魔法少女リリカルなのは 炎の紋章を持つもの 作:コウチャカ・デン
マークは、管理局の本局への移動が始まるとすぐリンディのもとに向かい、事前に話していたようにプレシアの行ったことについて話し合いを始めようとしていた。そこで一番に聞かされたのが、この話し合いのタイムリミットだ。
「思ってた以上に時間がかかるんだな」
「次元航行と言われても想像はしにくいでしょうね、それでも1日中にはつくのよ?」
本局に着くまでにかかる時間への印象は、異界の門を越えたことがあるからこそ『遅い』という感想だったのだが、お互いに通じなかったようだ。リンディは『遠い』とマークが言っていると思ったのだ。
(それとも、これが普通で『門』の方が特殊なのか?)
つながる世界の理が同じであれば、ほぼ一瞬で世界を渡ることのできた『異界の門』。ひょっとしたら、今この船がいるのは門の中でも浅いところなのかもしれないとマークは思索を打ち切る。
「そうか……話をまとめるには微妙な時間だな」
「大筋を決めてあとはアドリブかしらね……さっそく本題に入りましょうか」
「ああ、プレシアの行為の何が問題となっているのか」
そう言って、リンディが現在考えられるプレシアの罪状について述べる。
「そうね……大まかに言えば『管理局への攻撃』『禁術の違法研究』『ロストロギアの不当所持と回収』と言ったところかしら」
「ん……『禁術』っていうのは死者蘇生でいいのか?」
「ええ、生命を扱う魔法であれば、それがどんな形であるかはともかく当然実験でも相応の代償が必要となるわ。だからこそ禁術扱いして、厳正な許可制の下、研究が行われているの」
一応人造魔導師の研究についても禁術に含まれるのだが、今回はそちらに目が行くことはまずないだろう。死者蘇生というのはそれだけのインパクトがあるのだ。もちろん軽視することはできないだろうが、それでも死者蘇生の過程程度にしか扱われないだろうことは間違いない、といっても過言ではないだろう。
「……研究の内容は理論面に特化していたから、そこまで罪が重くなることはないはずよ。ただ……」
「攻撃についてはこちらではどうしようもないかな……?」
「ええ、攻撃を行ったという事実はどうしようもないわ。できるのは攻撃自体に正当性を持たせることだけど……そうなると管理局の正当性を損ないかねないわ」
プレシアが管理局に対して行った攻撃は正しかったとすれば、どうしても管理局が間違った行為をしていたことになってしまう。
「最後はロストロギアについてだが……これ所持だけでもダメなのか?」
「一応、申請と許可が原則として必須ね。それでも今回の問題はジュエルシードの違法収集だから……」
「何を持って違法な収集となる?」
「……管理局の呼びかけを無視して独自に集めていた、ってとこね」
結局、管理局へ攻撃したことが問題だという事である。
「つまり管理局への攻撃だけが問題なのか?」
「そうなってしまうわね……なんだかそう言われると『管理局に逆らったから悪』って理屈みたいね」
「? 事実そうだろ」
リンディはマークの物言いにダメージを受けるが、マークからしたらなぜそんなことに傷つくのかわからなかった。
「為政者に逆らうのが悪いことだって言うのは、どこの世界でも同じだ。為政者がルールを作り、それに民衆がそろって従うからこその平和だろ?」
リンディがへこんだのは、『逆らうものは皆殺し』と独裁者が叫ぶ姿を想像してしまったからであるが、マークにとってはそれこそが自然な姿なのだ。世界の違いより、文明の違いというべきだろう。
「まあ、政治については別にいい。問題はどうやって管理局の権威に傷をつけず、プレシアを擁護すべきかだ」
「……そうね、話を脱線させたってしょうがないわ。無難なのは娘を失って錯乱状態にあった、ってとこかしら?」
「つらいことがあったら何をしても許される、なんて前例を作るわけにはいかないだろ?」
「マーク君……プレシア女史を擁護するのが目的なのよ?」
今の一言を言われてしまうと、大分手段が限られてしまう。
「感情方面で攻めるのが悪いとは言わないが、それに頼りすぎたら危険だぞ?」
「言ってることはわかるけど……」
「……プレシアにも話を聞くか。彼女の言い分に何か適したものがあればいいが……なければ洗脳か、精神汚染を受けていたことにしよう」
「そんな都合のいい……」
そこでリンディはふと思い出す。そういえば、管理局の理解の外にあり、マークが完全に把握している魔道書があの場に存在したことを。
「そういえば、完全消滅まで確認してなかったな……管理局に行く前に確認したほうがいいか?」
