魔法少女リリカルなのは 炎の紋章を持つもの   作:コウチャカ・デン

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ちなみに本作では、、原作より一か月ほど早い10月末という設定。


第27話 「戦場の想い」

「大丈夫?」

「うん、ありがとう、ユーノ」

 

 新たに現れた敵に叩き落されたフェイトであったが、バルディッシュの防御により大怪我は免れた。さらに近くにいたユーノの治療もあり、戦闘の継続には何の問題もない。

 

「バルディッシュも、守ってくれてありがとう」

 

 その言葉に、『当然のことだ』といった言葉を返す半身に笑いかけ、損傷部を復元する。そしてこの後の指示を仰ごうとしてフェイトはあることに気付く。

 

(そうだ……マークは視認できる範囲じゃないと念話ができないんだった)

 

 フェイト達から話しかけることはできても、答をもらうことができない。ならば自然とフェイトがこの後『こうする』と宣言し、それをフォローしてもらうしかない。

 

「どうしたの?」

「ううん……ユーノ、この結界内から全員を同時転送することはできる?」

「……うん、アルフと協力すれば、だけど」

 

 新しく来た敵に正面から叩き伏せられたことを考慮すると、戦闘で勝てる可能性は低い。マークに頼れば可能かもしれないが、一番の目的はなのはの救出であるので、ここは引くのがベストであると判断する。

 

「わたしが前に出るから、その間にやってくれる?」

「わかった」

 

 マークはもう戦い始めているようだからそれは任せて、残りの2人をアルフと共に抑える形になるだろう。一度は何とかなったが、今度は2対2だ。厳しい戦いになるだろう。

 

《アルフ、マーク……これからユーノに脱出のため動いてもらう。アルフは結界抜きの手伝いもお願い……できる?》

《厳しいけど……何とかやってみるよ!》

 

 思った通り、マークからの返事はなかったが、それでもこれで目的は共有できたはずだ。

 

「それじゃあ……」

「うん、行こう!」

 

 そうしてフェイト達も再び戦場へと向かう。その際不安そうにフェイト達を見るなのはを見つけ、『大丈夫だ』と微笑み返す。

 

(そうだ……私たちの後ろにはなのはがいるんだ。絶対に、負けられない!)

 

 決意を新たに、上空から迫りくる赤い少女に突撃する。

 

「はあぁぁぁっ!」

「でやぁぁぁっ!」

 

 フェイトのバルディッシュと赤い少女のハンマーが衝突し、火花を散らす。だが先程の一撃と段違いの重さに思わず飛び退く。

 

(そんな! 何が……!)

 

「わりーがあっちの方が危ない奴みたいだからな……一瞬で終わらせてもらう! カートリッジロード!」

「させない!」

 

 その動作をユーノはチェーンバインドを放つことで防ぐが、それも一時的な事、回避の直後に赤い少女の持つハンマーがその姿を変える。

 

「ぶっ飛べっ!」

「誰が……!」

 

 スパイクのついたハンマーの反対から火を噴き突撃してくる少女に対し、ユーノが稼いだ隙に展開したフォトンランサーを打ち出す。

 

「効くかよ!」

「なっ?!」

 

 だが少女はその攻撃を一切無視しフォトンランサーに突っ込み、直撃したはずなのにダメージを受けることなく接近し来た。フェイトはそのことを理解できず、一瞬ではあるが体が硬直してしまった。

 

「ラケーテンハンマー!」

「ぐっ! あぁぁっ!」

 

 その一瞬により回避を行う時間を失ったフェイトは全力で防御を行うが、それで止められるような一撃ではなかった。最後の抵抗として自分から後方に飛んだものの、ダメージを殺し切るには至らず、またもビルに突っ込むことになった。

 

 

「はあぁぁぁっ!」

「このっ!」

 

 そこから少し離れた場所で、マークはシグナムと互角の戦いを繰り広げていた。いや、マークから言わせてみれば思わぬ苦戦と言ったものであろうか。

 

