魔法少女リリカルなのは 炎の紋章を持つもの 作:コウチャカ・デン
「だいぶ遅くなったが、質量兵器とやらの話を聞こうじゃないか」
「……本当に、帰ってから話すことになるとは思ってなかったよ」
ピクニックから帰ってきたマーク達はテスタロッサ一家と別れ、伝え忘れていたという質量兵器についての話をしていた。
「そもそもなんで今なんだ? 話す時間なんていくらでもあっただろう?」
「管理局では、あまり多くの人間が対応すべきではないという結論に達してね、実質あなたに仕事の話ができるのはアースラの面子だけなんだ」
「なるほど……」
プレシアの件やらマークの件で忙しかったクロノ達の仕事が落ち着くまで、どうしても時間が取れなかったのだろう。長い話になるのか、エイミィが飲み物を持ってきた。
「そもそも質量兵器が何を指すのかはわかるかな?」
「……確かクロノが、俺の持っていた槍をそう呼んでいたな」
「うん、質量兵器っていうのはそういった魔法を使用しない武器のことを言うの」
「そして、基本的に質量兵器の使用を管理世界では禁止されているんだ」
その言葉を聞いてマークは眉をひそめる。これだけ聞くと、マークに武器の提出を強制してるようなものだから当然だろう。だが、この話には当然続きがあった。
「言っておくが、マークさんの持つ武器については所持については許可を得ることができた」
「所持については、ってことは使用するなってことか?」
「完全に禁止されるわけではないが……いくつか条件が付けられることになった」
「その最たるものが管理局への所属だね。まあ、管理局は万年人手不足だから優秀な魔導師はたいてい勧誘しているし、私たちからすれば無理な要求には感じないんだけど……」
最後にエイミィがつい言い訳じみたことを付け足すが、それでもマークは難しい顔をしていた。
「……確かにそっちの主張はわかる。俺の使った魔法の価値や、それ以外の持ち物、戦力としても手元に置いておきたい存在だという事はな」
マークの使った蘇生魔法はもちろん、『フォルブレイズ』など、マークがかつていた世界においても最高位のものだ。いくら違う世界とはいえこのクラスのものがそこらじゅうに転がっているなんてことがありえない以上、マークという戦力は非常に危険と判断されておかしくないのだ。つまりマークの存在は周囲の人たちにとって非常に極端な性質をもった存在なのだ。
「その通りだ。だが、君も理解しているだろ? 基本的に、一般人が戦力を持つのは推奨されていない。力を持つ者は、ルールによって縛られていなければいけないんだ」
「それについても理解しているつもりだ。俺の力がこの世界に住む人々にとって『善性』であると認知されているならともかく、そうでない以上危険視されて当然ともいえるだろう」
「だったら……」
「だが、それでも俺には何をおいても優先させるべきものがあるんだ」
たとえ世界を敵に回してでも、それだけは譲れない。そんな決意を感じ、クロノ達はつい言葉に詰まる。
しかし考えてみれば当然な話である。マークの持っていた『聖石』を思い出せばそれもわかるだろうが、その世界で最重要と言っていい神器を一個人で扱う事の許された存在なのだ。『力』に対する責任というものを管理局以上に理解しているのだろう。
「俺はフェイトの相方だからな。一人でさっさとこの先に行く道を決めるわけにはいかない」
「……」
当然のように言ってのけるマークに、クロノ達は言葉を失った。今までまじめに考えていたのが馬鹿らしくなってしまう。
「まあ、本音はこんなところだが、実際自分が行ったことには責任を持たなきゃならないだろ? アリシアの蘇生の件もあるし、しばらくあの二人から離れる気はない」
「いや……確かにその通りなんだろうが」
「……先に後半のセリフが出てこないもんかなぁ」
クロノ達が何とも言い難い気持ちになるのも仕方がない話だろう。もちろんマークとしては無暗に戦いの種をまくようなまねをするつもりはないので、フェイトが管理局入りを断るようなら常時監視もやむなしと思っていたりする。
「まあ、彼女にも管理局への勧誘はするし、そもそもしばらく地球で生活する許可も得るつもりだったし問題ないだろ」
「責任感の強そうな子だしね。ほぼ無実になったとはいえ、結構事件のこと気にしていたみたいだし……」
「そうだな……フェイトなら管理局入りを拒否しないだろう。まあ、彼女がそう決めたら何の問題もないわけだが、間違っても強制はするなよ?」
もともとマークの提案で地球暮らしはほぼ決定していたようなものなので、進路を決めるまで時間はそれなりにあるのだ。今はまだそこまで深刻になる必要はないだろう。
「それじゃあ質量兵器についての話は終わりかな? まとめちゃえば管理局の監視下にあればいくらでも使っていいって話だし」
「いくらでも、というのは困るが……まあ、そこまで強い制約はない。ただ『特別な許可が出ている』事は忘れないでくれよ?」
「了解した」
一応了解はしたが、これから戦う機会がそうあるとも思えなかったマークとしてはそこまで気にしていなかった。
「次は『非殺傷設定』のことだね」
「……ああ、あの不思議設定か」
「それも話してなかったのか……」
マークにとってなぜか防御ができない謎魔法という位置づけだが、そもそもなぜ戦闘用の魔法に制限を付けるのかよくわからなかった。
「一応言っておくけど、管理局の仕事は犯罪者の逮捕だからな? 犯罪者を殺すことを目的としないからこその設定だ」
「……まあ、それがここの法だというのなら従おう」
「ぜひそうしてくれ。それで、この非殺傷設定の術式をマークさんの魔道書に付加できないか?」
