魔法少女リリカルなのは 炎の紋章を持つもの   作:コウチャカ・デン

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第13話 「決着」

(……よし、次に変えるか)

 

 なのはたちと別れ、クロノと共にプレシアの下へ向かうマークは、そう内心でつぶやき、武器を『キラーランス』へと持ち替える。

 

「一体いくつ持っているんだ……」

「戦場で困らない程度にな」

 

 あきれるクロノに軽く返しつつも、このランクでは目くじらを立てられないことに安堵する。そして、その槍を繰り出すが、今までほど派手な戦いとはならなかった。

 

「爆散しない……!」

「ハンマーみたいに雑に扱うと、すぐダメになるからな」

 

 鉄塊のごときハンマーとは違い繊細なんだよ、などと言いつつその一撃は急所をえぐり、傀儡兵を停止させる。

 

「つくづく敵に回したくない人だ……!」

「同感だよ執務官! その若さでここまでやるとは思わなかったぞ!」

 

 そう、クロノは正確にマークが作り出した射線を打ち抜いていた。そのことで前衛と後衛がかみ合い、さらに進撃速度を上げることになる。

 

「報告よりも多い!?」

「上から回されてるんだろ、前情報を過信するな!」

 

 結果、より危険度が高いと判断された2人に戦力が集中する。だがそれは、疲労しているはずのなのはの援護にもなるため、もってこいの事態でもあった。

 

「! 横だ、来るぞ!」

「おっと!?」

 

 クロノの警告に、マークは何とか反応する。そこに壁を壊して現れたのは今までにない大型の傀儡兵であった。

 

「まさか自分の城を壊して出てくるとはな!」

「アルハザードへ渡る以上、ここはもう必要ないという判断だろう」

「なるほど、ね!」

 

 話しながらも攻撃を仕掛けるマークだったが、いかんせんサイズが違い過ぎた。急所を攻撃するには跳び上がらなければならず、跳べば飛行のできないマークに、攻撃力を保つ術がない。

 

「質量兵器の使用はここまでみたいだな」

「……なんか悔しい」

 

 マークは言葉通りの顔をするが、無理を通すようなまねはしなかった。槍をしまい、いつもの赤い魔道書を取り出す。だが、それを待ってくれるほど敵は優しくなかった。

 

「うおっ!」

「マークさん!?」

 

 振り下ろされた剣がマークの足場を奪い、魔法が走る。

 

「『エルファイアー』!」

 

 そのすべてを躱し切り反撃をするが、防御魔法を焼くにとどまり、本体には届かなかった。

 

「小型とは性能が段違いだな!」

「その割には余裕じゃないか! 切り札でもあるのか!?」

 

 その言葉に、マークは降り注ぐ攻撃を躱しながらただ笑みを深くするだけだったが、それだけで十分すぎる答えとなった。

 

(持ってる! それも、今までとはけた違いに強力な奴を!)

 

「出し惜しむ気はないが、同時攻撃の方が早い! 一気に決めるぞ!」

 

 その言葉と同時に、マークの立つ地面から魔方陣が現れる。発光する円形ではあるが、ミッド式とは違う紋様であり、回転することなくマークを照らす。

 

「ッ!」

 

 一瞬遅れ、クロノも砲撃準備に移る。ただそのタイミングは絶妙。マークに攻撃を加えようとした動きが、クロノの魔力に反応して一瞬止まる。

 

「ふん、単調すぎる。『エルファイアー』!」

「ブレイズキャノン!」

 

 巨大な傀儡兵の防御はわずか数秒と持たず砕かれ、爆散する。そのあまりのあっけなさに、クロノは愕然とした。

 

(こんなに簡単に? 攻撃の威力・連射性、防御だってかなりのものだったのに?)

 

 そんな非常識なことをしでかした男は、爆発で起こった煙にまかれてせき込んでいた。そして、クロノの視線に気づき、バツの悪そうな顔をする。

 

「悪いな、待たせた」

「……いや、いい。先を急ぐぞ!」

 

 クロノは、そうした感情にふたをして、今はプレシアの捕縛が最優先だと自身に言い聞かせる。そうでもしなければ、いろいろなものが粉砕される、そんな気がしたのだった。

 

 

 そうして、プレシアが現在いるであるだろう地点へと到着する。

 

「この下か!」

「下がっていてくれ、僕が打ち抜く!」

 

 そうして突入する直前、プレシアの決意とも取れる叫びが聞こえてきた。

 

「取り戻すのよ……こんなはずじゃなかった、世界のすべてを!」

「……」

 

 それを聞いてクロノは無言で魔力をため、放つ。あと少し、そこですべての思いをぶちまけるのだと。そして降り立つ。その想いをぶちまけるべき場所へと。

 

「知らないはずがないだろう! どんな魔法を使っても、過去を取り戻すことなんかできやしない!」

「……過去は、過ぎ去ったことだからこそ過去なんだ。例え、時間を、空間を越えようとも、そればかりはどうにもならないことだ」

 

 マークは思い返す。かつて、未来を変えるため、滅びの未来から来た英雄たちを。確かに未来は変わったが、その英雄たちの過去が変わったわけではないのだ。そして、溜めに溜めた想いを、この場でぶちまける。

