魔法少女リリカルなのは 炎の紋章を持つもの   作:コウチャカ・デン

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第21話 「蘇生の真意」

「なんで僕まで……」

「いや、わかっていたことだろ? まあ、言いたいことはよくわかるが……」

「いいかげん受け入れなさい。それにしてもマーク、あなたは来ないつもりだったの?」

「一家団欒の邪魔をするのは無粋かなと思っていた。それにな、戦い以外での遠出なんて初めてで、結構戸惑っているんだ」

 

 今マークたちがいるのは、本局にほど近いとある自然豊かな無人世界だ。もともとは局員の慰安用に管理していたのだが、短期の休暇にわざわざ出てくる者はなく、長期の休暇をこんな近場で過ごす者もいなかったため知る人ぞ知る穴場スポットになっているらしい。

 

「無駄に金使ってるんだな」

「……ここは生態系がとても安定しているから、管理と言っても名ばかりでロッジがいくつかあるぐらいだ」

 

 それも無人機械が手入れをしているため、年に一度機械を整備する程度で維持できるなかなかの優良物件なのだそうだ。

 なぜマークたちがこんなところにいるのかと言えば、先日のテスタロッサ一家が作った予定表にあった『ピクニック』が実現したためだ。ちなみにクロノは監視として、ロッジには中継連絡役としてエイミィが待機していたりする。

 

「おかあさ~ん! はやくはやく!」

「ア、 アリシア待って!」

「ふふ、今行くわ」

 

 そう言って足をわずかに速めるプレシアは、余命数か月とは思えぬ姿であった。

 

「……何か仕込んだのか?」

「仕込んだなんて大層なもんじゃない。ただちょっと体力の回復をしただけだ」

 

 そう言って苦笑したマークは、ある夜のことを思い出していた。

 

 

「で、話っていうのはフェイト達の前ではできない類のことなのか?」

「ええ……今後の生活に、あなたの力を借りたいのよ」

「ふむ、もう少し具体的に言え」

 

 マークが調整した計画表をもとに、管理局に外出許可を申請しに行った日の夜。プレシアは一人マークの部屋へと訪れていた。

 

「あなたの回復魔法を、私に使ってほしいのよ」

「あのな……前にも言ったが、俺の魔法は戦場の魔法だ。病気の治療には何の効果も……」

「別に治療のためではないわ」

 

 なに、とマークは眉をひそめるが、それに対しプレシアはある種の確信を持って告げる。

 

「あなたは、自分の回復魔法の効果を『傷の治癒と体力の回復』と言ったはずよ。なら、私が吐血しそうになった時、気管部の傷をふさいだり、病気によって落ちた体力を回復させたりできないかしら?」

「なるほど……そういう事か」

 

 思わずマークはプレシアの考えに唸る。確かにその理屈ならマークの回復魔法も使えることが予想されるからだ。ただ、問題もある。

 

「ひとつ、今まで試したことのない使い方だ。どんなデメリットがあるか見当もつかない」

「覚悟の上よ……私の予想では傷が治るとその部分が今までより分厚くなって、最終的に窒息の恐れがある程度よ。もちろん、窒息するほど膨らむ前にわたしの寿命が持たないでしょうけど」

 

 どうなるかはもうすでに考えてあったのか、などとマークは感心すると同時に、元いた世界とは技術や学問の深さが大きく違うのだと再認識された。

 

「もうひとつは、俺の回復魔法だって何もないところから発生しているわけじゃない。……寿命を削ることになるぞ?」

「もとよりこの命は、あの娘達のために使うと決めているわ。今更ベッドで過ごす時間が減ろうと、何の問題ないわ」

 

 その言葉を聞いて、マークはあることに気付く。それはマークがプレシアをなぜ生かしたのか、その理由を彼女は勘違いしている、という事にだ。

 

「ふむ……しかし、どうしたものか……」

「? あなただって同意したことでしょ? 何をいまさら迷うというの」

 

 確かに、プレシアが治療に専念しないという方針は支持したが、それとこれとは話が別だ。だがそれをどう伝えるべきか……そうしばらく悩むマークであったが、ふと思考を打ち切る。魔法を学んでから思考に費やす時間が増えたが、もともとマークは考えるのは苦手なのだ。

 

「おまえは、俺がなぜアリシアを蘇生させたのか理解しているのか?」

 

 マークは今回に限り相手を理解させるためではなく、自分の考えを押し付ける話し方をしようと決意する。そうして切り出した話は、プレシアにとっても時間を作り話しておきたいことであった。

 

「そう、それがわからなかったのよ……はっきり言って、あなたは『フェイトの味方』であって私の味方ではないでしょう? なら、アリシアを蘇生させるのはあまりに使用した力と結果のつり合いが取れないはず……それなのになぜ?」

 

