魔法少女リリカルなのは 炎の紋章を持つもの 作:コウチャカ・デン
「こんな形で観戦することになるとは、さすがに想像してなかったな」
「想像できてたら、未来視のレアスキルとして登録することを進めますよ」
「でもこの戦いの結果についてはもう予測できてるんだろ?」
「……まあ、一応な」
「君たち……もう少し緊張感ってものを……」
前回の海上の決戦から2日、管理局はなのは発案のジュエルシードをかけた決闘の案を採用した。結界のほぼ中央になのはが待機し、マーク、ユーノ、アルフ、それにクロノが端の方で見守る形だ。クロノまでいるのは、一応監視の名目となっている。
このような強引ともいえる案を実行するきっかけは、昨日けがをしたアルフを発見したことから始まる。
「アルフを捕捉したって?」
『ああ、なのはの友人宅に保護されているようだ。……話を待ってもらっているから、ブリッジの方にきてくれ』
なのはが実家に帰った後、個室をあてがわれたマークは、監視兼案内役の局員をつけられこそしたがおおむね自由に艦内で過ごしていた。アルフ発見の報を聞いたのも、艦内見学中だったのだから、もはや何でもありなのではないかと疑ってしまう。
(まあ、一応『ファイアー』の魔道書を預けた結果ともいえるがな)
さすがに武器を所持したままでは……という事で預けることになったのだが、本当の目的は複数冊魔道書を持っているのを知っているはずなのに、1冊しか提出を求められなかった時点で推して知るべきだろう。
「って、こっちだったっけ?」
「こういった艦に長くいると、ショートカットの一つや二つ覚えるもんですよ」
「……そういうもんか」
「そういうもんですって」
マークは、もうどう返せばいいのかわからなかった。ただ、ブリッジの面子を待たせる時間が少なくなってよかった、などと考えるだけにとどめることにした。
「で、フェイトはプレシアの虐待を受けていて、我慢の限界を超えたアルフがプレシアに返り討ちにあった……という事か」
『……そういうことだね』
事が事なので、すでに魔法の事情を聴いたというなのはの友人たちにも下がってもらい、アルフが事細かに話した内容を、マークはものの見事に一言でまとめてしまった。さすがのアルフもここまで簡単に言われてしまうと、何か釈然としないものを感じる。
「今後、僕らはプレシア・テスタロッサの捕縛を最優先として動くことになるが……マークさん、なのは、君たちはどうする?」
「……」
『私は……フェイトちゃんを助けたい!お友達になりたいって返事も、まだ聞いてないしね』
マークが沈黙するうちに、なのはが先に答えを出す。そうなると当然、まだ答えを言わないマークに注目が集まる。
「……一つ聞いてもいいか?」
『ああ! あたしに答えられることなら、なんだって……!』
ようやく言葉を発したマークにアルフが飛びつく。だが、マークの質問はこの場で聞く者の予想の外にあるものだった。
「プレシアは『エレシュキガル』の魔道書を持っているのか?」
『えれしゅ……? いや、聞いたことないよ……』
「なんなんだ、それは?」
マークの言葉に、何か不吉な予感を感じつつもクロノが尋ねる。
「……俺の居た世界に存在した禁書だ。プレシアの攻撃から少し気配を感じてな」
「禁書……詳しく聞かせてくれないか?」
マークはクロノの問いかけに少し躊躇を挟むも、言葉を選びながら説明を始める。
「『災いを招く者』が扱った魔道書。人の身に余る知識が込められていて、使い方によっては……かなり危険な思想であっても実現できる」
その真意を理解しているかによって効果が大きく変わることも付け加える。
「その効果は?」
「……ジュエルシードの持つ力が次元干渉エネルギーだから、今回の件には関係ない可能性の方が大きいがな」
マークはそう言って、魔道書の効果についてはお茶を濁した。たかだか数十年の研究なら、たどり着くのは『擬似的な死者蘇生』が精々であり、それだって莫大な『エーギル』と呼ばれる生命エネルギーが必要なのだ。そして、研究を行う前提としてほかの魔道書も大量に必要なことから、現実的でないと判断する。
「……うん、やっぱり関連性が思い浮かばない」
「できれば自己完結だけでなく、ちゃんと説明してほしいんだが……」
「フェイトを助けることについては、諸手を挙げて賛成しよう。プレシアが万一『エレシュキガル』を使用した際には俺が対応するから安心してくれ」
クロノの主張を無視して、マークは話を戻す。後半はクロノに向けたものだろう。話はしないが、対応はするから勘弁してほしい、といったところか。
「はぁ……それじゃあ、フェイト救出の作戦だが」
『一応、考えてることがあるの』
こうして、なのはによって原案が出され、クロノ達によってまとめられた『決闘』が行われることになったのだ。
「それにしても、ずいぶんと物々しい格好ですね……」
「勝手なことだが、決闘の立会人だと思っているからな。そのための正装ってやつだ」
ユーノの言うように、マークの格好はいつもの量販店で揃えたかのような服ではなく、紺を基調とした、鎧姿であった。ただ、全身鎧というには程遠く、防御より見栄えを重視しているようにも見えた。
「軍の切り札っていうのはそういうもんだぞ。目立つことに意味があるんだ」
ユーノの疑問を感じ取ったマークが説明する。敵にも味方にも『自分はここに居る』と主張しなければならない。見栄えを重視した、そのための武具なのだと。
「で、立会人としてのマークの予想はどうなんだい?」
「……来たようだぞ?」
「!!」
それとは別にマークの予想を聞き出そうとするアルフだったが、このタイミングでフェイトがこの場に姿を現した。
(俺が『勝ち目が薄い』とでもいえば、無理やりでも止めるつもりみたいだしな)
フェイトに傷ついてほしくないと考えるアルフならそれぐらいするだろう、とマークは考える。事実、アルフの説得はかなり切羽詰ったものであった。
《だけど……それでも私は、あの人の娘だから!》
だがアルフの説得にも、そう言い切るフェイトの姿に何か不自然なものをマークは感じた。
(ただ暴力をふるう相手に、ここまで尽くすものか?)
