魔法少女リリカルなのは 炎の紋章を持つもの 作:コウチャカ・デン
「とりあえず元気になったようで何よりだわ」
「そうね、あのままだったらさすがに後味が悪すぎるわ」
「心配させて悪かったな……何とか一応立ち直ったから、安心してくれ」
フェイトとの話の後何とか立ち直ったマークは、今後のことを話し合うためにリンディとプレシアのもとに訪れていた。だが、その前に話をしなければならない子がいた。
「おにいさんが、ねてたわたしをおこしてくれた人なの?」
「そうだよ……って言っても、最後のおいしいとこだけ持って行ったようなものだよ」
一番頑張っていたのはプレシアだ、とマークが付け足すのを、リンディが苦い顔で見ていた。ちなみに、アリシアにはさすがに死者蘇生のことは言っていない。いずれ知ることではあるが、今はまだ早いという判断だ。
「うん! でも、おこしてくれたのはおにいさんだから、ありがとうね」
「どういたしまして」
直前にフェイトと話をしていてよかったと思う。それ以前の精神状態なら、こんな当たり前の対応すらできなかったことはまず間違いない。
「ああ、元気そうで安心したよ」
「検査でも問題は全く出てこなかったわ……まったく、規格外の魔法ね」
そんなあきれる様なリンディの声に、マークは少し影を感じた。プレシアも気付いたようだが、どこか自嘲のようなものも含まれていた。
「……何かあったのか?」
「……ここでは……」
「かまわないわ、すぐに……そう、すぐにわかることよ」
ためらうリンディに、プレシアはこともなげに言う。これだけで、プレシアについて何か良くないことだとわかる。
「……プレシア女史の病状ですが、治療に専念したとして、3か月持つかどうかという状態で……現在管理局の把握する技術では手の施しようがありません」
リンディの言葉に、その場が凍る。唯一変わらないのは、プレシアだけだ。自分の体のことだ、余命いくばくもないこともおそらくわかっていたのだろう。
「う、うそでしょ……お母さん」
「……」
2人の娘の様子に、プレシアはうなずく。そのことに顔を青くするが、フェイトがある事実を思い出し、すがるように言う。
「マーク……マークの魔法なら何とかならないの?! あんな魔法も使えるんだから、病気ぐらい……!」
だが、マークはその言葉にうなずくことができなかった。なぜなら、マークの魔法の本来の用途はたった一つなのだから。
「……俺の使う魔法は、すべて戦場の魔法だ。回復魔法も、怪我の治癒と体力の回復に特化している……病気には、手も足も出ない」
「そんな……」
「それ以上は駄目よ、フェイト」
そこでプレシアが止めに入る。
「本来なら……彼が居なければ私はここに居なかったのだから、彼を責めるのはお門違いよ」
「……ごめんなさい」
「いや……気持ちはわかるから」
プレシアからしてみれば、マークが止めなければプレシアは間違いなく虚数空間に落ちていたのだ。それに比べれば、いくら短くても一緒に過ごす時間があるだけ奇跡のようなものだ。
「それと……私は治療に専念するつもりはないわ」
「え……?」
「母さん!」
プレシアの宣言に、やはり周りは驚愕する。それは、ただでさえ短い時間をさらに少なくする行為なのだ。だが、それを理解するものもいた。
「寝て過ごすような時間はないってことか?」
「……確かに、治療を優先すればやれることは大きく制限されるでしょうね」
ただでさえジュエルシードの件で時間を取られるのだ。マークの言うとおり、寝て過ごすなんて無駄な時間は1秒だってない。リンディの言うように、体のことを気にしてやるべきことをやらないなんてありえない。
「……裁判関係は、できるだけこちらで時間の短縮を試みます。マーク君も協力してくださいね?」
「それはかまわないが……いいのか? そんな肩入れするような事して」
「確かに、管理局員としてはあまりほめられた行為ではないでしょうが……そこまで非情にはなれませんから」
リンディは2人の子供を見て言う。確かにこの2人から、さらに時間を奪おうとは思えない。
