魔法少女リリカルなのは 炎の紋章を持つもの 作:コウチャカ・デン
それからの時間は瞬く間に過ぎて行った。基本的に地球で生活をするために、地球の文化の勉強と、ミッドチルダの法制度をいくつか延々と勉強し続けるだけ。時折フェイトのもとになのはからビデオメールが届き、その返事のビデオを作るときにはしゃいだぐらいだろうか。
「あの騒動を『はしゃいだ』で済ませるのか?」
「騒動ったって、俺が逃げ回って、アリシアがアルフに乗って追いかけまわしただけだろ?」
「管理局をほぼ網羅する追いかけっこを騒動と言わないでなんと言えと? しかも録画したままだなんて……局の構造を外部に流すためにやったと思われてもおかしくなかったんだぞ」
現実としてはカメラに映るのを嫌がったマークを写そうと、アリシアが少し意地になってしまっただけのことだ。
「あなたが折れればそれで済んだことでしょうに……」
「いやぁ……あの話を聞いてからカメラを向けられるとどうも避けてしまって……」
「……『写真を撮られると魂を抜かれる』ってヤツをか? いったいどれだけ昔のことを……」
「俺からしたらここの技術力は、過去のモノなんかじゃないんだよ」
さらにマークを擁護するのなら、彼の持ち物の中に『魔王の魂を封印した神器』があったことを付け加えておこう。身近に実在した以上、絶対ありえないと切り捨てられなくなってしまったのだ。
「まあいいだろ、そのことは……それで、状況が動いたのか?」
「……ああ、プロジェクトへの情報提供も終わったし、ここでなきゃできない仕事の類もすべて終わらせた。後はマークさんとフェイトの試験が終われば、何の問題もなく地球へ行ける」
「そうか……」
マークたちはしばらく地球で生活をするつもりであったので、正式な局員となることはしなかった。だが立場上管理局の影響下にいる必要があったため、折衷案として『嘱託魔導師』として登録することになったのだ。
「試験勉強の方はどうなんだ?」
「フェイトは順調みたいだな……俺の方は学ばないといけないことが多すぎていまいち進んでない気がする」
「試験は3日後だぞ、大丈夫なのか?」
「なんとかなるだろ」
その際試験を受けることになったのだが、戦闘能力はともかく、常識や教養に不安な部分があったためここしばらく勉強を続けていたわけだ。
「……今日からは僕も試験対策を教えるから、死ぬ気で頑張れ」
「お手柔らかに頼むよ」
「それはあなた次第と言うものだ」
その後マークはクロノにしごかれることになるのだが、割と切羽詰まった状況にもかかわらずまったく危機感のないマークに、クロノの心労が増すばかりの時間となってしまった。
そして肝心の試験では、クロノの苦労の甲斐もあり、何とか基準点をクリアすることに成功したのだった。
「だがそれとこれとは話が別だ」
「当然だろ……これは実技試験なんだから手加減してもらっては困る」
フェイトも同時に試験を受けているため、初日にマークが筆記、フェイトが実技、2日目はその逆と言う形で試験が行われることになったのだ。マークたちに接触する人間を減らすためと言う名目で、実技試験の相手は必然的にクロノになる。
「……正直に言って、マークさんの実技試験は免除にしても問題ないんじゃないかと進言したかったが」
「これ以上下手な前例を作るわけにはいかない?」
「そういう事だ」
マークからしてみれば複雑ではあるが、ひそかにクロノとの再戦を喜んでいた。もちろん『戦士を止める』と考えている以上素直に喜べない事でもあるのだが……
(相変わらず矛盾しているなぁ……)
己の内心に苦笑することしかできないが、長年戦場にいた本能が、勝つことを求められた義務感が、そして自身の種族の誇りがこのままの結果を良しとしなかった。ならば勝つしかないだろう。
「一応言っておくが、この試験はある程度の能力を示せばそれでいいからな。フェイトは勝たないといけないと勘違いしていたようだが、そんなことは断じてない」
「……そうだな、フェイトの敵もとらないといけないな」
「どうしてそっちの思考になる……」
