魔法少女リリカルなのは 炎の紋章を持つもの   作:コウチャカ・デン

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第23話 「平穏の終わり」

「ふっ、はっ」

 

 マークは、手に持った『ハルベルト』を振り回す。

 

「ほっ、はっ」

 

 突いて、薙いで、振り下ろし、そして叩きつける。

 

「っらぁ!」

 

体ごとぶん回し、切り上げ、今度は逆回りに回転する。その様子は、素振りというには流麗で、演武というには無骨すぎた。

 

「ったぁ!」

 

 大上段からの一撃を最後に、マークは動きを止める。それと同時に訓練室は静寂を取り戻した。いや、動きを止めたマークに近付く人影があった。

 

「庭園での立ち回りは見ていたけど……直接見ると迫力が違うわね~」

「……ハラオウン艦長か」

「リンディでいいわ。前にそう呼ばれたと思ったけど?」

 

 マークは覚えていなかったがそうは言わず、次に呼ぶときはそうしようと決めて頷くだけにとどめた。

 

「ここを勝手に使うのはまずかったか?」

「そうね、施設の使用は申請をあらかじめしてくれると助かるわ」

 

 そう、時間が早朝という事もあり、マークはこの場所を無断で使用していた。一応連絡用のデバイスもまだ持っていたが、時間が時間なので使う気になれなかったのだ。

 

「でもどうして急に訓練をするつもりになったの? 今までそんなそぶり見せなかったのに……」

「アリシアに演武をせがまれてな。ちょっと練習をしておこうと思ったんだ」

「演武……確かに見応えはあったけど……」

 

 それにしては人を『魅せる』要素が少なかったように思える。

 

「今のは準備運動のようなものだ。アリシアに見せるには戦場の匂いがきつ過ぎる」

 

 それを聞いてリンディはようやく理解する。流麗にも、武骨にも見えたのに『魅せられなかった』のは、その技が見るためのモノではなく使うためのモノだったからであると。

 

「じゃあ、今からやるのが?」

「ああ、演武と言って差しさわりのないものだ」

 

 そう言ってマークは『銀の剣』を出して構える。その姿は静かで、先ほどのハルベルト……ハルバードを振るう激しさとはかけ離れていた。

 

「……」

 

 リンディが静かに離れるのを見計らって振るわれた一閃はやはり静かであったが、美しく力強いものであった。それからさらに一閃、もう一閃とゆっくり流れるように剣戟が連なっていく。

 

(どうしたらこんな技術が身に着くのかしらね……)

 

 無粋と知りつつも、ついついそんなことを考えてしまうのは仕事に毒されているのか、と思いながらも思考は止まらない。魔法も一流を越えていると言って過言でないものだったのに、さらに剣まで修めているとは思わなかったのだ。そこまで考えて、庭園でも様々な武器を使っていたことを思い出す。

 

(『フォルブレイズ』が印象的過ぎたのかしらね……)

 

 リンディ自身も魔導師であることも影響していただろうが、『フォルブレイズ』の方が魔導師にとってわかりやすくすごかったという事だろう。と、そこでマークが演武を終える。

 

「素晴らしかったわ」

「……まあ、剣士はいない世界みたいだしこれで何とかなるか」

「……今ので満足できないの?」

「知り合いに本物の達人が居たんだ。それと比べてしまえば、自然とこんな感想が出るってもんだ」

 

 マークは自然に答えたが、リンディとしては『さらに上がいる』という事実に乾いた笑みしか出なかった。

 

「それで、こんな時間にどうしてこんなところに?」

 

 最初こそマークが勝手に動いたからだと思っていたが、それにしてはリンディが来るのは遅かった。ならば自然と厄介ごとかと思ってしまうのも仕方のない事だろう。

 

「あ~特に何があったわけじゃないわ。……ただ、仮眠のつもりが部下に気を使われてしまっただけよ」

「なるほど、アラームを止められたのか」

 

 機械類には疎いマークも、さすがに身近な便利品については教わっていたため、リンディの言った意味も理解できた。

 

「おかげで半端な時間になっちゃってね、気分転換に散歩していたのよ」

「ゆっくり休めたのならそれでいいだろ? それより、判決も出たのにまだまだ忙しそうだな」

「蘇生魔法のプロジェクトが立ち上がるのよ。現場にいた人間として、しばらくかかりっきりになっているの……他にもやらなきゃいけない事がたくさんあるのに」

「そいつは……まあ、頑張れ」

 

