魔法少女リリカルなのは 炎の紋章を持つもの   作:コウチャカ・デン

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第12話 「突入」

「もう突入したのか?」

「ええ、あのような大魔法の使用直後の疲労を見逃す手はないわ」

 

フェイトのことをなのはたちに任せ、一足先にブリッジへと着たマークの質問に、リンディは当然のように答える。クロノはエイミィのところへ行ったのであろうか、この場に姿が見えない。

 

「すぐに転送させましょうか?」

「いや、フェイトのことが気になるから、少し待ってくれ」

 

 それならすぐここに来ないで待っていればよかったでしょうに、などとリンディは思うが、口には出さなかった。そうしているうちに、突入部隊が中枢へたどり着いたらしく、一城の主の風格を持つ女性が正面のモニターに映し出された。

 

「あれが……」

「そう、プレシア・テスタロッサ。どう?」

 

 一目見てマークは理解する。あれは魔道書に食われていない。だが、所持をしていることは確実だった。しかし魔道書自体は画面から確認することはできなかったが……。と、そこへフェイト、なのは、アルフの3人がやってきた。

 

「(手錠は必要ないだろ)」

「(形式上仕方ないのよ)」

 

 そう一言だけ交わしたが、それ以上話す余裕はなかった。突入部隊が杖を構え、口上を述べる。

 

『プレシア・テスタロッサ、時空管理法違反および、管理局観戦への攻撃容疑であなたを逮捕します』

 

 そこまで聞いて、いや、プレシアの後方に回った局員を見て、プレシアは顔色を変えた。そして、マークたちもそこにあるものを見て顔色を変えた。そこにあったのは、何かの溶液に浸された、フェイトそっくりの子供であった。

 

「えっ?」

『これは……!』

『私のアリシアに、近寄らないで!』

 

 まさしく一瞬であった。包囲していた局員も、後方でそれを発見した局員も、抵抗することすら許されず全滅した。

 

『たった11個のジュエルシードではたどり着けるかわからないけど……もういいわ、終わりにする』

 

それは誰に向けられた言葉か……

 

『この子を亡くしてからの時間も、この子の身代わりの人形を娘扱いするのも』

 

 そう、これは……

 

『聞いていて? あなたのことよ、フェイト』

 

 そして、マークの抱いていた疑問の答えでもあった。

 

『せっかくアリシアの記憶をあげたのに、そっくりなのは見た目だけ。役立たずでちっとも使えない、わたしのお人形……』

 

 フェイトが最後までプレシアに付き従ったのは、アリシアの記憶があったから。そして、プレシアがフェイトを虐待したのは、似ているだけで全く違うという事に対する八つ当たり。

 

『最初の事故の時にね、プレシアは実の娘、アリシア・テスタロッサを亡くしているの』

 

 おそらく、調べはついていたのだろう。エイミィは、ゆっくりと語りだす。

 

『安全管理不良で起きた魔動炉の暴走事故……アリシアは、それに巻き込まれて……』

 

 事故の内容についてはわからなかったマークだが、それでも大切な人が亡くなるというのがどういうことなのかはよくわかった。

 

『その後、プレシアが行っていた研究は、使い魔を越えた人造生命の生成……そして、死者蘇生の技術』

「なっ!」

 

 それはまさしく、『エレシュキガル』に記載されている技術だ。

 

『記憶転写型特殊クローン技術、プロジェクト・フェイト』

『そうよ、その通り……でも失った者の代わりにはならなかった。作り物の命は、所詮作り物』

 

 そうして、画面越しにこちらを見て、さらに続ける。

 

『アリシアは、もっと優しく笑ってくれたわ……わがままも言ったけど、私の言うことを、とてもよく聞いてくれた……アリシアは、いつでも私に優しかった』

 

 アリシアを愛しみ、フェイトを罵倒する姿に、マークは理解する。

 

『フェイト、あなたは私の娘じゃない……ただの失敗作、だからあなたはもういらないわ、どこへなりと消えなさい!』

 

 まだプレシアはフェイトを見ていない。たとえ見ていたとしても、その視点は『研究者』のものなのだろう。

 

『いいことを教えてあげるわ、フェイト……あなたを作り出してからずっとね……私はあなたが大嫌いだったのよ』

 

 その一言は、フェイトにとって致命的なものだった。全身から力が抜け、かろうじて握っていた『バルディッシュ』も、その手から滑り落ちる。

 

『ちょっ! 大変、見てください!』

 

 エイミィの言葉に、脇のモニターへ視線をずらす。するとそこには、魔方陣から湧いて出てくる、騎士人形の姿があった。

 

『屋敷内に魔力反応多数……いずれもAクラス!』

「総数60……80……まだ増えます!」

「プレシア・テスタロッサ、何をするつもり!?」

 

 同時に画面が揺れ、鳴動が聞こえ始める。

 

『私たちは、旅立つの……永遠の都『アルハザード』へ!』

 

プレシアと『エレシュキガル』がつながったが、マークにはまだ疑問はある。だが、だからこそもうこんなところにいるわけにはいかない!

