魔法少女リリカルなのは 炎の紋章を持つもの   作:コウチャカ・デン

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第19話 「……決戦?」

「まずはたんけんをしようと思うの」

「探検か……どこを探検するつもりなんだ?」

 

 管理局に着いて、マークとアリシアは客人として扱われることになった。ちなみにリンディ達は局員として今回の件の詳細を報告に、フェイト達は犯罪者として取り調べを受けることになっている。

 

「どこって……このへやだよ?」

「なるほど……付き合おう。まずはどこから行こうか?」

「う~ん……あそこ!」

 

 マークは正直、アリシアが家族と一時的にでも離れることで落ち込むかと思っていたが、そんなことはなかった。むしろプレシアの方が落ち込んでいたくらいだ。

 

「ここは……」

「だついじょだね! タオルとハブラシはっけん!」

 

 本当ならアリシアの検査も同時にやることも検討されていたらしいが、マークをできるだけテスタロッサ家の誰かと一緒に居させるために中止された。管理局内であまり自由に振る舞ってほしくないが故の配慮だったのだが、管理局内で特に行動を起こす気のなかったマークには意味のない配慮であるのだが。

 

「奥は風呂かな?」

「うん、お風呂みたいだね」

 

 だがマークにとっては正直拍子抜けだった。すぐにでもプレシアの裁判が行われると思っていたのだ。もっと忙しくなると思っていたのだ。それがふたを開けてみればアリシアと泊まる部屋の探検をすることになって、いささか空回り気味のマークであった。

 

「(まあ、これはこれでいいんだけど……)」

「う~ん……とくにかわったものは見つからなかったね?」

「そうだね……それじゃあ別の場所も探検してみようか?」

「ええと、やめとく」

 

 ここにきてアリシアはすぐに探検を始めたので、てっきり好奇心旺盛な子だと思っての提案だったのだが、まさかの否定が帰ってきた。

 

「おや……?」

「だって、ここはしごとをしてる人がたくさんいるばしょなんでしょ? だったらたんけんにいったらじゃまになっちゃうよ」

「なるほど……」

 

 どうやらアリシアは、マークの想像以上の『いい子』のようだった。どうにも子供らしくないと思ってしまうが、だからと言ってマークの持つ『子供像』を押し付けるのも悪いので、この部屋でできる暇つぶしが無いか考える。

 

「おにいさんがよければだけど……わたし、『まおう』のはなしが聞きたい」

「魔王……ああ、聖石のか」

「うん……ダメ?」

「いや、構わないよ」

 

 特に話したくない理由もなかったので軽く頷いたマークだったが、その直後に自分の軽率さを呪った。5歳の女の子に話すにはいささか刺激が強すぎる。必死で血なまぐさいところを削り、救いのない部分を拡大解釈する。

 

「そう……あれは、魔王が封印されて、数百年後の話だ。魔王の魂を封印した『聖石』は、かなり強い力を秘めていた。それを平和利用できないかと研究をしていた一人の皇子がいたんだ」

 

 残念ながら吟遊詩人の才など持たないマークは、四苦八苦しながら史実から物語を紡いでいった。

 

「だが、魔王はしたたかなやつでね、聖石に触れた皇子を騙して、取り込んでしまったんだ」

「おうじさま負けちゃった!?」

 

 てっきりこの皇子が『勇者』になる話だと思ったアリシアがつい口を出してしまったのを、マークは楽しそうに見ながら話を続ける。

 

「魔王に食べられちゃった皇子はね、わずかに残った力で助けを求めたんだ。皇子が最も愛した友人と、最も尊敬した友人にね。その友人達は勇者として、いろんな国を巡りながら魔王の手下である魔物を倒しながら、友を助ける手段を探すんだ」

「勇者って二人いたの?」

「ああ、双子だったんだ」

 

 もはや半ば以上原形をとどめていないが、ここではそれを注意するものもいない。

 

「魔王は皇子に扮して国の騎士たちにも勇者を倒すよう命令するが、騎士たちは皇子が変わってしまったことに疑問を持ち、一部が勇者と共に戦うことになる。そうして皇子の国を制圧して魔王を追い詰めたんだ」

 

 このときは逃げられてしまったがね、と付け足す。

 

「だが、魔王もやられてばかりではなかった。勇者が皇子の騎士たちと戦っている間に、魔王の魂を封印するのに必要な『聖石』を砕いて回っていたんだ。かつての封印は5つの聖石を使ってのものだったが、残り1つまでしてやられてしまった」

「ふわぁ、だいじょうぶなの?」

 

 アリシアもよく反応してくれていたが、現在進行形で話を作っているマークは物語としての体裁が保てているか気が気ではなかった。

 