「……いっそ俺を主犯にして事件を公表するか?」
「それは……確かにプレシア女史の裁判時間は大幅に少なくなるでしょうが……」
「あなたにこれ以上……」
「いや、その前にプレシアの行為の何が問題なのか教えてくれ。管理局の法律はわからん」
「……わかりました。時間が惜しいので本局に移動しながら説明しましょう」
マークの極端な提案に言葉を詰まらせるリンディだったが、幸いにもマークからその提案は流された。そこで話が終わろうとした時、フェイトがある要望を述べた。
「あ、あの! 本局に行くんでしたら、その前にあの子と会えませんか?」
「……ああ、俺もシノブ達に会っとかないといけないな。少しだけ時間をくれ」
「ええ、どうせ本局への移動は申請を行ってからでなければできませんから……すぐに用意するわ」
こうしてこの世界での、最後の時が近づいてきた。
「まあ、そんな感じでな。急な訪問になったことは謝る」
「……はぁ、まあいいわ。なのはちゃんから捕まったって聞いてたけど……それにしては自由にやっているのね」
「まあな」
早朝と呼べる時間にもかかわらず、連絡すらせずにやってきたマークだったが、月村邸についた時には若き当主が準備万端で待ち構えていた。なのは経由で連絡がいっていたのかもしれない。マークの扱いについては、一応監視こそはあるが、それでもこの月村邸に一人で来れるあたり、マークがどんな扱いを受けているか想像できる。
「といっても、そこまで言っておくこととかないんだが……せいぜい水上オートバイ壊してごめん、ってことぐらいか?」
「……ああ、別にかまわないわ。十分以上に元は取れてるから」
「どういうことだ?」
マークが首をかしげるが、それに対して忍は自慢げに胸を張る。
「ふっふっふ、あなたから預かってた宝玉の一部がやっと売却できたのよ」
「一部?」
「そうよ! あの後鑑定したらあれルビーだっていうじゃない! あんなサイズだと買える人がいない額になっちゃうから、何個かに分けて売ることにしたの!」
それでも世界最大クラスの宝石として売れたんだけど、と付け足す。
「いろいろ伏せないといけない部分もあったし、何よりあなたが無一文だったからかなり安めに売りに出しちゃったけど……それでもなんと20億よ!」
「……そっか」
「なんでそんなに反応が薄いのよ!」
「いや……その数字にどれだけの価値があるのかよくわからないし」
テンションの上がってた忍が撃沈する。同じ宝石に価値を見出していることから失念していたが、世界の壁というのはここまで厚かったのかと……
「まあ、その金は適当に管理していてくれ。5年たっても俺が戻ってこなかったら、適当に処分してしまって構わないから」
「あ~そっか、別の世界に行くんだものね……カットしちゃってあるけど、宝石も返しましょうか?」
「別にいいや。向こうで雑に扱われることはないだろうし、何より似たようなものがまだいくつかあるから」
それに、回収できるものは回収して置くなんてすると、戻る気が無いように見えそうだし、などと続ける。
「そういえばさ……」
「マークさん!」
そこへ、若き当主の妹君がやってきた。あわてて準備して来ただろうに、それを感じさせない万全の格好に、やはり月村は上流階級なのだと認識を新たにする。
「別の世界に行っちゃうって……」
「ああ、本当だよ」
「そんな……まだ……」
あまりにも早い別れに動揺する少女に、どこかほほえましい気持ちになるも、予定を変更するわけにもいかないので軽く返す。
「永久の別れというわけじゃないんだ、また会えるさ」
「……約束、ですよ?」
「ああ、構わんよ」
マークには何がここまで少女を必死にさせるのかわからなかったが、それでもちゃんと約束を交わした。
「ふ~ん……まぁ、それもいいかな?」
それを横で見ていた忍には、確信こそなかったが妹の考えていることがわかった気がした。
(初めて自分たち以外の人から外れた存在にあって、憧れちゃったかな? ほとんど話もできなかったから、それでむしろ想像力が増幅されて……典型的なのかな?)
