魔法少女リリカルなのは 炎の紋章を持つもの   作:コウチャカ・デン

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第18話 「準備万端」

「お帰りなさい、結果はどうだったの?」

「なんだ、見てなかったのか?」

「ええ、聞いても本局に報告しにくい事ばかりなんだもの……ならいっそ聞かないことにしたのよ」

「それは組織に所属するものとしてどうなんだ?」

 

 ちゃんと建前も用意してあるのだが、リンディはあえてマークに本音で話した。今までいくつかの会話を聞いていたことや、それについて報告するつもりがないと実質言っているようなものだ。

 

「魔道書については残存を確認後、回収した。残留思念は消滅させたし、中身を見ない限り、これはただの本と同じだ」

「そう……あとは、マーク君のいっていた精神汚染について証明ないし、納得させる方法を考えるだけね」

「……まあ、魔道書提出を強制されないのならそれでいいか。だが証明と言っても、俺の証言と実証ぐらいしか手段がないぞ?」

 

 さらに言えば、証言をするのはともかくとして実証は付き合う気が無い。わざわざ廃人を作る手助けをするほど、非情ではない。

 

「証言だけで十分よ。そのあとは私が何とかするわ……幸い残留思念の映像は残っているし」

「それならいいが……あまり長引くようなら強引に行くぞ?」

 

 もしリンディがうまくやれないのなら、管理局の知らない魔法の一つでも開示すればいい。マークはその程度に考えていた。

 

「それはそうと、俺の剣と聖石はひょっとして回収済みか? あそこにまだあるかと思っていたんだが見当たらなくてな」

「ええ、回収しているわ。 ……そうね、食事しながらでどう? そろそろいい時間だし、立ち話にするには長くなりそうですから」

「……長く、ね。まあいい、行こうか」

「あの……わたしは母さんたちと……」

 

 マークたちが食堂へ向かおうとすると、フェイトが参加の辞退を申し出た。それに対しリンディが少し考え、提案した。

 

「そうね、テスタロッサ家の皆さんも無関係でないわけだし、みんなで食べましょうか?」

「聖石についてもか?」

「マーク君の状況について、よ。ミッドの常識に疎いあなたに、プレシア女史が助言するためでもあるわ」

「そっか、ならいい」

 

 交渉のたびにカードを出し続けていたら、間違いなくマークの方が先にネタ切れになるのだ。なら助言を受け、カードを出し惜しみするのは正しい戦略だ。そして食事をしにプレシアたちがすごす部屋へ向かうことになった。

 

 

「まあ、話は分かったわ」

「ならいいだろ? どうせ管理局に着くまでに話を合わせないといけないんだし」

「……そのとおりね、でもさすがに人数が多すぎない?」

「……まあ、いいじゃないか。アリシアも喜んでるみたいだし」

 

 この場に集まったのは、マークと部屋の住人であるプレシア、アリシア、そしてフェイトにアルフ。管理局側としてリンディ、クロノそれにエイミィだ。4人部屋であるためそれなりの広さはあるが、やはりこの人数はつらいところがあるのだが……その窮屈さがアリシアは気に入ったようだ。

 

「寂しい思いをさせてしまっていたのよ……だから、その反動かしらね」

「理由はなんであれ、一人でいるよりずっといい」

「2人でなにはなしてるの?」

「一足先に今後の話をね」

「ふーん……あ、おかあさんこれおいしいよ!」

「そう? なら私もいただこうかしら」

 

 そしてプレシアも話を切り上げ、中央にある食事へと手を伸ばす。マークも一人でいてもしょうがないので、おとなしくそれに続いた。そこでしばらく適当な雑談をしながら食事をしてが、クロノがついに本題を切り出した。

 

「それで、あなたの剣と石のことなんだが……」

「返すわけにはいかない、なんて言わないよな?」

「ああ、剣についてはすぐにでも返却する。問題は石の方なんだ」

「聖石に……? ああ、ジュエルシードの封印か」

 

