魔法少女リリカルなのは 炎の紋章を持つもの 作:コウチャカ・デン
「……」
リンディが出て行ってからも、マークは動こうとはしなかった。フェイト達のことも気になるが、どうにも動く気がしない。
「……いつまでもこうしているわけにはいかないんだけどな」
それでも、体は動いてくれなかった。それどころか、少し考えれば、アリシアを蘇生したこと自体間違いだったかもしれない、などという思考にのまれそうになる。
(だからこそ、あの場で蘇生を強行したわけだが……)
マークにとって、『オームを持っている』がどれほどの意味を持っていたのか、何度もその想いが巡り続ける。
(この思いがどうにかなってしまう前に、どうにかしないとな……)
このままではいけないと、理屈はわかるがどうしても体が動かない。こんなことを何度か繰り返したころに、再び来訪者が現れた。
「マーク……その、寝込んでるって聞いたから」
「……寝込んでいるっていうか……その通りだな。起き上がれないんだ」
部屋の前にクロノがいたが、部屋に入ってくることなく扉を閉める。フェイト一人では艦内を歩けないだろうから、彼が許可を出したのだろう。
「大丈夫? ……って変だよね、大丈夫じゃないから起き上がれないのに」
「……そうだな、俺もここまでダメになるとは思わなかった」
「ううん、ダメじゃないよ。マークのおかげで、私はまた母さんと話をすることができたし、アリシアとも会うことができたんだから」
そういいながら笑うフェイトを見たら、ほんの少しだけ、救われた気がした。少なくとも間違いじゃなかったと思うことができた。
「まだ、ちゃんとお礼を言ってなかったから……その、ありがとう」
「……どういたしまして」
そのやり取りの後、何がおかしかったのか2人して少し笑う。ゆっくり話すつもりなのか、フェイトは備え付けの椅子に座り、どこか懐かしげな顔で話し始めた。
「なんだか、変な感じだね。正直に言ってね……マークを最初に見つけたとき『厄介ごとが増えた』程度にしか思ってなかったのに」
「俺は逆に何も感じてなかったんだけどな……完全に流されるままだった」
2人で、今日にいたるまでの思いを語りだす。まだひと月もたっていないのに、はるか昔の出来事にも思える。
「その割には、かなり強引に手伝うって言ってきたような気がするけど?」
「惰性だったと思うな。今まで新天地に行ったときには、一番最初にあった人と行動してたから……どこかでそれの続きを求めたんだと思う」
「そっか、あれはマークが今まで積み重ねてきたものなんだ……」
マークは惰性と表現したが、フェイトはそれを『マークの歴史』だと解釈した。それがなんとも気恥ずかしく、マークは話を進めていく。
「割とすぐにこの世界での初陣があって……帰るのが遅くなって結構心配させちゃったな」
「出会ってほとんど時間がたってなかったのに、ね。ふふ、今思うと拾ったばかりの子犬が帰ってこないのを心配していたような感じだった気がする」
「わ~まさかのペット宣言……俺、飼われてる?」
「どちらかと言えば、私たちの方が餌付けされちゃったけどね」
実際、そこまでの回数料理したわけではない。日中探索しながら手軽に食べられるものを買ったことの方が多いし、朝は市販のパンを食べて済ますことも多かった。
「そして管理局が介入してきて……」
「別々に行動することになっちゃったね……もう一緒に戦う事なんて、無いと思った」
「だから自分たちの情報を渡して、管理局に保護してもらえとか言ったのか」
結局マークは情報を渡すことなく、第三勢力の真似事のようなことをすることになった。
「でも結局、海での戦いでは私たちの手伝いをしてくれたし……」
「結構足手まといになったこと、今でも気にしてるんだ……あんまり触れないでくれよ?」
「それでも、ちゃんと1個はあの子の来る前に回収できたよ?」
「1個はな……そのあと水上オートバイも砕かれて……あ~、そのことも謝らないと」
思い返しているうちに、借り物を壊してしまったことに思い至ったマークは、忍に預けた宝玉でどうにかならないかと考える。だが、この世界の相場を知らない以上、そんな心配は徒労以外の何物でもなかった。
「まあ、いい……それからは完全に独自行動とかできなくなったからな」
「うん……さすがにあの後の勝負の時に、アルフと一緒にいたのには驚いたけど……」
「そういえば、そのことは……?」
「もう話したよ。最終的に、みんながそれぞれ動いたから、こんな形で落ち着いたんだし……なんて言えばいいのかよくわからなかったけど、それでもちゃんと話した」