「う~ん……」
これに対してもマークは難しい顔をするが、当然と言えるだろう。全く違う魔法体系の術式を合わせるなど、それこそ数年、下手をすれば数十年かかってもおかしくない行為なのだ。
「こちらで術式自体は用意するし、スタッフも集める。実際できるかどうかわからないが……」
「いや、それ以前の問題だ」
だが、マークはクロノの発言を止め、予想外の発言をした。
「俺は使うのが専門で、作る方はまるで駄目なんだ……だから無理。術式の再設定なんてできない」
「……そういうものなのか?」
本来であるなら、マークほどの実力があれば魔道書を書けないなんてことはないだろう。だが、マークが魔法を使うようになったのは『死者蘇生』のためなのだ。魔法の使用については問題なく行えるが、新たな魔道書を作れるほどではない。剣を振るう事と、剣を作ることが全く違う、という事と言えば分りやすいだろうか。
「そうなるともう一つの方法をとるしかなくなるんだが……」
「あんまりいい方法じゃないんだよねぇ……」
「とりあえず聞かせてくれ」
この後クロノ達にとっては不本意な提案を、マークは『何の問題もない』と言って快諾した。
「それで『凶悪犯罪者用強制外部設定』を受け入れたの? ……はっきり言って馬鹿じゃないの?」
「馬鹿って言うな……一応マイナーチェンジはしているらしいから問題ないって話だぞ」
この提案を快諾したマークに、かえって焦ることになったクロノ達はとりあえずプレシアに相談することを提案し、設定をつけることは後日に回すことになった。
「……確かに資料を見る限りは、魔力の封印値も3割に抑えられているし、魔法使用に対する外部干渉も解除されているみたいだけど……設定の解除自体は管理局の許可がいるのよ?」
「それでも質量兵器は所持が認められたし、そこまで問題にはならないと思うが?」
実はここにも認識の齟齬があった。管理局ではもちろん、プレシアでさえもマークの切り札は『フォルブレイズ』であることを疑っていなかったのだが、マークの本当の切り札は別にあるのだ。これは魔導師を最大の戦力とする管理局の先入観としか言いようがないだろう。
「でも、マークが犯罪者扱いされているみたいでなんだかヤダな……」
「一応言っておくけど、俺も本来なら犯罪者として扱われてもおかしくないことをやってるんだからな?」
「そうかもしれないけど……」
フェイトも思わず口をはさむが、やはり年の功というべきか、すぐに言いくるめられてしまった。
「まあ、どこかで妥協しなければならないのだから、妥当と言えば妥当かもしれないのは事実でしょうね」
あくまで『非殺傷設定』が広まっている管理世界においての話になるが、剣も魔法も十全に使用できる状態というのはさすがに問題があるのだ。誰もが何かしらの制限を受けているからこそ安定するものもあるからである。
「でも3割よ? もしもの時は大丈夫なの?」
「最大出力が、だろ? 総量が減るわけでないし、何より全力で戦う必要がある戦場になんか立ちたくないしな」
「確かに実力ギリギリの戦場に立つようなこと、そう滅多にあることじゃないわね」
いくら管理局が人手不足とはいえ、実力の見合わない人員を戦場に送り出すようなほどではない。それにマークの攻撃力がいくらか落ちたとしても、戦術面まで劣化するわけではないのだ。
「まあ、できれば封印を受けた状態がどんなものか確認はしておきたいがな」
「それなら模擬戦でも組ませればいいじゃない。管理局側としても、あなたの戦闘データが得られるなら喜んでやるでしょう?」
「それもそうだな……明日クロノにでも頼んでみるか」
「……ちゃんと手加減してあげてね?」
最大出力に制限がかけられるという事は、そのチェックのため、マークは自身の持つ最大の魔法を使うという事だろう。『非殺傷設定』をつけてからの模擬戦となるはずなのに、フェイトは心の底からマークの対戦相手となるクロノに同情をした。
「それで昨日あんなことを言ってたのに……なぜここに居るの?」
「ん~? 模擬戦するの止めたから、かな?」
「なんでまた……自分の実力を確認しておきたいと言ったのはあなたでしょう?」
後日、てっきり模擬戦をやると思ってそれを見ようとしていたプレシアたちだったのだが、それに反してマークは封印を施してすぐに部屋まで戻ってきたのだ。アリシアでさえ割と楽しみにしていたので、心情的にはかなりもどかしい。
「いや~よく考えてみれば必要ないかなって思って……一応『非殺傷設定』の発現だけは確認したぞ?」
「現状を確かめなきゃ落ち着かないんじゃないの?」
フェイトも心配するが、マークはそうでもないと前置きして話を進める。
「最大出力が3割落ちていることはわかっているし、それ以外の戦力の低下はないんだ。それにこれからは地球で暮らす予定なんだし、戦闘とは無縁の生活となるだろ?」
よほど不測の事態が無ければ戦う事なんてありえないのだ。それなら模擬戦で貴重な魔道書を使用するのも気が引けるというものだ。マークはフェイトへの勧誘が、ある程度の年齢になってからになるだろうと勘違いしていた。
(それに、戦士は辞めると考えているわけだしな)
武力を捨てるわけではないのだから、力の確認ぐらいはとも思っていたのだが、その手段が模擬戦というのはなんだか違うんじゃないかと思い直したのだ。
「でも、おにいさんがたたかってるとこ、見てみたかったな」
「それじゃあ、今度演武でよければ見てみるか? 一応見栄えのいいものも覚えてはいるし」
「うん!」
実践的な闘技場だけでなく、武威を競うような場にも参加したことがあってよかったと、マークはこの時初めて思った。