 

「……まあ、過去云々を除いたとしても、あんたが例え、真なる死者の蘇生にたどり着いたとしても、それは死者の蘇生足り得ないだろうけどな」

「何が……あなたに、何がわかるというの!」

 

 プレシアから見れば、マークのような若造に理解できるはずがないと思うのは、無理のない事だろう。だが、この場に限らず、マークほど身近に『死』を知る者はいないだろう。

 

「すべてを理解できるとは言わない……だが、それでもわかることはある」

「なにを……!」

「あんたは、繰り返すさ。完璧な蘇生が行えても同じことだ」

 

 その断言に、思わずプレシアも口を閉ざす。だが、なぜ相手の言い分を聞く気になってしまったのか、プレシアには後付けの理由を用意することしかできなかった。

 

(どんなものであろうと、それが蘇生に関するものであるなら聞いて損はないわ)

 

「いいわ、言ってみなさい……」

「ふん、あんたは気付いたのか? 一目見て、フェイトとアリシアが違う存在だという事に」

「……」

 

 プレシアは、すぐに答えられなかった。後でいえば、いくらでも理由をつけることはできる。『蘇生の成功に浮かれていた』『蘇生が失敗だなんて思いたくなかった』だが、目の前の青年に突き付けられた事実は、そんな程度のことで返せるものではなかった。

 

「まあ、クローン云々は俺にはわからなかったが……元をただせば同じものなんだろ? ならそれも当然だろう。だが、問題はそこじゃない。ある程度時間がたってから、フェイトとアリシアを別の存在だと認識したことだ」

 

 その言葉に、プレシアのどこか別のところが反応する。だが、それを理解する前に、さらにマークの言葉が紡がれる。

 

「最初は些細な事だったのだろう? だが、見過ごせなくなった。完全な蘇生を行っても同じことだ。生きている人は変化を続ける。そして生じた些細な変化が、あんたの記憶とかみ合わなくなった時、『これはアリシアとは違う』そう結論付けることになる」

「そんなことあるはずないわ!」

「本当にそんなはずがないなら、こんな若造の言葉、無視してしまえばよかったじゃないか……馬鹿な事を言うガキだと、そう嘲笑っていればよかったんだ」

 

 思わず反発するプレシアだったが、マークの確信を秘めた言葉に、反発してしまったことに愕然とする。だが、ここで折れるわけにはいかない。そんな信念すら失った義務感を感じていた。そして、そこに今、プレシアが一番合いたくなかった少女が現れる。

 

「何を……しにきたの?」

 

 その言葉には、驚愕も含まれていたことに誰が気付いただろうか。今プレシアの前に立つ、あれほどのことを言われて、それでも憎しみを感じさせない少女はいったい何なのか。

 

「……あなたに、言いたいことがあってきました」

 

 その目に宿るのは決意だ。ただ憎まれごとを言いに来た者の瞳ではない。

 

「わたしは、ただの失敗作で、偽物なのかもしれません……」

 

 その言葉に、プレシアのどこかが傷む。

 

「アリシアになれなくて、期待に応えられなくて。いなくなれって言うなら、遠くに行きます……」

 

痛むのは、心か……彼女が言っている言葉は、プレシアの言った言葉であったはずなのに……

 

「だけど、生み出してもらってから今までずっと……今もきっと、母さんに笑ってほしい、幸せになってほしいって気持ちだけは……本物です」

 

 何処からか、小さな笑みがこぼれる。そして、つい先ほど、胸のどこかに引っかかったものがなんだったのかを静かに悟る。

 

「わたしの、フェイト・テスタロッサの……本当の気持ちです」

 

 この、目の前の少女はいったい誰なのか。プレシア自身が言ったではないか。

 

(アリシアのクローン……言い換えれば、そう……ただ遺伝子上だけのことかもしれないけど、アリシアの双子の妹……私の……)

 

「ふ、くだらないわ……」

 

 だが、だからこそ、今気づいたことにふたをする。目の前の少女は、自分のそばにいるべきではないと思うから。ただ、無言で、今まで干渉を抑えていた11個のジュエルシードに更に魔力を流し込む。

 

(今までのように、制御できるギリギリではないわ……これですべてが終わる)

 

 その流し込んだ魔力に合わせ、再び城が鳴動を始め……すぐに鳴りやんだ。

 

「何……が?」

「ふん、この程度なんてことないな……まあ、意志の定まらない暴走なんてこんなもんか」

 

 そこには、白い輝く石を掲げたマークの姿があった。隣にいるクロノすら驚愕するその現象を起こしたのは、その白い石に間違いないだろう。

 

「馬鹿な……半数以上のジュエルシードの暴走を止めた……?」

「だから、馬鹿って言うな……いくら強大な力だって、指向性がなければそう難しい事じゃないぞ?」

 

 そうして、ジュエルシードはすべてその白い石に吸い込まれ消えた。その石こそが、かつてある大陸で、魔王の魂を封じていた『聖石』と呼ばれるものであることなど、知る者はいないし、知る必要もない。

 