 

「出るぞ!」

「転送ポートへ! 設定はこちらが」

 

 マークは、話が分かる責任者に感謝しつつ、ブリッジを出る。

 

(フェイトに一言声をかけるべきだったか?)

 

 そんな余裕はなかったのだが、それでも、慣れない念話を扱い、声をかける。

 

《……先に行く!》

 

 どんな形になるかわからないが、ここで立たなければ一生ついて回る傷になるだろう。マークにとって、フェイトは相方だ。そんなことにはなってほしくない。

 

『取り戻すのよ! すべてを!』

 

 走り出すマークの背に、プレシアの言葉が届く。もちろん言いたいことはあるが、それを言うのは今じゃないのだと、必死に自制しながら……

 

「マークさん!」

「クロノか!」

 

 別の場所で同じことを聞いていたのだろうクロノと合流し、並んで走り続ける。

 

「……忘却の都『アルハザード』」

「プレシアは、永遠の都と言っていたが?」

「おとぎ話だ……はるか昔に滅んだ、禁断の秘術が眠る土地……その秘術で、亡くした命を呼び戻そうとしているんだろう!」

 

 そこには、まぎれもない怒気があった。おそらく、クロノにもなくした大切な人がいるのだろう。

 

「だが真理だ。死んだ人ともう一度……俺だって、今は亡き戦友との語らいを夢想したものだ」

「……」

 

この無言の肯定を、責めることができる者はいないだろう。それは誰もが望むものなのだから。

 

「……それでも、認めるわけにはいかないんだ……!」

「ああ、次元断層だったか? そんなものを起こさせるわけにはいかない! 一言言ってやるついでに、そっちも止めてやるよ!」

 

 その一言にクロノがこけそうになるが、マークは無視する。もちろん、世界の崩壊の危機を放っておく気はないが、心情的にはフェイトのことのついでだ。戦士であることはやめたのだから、これくらいの主張は許されるだろう。

 

「! 君たちは……」

「わたしたちも行くよ!」

「こんなことになって、ただ見ていることなんてできない!」

 

 おそらくユーノの短距離転移を使ったのだろう。ポートにはすでになのはとユーノの姿があった。

 

「……わかった。ただし、無茶だけはするなよ!」

「うん!」

「わかってる!」

 

 マークは何も言わず、ただ転移を促すだけだったが、拒絶の意思は見せない。なのはとユーノは、この戦士に反対されなかったことにひそかに安心する。

 そして転移をした先には、奇妙な穴が開いた廊下が広がっていた。

 

「ユーノは知っているな? この穴には気をつけろ」

「虚数空間……魔法が発動できない空間だ。落ちたら重力の底まで真っ逆さまだよ」

 

 マークは2人の注意に、やはり自身の知る戦場とは違うのだと感じる。飛行魔法の使えないマークにとって、『落ちたら助からない』など自然な事だからだ。

 

「了解!」

「気を付けよう」

 

 そして駆け抜けた先の広間で、数十の騎士人形が待ち受けていた。

 

「なのはは決闘の直後だし、セーブして戦いなさい。ユーノは支援を、俺とクロノで全部やるつもりで行くぞ!」

「一人あたま50以上……って、さすがに無茶だよ!?」

 

 その数を2人でやるというマークになのはは反論する。だが、マークにとって重要なのは数ではない。わざわざ返事をするのもおっくうだと言わんばかりに、なのはに対して『マジックシールド』の杖を使い、守護を行う。

 

「これで、よっぽどのことがない限り大丈夫だろう。それより、あれがなんなのかは知らないが……別に壊してしまっても構わんのだろ?」

「あ、ああ……あの傀儡兵には特にどう対応しなければならない、といった規定はないが……」

 

 その言葉に安心したマークは、相対する騎士人形改め、傀儡兵の形状から最も効果的だと思われる武器を取り出す。その武器とは……

 

「ハ、ハンマー!? まさかそれで戦うつもりなのか!?」

「ああ、重騎士系に特攻だからな。見たところ全身鎧に似てるし、これでいけるだろう」

 