 リンディは恨めしそうにマークを見るが、マークは目を合わせようとしなかった。この件はマークが元凶だと言えるのだが、それを反省するつもりがなかったからである。

 

「まあ、決まったことをぐちぐち言っても仕方がないんだけど……」

「溜めこむよりはいいんじゃないか? まあ、たとえ奇跡が起こって蘇生が完成しても、俺は一切干渉しないけどな」

 

 愚痴ぐらいは聞くが手を貸すことはしない、そう明言するマークにリンディは苦笑する。

 

「強いわね……」

「今の会話のどこに強さを感じる要素があった?」

「長いこと探し続けていたことでしょう? それなのにもう干渉しないと言い切れるところよ」

「そもそも望み続けていた時間が違うんだ。やれることはやってしまったという事もある。ただ諦めてしまっただけさ」

 

 それと寿命のこともあるかもしれない、とマークは心の中で付け足す。あと100年もない命なら、フェイト達において逝かれたとしても2,30年で後を追えるのだ。

 

「まあ、俺が蘇生魔法を諦めた理由なんてどうでもいい。話がないなら俺は戻るぞ? そろそろ準備しないとみんなが起きてくる時間に間に合わなくなる」

 

 実際まだ少し早いが、汗を流したりしてこの練習について悟られないようにしなければならない。マークはアリシアに『面倒な事を頼んでしまった』などと思わせたくないのだ。

 

「そうね……ああ、一つだけあったわ」

「どんな話だ?」

「フェイトちゃんに荷物が届いているの。朝食の後にでも届けに行くわ」

 

 リンディはそれだけ言うと訓練室から出て行ってしまった。

 

「俺、ここでの話をあの子たちに話すつもりないんだが……」

 

 まあ、話さなくてもすぐに持ってくるみたいだしいいかと結論付け、マークも自分の部屋へと戻った。

 

 

「え? なのはからビデオメールが?」

「ええ、一応昨日のうちに届いてはいたんだけど……こちらの都合で遅くなってごめんなさい」

「い、いえ! わたしもほんとに連絡取れるとは思っていなかったから……」

「ふふ、ここはクロノのお手柄ね」

 

 その言葉でクロノがフェイトに手紙を勧めていたのを思い出す。

 

「そっか、後でお礼を言わないと……」

「ふむ……ちなみに『びでおめーる』ってなんなんだ?」

「『ビデオ』が映像記録『メール』が手紙のことよ。つまり『文字の代わりに映像が入った手紙』と思っていればいいわ」

「理解した……と思う」

「まあ、見たほうがはやいよ?」

 

 プレシアの説明と、アリシアの勧めで、とりあえず何も言わずに『ビデオメール』を見ることになった。

 

「ほう……」

 

 そこにはなのはが写っており、簡単なあいさつや、近況報告、友人の紹介やらいろいろ話している様子が見ることができた。

 

「……とりあえず元気そうでよかったな」

「うん!」

「理解することを諦めたわね?」

「もう『こういうものだ』って思うことにした」

 

 最初こそ原理などを理解できないものかと考えていたマークであったが、はっきり言って技術レベルが違い過ぎたのだ。その結果、最近ではこのような表面的な質問だけで終わるようになってしまった。

 

「まあ、それでも質問をやめないのは執念と言ったところかしら?」

「単語の最低限の意味を知っておきたいだけだ」

「ま、まあ、それはともかく、返事ってできますか?」

「ええ、局員立会いの下でなら映像記録を残して転送できるわ」

 

 それにそういうと思っていたし、と付け足しながら手のひらより一回り大きいぐらいの機械を取り出す。

 

「これでビデオを撮るのか?」

「そうよ、使ってみる?」

 

 そう言ってリンディはビデオカメラをマークに渡し、簡単に操作を教える。

 

「それじゃあどこで撮りましょうか? 流石に局内の施設を記録に残すわけにはいかないし……」

「ここでいいじゃないか」

「え? って、マーク!?」

 

 確かにこの宿泊施設と大差ない部屋の映像が流れたって問題はない。そう判断したリンディは、すでに録画を始めていたマークの行動を苦笑しながら見るにとどめた。

 

「も、もう撮ってるの!?」

「ああ、特に見られて困る格好でもないし構わないだろ?」

「確かにこの格好を見られても問題はないけど……」

「なら大丈夫だ」

「心の準備くらいさせて!」

 

 この後一度録画を止めて撮り直すことになったのだが、マークの操作のせいかこの冒頭部が残っていたのはまた別の話である。

 

