魔法少女リリカルなのは 炎の紋章を持つもの   作:コウチャカ・デン

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第20話 「判決、そして……」

 マークが管理局で闇の魔法を行使してから、瞬く間に時間が過ぎて行った。プレシアはフェイトと一緒に取り調べを受けつつ、入院しないで済む治療について話したりしていたが、治療はあくまでアリシアの検査のついでと言った色合いが強く出ていた。

 フェイトは取調べだけだったのだが、何せ実行犯に当たるので、詳細を聞くためにプレシアより長い時間取調室に拘束されることになった。だが、その際は必ずマークがついてきたため、そこまで大変ではなかったようだ。

 アリシアは基本的に客として扱われていたので、医療機関の検査を受ける程度だったのだが、プレシアの治療時間を取るためにいくつか余分な検査も行っていたらしい。なのでプレシアが取り調べを受けている間は、部屋でマークの知る物語を聞いて過ごしていた。

 そしてほかの面子と違いやるべきことが無いマークは、アリシアにする話をどうにかひねり出したり、フェイトについて行ってジュエルシード事件についてマークの視点から話したりして、なかなか退屈しない生活を送っていた。

 

「でも、そろそろこの生活にも飽きてきたな……変化がほしい」

「同感だね、あたしもそろそろ外に出たいよ」

 

 マークの言葉に真っ先に賛同したのはアルフだけであった。だが、だからと言って後の3人が外に出るのに否定的かと言われればそうでもなかったわけだが。

 

「でも、リンディさんたちも頑張ってくれてるわけだし……これ以上迷惑はかけられないよ」

「もともと研究室にこもっていることが多かったのよ。娘たちが居ればこんな単調な生活も悪くわないわ」

「おるすばんにはなれてるから、だいじょうぶだよ?」

 

 こんな感じである。本当ならプレシアも時間を気にしているだろうが、それを娘たちの前で見せるほど大人気なくはなかった。

 

「そりゃあ俺だって無茶を通すようなことを言うつもりはない。でもなぁ……俺の居た世界はこれほどの技術力はなかったから、そろそろ土や風が恋しいんだ」

「そういえば、あなたの居た世界の文明レベルはCだったって言っていたわね」

 

 ようは中世レベルの文明だと言えば分りやすいだろうか。ちなみに、蒸気機関のような生物以外の動力が広まったぐらいの文明からBとランク付けされるそうだ。

 

「ああ、そりゃあきついね。鉄の箱にでもおしこめられた気分ってとこかい?」

「そんなとこだな……ああ、なんだか息苦しくなってきた」

「だいじょうぶ?」

 

 大丈夫、と答えるマークだったが、やはり見るからに覇気が無い。ただ半分以上は演技だろうから、プレシアたちはそこまで相手にしなかった。

 

「だけど、マークの魔法を見せてから1週間だし、そろそろ何か決まってもおかしくないと思うけど……」

 

 それは誰もが思っていることだったが、なかなか言えなかったことだ。1歩進めば管理局への不満や批判になりかねない、繊細な部分でもある。一応犯罪者であるこの面子でそんなことを言えば、せっかくの有利な状況を崩しかねない。

 

「そう、その魔法で聞きたいことがあったのよ」

「……まあいいだろう。なんだ?」

 

 プレシアがやや冷や汗をかきながら、自然に見えるよう話題をそらす。ただ、話題をそらすためとはいえ、マークにはそれについて話すことに抵抗があった。

 

「闇魔法の範囲がよくわからないのよ……『エレシュキガル』もかなり広い範囲の内容だったようだし……」

「ああ、それか……」

 

 マークは思ったより答えやすい内容に安堵しながら、プレシアの質問に答える。

 

「もともと『闇魔法』は『古代魔法』と呼ばれていたんだ。その中でも危険度が高いものを次第に『闇魔法』と呼ぶようになっていった。……大きな対価に強力な効果のせいかな? さすがに詳しい経緯は知らないけど」

「なるほど……魔法の印象によってその名前が定着しただけで、実際は闇なんて関係ないのね」

「そういう事。昔見たものでは、広範囲凍結魔法まであったぞ? ……なぜか生物を対象から除外するという謎の効果までついていたが」

「なんだか、非殺傷設定みたいだね」

 

 そんな話をしていると、珍しくノックの音が聞こえた。一同は顔を見合わせて、珍しい訪問者を迎える。

 

「ゆっくりしているところ悪いな」

「なんだ、ハラオウン執務官か……どうしたんだ?」

「……いつまでそんな呼び方を続けるつもりなんだ? クロノでいい」

 