(まあ、これはあくまで、かつて砕けたものをより集めて作った劣化品なんだがな)

 

 それよりマークにとって重要なのはフェイトの願いだ。『幸せになってほしい』それはかつての友が、マークに願ったことに相違ない。ならばプレシアは、マークと同じであるといえるだろう。

 

「とにかく、こんなことで死んでもらっては困る。フェイトの願いは、あんたが幸せになることなんだから」

「……死ぬ気なんてないわ。私は過去を取り戻しに行くだけなのだから」

「存在すら確認できない場所へ行こうとするなんて、自殺と同じだ」

「いいえ、アルハザードは存在する! 私はその証拠を手にしたのだから!」

 

 その手には間違いなく『エレシュキガル』が握られていた。

 

「この書には、死者蘇生の方法が記載されていたわ! なら、この書を記した人物の居た世界こそ……」

「一体どうやって解読したのかは知らないが……残念だが、それは未完成だ」

 

 マークの言葉に、今度こそプレシアは放心した。

 

「な、何を……」

「その魔道書の名は『エレシュキガル』……著者名はなく、その内容は、エーギルの生成・人造生命体の創造・死者蘇生が主な内容だ」

 

 プレシアは、まだ誰にも語ったことのない魔道書の内容を言い当てられ、マークの言葉に信憑性が増していくのを、ただ聞いていることしかできなかった。

 

「死者の蘇生に使われるのは、『大量のエーギル』と『蘇生させる存在の一部』のみ。蘇生させる存在に莫大な量のエーギルを注ぎ、足りない部分を作り出す術式を使用していたはずだ」

「な……なぜ、それを?」

「あんたがそれを手に入れた経緯は知らないが、それは俺が封印していたものだ。……それを記したやつのことも知っている」

 

 だから、今現在俺以上にその書について知る存在はないのだ、と告げる。

 

「だが、その方法では肝心の『魂』の再生には至らなかった。そのため、人の形をしながら中心に空いた『空洞』を埋めるために、あたりから無尽蔵に魔力を集める存在が出来上がる……それが『エレシュキガル』に記された死者蘇生の正体だ」

 

 その言葉に、プレシアの体から完全に力が抜ける。しかし、本題はここからだ。

 

「どちらにしろ、逃げ道のなくなったあんたには、逮捕されるしかないわけだが……俺としては家族をやり直してほしいんだが?」

「なぜ? ……なぜあなたがそんなことを言うの」

「……こんなでも、フェイトの相方を名乗ったからな。相方の望みを叶えようとするのは当然だろ?」

 

 プレシアは、一瞬だけ呆気にとられ、苦笑する。

 

「馬鹿ね」

「馬鹿言うな」

 

 マークはそんなことを言うが、まんざらでもない顔をしていた。

 

「ええ、いいわ乗ってあげる。ただし、生半可な苦労じゃないわよ?」

 

 プレシアは、自分の生き残ることの意味を正確に理解していたが、それでもマークの提案を呑んだ。マークの認識が甘いことを感じたが、この青年が居れば、フェイトは大丈夫だと思ったためだ。

 

(なら、わずかな時間でも、この子のために……)

 

 そこへ、駆動炉の封印を終わらせたなのはが静かにやってきた。プレシアがそれを軽く視線を動かし確認するが、もう抵抗する必要もないため、特に行動を起こすことはなかった。

 なのはもアースラ経由でこちらのことを確認していたのだろう、特に何をするでもなく、フェイトの少し後ろに降り立つ。そして、事件の終わりを感じ始めていた空気を、マークは切り裂いた。

 

「ふむ、役者もそろったしそろそろ出てきてくれないか? あれほどの時間が過ぎたんだ、もう発生しているのだろ?」

 

 そして『ソレ』は現れた。暗い闇を凝縮した、影の様な男の形をした何かが。

 

「久しいな……などと言って理解できるか?」

『……今回も貴様は、私の前に立ちはだかるのだな』

 

 その存在の登場と同時に、この場にいたものが、唯一『安全』を感じた場所に一斉に移動する。すなわちマークの後ろにだ。

 

「何者だ……」

「気配は全く感じなかったのに……」

 

 警戒を深めるクロノ達であったが、その男は一切興味を示さずマークに話しかける。

 

『貴様とて、望むものは同じだろうに……』

「まあ、な。だが……いや、なるほど、理解した。ならもう道は一つしかあるまい」

 

 そのまま話を続けるかに思われた2人の気配が一変する。マークの手に赤い魔道書が、男の手にいつの間に取ったのか『エレシュキガル』が握られる。

 

「いくぞ! 今再び、この魔法に焼かれて消えろ! 業火の理『フォルブレイズ』!」

『貴様こそ! すべてを圧する真の力を知れ! 『エレシュキガル』!』

 

 マークの扱う神将器『フォルブレイズ』かつてたった8人で竜と人の戦いの戦局を変えた、大賢者の扱った至高の魔道書。

 影のような男の扱う『エレシュキガル』過去のすべてを代償に力を求めた男の記した、究極の魔道書。

 その2つの力の衝突は、マークたちの居た場所の、実に半分をきれいに消し飛ばした。

 

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