「あなたは……いえ、それを管理局に信じさせることが?」
「信じさせるも何も、あれは闇魔法の魔道書だ。使い手から過去の記憶を喰らい、現在の人格を蝕み、未来の可能性を奪い、力を得る魔法だ」
そのあまりに大きな代償に言葉を失う。だが、あの場にいた男の影はそれだけではなかった。
「……かつて子供たちに、『母を連れて戻る』と約束し、その約束を果たすために死者の蘇生に手を出した男がいた」
それが『エレシュキガル』の記し手とリンディは理解するが。その結果は語るまでもない。未完成に終わったその内容を見ればわかることだ。だが、マークの話はそこで終わらなかった。
「長い年月を研究に費やし、死者の蘇生を可能とするだけの力を求め続けた。だが、あるときついに限界がやってきた」
それは寿命などではなかった。もっと恐ろしく、残酷な結果であった。
「……力を求め、男はすべてを代償とした結果、力を求めた理由すら忘れてしまった」
すべてを死者蘇生のために捨てたがために、捨てた理由までも失ってしまう。
「そんな……」
「すべてを失った男は、それでも力を求め続け、その魔手はあらゆる生命にも及んだ。『エーギル』と呼ばれる生命エネルギー、それを集め始めたんだ」
そのまま人を喰らうようになり、大陸に戦乱を呼ぶことで効率的に『エーギル』を集めようとした。故に『災いを招く者』と呼ばれることになる。
「ついにその手は自分の子供にまで及ぶが……最後まであの男はそのことに気付かなかったよ」
それは、なんて救いのない話であろうか……
「そんな奴の残留思念の残った魔道書を持っていたんだ。影響を受けないわけないだろ?」
「確かに……でも、魔道書に込められたプログラムを実体化させるロストロギアなら確認されているわ。やっぱりそれとの違いを証明しないといけないわ」
「そっか……まあどうなるにせよ、プレシアの話を聞いてからだな」
「うまく説明できれば今のだけで十分よ」
そのような魔道書に影響されたのなら、むしろあの程度の暴走で済んだのが幸運と感じるだろう。
「そうと決まれば、すぐ確認に行きましょう!」
「城まで送ってくれれば、後は一人でやる」
「……お願いするわ」
はっきり言って、アースラから観測されただけでも『エレシュキガル』と『フォルブレイズ』の激突はとんでもないものだった。あの現場にいたクロノは、『個人が詠唱・溜め無しに使う魔法じゃない』と断言するほどだ。正直あのようなことがもう一度起こりかねない場所に、局員を送り込むなんてしたくない。
こうしてアースラは、進路を庭園へと変更することになった。
「それなのによくついてくる気になったな……」
「わたしはマークの相方だから。一人でなんて行かせないよ」
本来ならば管理局が後日大々的な調査を行うことになっているため、可能な限り速やかに魔道書の消滅、あるいは残存を確認しなければならない。そのためマーク一人での調査となったはずだったのだが、それにフェイトがついてくることになったのだ。
「万が一にも危険はないって。もしあれが残っていて俺らに危害を加える気なら、もう俺らは死んでいるわけだし……」
「それならわたしがついて行っても問題ないはず」
「……まあ、危険はないわけだが」
微妙に歯切れの悪い返答をするマークを見て、フェイトはあの魔道書の残存を確信する。『エレシュキガル』についてはアースラの全クルーにも伝えられているので、おそらくそこで語られなかった「何か」があるのかもしれない。
「でも、みんなにも話してよかったの?」
「そこはハラオウン艦長の提案だ。少しでもプレシアへの印象が良くなるようにするためだな」
今のところ結果はまだわからないが、魔道書の記し手への同情がそのままプレシアへ向くことも考えられる。魔道書の残留思念との同調があったのは事実なのだから。そのため、プレシアは読めないはずの魔道書の内容を知ることができたのだ。
「違う、マークはよかったの?」
「……」
なぜ話したのか、ではなく、話してよかったのか。
「……この話を絶対知らせたくないのは、子供たちにだ。だから、もう構わんよ。それに、教訓にはなるんじゃないか? 死者蘇生を求めた者の末路ってやつで」
「そう……」
その言葉に込められたのは『もう隠す必要がない』ではない。『もう隠す相手がいない』というものだ。
「あ~……こんな場所で話すことじゃなかったな」
ジュエルシードの暴走や傀儡兵との戦闘のせいで、ほんの数日前まで人の住んでいた気配なんてどこかに飛んで行ってしまったかのような廃墟だ。暗い話をすればどこまでだって落ちていける気がしてくる。