「そうして最後の聖石を手に、魔王の城へ勇者たちは乗り込んでいった。そこには強力な魔物たちと、魔王に操られたドラゴンがいて今までにない激戦となった。だが、各地を回るうちにできた仲間や手を貸したドラゴンと力を合わせて、勇者はどうにか皇子のもとまでたどり着いた」

 

 マークは当時のことを思い起こしながら、戦場でも『カッコいいところ』を選んでアリシアに聞かせる。魔物の群れから祖国を守る騎士たち、危険を承知で勇者を助けるお姫様、前線で勇敢に戦う戦士たちの話は実にわかりやすい英雄譚として語られた。

 

「勇者は聖石を使い魔王の魂を封印して皇子は九死に一生を得たが、魔王は最後の力を振り絞り、自身の肉体を復活させたんだ」

 

 魂のない肉体は暴れに暴れ、勇者たちの持つの『双聖器』をもってしても苦戦を強いられた。

 

「戦いは長く続いたが、ついに勇者は魔王の肉体を打ち砕き、世界に平和が戻ったんだ。これでこの話はおしまい」

「おぉ……おうじさまはたたかいの後どうなったの?」

 

 この話を聞いて、アリシアはどうやら皇子のことを気に入って様ったようだ。だが、いや、だからこそ言えない。

 

(王子は魔王の魂が抜け出た後、ほどなくして死んでしまったなんて……)

 

「う……ん、皇子は、魔王に肉体を乗っ取られていた影響で、しばらく体の自由が利かなくってね、愛する勇者の看護のもと幸せになったらしいよ」

 

 ほかの部分がいくらか真実も含まれていたのに対し、この部分だけは完全に創作だった。だがアリシアはこれ以上突っ込んだことは聞かずに別の物語、ただし今話した物語の中の閑話と言えるような話を聞きたがった。要は勇者のその後や、戦士たちの恋愛話だ。

 そんなことを話しているうちに時間は過ぎ、ようやくプレシアたちが戻ってきた。

 

「おかえりなさい! お母さん、フェイト、アルフ!」

「お疲れ様……先にシャワーでも浴びるか? それとも食事にしようか?」

「なんだか……主夫のセリフだね」

 

 それぞれただいまと言いながら部屋に入って行くフェイト達だが、その後ろにリンディ達もついてきていた。

 

「おや、監視……にしては疲れが顔に出過ぎているな。ひょっとして、もうある程度の結論が出たのか?」

「結論……とまでは言えないかもしれないわね。ちょっと厄介なことになってきたのよ」

「厄介なことになっているのは最初からだろ。どんなことだ?」

 

 リンディ、クロノ、エイミィの3人を部屋へと招き、飲み物を用意する。その際マークは、ずれていると自覚しながら『冷蔵庫ってやっぱり便利だ』なんて考えていられる程度には余裕があった。

 

「ありがとう……そうね、でも今言っている厄介ごとは、上層部の頭の固さよ」

「あの映像を見ても、自分たちの知らない世界があることを認めることができないなんて……さすがに予想外だ」

「……なるほどね、正しくは信じたくない、だと思うが……」

 

 マークが話を聞いている限り、管理局には『この数多ある世界を守っている』という意識が強くあるように感じた。それが転じて『自分たちは上位の存在である』と思い込んでしまったのだろう。

 

「若い奴によくあることだろう。いや、そういった考えができる程度にここは平和だったというべきか」

「さすがにその物言いは老成しすぎて見えるぞ? ……まあいい、とにかく上層部はマークさんの力をこの目で見ない限り信じられない、というやつが大半だ」

「まったく……物は言い方ね。要は彼の持つ秘術クラスの魔法のデータがほしいのでしょう?」

 

 プレシアの皮肉に、マークは心のうちで感心する。自分の常識にないものを信じたくないだけではなく、実在するならそれを手のうちにしようという1度で2度おいしい作戦だ。

 

「だが、それなりのものを見せないとこちらの言い分は信じてもらえないんだろ? だったら構わないさ、見せつけてやるよ」

「いいの? ……なんて、どうしようもなくなってここに来た私たちが言えることじゃないわね」

 

 リンディはそう自嘲しながら立ち上がり、マークもそれに続く。

 

「今からでも大丈夫?」

「それはこっちのセリフだ。もともとできる限り早く終わらせたいのだから、異存は一切ない」

「それじゃあいくぞ……ところで、マークさんは何をするつもりなんだ?」

「今から考える」

 

 一応管理局に着く前からいろいろ考えてはいるのだが、インパクトがあって、なおかつ知られても懐が痛まない、そんな技能が思いつかないのだ。そんなマークに苦笑しながら、この部屋に集まった全員で目的地へと向かった。

 

 

「それで、あんたたちはどんなことをお望みで?」

「またずいぶんと尊大な態度だな……まあいい、その『精神を汚染する魔道書』を提出すればそれでいい」

 