アルフと話をしているのなら、プレシアたちとも話を済ませているのだろう。特に暗い雰囲気は感じないので、問題なく話し合いが済んだのだとマークは予想した。
「……そして、わたしは自分の生まれを知った」
突入の前のやり取りのことだ。プレシアと和解したのなら、そこまで忌避する話題ではないのだろうが、それでもフェイトからはある種の決意が見て取れた。
「人造魔導師……クローン……わたし自身は、わたしは『フェイト・テスタロッサ』だって自信を持って言える。でも、ほかの人がどう思うのかまではわからないから……」
「……」
マークは、ここにきてようやく体に力を込める。まだ心は痛むし、魂が軋む。それでも、この話は横になったまま聞いていい話じゃないし、答えていいものではない。ゆっくりと体を起こして、フェイトの正面に座りなおし、続きを促す。
「マークは……造られた存在を、どう思う? まだ、わたしのことを『相方』だって言ってくれる? ……『わたしはマークの相方だ』って名乗っても許してくれる?」
マークは言いたいことが全部出てくるのを待ち、ゆっくりとその内容を吟味する。この時間は、フェイトにとってとても長く感じられるだろうが、それでも、勢いや同情で答えたなんて誤解を寸分も与えたくなかったからだ。
「……正直に言うとな、人造魔導師とかクローンとか言われても、よくわからないんだ」
そういわれて、フェイトはマークがそもそも『次元漂流者』であったことを思い出す。
「俺が知っている人造生命体は『モルフ』だけだが、フェイトはそれとは違うからな。だから、質問の内容を正確に理解できているとは言い難いが……それでもこれだけは言える。フェイトはフェイトだ」
その返事は、フェイトの出した答えと同じだ。
「たとえフェイトの正体が女神だろうと魔王だろうと、俺はフェイトの相方だと名乗り続けるよ。だから、フェイトも俺の相方だって名乗ってくれるとうれしいよ」
「マーク……ありがとう」
そうでないとかなり情けない片思いになってしまうからな、などと付け足し笑う。
「ああ、そうだな……」
「?」
マークは、ここにきて自分の行動を理解した。
(なんだかんだで、自暴自棄になっていたのかもな)
一番顕著だったのは、やはり『オーム』の使用だろう。どんな理由であろうと、自身を支える存在を使い切ってしまうというのは、やはり異常な事なのだ。だが、もうこんなことはないだろう。マークはこの地で再び自分以外の大切なものを、『相方』すなわち『仲間』を手にしたのだから。
「いやな、フェイトの出生の秘密を知ったんだから、俺も少し話しとくべきかなって」
「マークの秘密……?」
それは信頼を表すものだ。ただし、表面的なものはもうほかに話した人がいるので、その内容に触れることになる。
「えと……いいの?」
『自分に話していいのか』ではなく『ここで話していいのか』という疑問。だが、マークは、世界を股にかける組織がその気になって調べれば割とすぐ調べがつくのではと思っていたので、マーク自身がフェイトに伝えるという事を優先した。
「ああ……俺は実は人間じゃなくてだな、マムクートという種族なんだ」
「マムクート?」
フェイトにとってもやはり聞き覚えのない種族だったようで、軽く首をかしげる。それに対して、マークは言葉を探し、フェイトに伝える。
「別の言葉では……多少異訳となるけど『竜人族』なんて呼ばれ方もしたな。まあ、俺はあくまでハーフなんだが……」
「……竜、人?」
フェイトはまじまじとマークを見るが、やはりどこにも『竜』の部分を見つけられなかった。ちなみに、フェイトが『竜人』と聞いて思い浮かべたイメージは『リザードマン』である。
「燃費悪いから、普段は完全に仕舞い込んでるよ。その分強力だから、はっきり言って使いどころがないけどな」
「……」
フェイトは『フォルブレイズ』を見ている。それを使用しているにもかかわらず『強力過ぎて使えない』とは、いったいどれほどの力なのだろうかと、もはや言葉もなかった。
だがマークから言わせてみれば、マムクートは種の生存競争に敗れた存在だ。本来完全な竜であった存在が、様々な理由により人の姿を取らなければならなくなったものが『マムクート』なのだ。
「まあ、俺らはもう滅びの中にいる。俺が知る限り、純血種は両手の指で足りる程度の数しかいない」
その竜たちも、今は生きていないだろうが、それを伝えることはなかった。
「どうした、怖くなったか?」
だが、マークが自身のことをどう思っていようが、個体としてみれば人とは比べられないほど強力な存在であることには変わらない。答はわかっているが、いや、わかっているからこそ聞きたかった。