 アリシアの蘇生を心から願っていたのはあくまでプレシアだ。フェイトのことを思うのなら、プレシアを助けて『家族をやり直させる』だけで十分ともいえるだろう。もちろんアリシアの蘇生はあるに越したことはなかったであろうが……

 

「確かに、俺はフェイトのために動いたが……微妙にその考え方はずれているな。俺はフェイトの『幸せ』のために動いたわけじゃない」

「は? それはいったい……」

「俺は、プレシアを幸せにするために動いたという意味だ」

 

 プレシアはその答えに絶句する。意味が分からない。目の前の存在が理解できない。出会ってすぐの相手、それもマークが相方を名乗っていた少女に虐待を加えていた相手なのだ。それを幸せにするために動いたなんて、何がなんだかさっぱりわからない。

 

「……そもそもフェイトがあの時なんて言ったか覚えているか?」

 

 それを聞いて、あの時のことを思い返す。そして気が付いた。

 

「一言一句同じじゃないが……『笑っていてほしい、幸せになってほしい』そう言っていたはずだ」

「ええ……そうね。だから、なの? アリシアを蘇生させたのも、私がそれを望んでいたから?」

「そうだ」

 

 歪んでいる。確かに順序立てていけば、一応理由にはなっているが、結論となる行為がどこかおかしい。だが、それのどこがおかしいのかうまく言葉にできないのだ。

 

「だから、お前が自分を勘定に入れないことを俺は許さない。今後は、娘たちのためではなく、自分が幸せになることも考えろ」

「……それでも、『自分が幸せになることも』なのね」

「ああ『だけ』と言っても、それだけじゃだめだというのはわかりきっているからな」

 

 そして、プレシアにはそれをどうすることもできないのだ。プレシアがたとえどんな言葉を使ったとしても、マークには届かないだろう。

 

(でも問題ないわ。私の言葉は届かなくても、あの子の言葉ならいずれ……)

 

 プレシアのそんな思いをなど知る由もなく、マークは『ライブ』の杖を構えてさっそく回復魔法を行使する。当然のごとくその魔法は、プレシアの思惑通りの効果を表すことになる。

 

 

「……おい! 聞いているのか!」

「ん? なんだ?」

 

 思いのほか長くあの夜のことを思い返していたせいか、マークはクロノが呼んでいるのに気づくのが遅れたようだった。

 

「なんだじゃない……置いて行かれるぞ!」

「ああ、悪い」

 

 マークは、テスタロッサ一家がいつの間にかずいぶんと先に言っているのを確認して足を速める。そこに再び、隣を歩くクロノが声をかけてきた。

 

「少なくとも、僕の知る限りあそこまで無防備になるのは初めてだな。……何かあったのか?」

「いや……蘇生の後意識を失ったことがあったろ、それは入れないのか?」

「意識があるのに、だ」

「それなら、この世界で仲間ができたからかな?」

「ああ、なるほど……」

 

 クロノは前を歩く3人を見て納得の声を上げる。そして、ふと思い出したかのようにそれなりに重要な一件を持ち出してきた。

 

「そう言えば、エイミィが質量兵器の扱いについて伝え忘れたといっていたが……」

「今じゃなきゃダメか? この場を離れたりしたくないんだが……」

「すまない……ただこの後そのことについて話すから、時間をもらいたいといっておかなければと思ってな」

「わかった。覚えておく」

 

 できることなら今日のことが終わってから話してほしかったが、そういうわけにもいかないから今話したのだろうと納得する。マークは重要人物としてより『触るな危険』といった扱いになっていることを自覚していた。

 

「おにいさん、はーやーくー!」

「マーク、遅いよー!」

「今行く!」

 

 話をしているうちにまた歩みが遅くなっていたようで、前を歩いていた4人はもう景色のよさそうな丘のてっぺんにたどり着いていた。それを確認して、これ以上お姫様たちを待たせないようにマークは駆け出した。

 

(ああ、風が気持ちいい……)

 

 ここまで余裕のある状況で駆け回ったことがあっただろうか。そんな思いを抱きながら、あっという間にフェイト達のもとへたどり着きその景色を眺める。

 

「おぉ……いい景色だ」

「ふふふ、でしょー」

「うん、今日はここにこれてよかった」

 

 アリシアが自慢げに、フェイトは感慨深くマークの感想に同意を示す。そして、この場に来ることに気おくれを感じているクロノを無理やり引っ張り上げ、シートを敷く。いくら回復したとはいえプレシアに走り回るほどの体力はないので、基本的にこの場にいることになる。

 

「おかあさん、またお花のかんむりのつくりかたおしえて!」

「えっと、わたしも……」

「わかったわ、こっちへいらっしゃい2人とも」

 

 さすがにそんなプレシアを置いてはいけないのか、フェイト達はこの場でしばらくゆっくり過ごすようだ。それを横目に見ながら、マークはごろんと横になる。

 

