魔法少女リリカルなのは 炎の紋章を持つもの 作:コウチャカ・デン
その青年は眠りの中にあった。長い時間がその場にあるもの達から力を奪い、そのすべてを弱体化していった。今までの封印は闇を単体で封じていたのに対し、今回はすべてを一緒にしていたのが原因かもしれない。だが、そんな理由はどうでもいい。重要なのは、ある男が望んだ時がとうとう来たということだ。
そうして、今再び青年は世界に降り立った。
「…………」
目を覚ますと、そこは知らない天井があった。それも『ただ知らない部屋』というレベルではなく、何でできているのかすらわからないレベルで知らない天井だ。
「…………」
周りを見渡しても、彼の知っている素材で作られたものが存在しないように見える。そもそもなぜ自分はこんなところで……と思ったところで、ようやく眠りにつく前のことを思い出した。
「そうか……俺は目覚めたんだ」
本来ありえなかった、あの時の続き。もはや目覚めることはないと思っていたが、それだけあの友の思いは強かったということであろうか。
そして、あの術式が発動したということは、ここには自分と共に封印されていた存在を滅ぼせる可能性を持った存在がいるということだ。あの時から見て遥かな未来だということもあるし技術が生まれたということも考えられる。そうして思考が回り始めるのと同時に、重大なことに気付く。
「『闇』がいない」
共に封印されていたはずの存在が確認できなかったのだ。
「まさか自然消滅ってことはないだろうが……ダメだ、頭が回らない」
永い眠りから覚めた後はいつもそうだ。疑問や問題はあふれてくるのに、それを解決する手段がまるで浮かばない。
しかも今回は自然解放である。彼を目覚めさせた人、というのも存在しないのだから、なおさら状況判断が難しくなるだろう。そういった先入観があったからだろう、この部屋に入ってくる存在に彼は全く反応できなかった。
「あ、目が覚めたんですね!」
「だから言ったろ? そんな心配することないってさ」
外見年齢は、10歳と17歳ぐらいの少女たちだった。10歳くらいの少女は安心したような顔をして、17歳くらいの少女は少し呆れたような顔をしていた。
「えっと、急な事なので混乱しているかと思いますが、落ち着いて聞いてください」
「あらかじめ言っておくけどさ、アンタがここにいるのは別にあたしたちのせいじゃないからね! 不幸な偶然が重なった結果だってことを理解しておいてくれよ!」
「アルフ!」
アルフと呼ばれた少女が、言い訳の様な事を言うのをしかる10歳くらいの少女。
(……なんだかよくわからないけど、彼女たちはなぜ俺がここにいるのか知っているらしい。まあ、目が覚めた後に誰かの話を聞くというのは恒例だしいいけど)
「大丈夫、落ち着いてるから。それよりさ、名前を教えてくれないかな?あ、この世界でも人に名前を聞くときには、自分から名乗らないといけないのかな?」
青年は、ここのマナーがわからない以上素直に聞くのが一番である。しばらく質問攻めにしてしまわないように自粛しないといけない、などとちょっとずれたことを考えていた。
「えっと、人それぞれだと思います?わたしの名前はフェイト。こっちが使い魔のアルフです」
「うん、フェイトにアルフね……覚えた。俺は……そう、俺の名前はマークだ」
「ちょっと間があったみたいだけど、まさか偽名じゃないよね?」
よく見ている、とマークは感心する。
「アルフ、でいいかな? 偽名ではないよ。ただ、今まであまり俺の名前を呼ぶ人があまりいなかったからね。ちょっと油断すると出てこなくなってしまうんだ」
そう、英雄ということすら生ぬるい、伝説である彼の名前を呼ぶものはあまりにも少なかった。いや、それ以前に相手が委縮してしまい、声をかけられることすら珍しかったのだ。
「……そう、変な事言って悪かったね」
マークは、そういって引き下がるアルフの姿を不思議そうに見ていた。彼の周りには、極端に言うと2種類の人間しかいなかったからである。『恐れるもの』と『疑うもの』、前者は伝説を信じその力を恐れ、後者はこの20に満たない少年という者もいるこの姿を見て疑惑を持つのだ。
(彼らは俺が力を示すまで、決して信じてくれなかったからな)
信じたら信じたで、ほとんどのものが前者になるのだが……それはともかく、ただ言葉を交わすだけで信じてもらえるのが、新鮮でならなかったのだ。
「えっと、じゃあマークさん?」
「マークでいいよ」
「え、でも……」
そういってはみるが、難しいだろうとも思ったていた。大体マークの外見は20歳に届かないぐらいで、フェイトとはそれなりの開きがあるのだ。
「敬語もいらないよ、なんだか話し辛そうだし」
それでも言ったのは、フェイトが慣れていないように見えたからだろうか。年上との会話、ではなく人との会話に。
「う、ん。わかったよ。……それで君の現状についてだけど」
「とりあえず結論だけでいいよ? わからないところは順番に聞くから」
最初から話されても、その最初がわからない可能性の方が高いのだ。
「あんたは、あたしたちの転移に巻き込まれちゃったんだよ」
「転移に?」
少し時間をおいて立ち直ったのか、アルフがそれはもう簡潔にまとめてくれた。もともとマークが封印されていたのは『異界の門』なので、封印から解放された直後に彼女たちが通って、巻き込まれたのだろう。
「理解した」
「え! あれだけで?」
フェイトが驚いているが、やはりマークには何を驚いているのか理解ができなかった。まあ、すべてを理解したわけではなく、なぜ自分がここにいるのかを理解しただけだ。
「まあとにかく、しばらく世話になるよ? 他にあてがないからね」
「う、うん。それは全然かまわないんだけど……」
フェイトからしてみれば、服装からしておそらく管理外世界の人であるだろうマークが、なぜこんなにも理解が早く、落ち着いていられるのかわからなかった。
だが、自分たちの目的のためにも、すぐに彼を管理局などに保護してもらうわけにもいかなかったのだ。どうしたものかと思っていたので、彼の申し出は非常にありがたかったのだが……
(なんだろう、すごく気になる)
理解できないからこそ、興味がわく。知りたいとも思う。だがそれよりも前に、異世界の出身である青年にここで過ごすために必要なことを教えないとならないだろう。
「じゃあさっそくだけどさ」
「な、なに?」
今後のことを考えていたフェイトへ、マークはとりあえずの要望を告げる。
「服装についてお願いできないかな? 少なくとも、この辺りを出歩いて不審に思われないようにしたい」
結局この後にも質問などが続き、結局フェイトが行動に出るのは1日遅れることになった。