「ううん……マークがどんな力を持っていたって、無暗にそれを振るわない人だって知ってるから。だから怖くなんかないよ」
「それはよかった……だが、これはやはり『相方』の話の前にやっておくべきだったな。こうやって何度も聞くのは、なんというか……美しくないな」
あくまで話の終わらせ方の問題だがな、と付け足す。確かに、すでに結論の出た問題を蒸し返しているようにも聞こえるかもしれない。それでも、マークの秘密が聞けて良かったと、フェイトは笑顔で答えた。
「あ~……これ、実は聞いてました~なんて言いづらいね~」
「……言うな、エイミィ」
別に特別聞きたかったわけではないが、犯罪者である2人を何の監視もなく放っておくわけにもいかないのでモニターを通してみる必要があったのだ。
「だが、何も言わないわけにもいくまい……彼はそれだけの価値を持っているのだから」
「……なんか言い方が悪役っぽいよ?」
「仕方無いだろ? 『死者蘇生』はそれだけ重いってことなんだから……」
下手をしたら、管理局のあり方すら変えかねない技術だ。マークが、アースラとの連絡がつかないことを『好都合』といった意味が、今ならわかる。
「僕たちの持っていたデバイスにも最低限の情報は残っているけど、再現するには圧倒的に足りない。まともな研究をしようと思ったら、最低でも10倍の情報が必要だろう」
「アースラで解析してたら、それぐらいは解析できたんだろうけど……」
それでも数百年単位で研究しなければならないだろうと思う。否、その程度では足りないかもしれないぐらいだ。
「不毛な研究になるだろうな……まあ、それだけ魅力的な魔法であるのも事実だがな」
「そんな未来のことより、今は整理しないといけない資料が多すぎてつらいよ……危険な会話もしてないみたいだし、仕事に戻ってもいいよね?」
「……まあ、この調子だったら大丈夫だろう」
一番話したいことはもう終わったためか、今後について軽く話している2人を見て判断する。主にフェイトがプレシアたちとどんなことをしたいかというのを話しているのだ。
エイミィもそれを確認して資料の整理に移る。クロノも、自分がまとめなければならないことについて思考を向ける。
『現状把握できている対象人物の危険度および思想背景について』
要は、マークについてわかることは手あたりしだい報告しろという事だ。敵対する可能性はあるか、したとして制圧は可能か、所持戦力は、基本理念、思想、過去、現在、人間関係……そのすべてを調べなければならない。それも早急にだ。
「仕方がない……やるか」
とりあえずわかっていることをすべて記し、秘匿すべきことを艦長と話し合わなければと思うクロノであった。
『マークに対する考察 製作 クロノ・ハラオウン』
個体名 マーク (名字は不明、ナーガ一族と外部で名乗るのを確認)
年齢 外見年齢は20歳弱 (実年齢は不明、本人も正確に数えていないとのこと)
種族 マムクート (詳細不明、竜人族ともいうことを確認)
性別 男
出身世界 仮称 第1観測外世界テリウス
所持スキル 魔力変換資質・炎
空間系魔法 (複数の武装の出し入れからの予測)
使用武装 『ファイアー』 (魔道書、本人の協力のもと簡易調査を実施、別紙参照)
『エルファイアー』 (魔道書、上記の上位互換と推測)
『ギガファイアー』 (魔道書、全損を確認)
『フォルブレイズ』 (魔道書、現在使用を確認された最上位魔法)
『???』 (魔道書、存在を確認したのみで未使用)
『剣』 (銀製、質量兵器、現在管理局にて預かり)
『封印の剣』 (詳細不明、協力者の証言のもと所持を確認)
『ハンマー』 (鋼鉄製、質量兵器)
『槍』 (鉄製、質量兵器)
『杖』 (木製、治療系魔法を使用の際展開)
『オーム』 (杖、本人により管理局へ提出される、別紙参照)
『ジュエルオーブ』 (宝玉、封印系ロストロギアと認定、現在管理局にて預かり)
『鎧』 (材質解析不可、ロストロギアクラスと予測)
本人に対する考察
観測外世界の出身という事もあり、『非殺傷設定』等の使用は確認できず。本人の供述により、過去、出身世界の軍に所属を確認。膂力の突出以外はバランスのとれたスペックで、出身世界では高位の使い手であったと証言している。また、交渉事にも慣れている様子であるため、将校クラスの地位にあったと予測する。
同件の容疑者『フェイト・テスタロッサ』のパートナーであると自称している。出会ってひと月もないことから、情が深いことが予測される。
上記のことから、誠実に接していれば敵対する可能性は少なく、有意義な情報・技術の提供も見込まれる。
以上をもって、マークの報告のまとめとする。