 マークはクロノの言いたいことを察した。現在の聖石はジュエルシードの総数21個のうち、半数以上をそのうちに収めているのだ。そのまま返却というわけにもいかないだろう。

 

「大まかに言えば間違っていないんだが、おそらく認識の齟齬があるぞ?」

「齟齬?」

「ああ、あの石の内部を分析したんだが……ジュエルシードが一つにしか見えないんだ」

「それは……まさか、融合したとでも言うの?」

「そのまさかよ」

 

 その会話にプレシアとリンディも加わる。

 

「……それで、何が問題なんだ? ジュエルシードっていうのはもともと複数個同時使用が前提だったんだろ? それがくっついたからって……」

「最大出力と増幅力が極端に跳ね上がっているんだ」

「あくまで計算上のことだけど……融合してしまったジュエルシード、『ジュエルオーブ』をほかのジュエルシードと一緒に使用した際発生するエネルギーは、今までの想定の実に30倍になるの」

「30倍……!」

 

 その数字にプレシアは驚愕するが、マークにはいまいちピンとこない。もともと使い方を間違えれば世界を滅ぼす一品なのだ。最大出力がいくら上がっても、世界を滅ぼす可能性があることは変わらないので、何も変わらないと考えるのだ。

 

「いくら強力になったって、危険度はもともと上限いっぱいだったんだろ? なんだか今更じゃないか?」

「それはそうなんだけど……そういうわけにはいかないのよ」

 

 リンディはマークの問いかけに苦笑して答える。だが問題はジュエルシードに収まるものでもないのだ。

 

「マーク君の言う聖石に複数個、同質のエネルギー源を封印すると融合の恐れがある。ここが問題になっているのよ」

「ああ、なるほど」

 

 これは確かに一大事である。もともと国一つ滅ぼすレベルのものでも、聖石と合わせれば世界一つ滅ぼせるものになる。そんな認識が広がってしまえば、取り返しのつかないことになるかもしれない。

 

「……あれって実は封印系のアイテムなんだけどなぁ」

「封印が済んだ状態でも使えちゃったよ?」

「……やっぱり一度砕けたものを再利用ってわけにはいかないか……」

「一度、砕けた……?」

 

 その問いかけにマークは、あくまで推論となるが、と前置きをして答える。

 

「オリジナルも、封印した力がたまらないように少しずつ外にあふれさせていたから、その隙間から干渉してしまうのはもともとありえたんだ。今回は例の魔法のせいで周囲の魔力量が異常だったし、さっきも言ったように一度砕けたことで隙間も広がっていたんだろう」

 

 今後は封印具としては使えないな、とまとめる。

 

「聖石というのは、俺の居た世界にいた『魔王』と呼ばれる存在の魂を封印するためのものだ。そして2度目の戦いの中で最後の一つを除き、聖石は破壊されてしまった。何とか『魔王』は再封印したが、もし次があった時のため、聖石のかけらをより集めたレプリカと、一から作ったコピーを用意したんだ。

 コピーは再現率が低すぎて使い物にならなかったことも付け足しておこう。そして今回使ったのはレプリカの方というわけだ」

「……あなたの居た世界ではとんでもなく重要なものなのか」

 

 そうなってくると、危険だからと言って管理局で回収するわけにはいかないだろう。マークの居た世界の神器であり、あくまで魂の封印までしかできていない『魔王』の存在もあるからだ。

 

「いやオリジナルもあるし、魔王の肉体は完全消滅させたから、そこまで重要なものではない」

「そ、そうなのか……?」

「あくまで『対魔王戦』ではな。強力な封印具であることは変わらないし……」

「今回のことで増幅関係もできることが証明されてしまったし、ってとこかしら」

「そういう事だ。まあ、ジュエルシード、いやあの中にあるジュエルオーブは分離して提出する。今回はそれでがまんしろ」

 

 そう言って話を切るマークに、今回の件はこれ以上話し合う気が無いことが見て取れた。

 