クロノとしては、手札を隠したいとマークが思っていると思っての発言であったのだが、どうやら逆効果のようであった。いや、本音を言えばマークの『フォルブレイズ』を見て戦いたいと思う方がおかしいと思っている。
(なんでこんなにやる気になっているのかは知らないが……覚悟を決めるしかないな)
管理局の思惑として、マークの実力を測りたいと思っているのは理解できる。かつてマークと戦闘したことがあるクロノに白羽の矢が立つのは、仕方がなかったと言えるだろう。そしてクロノには、戦うからにはそう簡単に負けるつもりはなかった。
『それでは、準備をしてください』
巻き添えを食わないために別室で合図をするエイミィの言葉に合わせ、クロノはバリアジャケットを展開しデバイスを構える。
もともと鎧を着こんでいたマークも『ハルベルト』を担ぎ、どんな攻撃がきても対処できる体勢をとる。
「魔道書じゃなくていいのか?」
「ああ、問題ない」
マークとしては、魔導師として遠距離で戦うであろうクロノに対するハンデ兼好んで使う武器というだけのつもりであったが、クロノにとって予想外のことであった。『フォルブレイズ』を警戒して接近戦を挑むつもりだったのである。だが、それならそれでやりようはある。
『それでは……始め!』
「!」
開始の合図と同時に、クロノは自身最速の『スティンガーレイ』による先制攻撃を行う。当たれば儲けもの程度の牽制であったが、マークはこれに対しハルベルトを打ち付けることで相殺する。
「まだまだ!」
「ほう……!」
そこに追撃を加えるのは『スティンガーブレイド・エクスキューションシフト』タメが短かったため十分な数ではないが、それでも50近い数の刃が一斉にマークへと向かう。それをいつかの戦いのように、回避しながら相殺する姿にクロノはある確信を得る。
(やはり、バリア系の魔法を持たないのか!)
複数の魔力光弾を作り出し、マークに対して複数方向からの同時攻撃を仕掛けながらさらに思考を深くする。
(もともと『非殺傷設定』のない世界の出身だ。防御方法はまだ確立できていないはず!)
一撃でも当てれば勝機はあると確信し、さらにバインドを交え苛烈な攻撃を続ける。しかし、それはいつかの戦いの焼き増しにしかならなかった。
(当たらない……! ここまでやっても!?)
威力を度外視して限界まで数をそろえたにもかかわらず、マークはその攻撃を躱し、叩き落とし続ける。だがマークも防戦一方と言うわけではなかった。激しい攻撃の合間を縫って、あっという間に接近してくる。
「こんなものか!」
「クッ!」
たかが一撃、されど一撃。マークの攻撃はバリアによって防がれたが、それでも攻撃の手を緩ませるには十分だった。そこへさらに連撃を加える。
(さすがにこの程度じゃ防御に回るような愚は犯さないか……)
攻撃の割合は外から見る限り、まだまだクロノ優勢だがその実は違う。マークに攻撃の余裕があるという事は、武器を切り替える余裕もできやすいという事だ。攻撃を躊躇し防御に回れば、一気に決められてしまうだろう。
(『フォルブレイズ』を使ってこない……使用に条件があったりするのか?)
マークが近接武器を使う事への深読みではあるが、クロノからしてみれば希望的な観測である。そうでも思わなければ戦えない。そしてその予測が事実だとしても、そう長いこと大丈夫なわけではないだろう。
(なら、賭けるしかない!)
本当は初撃に使いたかったが、マークがハルベルトを持っていたため断念した戦法に切り替える。
「接近戦!?」
「もとよりほかに勝ち目はない!」
もともと広範囲に高火力の魔法を扱うマークに魔法で挑むつもりはなかった。ハルベルトの攻撃範囲から出る動作を反転させ、杖状のデバイスを思いっきり叩きつける。
「グッ!」
「はぁぁぁ!」
意表をついたためか、クロノの近接魔法『ブレイクインパルス』は、マークをハルベルトごと押し返す。だが、それだけであった。
「このっ!」
「……」
その後に続けた連撃は、ことごとく防がれ反撃される。それはまるで、この距離が本来のマークの距離だと言わんばかりであった。
(まさか! そんなことがあるわけ……!)