 ただハンマーといっても、その大きさから相当な重量があることが見て取れる。戦場で扱うために作られた戦鎚、『一撃必殺』を思い浮かべるにふさわしい姿だった。

 

「それじゃあ、いくぞ!」

「ま、待て! 障壁だってあるんだ! いくらなんでも……!」

 

 クロノの制止は間に合わず、マークの横薙ぎに振るわれた一撃は、傀儡兵の障壁に直撃し……一瞬の拮抗すら許さず打ち砕き、その後ろにいた本体を鉄くずに変えた。

 

「う、嘘だろ……」

「ふむ、重騎士型っぽいが、これは魔道型だな……そこまで防御力は高くない」

 

 その言葉に、クロノは絶句する。確かに管理世界では質量兵器を禁止しているため、それに対する防御が低いという事もあるだろう。だが、シールド破壊の術式などを一切使わず、純粋な一撃の威力でここまでの結果を示し『意外と脆い』なんて感想が出るなんて異常としか言いようがない。

 

「なんて、馬鹿力……」

「馬鹿とはなんだ、馬鹿とは……まあ、『人間の膂力じゃない』なんて言うのは言われ慣れているがな!」

 

 その言葉尻に合わせてさらに一閃、二閃、と鉄くずを量産していく。その戦いは、同時に複数の敵と相対することなく、必ず1対1になるよう徹底されていた。常に1歩踏み込まねば攻撃の届かないところに身を置き、誘い、迎撃する。包囲を開始すれば、一気に踏み込み、叩き潰す。

 

「……! こっちも負けてられないな!」

 

 そうして見ているうちに、クロノは気付かされた。射線がある。敵陣の中心に殴り込んでなお、クロノの攻撃するスペースがあるのだ。

 

「ここは僕たちが切り開く! 2人は駆動炉の封印を!」

 

 そうして、最後の戦いの幕が開いた。

 

 

「あの子たちが心配だから、ちょっと手伝ってくるね」

 

 ここにとどまりたい気持ち、フェイトの隣に居たいという気持ちはある。だがアルフは、それではいけないのだと自信を叱咤した。

 

「すぐに、帰ってくるからね」

 

 いまは、無理をしてでも進まないといけない時だ。だからこそ、マークも下手な念話で『先に行く』などといったのだ。あのいろんなものが駄々漏れの念話には、それを理解させるだけの思いがあった。

 

(なら、行かないと!)

 

 マークがフェイトの相方を名乗るなら。アルフはフェイトの使い魔なのだ。そう簡単において行かれるわけにはいかない。アルフは戦場へと走った。

 

(わたしは……)

 

 そんな中、フェイトの中にはプレシアの言葉と、今までの記憶がぐるぐる回っていた。そして、そんな状態でも、自然とフェイトは外界の情報を拾っていた。

 

(アルフ……それに、この子)

 

 そこには、アルフが先程まで見ていて、つけたまま言ってしまった庭園内の映像。結局名前を覚えることすらしなかった女の子が写っていた。

 

(ちゃんと……教えてくれたのに)

 

 フェイトは、時には一方的に攻撃してしまった、それでもフェイトに話しかけてきた女の子を思う。

 

(それに……)

 

 マーク。ただ、偶然巻き込まれた、何も聞かず、無理やり手を貸し始めた青年。

 

(わたし……結局何も話さなかったのに)

 

 それでも、フェイトの相方と名乗り。先ほども『先に行く』とわざわざ伝えてくれた。

 

(アルフ……)

 

 いつでも隣にいてくれた彼女も、先に行ってしまった。

 

(わたしは……)

 

 その視界の端に、戦場に立つ自身の半身が写る。

 

「バルディッシュ……わたしの、わたしたちのすべては……まだ始まってもいない?」

 

 バルディッシュは、その言葉に宝石から杖状になることで答える。なのはのスターライトブレイカーをくらい、ボロボロになってなお、主のためなら戦えるとその気概を見せる。その姿は、正しくフェイトの半身であった。

 

「お前も、このまま終わるなんて嫌だよね?」

 

 自然と涙があふれ、フェイトの心に再び火がともる。

 

「うまくできるかわからないけど……一緒に頑張ろう……!」

 

 そして、丁寧に、力強く、バルディッシュに魔力を流し、修復を行う。

 

「わたしたちのすべては……まだ始まってもいない」

 

 確かに、今までの自分はもう砕け散ってしまったのかもしれない。だが、この胸には確かに残っているものもある。

 

「だから、ほんとの自分を始めるために……」

 

(進まなければならない。この先には、自分を待ってくれてる人たちがいる……!)

 

 そして少女は再び歩き出す。新たな始まりを迎えるために……

 

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