してくれって」

 

 マークはさらにぐったりしてみせるが、わざとらしさが抜けていない。ただこの話題はやめてほしいという合図だろう。

 

「じゃあ、別の話題にしましょう。あなたの持っていた魔道書についてなんてどう?」

「う~ん……提出しろなんて言われたらさすがに困るぞ? 俺の持っているものに、余裕はないからな」

 

 強力な力を持ったもの以外は、友がこちらで過ごしやすいようにと用意したものも多い。だがそれも環境に慣れるまで持てばいい程度の数しかないのだ。魔道書など提出したら最後、最終的にマークは自衛の手段すら失うことになりかねない。

 

「そうね、わたしたちにとって未知の魔法である以上その話はいずれ出てくるでしょう。でも今回は違うわ。海であなたが落とした魔道書のことよ」

「まさか、回収している……とか?」

「ええ、ただ……」

 

 もしやと思って尋ねたマークが思わぬ肯定に喜ぶ前に、リンディは釘をさす。そして別の部屋から持ってこられた、魔道書だったものを見てリンディが言いよどんだ理由を理解した。

 

「見てのとおりよ」

「これは……修復は不可能だな……」

 

そこには水流の直撃を受けたのだろう、1/5程度の大きさになった書物だったものと、ぼろぼろになった紙切れが積み重なっていた。

 

「……これを、回収してくれたこと……感謝する」

「いえ……こちらも思惑があってのことですから」

 

 そのマークの感謝の言葉には、どれほどの思いが込められていたのか。提督という役職に就いたリンディに、思惑を持って回収したことに罪悪感すら感じさせるものであった。

 確かにマークには、この魔道書を守って傷つく気などさらさらない。だが、それでも、今となってはこの魔道書も戦友たちの形見ともいえる品なのだ。それがこのようになってしまったという事は、思っていた以上に衝撃をマークに与えた。

 

「それでも、だ……よければ、これをまとめておく箱か何かをもらえるか?」

「わかりました。用意しておきます」

「それと、回収してくれた礼がしたい」

 

 軽く目元をぬぐい、マークはいつもの調子に戻る。周りも、それが表面上だけだとわかっているが、そこには触れず話を進める。

 

「そうね……ジュエルシードの回収を手伝ってくれたらうれしいんだけど?」

「先約があるからな、それはできない」

 

 あら残念、などと言ってリンディは肩をすくめるが、最初から返事はわかっていたのだろう、口だけなのが丸わかりだった。

 

「そうだな……今後の魔法技術の提供を約束するってことで、とりあえず勘弁してくれ」

「事実、そこらへんが妥当でしょうね」

 

 本当のところマークは管理局に利益になることではなく、リンディに対して礼をしたかったのだが、さすがにそうと言うわけにもいかない。賄賂と勘違いされても困るので、このことは事件の処理が終わってからにした。

 

「あとは……あなたの身柄は、次元漂流者として管理局が保護することになります。現地文化の保護などもありますから、行動に多少の制限がかけられますのでご了承ください」

「仕方がないか……ただ、フェイト達に関わることについては許可してくれないか? 管理局に対して攻撃などは一切行わないと約束するから」

 

 こればかりは決定事項なのだろう。ほかの件と違い事務的な口調が強調されたセリフに、マークは最低限の主張を返す。

 

(まったく……ここで『敵対行動をとらない』とでも言ってくれたらよかったんだけど)

 

 あくまで『攻撃などを行わない』というのが曲者だ。だが逆に考えれば、マークはそこまでしても『約束』を守る人だという事でもある……という解釈もできるだろう。

 

(だけど、敵対する行為は何としても避けたいわ……)

 

 それは管理局にとって未知の魔法を使う、というだけではない。今までの戦闘において、明らかに加減をしているのだ。残念ながら直接の映像などはないが、魔法だけでなく剣も使えるという話であるし。さらに言えば次元漂流者であるにもかかわらずこの世界の乗り物を使いこなし、7つものジュエルシードが支配する海域で飛行することなく戦闘を行うこともできる存在なのだ。

 

「そうね……あなたの身分・経歴をある程度話してくれるなら考えるわ」

「そうくるか……」

 

 今までの会話で意図的に避けていた話題である。戦場に関わる生活をしていたのは確かだが、それ以上のことを話そうとしないのは、今までの監視の中で確認している。これで話さないようなら、一切触れるべきでないと判断すべきだろう。