規格外の高火力魔法を持ちながら、近接戦闘もこなすマークに戦慄を隠せない。自爆覚悟で魔力刃、魔力光弾を打ち出すがことごとく撃ち落され回避される。そこにさらに追い打ちをかけるかのような声が届く。
「近接戦闘の方はこれぐらいでいいか?」
「何を……ガッ!」
刃を立てられたわけではない。ハルベルトの柄の部分で弾き飛ばされただけだ。だが、体勢を立て直して再び視認したのは、魔道書を構えたマークという絶望の具現。
「『ファイアー』」
「!!」
予想に反して使われたのは『ファイアー』だったが、それでも軽く見ていい魔法ではない。その一撃はジュエルシードを宿した巨鳥ですら屠る一撃となるのは確認しているのだから。
「この、程度!」
「ほう、じゃあこれならどうだ? 『エルファイアー』」
「!」
何とか回避し、防御して反撃を試みたクロノに対して、マークはあっという間に攻撃のランクを一つ上げてくる。その爆炎はクロノの視覚、聴覚を封じるだけにとどまらず、バリアジャケット越しでさえ皮膚を焼くような痛みをも与える。
「存外粘るな……だが、いたぶるのは趣味じゃないんだ。終わらせるぞ」
今まで戦いが長引いたのは相手に評価をさせるためであり、それも十分だろうと判断したマークはこの戦いを終わらせる魔法を選ぶ。
「こいつは、善戦したお前に対するサービスだ……うまく躱せたらもう一つつけてやる」
「……!」
魔道書を切り替える瞬間の隙を、クロノは全力の回避に使う。だが、マークが使用したのはそれで躱せるほど甘い魔法ではなかった。
「大地よ、怒れ『ボルガノン』!」
それは神器を除く、炎の魔法の最高位。大地を焼き尽くすかのような炎は、クロノを呑みこみ、この試験を終わらせる一撃となった。
「さすがにやり過ぎよ?」
「……ごめんなさい」
マークによって治療されたクロノが医務室へと搬送された後、マークはリンディに軽く説教を受けていた。軽く、で済んだのは『非殺傷設定』についての説明が中途半端な形でしか行われていなかったことが判明したからだ。
「いくら設定があっても人のやることに絶対はない。それぐらいわかる人だと思っていたんだけど?」
「あ~……ホント、申し訳ない。軽率だった」
マークは、なのはの『スターライトブレイカー』を見ていたため、設定について過大評価をしてしまっていたようだ。だが、属性の違いを考慮しなかったのはやはり注意力が散漫だったと言えるだろう。
「少しよろしいかな?」
「……誰だ」
先程の反省点を考えていたマークに、初老の男性から声がかかる。マークの性質上、局員の側から話しかけられることは少なかったこともあり、いくらか警戒がにじみ出てしまったのも仕方のない事だろう。
「マーク君、こちらはギル・グレアム提督よ。ほら、フェイトさんの……」
「ああ、保護観察官か」
「急に話しかけてすまなかった……そういう事だから挨拶を、と思っていてね。マーク・テスタロッサ君」
「マークだけで構いませんよ。その名前は慣れないのでね」
そう言いながら握手を交わす2人であったが、マークは初めてフルネームで呼ばれてむず痒い思いをしていた。そんな思いを知らずに、グレアムは話を続ける。
「しかし今の戦いは素晴らしいものだったね。その若さで大したものだ」
「……まあ、戦場に立ち続ければこれぐらいできるようになりますよ」
『若い』と言われることに疑問を持ちつつも、当たり障りのない言葉で返す。とはいえ、マークにとって真実でもあるのだが……
「その力を見込んで頼みがあるのだが」
「とりあえず聞きましょう」
「ふむ、一言でいえば、局の仕事を少し手伝ってほしいのだよ」
そう言って詳細を語ることには、近年増加の傾向にある凶悪犯罪者の逮捕だけでも手伝ってほしいとのことであった。
「こちらで居場所を突き止めるまではやるから、最後の一手だけでよいのだが……どうかな?」
「それぐらいなら構わないが……手柄を横取りされて憤るものも多くなるのでは?」