「魔導師ばかりだと……お前らみたいのがいるとは思ってなかったぞ!」

「ふん、褒め言葉として受け取っておこう!」

 

 そもそもの原因は、マークがこの地で戦うものは魔導師ばかりだと思っていたことだろうか。確かにマークの人間関係の中では、フェイトが最も近接戦闘を行える武器を持っていたし、その系統の戦闘方法の相手なら『フレイムランス』で十分だったはずなのだ。

 

(見通しが甘かったか……まあ、脆い得物を持ち出した俺が悪かったんだけどさ)

 

 この世界の戦場のレベルを勝手に低く見積もり、本来魔法を使うために作られた槍で近接戦をしているのはある意味自業自得でもある。

 

「はっ!」

「おっと!」

 

 そんな後悔ともいうべき思考が動きに影響したのか、今までにないきわどい攻撃が顔のすぐそばを通り、マークの肝を冷やす。そして、それを何とか躱してできた隙にシグナムはさらに攻撃を重ねる。

 

(フェイトほどの速さはないが、瞬発力があるな……一撃が鋭く、重い。死角に潜り込むのもうまいし、連撃も流れを理解している……)

 

 相手の攻撃を躱し、受け止め、流して反撃をしながら、理想的なバランスのスペックを持つ騎士をつい観察する。その様子が余裕に見えたのか、シグナムはつい疑念を口にする。

 

「……本当に貴様、何者だ!?」

「一番最初に名乗っただろーが!」

 

 シグナムが疑問に思うのも無理はないだろう。戦場に一切の防具をつけずに現れ、ベルカの騎士と互角の接近戦をする魔導師など意味が分からない。

 

(しかも、奴は一切の傷を負っていないとなると……)

 

 そうなのだ、マークはこの戦闘が始まってから一切の怪我を負っていない。これははっきり言ってありえない、異常と言って過言ではないことだ。

 これは別に、シグナムと互角以上に戦うことがあり得ないと言っているわけではない。炎の魔力変換資質を持つシグナムと戦っておきながら、やけど一つ負っていないことがあり得ないのだ。

 

(余波が一切届いていない? ありえん! 現に奴の衣服はところどころ焦げているではないか!)

 

 まだバリアジャケットをまとっていたのなら、鎧の一つでも着ていたのなら理解できる。だがマークは防具の類を一切付けてはいないのだ。それを異常と言わず何と呼べばいい?

 

「そこっ!」

「!」

 

 つい意識が内側に向いたシグナムに鋭い突きが放たれるが、それを何とか弾き、距離を取る。さらに言えば、異常な事以外にもわからないことがある。

 

「……何をたくらんでいる? ここまであからさまだと、さすがの私も警戒するぞ」

「当然、逃げる算段だ」

「積極的に何をするでもないお前がか? それとも、私を抑えていれば何とかなるとでも思っているのか」

 

 そう、先ほどからマークは防御を中心に戦い、仲間を助けようとする気が見えないのだ。仲間が苦戦しているのがわからないわけではないにもかかわらずだ。

 

「あの程度なら、今後を思えばいい経験になるだろう。それに何もしないのではなく、する必要が無いんだ。俺らがここに来るまでに、何も手を打たなかったと思っているのか?」

「……」

 

 そう、マーク達は無理をしてまで戦う必要はないのだ。外にリンディ達がいる以上、いくらか時間がかかったとしても必ず増援があるのだ。

 それに対し、シグナム達には増援が無い。もしあったとしても管理局に勝る増援はないであろう。時間がたてばたつほど、どちらに天秤が傾くかなどわざわざ言う必要がないことだ。と、そこで急にマークが顔をしかめる。

 

「まったくあの子は……なかなか人の言う事を聞かない子だな」

「何を……!」

 