 微妙に腹の出た中年の男の言葉に、尊大なのはどっちだとマークは思ったが口にはしなかった。もちろんそう思っているのを表情で表現するのは忘れなかったが。

 

「そちらが的確な対処ができるというのなら、それもやぶさかではない。だが、何の知識も持たない輩に渡すほど、俺は無責任ではないぞ?」

「なら、それを……」

「知識や技術というのは、一朝一夕で学びつくせるものではないぞ。それに適正というものもある。一人の管理者を作るために廃人を量産する気はない」

 

 その危険度の高さにか、思わず男は息をのむ。もともと報告は受けていただろうに、とマークは呆れるが、情報として聞くのと実態を知る者からの警告は天と地ほどの差があったのだ。

 

「まあまあ、その辺にしといてくれないかしら? あなたほどの気概を持つ人に睨まれて平然としていられる人材は、本局でも少ないんですから」

「ふ~ん……まあいい。それで? 代替案はあるんだろ?」

 

 間に入った初老の女性にたしなめられ、マークは素直に引いた。おそらくどちらにとっても筋書き通りの展開だろうと思いながら。

 

「ええ、もちろん……正直に言って、危険と言ってもどれほどのものか把握できていないのが問題なんですよ。ですから、その片鱗を教えてもらえればこちらとしても納得できるようになるわ」

「ふむ……」

 

 マークは軽くその言葉を反復して確認するが、特に裏があるようには聞こえない。それならばといくつか知識を広げる。

 

「『山の隠者』と呼ばれる高位の使い手が居たんだが……その息子4人のうち、3人がただ生きているだけの存在になった」

「それは……」

 

 比較的わかりやすい例である『血統』も、この魔法の前では重要な意味を持たない。あるいは比較的に高い適性を持っていたかもしれない存在でさえ、闇にのまれる可能性が高いという事だ。

 

「だから、俺はこの魔法に関して後継者のようなものを作る気はない。これ以上この件には触れないでほしい」

「……わかりました。ただ、もう少しその片鱗を見せてはもらえませんか? それを最後に、闇の魔法に関しては、今後一切触れないことを誓いましょう」

「むぅ……」

「マーク……」

 

 フェイトが心配そうに名を呼ぶのを聞いて、決心する。できるだけ見た目が悪く、闇魔法を嫌悪するようなものを選択する。そうして選び出した魔道書は『ナグルファル』。本職なら必要はないのだが、マークはこの魔道書でブーストをかけないとこの魔法は使えない。

 

『召還』

 

 そこに現れたのは鎧を着こんだ兵士のようにも見える存在だった。

 

「これは……召喚魔法!」

「ただし中身のない、な。亡霊戦士と呼ばれる存在だ。……見ない方がいいぞ」

 

 微妙なニュアンスの違いにお互い気が付かないまま、フェイト達に忠告して、亡霊戦士の兜を脱がせる。

 

「……!」

 

 男はもちろん女性の方も顔色を変える。それを確認して戦士をあるべき場所へと返す。

 

「これでこの魔法がどんなものかわかってもらえたと思うが?」

「……ええ、よくわかったわ。それで、あなたは……」

「誤解するなよ? これはあくまで闇魔法の一面に過ぎない。どんな魔法だって使い方次第なんだから」

 

 女性がきつい眼で睨みつけてくるのを、両手を上げながら流す。実際『ナグルファル』は魔王に食われた皇子の使った魔道書であるため、かなり『負』の性質が強いものである。だが逆に、魔王討伐に使われた闇魔法も存在するのだ。

 

「失礼しました……それは私たちにとってもいえることですしね。ですが大丈夫なのですか? あなたはかなり高位の使い手だと聞いたのですが……」

 

 その言葉に、フェイト達も反応する。今までマークに異常と思える行動が無かった為考えることが無かったが、いったいどれほどの代償を払い力を得たのか。マークとしては余計な事を、と思える質問だったが、自分のことを心配しての質問であるため無碍にもできなかった。

 

「……時間をかけて学んだからな。そこまで極端な代償ではない。ある意味うらやましがられるかもしれんぞ?」

 

 せいぜい未来の可能性の一部を失っただけ、肉体的な成長が失われただけと付け加える。それは言いかえれば老化することが無いともいえるため、マークはなかなか重宝していた。

 

「……そう、ですか」

「ああ、その程度だ……ところで、まだ名前を聞いてなかったな。ちなみに俺はマークだ」

「ミゼット・クローベルと言います。今後とも、良好な関係が築けることを期待していますよ?」

 

 それはこっちのセリフだ、とマークが返したことで、今回の決戦が終了した。見せるものは見せたし、そんなに悪い結果にはならないだろうと思うマークの後ろでは、それぞれの思いを込めたまなざしがあった。

 

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