 

「一応、軍人に分類されることになるか……近衛騎士から傭兵まで、いろいろやってきたし、戦場に立つものとして『戦士』と名乗ることが多いかな」

「近衛騎士……」

 

 ある意味予想通り、そして予想以上の返事だったといえるだろう。近衛という事は、間違いなくマークは元居た世界でトップクラスの実力を持つであろうこと。そしてその経歴を語ったこと。これは大きな前進と言えるだろう。

 

「戦士だって……まあ戦場にいた時間が長すぎて、知識や技能はそっちに偏っている。あと、専門分野と言っていいのかわからんが、封印・討滅を行うことが多かった……こんなところでいいか?」

「ええ、十分よ」

 

 本音を言えば、まだ聞きたいことは山ほどあったろうが、リンディはここで聞き出すのを終わりにした。人によっては臆病だというかもしれないが、慎重さを欠いてはならない時だと判断したためだ。

 

「この件はここまででしょうかね。それじゃあクロノ、今回の戦いで得た心当たりを」

「いいんですか?」

 

 それはマークに対する警戒だろう。敵というには協力的だが、味方とはさすがに言えない存在だ。そのマークが聞いている中、情報を明かすことに忌避感があるのは当然だろう。

 

「こちらがつかんだ情報をゆがめるようなことはしないでしょう?」

「知ってる事の方が少ないからな。まあ、多少の意見ぐらいはかまわないだろう」

「……わかりました、エイミィ」

 

 わざわざ立場を悪くするようなまねはしないだろうと納得したのか、同僚に声をかけ資料を出させる。

 

「あら」

「そう、僕らと同じ次元世界出身の魔導師プレシア・テスタロッサ」

 

 マークは出てきた映像を食い入るように見つめる。だが、この時点では先程の攻撃に感じられた違和感を見つけることはできなかった。

 

「専門は次元航行エネルギーの開発。偉大な魔導師でありながら、違法研究とその事故により放逐された人物です」

 

 特定を行えたのが、魔力の波動の一致によるものだという事も付け加えられるが、正直マークにはいまいちピンとこなかった。だが、そんなマークにもわかることがあった。

 

「テスタロッサ、ね」

「! そういえばあの時、フェイトちゃんが『母さん』って……」

 

 これはもう確定と言って構わないだろう。

 

「親子……ね」

「まあ、あの状況を見る限り健全な関係だとは思えないがな」

 

 プレシアの放った雷は、フェイトにも直撃していたのだ。それを見て良好な関係を築けている、なんてさすがに考えられるものではない。

 

「マーク君はプレシア女史とは……」

「会ってないな。ジュエルシードを集める理由も聞いてないし」

「それで協力するなんて……もし大事になったらどうするつもりなんだ!」

「クロノ!」

 

 リンディがたしなめるが、マークとしてもそこは軽率だったと思わないでもない。ただ、本人と接触できればどんな事態になろうと、どうにでもできる自信はあった。

 

「大事が起こったら、俺がどうにかするさ。それより、最終的な目標はどうなっているんだ?」

「……現状では、テスタロッサ親子の捕縛、といったところかしら」

「そんな……!」

 

 なのはにとって友達になりたい相手が逮捕されるというのは、やはり考えたくない事だろう。だがフェイト本人も犯罪だという自覚があるので、庇いきるのは難しいのも事実だ。

 

「プレシアとの関係によっては、どうにかならないこともないだろ? 問題は接触方法か……」

「最悪、こちらで回収したジュエルシードを囮にすることになるでしょうが、方法についてはこちらで考えておきます」

 

 さすがにマークの発言に答え、下手な言質を与えることはしなかったリンディだが、それでも何とかしたいと思っているのは確実だった。

 

「後ほど、プレシア女史の詳細なデータが集まり次第、行動に移ることにします。……なのはちゃんは、一度おうちに戻ってご家族や友人を安心させてあげなさい?」

「え? で、でも……」

 

 リンディの言葉に困惑するなのはだったが、相手が消耗した魔力が回復するまで動かないだろうという事に納得して一度帰ることを了承した。

 

「ツキムラさんちに、『捕まっちゃって帰れないよぅ』って伝えておいてくれるか?」

「あ、あはは……つ、伝えておきます」

 

 マークとしては、友人の安否を気にしている少女を和ませたかったのだが、苦笑しか引き出せず終わったことに、人知れず肩を落とした。

 

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