「じゃあ、録画を始めるぞ?」

 

 そう言って今度こそ本番として撮影が始まる。ただ、一切の打ち合わせをしないで始めたことを付け足しておく。

 

「えっと、ビデオメールありがとう。なのはは久しぶりで、アリサとすずかははじめまして、フェイト・テスタロッサです」

「フェイトのおねえちゃんのアリシア・テスタロッサです。よろしくね!」

「母のプレシアよ。前回の件で迷惑をかけたことを謝罪しておくわ」

 

 ビデオカメラを持ったマークが、アリシアがおねえちゃんって映像じゃそうは見えないよな、とつぶやくがアリシアに、だってじじつだもん、と軽く返されてしまった。

 

「マークもあいさつしない?」

「ん~、俺は見てる方がいいや」

「そう……えっと、じゃあ」

 

 そのまま何から話せばいいのかと、フェイトが止まってしまう。おそらく話したいことがたくさんあり過ぎてまとまらないのだろう。

 

「とりあえず現状報告でもしたらどうだ?」

「あ、うん。管理局に着いてからは取り調べとかいろいろあったけど、全部終わって『保護観察処分』に落ち着いたんだ。今は……リンディさんたちの仕事が終わるのを待っている状態かな?」

 

 フェイトは申し訳なさそうな顔をしてリンディを見るが、当の本人は気にする必要はないとばかりに微笑んだ。

 

(まあ、プレシアのことは言いづらいよな)

 

 今テスタロッサ一家が管理局にとどまっているのは、プレシアの簡単な治療をしながら過ごすためでもあるのだ。もしそれがなければ、早々に地球での生活を目指して動き出していただろう。だが、さすがにそんなことは言えない。

 フェイトは話せないことは話さないまま、ピクニックに行ったことや、今後海鳴市に行くつもりであることを楽しそうに語った。

 

「わたしが伝えておきたいことは、こんなところかな?」

「じゃあ、これで終わりか?」

「……うん。じゃあまたね、なのは」

 

 そう言い終えたのを確認して、マークはカメラのボタンを押し録画を終わらせる。それと同時に緊張から解放されたフェイトが一気にがっくりくるのを笑って眺める。

 

「そんなに大変だったか?」

「だって、緊張しちゃって……」

「ん~俺には分からない感覚だな」

 

 マークはその強大な力もあり常に注目される存在であったためか、どうにもその緊張が理解できなかった。

 

「そういえば、さっきの録画中にも話が出たが……いつごろから地球に行くことになるんだ?」

「そうね……今クロノが申請しているはずだけど、基本わたしたちも一緒に行くことになるわ。だから……早くても半年ぐらいたってからかしら」

「準備期間と考えたらちょうどいいくらいかな? 俺も一般常識とか学んでおかないといけないし」

 

 リンディ達が管理局で早急に行わなければならない仕事が終わるのがそれぐらいなのだろう。プロジェクトの立ち上げにかかわる以上、それなりの時間がかかるのは仕方のないことだ。

 

「この子たちは現地の学校に通わせてもらえるのかしら?」

「ええ、もちろん。……でもさすがにアリシアさんをお姉さんとして登録することはできないでしょうけど……」

「ええ~」

「まあ、その容姿じゃ仕方ないだろ」

 

 外見年齢で行ってしまえば、アリシアは5歳、フェイトは10歳ぐらいなのだ。あえてなのはと同じ年齢にすれば、9歳としての登録になるだろうが。

 

「無理をすれば誤魔化せないかしら……せめて双子として」

「成長ホルモンが……とか、不可能ではないでしょうけど後で大変になりますよ?」

「周囲がどうとらえようが、本人たちが納得できればそれでいいじゃないか」

 

 子供時代はともかく、大人になれば差異は減っていくし、魔導師である以上管理世界で生活する可能性が高いのだ。地球でまで無理な形を押し通して姉と妹を主張する必要はないとも思える。

 

「そう、かもしれないわね……」

「? おい、どうした。顔色が悪いぞ」

「……ちょっと、急にね……」

「医務室へ連絡をするわ! マーク君は回復魔法をお願い」

「了解!」

 

 フェイトとアリシアが必死に母を呼ぶが、ただ大丈夫だと返すこともできない様子であった。

 もともと、いつ急変してもおかしくなかったプレシアの容体だったが、この日ついに入院せざるを得ない発作を起こした。

 




無理矢理感が全面に……
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