「はぁ……わかった、後で剣もオーブも届けるから分離を頼むよ」

「了解」

「それはそうと、今日は管理局についてからのことを話し合うんじゃなかったの?」

 

 話が落ち着いたのを見計らって、プレシアは自分たちの今後がどうなるか決まる話し合いの進捗状況を尋ねた。

 

「ああ、『エレシュキガル』に汚染されていたで押し通すらしい」

「思いのほか危険度の高い魔道書でしたし……ここで使わない手はないでしょう?」

「そう……じゃあ、聞かせてもらえるかしら? あの魔道書はなぜあんなことをしたのかしら?」

「……」

 

 それはマークが語らなかったことの一つだ。あの残留思念はただ力を求める存在ではなかった。そうでなかったから今ここにプレシアは存在できるのだ。

 

「私には聞く義務があるわ……あれが何かを伝えようと、残そうとしていたように思えるのよ」

「……なんてことはない。ただあの魔道書は、男の半生がしみ込んでいただけだ。……子供たちを守りたかったんだろ」

 

 かつては、守るどころか自分で傷つけてしまった。だから、自分と同じ道をたどる女を救いたかったのだろう。

 

「もし、あいつから何かを引き継ぎたいのなら、自分のやりたいことをやれ。それだけで十分だ」

「……わかったわ」

 

 何も特別なことはない。あの男は家族で幸せに暮らすことを望んでいたのだから。マークはやはり詳しくは語らない。あるいはこれで十分だと思っているのだろう。

 

「だがまあ、やることはこれで終わりになるのかな?」

「大変なのは管理局に到着してからだからな。準備としては上々だろう」

 

 マークは今までにやったことを指折り数えていく。まずはプレシアの裁判関係。

 

「これはほとんどリンディ任せだが、今やれることはないか……」

「そうね……精神汚染なんて言い訳があれば、そこまで長引かせず終わらせることは可能だわ」

 

 次はフェイトとアリシアについてか。

 

「フェイトはほぼプレシアと同じ扱いで、アリシアはしばらく検査が続くことになるか」

「アリシアについては同意するが、フェイトについてはそこまで悪い立場にはならないはずだ」

「主犯がプレシア女史という事になるから、フェイトちゃんは立場上従わざるを得なかった、って解釈することになるわ」

「わたしは……」

 

 フェイトが口を挟もうとしたが、プレシアに止められる。プレシアはもともと、できる限り罪を自身に集めて死ぬつもりであったのだから。

 

「わたしはべつにどこもわるくないよ?」

「でも長いこと眠っていたのは事実だからね。今は大丈夫でも、今後調子が悪くなるかもしれないところを、あらかじめ探しておかないといけないんだ」

「そうなんだー」

 

 確かにアースラでは悪いところを見つけられなかったが、もっと設備が整ったところで調べればどんな結果になるかまだ分からない。最後は死者蘇生……と、そこでマークは疑問を持つ。

 

「なあ、俺の扱いってどうなるんだ?」

「『次元漂流者』プレシアの件とは切り離して、ただそう扱うことになっている……あなたの使う魔法を何としても再現したいのだろう。大抵のわがままなら通ると思うぞ」

「つまり最上のもてなしをして知識・技術を搾り取ろう、と……司法取引をしようとは思わなかったのか?」

「下手に追い詰めて自暴自棄になられるのを恐れているんじゃないか? 出身世界が見つかっていたらそうなっていただろうな」

 

 このまま帰れないかもしれない、そんな負の意識から、暴走されたらたまらないという事だろう。できるだけ追い詰めないように、自主的に情報を出させようというのだろう。

 

「なるほど……じゃあ、そこらへんも使わせてもらおう」

「あまりやりすぎないでくれよ?」

 

 管理局に所属するクロノとしては、マークがどんな要求をするのか不安なのだろう。マークとしても、よっぽどのことが無い限り無茶な要求をするつもりはない。

 こうして、準備が整ったことを確認したマークは、ゆっくりと新たな戦場への到着を待つ。

 

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