幸か不幸か、マークはこれから世界を渡ることになる。頭が冷えるならそれでよし、思い続けるのなら、それはそれで構わない。
「じゃあ、そろそろ時間だから」
「うん……また……」
「そう……できれば聞きたいことがあったんだけど?」
「却下だ」
そうしてマークは走り去った。魔法を使わなかったので、どこか合流場所でもきめてあるのかもしれない。
「あ~あ、『マムクート』について、聞き損ねちゃった」
だが、次の機会があると思えば、そう苦にはならなかった。マークは5年以内と言っていたが、かなり余裕を持たせた数字だろうから……遅くても2年はかからないだろう。
「……また会う時が楽しみね」
「うん!」
こうして、一つの出会いと別れが、いったん幕を下ろすこととなった。
「あんたんとこの子はさ……なのはは、ほんとにいい子だねぇ。フェイトが、あんなに笑ってるよ」
マークが公園に戻った時には、2人の少女もしっかり話ができたようだった。アルフがその様子に感動して涙を流している。
「この様子だと、もう話は終わっちゃったようだな」
「マークさんか……思いのほか早かったな」
「ちょっと挨拶に行っただけだしな。フェイト達のこともあるし、裁判とか終わってもしばらくこっちで生活したほうがいいんだろ?」
これはマークの独断だが、あながち間違えとは言えないだろう。話の解釈の仕方によっては、フェイトも死者蘇生の魔法を手伝ったと言えなくもないのだし、アリシアは唯一の成功例だといえる。情報を完全に隠匿できない以上、よからぬことを考える奴がいないとは限らないのだ。
「なにより、せっかくできた友達だ。たまにしか会えないなんて寂しいだろ?」
「……見事なまでの本音と建前だな。まぁ、その主張なら通せるだろうが」
「……必要な話し合いなのはわかるけどさ、もう少し時と場所を選んでもらえないかい?」
「善処しよう」
せっかくの感動的な場面の横でこうも現実的な話をされては、何ともやるせなく感じる。
「まあそれはそうと、そろそろ時間だ。いくぞ」
「了解」
「わかったよ……」
そうして、フェイトとなのはのもとに近づく。それに気づいた2人は最後に自分の髪留めを外し交換する。
「そこまで感傷的になることはないって。またすぐ会える」
「マークさん……」
「そんな安請け合いを……まあ、確かに時間をかける気はない」
「クロノ君も……ありがとう」
そして、クロノがアースラに連絡を取るすきに、なのはがマークに耳打ちをしてきた。
「(まだ、理由は見つかりませんか?)」
それはなのはとマークが交わした最初の言葉だったか。
「(そうだな……きっとまだ見つかってないんだろうな)」
今回得るものはあったと思うが、かといって具体的にどうすべきかはまだわからない。そんなマークに、なのははアドバイスをする。
「(きっと、その答えはすぐそばにありますよ)」
「(……そうだな、俺が気付かないだけかもしれないな)」
なのはの言いたいことはわかる。だが、マークはそれを肯定することも、否定することもなくただ聞き入れるだけにとどめた。そして、それぞれ別れの挨拶を述べるだけで、実にあっけなく転移が行われた。
「……あれでよかったのか?」
「うん、短い時間に無理に言葉を詰め込む必要はない……またすぐに会えるんだから」
クロノの疑問にそっけなく答えるフェイトだったが、やはり名残惜しいのだろう、なかなか歩き出そうとはしなかった。
「出会って短いかもしれないが……こういうのも『比翼の友』って言うのかな?」
「比翼の友? なんだいそれ」
「詳しい意味は聞いたことが無いんだが……確かあいつらは『2人で力を合わせればできないことなんてない!』ってな感じで使ってたと思ったから、無二の親友とかそういう感じかな」
マークの言葉に、フェイトは庭園での共闘を思い出した。確かにあのときは、なんだってできるようなある種の開放感を感じたのだ。
「でも、これからだよ……まだ、お互い知らないことの方が多いんだから、少しずつそう名乗れるように、頑張っていくんだと思う」
「……そうかもな」
「なら……いや、そうだな……ある程度落ち着いたら手紙でも書くといい」
新たな誓いを胸にするフェイトに、クロノはそう提案する。現実としてかなり難しい事だろう。どう言いつくろってもフェイトの扱いは犯罪者のものなのだから。だが、それでもクロノはそう提案した。
「……ほんとに、親子なんだねぇ……」
なんだかんだで甘いこの管理局員達が事件を担当したことに、マークは心のうちで感謝した。
これにて無印は終了になります。章として分けませんがこれから空白期に入ります。