 シグナムはマークの言葉に疑問を投げかけようとしたが、その言葉を最後まで紡ぐことはできなかった。目を見開き、それを凝視する。

 

「悪いが、これで終わらせる」

 

 そのセリフと共に、マークがどこからか取り出した新しい槍を構える。そこにあるのは、先ほどまでマークの扱っていた『フレイムランス』が小枝に見えるほどの力を宿した聖槍。

 

「双聖器、炎槍『ジークムント』だ。半端な武器で全力を出すより、最高の武器で加減したほうがいいと判断した……誇っていいぞ?」

「ははは……ああ、確かにこれは凄まじい。そうだな、誇らせてもらおう……その槍の一撃を超えた後でな!!」

 

 その言葉とともに、シグナムの纏う魔力が跳ね上がる。マークにはそれがシグナムの本来の力なのか、それとも生存本能が刺激されたことによる覚醒にも似た力なのかは判断できなかったが、それでもその一撃にすべてをかける意思は見て取れた。

 

「レヴァンティン!」

 

 相棒の呼びかけに答え、レヴァンティンは三つのカートリッジを使用する。それはシグナムの限界を超えた強化であったが、目の前の脅威を考えればこの程度の無茶は許容範囲というものだ。

 

(そうだ、今やらずにいつやるというのだ!)

 

 絶望的なまでの差を見せるマークに対して、それでも諦めるなどという選択肢はない。それは騎士として、家族として守るべき主のために。

 

「紫電一閃!」

「『華炎』」

 

 炎を纏ったシグナムによる極限の一撃、それに対するは、同じく炎を纏う槍によるマークの奥義。それは魔力付与攻撃というこの世界ではごくありふれた一撃。しかしその一撃はマークの人外の膂力と神器の威力という常識はずれの一撃に、さらに魔力という鬼手を足した極悪と呼べる一撃だ。

 

「うおおぉぉぉ……!」

 

双方最大の攻撃は、この戦いに決着をつけ周りの建物を呑みこみ崩壊させるのに十分なものであった。

 

 

「……口先だけではなかったな。今の一撃は俺を越えるには足りなかったが、誇るに足る一撃であったぞ」

 

 マークは目の前の砕けた剣を持つ血まみれで倒れた女騎士に向かって、聞こえていないとわかりながらも称賛を送る。もとよりマークに神器を扱わせただけでも相当なものであるのだ。この結果を責めることができるものは存在してはいけないとマークは思う。

 

「ベルカの騎士、か……もし出会い方が違えば、共に戦うこともあったかもしれないな」

 

 剣を交えればすべてわかる。……とまでは言わないが、それでも何もわからないわけではない。シグナムの剣には、マークが羨むほどの『信念』に満ちていた。

 

「だからと言って、ここで逃がしたりはしない。何を望んでこんなことをしたのかは知らないが、もうそれに手が届くことはないだろう」

 

 そう言いながら、マークはシグナムに最上級の単体回復である『リカバー』の杖を使用する。

 

「まあ、俺の一撃もあっちには届かなかったみたいだがな」

 

極大の一撃がぶつかり合ったせいか周りの気配が読みにくくなっているが、それでもあの子のしていることははっきりと感じられた。

 

「スターライトブレイカー……休んでろとは言ったんだがな」

 

 そういうマークだが、なのはの気持ちもよく理解していた。自分の目の前で苦戦する友人をただ見ているだけなんてこと、10歳の子供が簡単にできることでははない。

 マークが急に方針を変えたのも、『見た目ほど苦戦しているわけじゃないから手を出すな』

との意味を含めたものだったのだが、どうやら伝わらなかったようである。

 

「……今からあそこに行っても間に合わないし、ナノハの一撃を合図にこの戦いも終わりかな」

 

 そのわずか数秒後、桜色の閃光によって結界が砕かれ、戦闘が終わる。マークが、なのはに特殊な攻撃が加えられたと知るのは、そのさらに数分後のことである。

 

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