 そういいながら部屋に入ってきたクロノは最後に見たときから比べて、少しやつれたように見えた。目元にクマもあり、相当大変な思いをしていたのは想像に難くない。

 

「プレシア・テスタロッサ、フェイト・テスタロッサの処分が決まった。……保護観察処分になるそうだ」

「ん~、それってどんな感じになるんだ?」

「実質ほぼ無罪と言っていいだろう。異例ともいえる処分だが、マークさんの持つ魔道書の危険性が認められた結果、と言えるだろう。ただ……」

 

 フェイトたちはその結果に安堵し喜んでいたが、クロノがその結果にかなりの厄介ごとがついてきたような物言いに、すぐに表情を改める。いや、プレシアはもう気が付いたようで、クロノの言葉を遮り続ける。

 

「魔道書を管理局で管理することを主張する輩が多くなってしまった、ってとこかしら?」

「……その通りだ。一個人が持つには危険すぎるという意見が大半を占めている」

「別にちゃんと封印はしているし、そこら辺の部屋に押し込んでおくよりは安全だと自負しているが?」

「管理局としての自負もあるだろうが、やはり個人より組織の方が強いと言われると……」

「どちらかと言えば逆でしょ? 組織で管理した方がいいという建前で……いえ、失言だったわね」

 

 プレシアは判決が出たとはいえ、いらぬ厄介ごとを呼びかねない発言を途中で止める。だが、プレシアの言うように、管理局の名誉のためにもこのような危険性の高いものこそ手元に置いていたいのだろう。

 

「とにかく、俺が持つなら安全性を証明しろってことだろ? かまわんぞ?」

「いいのか? かなり面倒なことになると思うが……」

「ならないさ。ただ上層部にこう伝えてくれ『まず最初に俺が施した封印を観測してみろ』ってさ」

 

 確かに、どこにどのような封印があるのか知らなければ、封印を解除するなんて夢のまた夢だ。本来マークの友人が付け足した術式が無ければ、内側だけで完結した封印が解かれることはなかったのだ。マークの封印が解かれたことによって同格の封印であった『闇』の封印は解かれたが、マークが上位にいる封印は他者が手を出せるものではない。

 

「わかった、伝えておこう。それと、外出をする際には事前の申請などの手続きが必要なんだが……明日にでも持ってこよう。それと、マークさんの戸籍についても登録が必要だから、その記入も頼む」

「了解。……なんだか今更のような気もするがな」

「仕方無いだろう? あなたの使う魔法は、いくらなんでも非常識すぎる」

「そりゃあ、ここの常識なんて知らないからな」

 

 そういう問題じゃあ……などとつづけるクロノを放って、プレシアへと顔を向ける。

 

「とりあえず、よかったな。これからはお前しだいだ……手が必要ならいくらでも言ってくれ」

「ええ、あなたのおかげよ……感謝するわ」

 

 プレシアとしては一つ聞いておきたいことがあったのだが、娘たちの前では聞くべきことではないと今回は何も言わなかった。だが、今後は意図的にその話ができる状況を作ることを決意した。

 

 

「で、戸籍の記入はここでいいのかな? え~と……エミット?」

「エイミィです。まあ、ちゃんと自己紹介した覚えもないし、改めて名乗っておきますね? エイミィ・リミエッタです。よろしく、マークさん」

「ああ、済まない……マークだ。以後よろしくエイミィ。それで……」

「はい、今回の登録はここですよ。すみません、マークさんの情報は秘匿情報になってしまうので、正規の場所でない分わかりにくかったですよね」

「いや、たどり着けたんだから問題ない」

 

 次の日、テスタロッサ一家が今後の予定を立てているうちに、面倒事を済ませるためにここまで来たマークであったが、出鼻をくじかれたような形となってしまった。

 

「それで、大丈夫なのか? クロノは昨日死にそうな顔をしていたが……」

「あはは、私は昨日のうちに休ませてもらったから。最終的なチェックとかまでは手が出せないからね」

 

 エイミィはそういいながら記入する書類を用意する。それを確認するマークであったが、どうも書類の形式はマークの知るものと酷似していたようなのでわずかに安堵する。

 

「こっちで記入が必須のところはチェックしてあるから、順番に書いて行ってもらえる?」

「了解」

 

 そうしてマークは一通り用紙に記入を行う。とはいえ本当に基本的な事のみなので、そこまで時間をかけることなく記入を終わらせる。

 

「はい」

「どうも……う~ん、名字はやっぱりないの?」

「そんな大層なものは持ってない」

「大層って……まあ、この世界ではファミリーネームなんてあって当たり前だし、何かないかな?」

「そうは言ってもな……」

 