もし、あの親子の間にアルフの知らない過去があるのなら、納得もできる。だが、そうにしてはアルフの限界が来るような接し方をするのはおかしい。その違和感が、マークに最悪のケースを思い描かせる。
(人格が変わるってことは、闇を求めた代償の可能性もある。あれは自分自身を対価にして極める魔法だからな……)
マークはさらに警戒を深めつつ、フェイトを、なのはを見守る。そして、2人の決闘が始まった。
「戦闘空間の固定は大丈夫か?」
『うん』
「いや、さっきから何度確認してるんだよ、お前ら……」
マークの言うとおり、作戦が決まった直後に仮構成を行い、日が変わる直前に構成を完了。戦いが始まる直前に、不備がないか3度もチェックを行っているのだ。
「失敗したら、こちらの打つ手はほとんどなくなるんだ。これぐらい当然だろ?」
「プレッシャーはわかるが、気を張り過ぎだ。最後まで持たないぞ?」
そういわれて、クロノは少しムッとしながらも大きく息を吐いた。過剰に力を入れていても、最善の結果にはならないとわかっているのだろう。
「確かに賭けではあるが、成功率はかなり高めなんだから」
『そうだよ~! こっちのフェイトちゃんの追跡準備は順調なんだから、もうちょっと信頼してくれてもいいじゃない!》
「そう言うわけじゃ……実際、頼りにしてるよ」
『な~ら任せなさいって!』
クロノは管制のエイミィにも諭され、おとなしく2人の戦いを見守り始める。だが、その目がやけに真剣であるのを見るに、念話で何かを話しているのだろう。
「やっぱり、ナノハが押され気味だな」
「まだまだ始まったばかりです! 負けませんよ、なのはは!」
「……」
マークが戦場に目を戻した際の感想に、ユーノが反論する。ユーノがなのはを応援するのは当然ともいえるので構わないのだが、やはりアルフは複雑そうに戦場を見つめていた。
「速度・技はフェイトが勝るが、攻撃力・防御力はナノハが上だ。フェイトは当ててこそいるが、決定的なダメージにはなってないし、ナノハは大きいのが当たれば一発逆転もありうる」
わかっていただろうが、改めて言葉にすると一瞬たりとも気の抜けない戦いなのだと実感する。戦力はほぼ互角なのだ。
「機動力を必要とする戦いを続けるのなら、ナノハに勝ち目はないぞ」
「っく!」
マークは思わず助言をしそうになったユーノを、軽くたたいて黙らせる。これが決闘である以上、よっぽどのことがない限り介入を許す気はなかった。
(つーか、解説なんてしなければよかったのか?)