マークとしてみれば頼まれてやったことに対して逆恨みなどされては、たまったものではない。だが、そこはちゃんと考えていたようですぐに答えが返ってくる。
「調査能力と戦闘能力が平均して高い者など、そう多くはないのだよ。戦闘はできるが逃げるのが下手な犯罪者もまた多い。危険な任務になるので報奨もいい」
もちろんほかにも色々なタイプがあるが、と付け加えながらマークの返事を待つ。対してマークは大いに悩んでいた。
(この話は確かに利点が多い)
拘束時間は少ないし、戦闘に自信のあるマークにとって危険はないと言って過言ではない内容。さらに特別手当なども出るというのだから、収入のないマークにとってこんなにありがたいことはない。ただ一つある欠点は『戦士を止める』という意志に反する行為であることだけだ。
(だが現状、俺は戦う事しかできない……)
時間があれば何らかの技能を手に入れ、それを使い収入を得ることも可能だろう。しかし技能を習得するには時間がかかる。その間収入が無いのは、一般社会にとってつらいという知識は得ているのだ。
「わかりました……ただし、俺が辞めたいと言った時には辞めさせてもらいます」
「もちろん! 本人の意思に反してまでやらせようとは思わんよ」
そのあといくつか条件を確認すると、感謝の言葉を残してグレアムは去って行った。
「実動員は少ない、か……大変そうだな」
「いろんな世界を回ることになるから、求められるものが多くて成れる人が少ないのよ」
慢性的な人手不足、そんな中でマークの力は魅力的であったのだろう。唯一の欠点は、本人に長く続ける気が無い事だろうか。
「まあ、それはとりあえず置いといて……よかったの? 新しい魔法を使ってしまって……」
「新しいわけじゃ……そうだな、『フォルブレイズ』は見せているし、それより下のランクなら構わないさ」
まだ上のランクがあるのか、とリンディは誤解したが実際は同格が一つあるだけだ。後は他の属性のことだが、しばらくは隠しておいて構わないだろうと結論付ける。
「本当に呆れた実力ね……まだまだ底が見えないなんて」
「そうでもないぞ? 今回のクロノの攻撃を回避するのはかなり本気だったし、本来武器で相手の攻撃を受け止めるべきではないからな」
一撃でも喰らえばまずいことになるのを自覚しているマークにとって、前半の戦いは結構危なかった。後半だって近接戦闘をしながらの全方位攻撃は肝を冷やしたものだ。
「それでも、剣と魔法を同時に使えば容易に反撃できたでしょう?」
「……いや、そんな芸当はさすがにできない。だが、そういえばそんな芸当ができる武器があった」
「……」
リンディは余計な事を言ってしまったかと少し後悔した。
「あれでよかったのですか?」
自室へと戻ってきたグレアムに対し、唐突に声がかかる。だが、その声に対して共通の認識を持っていて当然のごとくグレアムは返す。それも当然、声をかけてきたのは彼の使い魔なのだから。
「下手に手を出して敵対されてはかなわんからな。少しでも地球から離れる時間を作れればそれでよい」
目的の完遂まで、あとわずかというところで出てきたイレギュラー。協力を得られるのであればそれが一番いいのだが、あのような不安定な立場の存在に事情を話すわけにもいかない。
「闇属性の魔道書をもつ者、か……彼の知識があれば別の手段を選べるかもしれない」
「さすがに危険すぎます。せめて信用できるか見極める時間がほしいのですが……」
「その時間を取れば、こっちの計画はもう終わってる頃になるだろうね」
結論として、不確定要素はなるべく蚊帳の外に居てもらうのがベストとなる。だが、地球暮らしを提案したのがマークである以上、必要以上に地球から離そうというそぶりを見せたら、何らかの疑いがかかるかもしれない。
「不確定要素があるとわかっても何もできないとは……歯がゆいものだな」
現状選べる最善の選択であるのは間違いないだろうが、それでもこれ以上手が出せないのが口惜しい。後は何事もなくことが過ぎるのを願う事しかできなかったのだが、その願いはすぐに砕け散ることになった。
次回からA’sに入ります。