 あって当たり前と言われても、今まで考えたこともなかったのだ。そう簡単に出てくるわけがない。

 

「ま、後日改めて申請することでいっか。後は……2000歳?」

「ああ、かなり適当だが最低でも2000歳だ。いろいろわかるものを足せば、最高4500歳程度かな?」

 

 エイミィとしては絶句するしかないが、実際その程度の時間は生きてきたのだ。もちろん後者は封印された時間も含まれているので、適当にもほどがあるが……

 

「いや、わかってたことだけど……ホントわたしたちの常識なんて通用しないんだねぇ」

「悪かったな」

「ううん、悪くはないけど……あとどれぐらい長生きするの?」

 

 目の前にいるのが人の形をしたまったく別のものであると感じながらも、どこか実感がわかないため少しずれた質問になってしまったが、その質問は結果的に正解だった。

 

「いろいろ無茶をしてしまってな……あと100年も生きればいいとこだろ」

「あ~それなら寿命という意味では、もう私たちと大差ないんだ……」

 

 さすがにあと1000年生きます、なんて言われたらどうすればいいのかわからなかっただろうが、それぐらいならどうにかなるだろう。追記の欄に公式年齢は18とする旨を記入して、最終的に少し長生きな人、程度の評価になるのを願った。

 

「他には、性別、は問題なし。生年月日は冬……まあ問題ないかな?」

「これでいいか?」

「うん、残っているのはお互いの認識の齟齬を埋める作業だけど……こんなの一朝一夕でできる作業じゃないからね」

 

 そういいながら書類を片付けてから、エイミィは真剣な顔になって付け足す。

 

「これから、マークさんの故郷が見つかるまでこちらで生活することになるけど……何か困ったことがあったら言ってね! わたしやクロノ君で力になれることなら、いくらでも力を貸すから!」

「……わかった。何かあったら、君たちを頼らせてもらうよ」

 

 そのあとちゃんと、相方の次くらいに、などと付け加えられる余裕がある様子を見せ、エイミィを安心させた。あくまで先輩から聞いた話ではあったが、次元漂流者の中で『帰れない』ことを知った者が自殺したケースがあったとか……

 

「あ、そういえば質量兵器と非殺傷設定について話してなかった……」

 

 それを思い出したのはマークがたちさってしばらくたってからのことだった。

 

 

「それで、結構な時間出ていたと思ったんだが、まだ決まってなかったのか?」

「ああ、フェイト達がプレシアの体調を気遣って、プレシアが娘たちが楽しむことを最優先にしてね。なかなか妥協案が出ないんだよ」

 

 テスタロッサ一家の部屋に戻ってきたマークは、どうにもお互いのことを考えすぎて動けなくなった親子を眺め見る。口を出したい思いもあったが、戦いのことしか知らないマークはそれを抑え自重する。だがそこへフェイトが話しかけてきた。

 

「マークも言ってあげて! みんなで楽しまないと意味が無いんだって!」

「そうだよ! お母さんがそれでたおれたらいみがないんだよ!」

「……しょうがないな」

 

 そう言って、マークは3人が考えた計画表に目を通す。遊びについては専門外だが、これを行軍と置き換えれば何とかなるだろうと思っての行為だったのだが……

 

「やっぱり駄目だな。わからん」

「わからんじゃなくて……」

「フェイトとアリシアの計画から、休みを少しずつ減らして、プレシアの計画に休みを増やしたものを混ぜよう。それがいい」

 

 マークは計画表に何が書いてあるのか理解できないままに、3人の計画を混ぜて新しいものを作る。かなり強引だが、硬直した場をかき乱すにはこれぐらいがちょうどいいだろうとの判断だ。そうして出来上がったものを3人に見せる。

 

「……これぐらいなら」

「まあ……」

「いいんじゃないかしら」

「え?」

 

 思った以上にあっさりおさまってしまった場に、むしろマークの方が戸惑う。

 

「(結局さ、3人とも頑固だから調整する人がいなかっただけなんだよ)」

「(アルフ……わかってたならやってやれよ)」

「(あたしがやったらフェイト寄りになっちゃうからさ、手が出せなかったんだよ)」

 

 これは大変だと、マークは思わず天を仰ぐ。下手をすれば遊びに行った先でも同じことが起こりかねないと思ったためだ。

 

(これは大変だぞ……)

 

 マークは、おそらく監視役としてついていくことになるだろうクロノ達に、思わず同情の念を送った。

 




やりたいことは決まっていても、それを膨らませて話を作るのはやっぱり大変ですね……今後また更新ペースが落ちるかもしれません。
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