ついユーノが動いたのもマークが解説したからであると考えれば、先ほどの一発はなかなか理不尽だともいえる。だが、マークにとってもこの世界の戦い方を見る絶好のチャンスであるのだ。半端な観察をするわけにもいかない。結果、周りの意見も聞くために、そのまま考察は声に出して行うことにした。
「せっかく足を止めたのに、また高機動戦か……」
「なのはは、状況に応じて戦い方を変えられるほど戦い慣れしてませんから……」
慣れ以前に、まだ戦闘方針を確立できていない。その割には善戦しているので、もはや才能としか言いようがない。そんな中、戦場が上空へと移る。
「……そこまで飛ぶか」
「映像は出せるかい?」
『了解~』
アルフの要請で雲の上まで飛んで行った2人が映し出される。するとそこに現れたのは、至近距離で杖と鎌を交える2人の姿だった。
「フェイトって、近距離戦闘もできたんだな」
マークは、せいぜい一撃離脱の際に使用する程度だと思っていたが、なかなか扱えている様子に驚く。
「あたしとしては、なのはがそれを受けてるのに驚きなんだけど」
「なのはの訓練は、ほとんど彼女相手を想定していたから」
「なるほど」
だからこそ、この経験の差でも戦えていたのだろうと納得する。いうなれば、今のなのはの魔導師としての性能は『フェイトと戦う事』一点に特化しているという事だ。
「俺が相手になったらどうするつもりだったんだ?」
「……全力で防いで、全力の一撃に賭ける……」
長所によるゴリ押し、これでだめなら諦めようという事だろう。
「動きが変わった……」
「え?」
「どっちだい?」
「フェイトの方だ。少し攻撃……いや、行動が全体的に粗くなった」
少し話がずれたすきに、戦場に小さな変化が訪れた。精神状態や疲労によって動きが変わることはよくあることだが、このタイミングはマークの予想よりかなり早い。
(やはり、精神的にかなりまいっているようだな)
特に、アルフが隣にいないのがきているのだろうとマークは思う。そして、その精神状態が影響してか、戦況が変わった。
「逆転した……」
「え? それって……」
「ああ、フェイトが攻めているよう見えるが、ナノハは完全に防いでいる」
フェイトも気付いているのか、攻撃が苛烈になる。しかし同時に、粗さも目立つようになってきているため、結局攻撃が効果を表さない。
「設置型のバインド……それにあれは……!」
「フェイト……」
「決め技か……終わったな」
そして、そんな状況を打破するためか、フェイトが大きく動く。それに対し、それぞれ思うところがあったようだが、それ以上にマークの一言は見過ごせないものがあった。
「まだです! まだ、決まったわけじゃない!」
「いや、決まりだろう。フェイトはまだ削りきれてないから、今決め技を使ってもナノハの防御は貫けないよ」
「そうです! なのはの魔力なら……って、え?」
ユーノが会話のずれに気付き、改めてマークに問いかけようとしたときに、フェイトの一斉射撃が炸裂した。その一撃の攻撃力を補うために用意された数は千を越え、そのすべてがなのはに向かって放たれる。
「スパーク、エンド」
そして放たれる最後の一撃。それは余波だけで周りの建物を削り、なのはへと直撃する。
「……」
それを見て、誰もが口をつぐみ、煙が晴れるのを見守る。ほんの数秒、永遠にも感じられた数秒が過ぎ、煙の中からいまだ戦意の衰えないなのはが現れる。
「あれを、防ぎ切ったのかい……」
「なのは……!」
そして反撃が始まる。大魔法を行使した疲労を押して、突撃を敢行しようとするフェイトをバインドで絡め捕る。
「ディバイン、バスターッ!」
「あああっ!」
そして放たれる一撃を、フェイトは渾身の力を籠め防御魔法を発動する。フェイトの防御はマークの予想より硬く、この一撃をほぼ無傷でしのぎ切る。だが、この時点でなのはは次の行動に移っていた。
「はたから見てると、少しもどかしいな」
だがマークの言葉に答える者はいない。ここに居る者すべてが、なのはの一撃に魅せられていた。
「集束、砲撃……」
そんな中、不思議とフェイトの一言が聞こえる。
「うけてみて! これがわたしの、全力全開!!」
それに対し、全霊を持って紡がれるフェイトの多層防御。
(それでも、ナノハが集めた魔力には及ばない……ったく、『非殺傷設定』について聞いてなければ、なりふり構わず飛び出していたところだ)
マークが2人の決闘を認めたのも、この設定のことを聞いたからだ。10歳に満たない子供が、極限の戦いの中ギリギリを見極められず、最悪のケースが起こることがないからこその決闘ともいえるだろう。
「スターライト、ブレイカーッ!!」
一閃。結界の中を一掃するほどの余波とともに、その一撃が放たれる。マークは、自身の持つ神器に匹敵するその一撃を見て、さすがに戦慄を隠せなかった。
「マーク、行くよ!」
「! ああ、頼む」
なのはの一撃の余波が収まり、決闘の終わりを確認したアルフがマークに声をかける。マークはアルフに声をかけられやっと正気を取り戻し、獣化したアルフにまたがり2人の下へ向かう。だが、行動に出るのが、あまりにも遅すぎた。
《高次魔力確認、魔力波長はプレシア・テスタロッサ!》
「! アルフ!」
「了解!」
エイミィの言葉に加速するが、その距離はあまりにも遠かった。プレシアの一撃は手を差し伸べるなのはを妨げ、フェイトを呑みこむ。
「フェイトちゃん!!」
「クソッ! フェイト!!」
なのはとアルフが飛び込む中、マークは回復魔法の準備を行いつつ、今の攻撃について考える。
(フェイトを切り捨てた? ……いや、今のは『非殺傷設定』だった。口封じならそんな設定邪魔なだけなのに……)
さらに言うのなら、『エレシュキガル』の反応も薄い。精々、その存在を確認できる程度の気配しかないのだ。まるで自分はここに居ると主張するかのように。
(俺を、誘っているのか?)
なのはによって抱えられたフェイトを、『リライブ』の杖によって治療しながら、アースラに転送を依頼する。なのはとフェイトの決闘は、なのはの勝利で幕を閉じたが、だがマークには、むしろここからが始まりにしか思えなかった。