「だから、さっさと終わらせて帰ろう!」
「……うん、わかった」
フェイトは頷くしかなかったが、それも当然だろう。なんといってもまだ10歳、実際この世に生を受けてからの時間はもっと短いのだ。
だがマークにはそれで十分だった。今までどんな友であっても言う事のなかった内容なのだ。この事を話すことができて、聞いてくれた人がいる。それがマークにどれほどの救いになっているか……
「……まだわからないだろうがな」
「?」
「いや、なんでもない」
軽く首を振り、マークはこの廃墟を駆け抜ける。フェイトはそれに飛びながら続いた。そして、2人は庭園の最深部へと再び降り立った。
「時間もないし、さっさと終わらせよう……」
『ずいぶんと待たせた割には、勝手な事を言う……』
「!!」
マークの声掛けに以前と同じように答えが来た。件の残留思念は変わらずそこにいたのだ。
「いろいろ立て込んでいてな……まあ、世間話もなんだし本題に入ろう」
『そうだな……では一言で済ませよう、私を止めてくれたことを感謝する。そして、あなた以外に礼を言うことはかなわないようだし、もはやこの世に残る意味もない……私を滅ばしてくれ』
「礼など筋違いだ。……だが、それでお前の気が済むなら受け入れよう。介錯もしてやる」
「え? え?」
過程をすべて省いた結論にフェイトは完全においていかれるが、意外なところからフォローが入った。
『そこにいるのとは昔からの友人だった。ともに大切な人を取り戻すための研究を行ったこともある……ほんの瞬きをする程度の時間だったがな』
「友人……? ……!」
疑問が一気に氷解する。この男とマークが友人だったから、本人すら忘れた目的をマークが知っていたのだ。
「……結局、貴様が狂うのを止められなかったし、貴様の行いを止めることもできなかった。……もし、貴様に言わなければならないことがあるなら、あの子は『預言者』が蘇生した。幸せな一生だったと聞く」
『……そうか』
お互いに言いたいことをすべて言い終えたのだろう。わずかな沈黙ののち、マークが大剣を取り出す。
『烈火の剣……デュランダルか』
「不満か?」
『いや、申し分ない選択だ』
そうして、マークの一閃は男を両断する。おかしなことかもしれないが、フェイトが一切口を出せないほど、息のあった動作だったようにも思える。
「……『預言者』は、闇魔法を極めて『真理』に至った者だ。あの男には自我があったが、『預言者』はそれすらなくしていた」
マークがフェイトの疑問を先取りして答える。それは、今は何も聞かないでほしいというささやかな主張だろう。フェイトは、男の居た場所に現れた『エレシュキガル』を見つめるマークのそばで自身の無力さをかみしめていた。
そして数分後、思い出したかのように『エレシュキガル』を回収し、ほかの武器と同じようにしまって帰路に就こうとした。だが、そこへフェイトが声をかける。
「わたしに、できることはないのかな……? 相方なんて名乗っても、結局何もできなかった……」
「……それじゃ、ちょっと失礼して」
「え? ヒャッ!」
落ち込むフェイトにマークは一言声をかけ、フェイトのひざ裏と脇のところへ腕を入れ抱き上げる。お姫様抱っこというやつだ。
「まままま、マーク! なにを!?」
「まあまあ、落ち着いて。走るぞ?」
「ひう!?」
具体的には何も言わず、マークは走り始める。もちろんフェイトへ負担にならないよう細心の注意を払いながら。
「マーク……?」
「……なんて表現するべきかわからないけどさ、これでもフェイトがいてくれて助かってるんだ」
「え?」
マークは少しだけ、今まで言葉にしなかったことを後悔する。いくら相方と言っても出会ってまだ日が浅く、10歳に満たない子供だ。今まで戦友として戦ってきた仲間たちは、人の心を読むことを学んできた貴族だったり、剣を交えればすべてわかるなんて言う奴だったりしたので忘れていたが、基本的に人とは言葉によって分かり合う存在なのだ。
「精神的なものだから、もっと言葉にして伝えるべきだったな。……不安にさせてすまなかった」
「……ホントに? わたしは役に立ってるの?」
「役に立つって表現には引っかかるとこがあるんだが……フェイトの存在には助けられてるよ」
「……そっか、よかった」
そうしてフェイトの体から少し力が抜ける。そこで腕にかかる重さが増したように感じたのは、信頼の重さというものか。マークはその重みを心地よく感じながら、アースラへと駆けて行った。
FEの内容が増えてきた気が……