「まざらないのかい?」

「アルフこそ……しばらく自然が感じられなかったから、今のうちに満喫しておこうかと思って」

「それで昼寝か? ……まあ、気持ちよさそうではあるが」

 

 やはりあの3人の親子の間には入りにくいのだろう。自然とあぶれた3人が集まってくるが、正直それで何をするわけでもなくただゆっくり時間が過ぎるのを楽しんでいた。

 

「はい、おにいさん」

「ん?」

 

 それからどれほど雲を眺めていただろうか、突然伸びてきた手がマークの眼前に何かを差し出す。

 

「……ああ、花冠ができたのか。近すぎてなんなのかわからなかったよ」

 

 そう言ってマークは起き上がりながら、アリシアの差し出した花冠を受け取る。どうやらアルフもフェイトから同じものを受け取っているようだ。

 

「って、クロノは……寝ちゃってる」

「今日まで忙しそうだったしねぇ。寝かしといてやろうよ」

 

 アルフがそう言うのにみんなでうなずき、フェイトがクロノの胸元に花冠を置く。

 

「それにしてもよくできてるな……」

「でしょ! がんばったんだよ!」

「ああ、本当にすごいね」

 

 そう言ってアリシアの頭に手を伸ばそうとして、彼女の頭にも花冠が乗っているのに気づく。

 

「おかあさんがつくってくれたの!」

「そっか、よく似合ってるよ」

「えへへ、ありがと!」

「フェイトも、かわいいよ」

「え! あ、ありがとぅ」

 

 同じように花冠を乗せたフェイトにも同様に感想を言うと、真っ赤になってうつむいてしまった。

 

(褒められるの、慣れてないんだろうな)

 

 その様子に微笑ましいものだけでなく、暗い部分も想像してしまうマークであったが、すぐに意識を切り替える。

 

「それで、この後は?」

「うん、あっちの湖の方まで言ってみたいと思ってるんだけど……」

 

 そう言って指差すのは、丘から少し下ったところにある湖だ。わざわざ荷物などを持っていくには近いが、プレシアを置いていくには遠い距離と言えるかもしれない。

 

「獣化したアルフに乗って行ってみればどうだ? それならすぐに戻ってこれるだろ」

「アルフ、いい?」

「任せときなって!」

 

 そうして獣化をしたアルフは、どの程度の速さになるのか見せるためか、フェイト達の周りを大きく一周した。

 

「おお、アルフははやいね!」

「わたしたちが乗るときはちゃんと加減してね」

《わかってるよ! さあ、乗った乗った!》

 

 そうして2人はアルフの背に乗りキャーキャー言いながら湖の方へと駆けて行った。

 

「あなたは行かないの?」

「行くさ。ただその前に……」

 

 マークは杖を取り出し、プレシアに回復魔法をかける。

 

「マメな男ね」

「戦場では神経質なぐらいがちょうどいいんだよ」

 

 そう言って、マークはアルフを追って駆け出す。その速度は人間離れしていたが、もとより死者蘇生なんてとんでもない魔法を使う存在なので、プレシアは自然と受け入れてしまっていた。

 

「楽しそうだな」

「あら、起きたの?」

「あれほど大声を出しているんだ。そりゃあ目も覚める」

 

 そうして目線を向けなおした先には、2人の少女を乗せた狼と青年がほぼ同じ速度で縦横無尽に駆け回る姿があった。

 

「それで、私に何か用かしら?」

「特には……しいて言えばマークさんについてか?」

「彼について?」

 

 プレシアはクロノがなぜそんな話題を出すのかいまいちわからなかったが、それも次の言葉で理解する。

 

「彼は、この世界の常識に非常に疎いのは知っているだろう?」

「ええ、管理局にとって都合のいいことも悪いことも知らないでしょうね」

 

 クロノは最後まで言わなかったが要は、その『都合が悪い事』をプレシアの方から伝えてほしいという事だろう。

 

「さらに言えばファミリーネームすら持たないんだ。適当なものを考えておいてくれとは伝えたが……」

「そのような風習のない世界にいたのなら難しいでしょうね」

「そこらへんもフォローしてもらえないか?」

「わかったわ」

 

 プレシアとしても願ってもない話だ。もとよりマークに対して何か礼を返さなければと思っていたのだから。

 

(それに、私が居なくなった時あの子たちのそばにいてほしいものね)

 

 特にプレシアが何かをしなくてもそうなるだろうが、それでもプレシアはマークに頼みたかった。ちゃんと自分の手で託したくなったのだ。それだけにマークとのつながりが強くできる頼みなら、大抵のものは引き受けるだろう。

 

「それにしても……本当に楽しそうね」

 

 プレシアは、自分の命の終わりを感じながらも、恐怖も未練もなく、その光景を目に焼き付けていた。

 

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