魔法少女リリカルなのは 炎の紋章を持つもの   作:コウチャカ・デン

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第28話 「誤解」

「それで、ナノハの容体はどうなんだ?」

「問題ないらしいわ。数日以内に完治するって」

「そうか……」

 

 戦闘を終えて本局まで帰還したマークは、つい先ほどの戦闘で倒れたなのはの無事に安堵した。フェイト達は守るべき対象を守れなかったと落ち込んでいるようであったが、マークにとってこの結果であれば上々と言えるものであった。

 

「ところで、なのはにとどめを刺した一撃ってなんなんだ? 非殺傷設定だけではああはならんだろ」

「そうね、なんて言えばいいか……『リンカーコア』ってわかる?」

「いや……全く」

 

廊下を歩きながら、簡単なリンディの説明を聞くと、『リンカーコア』と言う魔力を生成する器官から直接魔力を奪われたとのこと、らしい。

 

「肉体にダメージはないけど、非殺傷設定とは全くの別物よ」

「何とも言い難い攻撃だな……またなんでそんな面倒なことを……」

「第一級捜索指定遺失物である『闇の書』を完成させるために必要な行為なのよ。『蒐集』と呼ばれていてね……とても危険なロストロギアよ」

 

 リンディの言葉には、危険性を訴える以上の思いが込められているようにも感じたマークであったが、わざわざ聞き出すのもどうかと考え脇に置く。

 

「起こりうる現象は?」

「魔力を集め終わった後に暴走するの。無限に等しい再生能力付きでね」

「また厄介な能力だな……」

 

 具体的な対処法を考えるにはもっと詳細なデータが必要だろうが、そもそも『無限に等しい再生機能』がある時点でほぼ詰んでいると言っていいだろう。対処としては暴走前に処分してしまうのがベストか……

 

「そっちは後で聞かせてくれ、それと俺の捕らえた女騎士はどうなっている?」

「まだ意識が戻っていないけど、しばらくは本局で拘留することになるわね。それにしてもよく捕縛できたわね……局の記録にある限りは、まともに対処できたことすら数えるほどなのに」

 

 マークはリンディの感心した物言いに苦笑で返して、この事について明言は避ける。フォルブレイズに続いてほかの神器まで使用禁止にされたら、たまったものではないのだ。

 

「これから私たちは、『闇の書』の探索・対応を担当することになるわ。……協力してもらえる?」

「もともと協力の約束はしているんだ。今更ひるがえすことはしないよ」

 

 そう、マークは嘱託魔導師の認定試験の後に、グレアム提督に手を貸す約束をしているのだ。予想以上に面倒そうな事件であるとはいえ、約束を違えることはするつもりはない。

 

「ありがとう、助かるわ。……問題はフェイトさんかしら?」

「? フェイトなら自分から手伝うと言ってもおかしくないだろう? これから家族になるかもしれない人が大変そうにしているのを、黙って見ていられるような子じゃない」

「……その話はまだしてないわよ。やっと和解できた母親が死んでしまって間もないのよ? それと、問題は逆よ……あまり仕事を手伝わせたら、年相応に遊んだりできなくなってしまうでしょう?」

 

 なるほど、と納得すると同時にマークの背中を冷たい汗が流れる。実はこの話をリンディに相談された次の日には、すでにフェイト達へと話してしまっていたのだ。

 

(あの子たちを形の上でも二人だけにしないっていうのは賛成だったからな……この世界の制度をあまり理解していない俺が、保護者の真似事をするよりずっといいと思うし、自分のことはやっぱり自分で決めるべきだろう)

 

 話すだけ話したので、後は心の整理がついたころに結論を付けさせればいい程度にしか考えていなかったので、心情云々と言われると非常に耳に痛い。

 

「まあ、本人次第だろ……」

 

 それでもなお、こう結論付けてしまうという事は、もうこの性格を矯正するのは難しいという事なのかもしれない。

 

(いや、それよりフェイト達のことか……)

 

 マークが脱線しかけた思考を元に戻そうとした時、そこに小さな影が立ちふさがった。

 

「ん? アリシアか……一人で出歩くのは珍しいな」

 

 確かに珍しいとは言え、今までもなかったわけではない。特にマークは連絡用と渡されたデバイスをまだ持っているので、調べればどこにいるかすぐ分かるから会いに来るといったこともあったのだ。

 だがなぜ今、と疑問にマークが思っていると、アリシアがぽつりと言った。

 

「フェイト、けがしてた……」

「……ああ、なるほど」

 

 マークはその一言で、アリシアの言いたいことを理解した。『なぜ、護れなかったのか』と言いに来たのだ。マークにも思うところがあっての行為だったのだが、今それを言ってもアリシアには言い訳にしか聞こえないだろう。

 

「悪かった」

「……」

 

 それを聞くと、アリシアは何も言わずにマークのすねを思いっきり蹴飛ばして走り去った。さすがのマークも顔をしかめるほど痛かったが、何も言わずにアリシアの背を見送った。

 

「……何も言わなきゃ伝わらないわよ?」

「何か言っても伝わらない時もある……それに、あの時は助けに入る気がなかったのも確かだ」

「え?」

 

 流石のリンディもこれには驚いた。その様子に苦笑しながらも、マークはその意味について説明する。

 

「敵に加勢が来るまでの戦いを見て、殺す気が無いのはわかっていたからな。それならどんな結果になっても格上との戦いはいい経験になる」

「万が一とか考えなかったの?」

 

 リンディからしてみれば、我が子をなるべく勝算の高い戦場に送り込むよう苦心してきた今までを否定された思いだった。だがマークの答えはリンディの思考の斜め上を行った。

 

「万が一のない戦場なんてない。それなら、少しでも危険の少ない戦場で慣らしておいた方がいいだろう? 戦場に立ち続けるなら、避けられない戦いもあるんだ」

 

 その戦場は、圧倒的な格上が相手で『非殺傷設定』を使わない相手かもしれない。そんなとき今回のような経験が生きて、何とか生き延びることができるかもしれない、と。

 

「どうも騒動に巻き込まれやすい性質みたいだからな、フェイトの友人は」

「……確かに管理外世界に住んでいるにもかかわらず、この短期間に2度もロストロギアに関わるのはちょっと異常ね」

「話を聞く限り、必然性は多少なりともあるがな」

 

 なのはは高い魔力を有していた。だから事件に巻き込まれたという考え方だ。どちらにしろ、巻き込まれた後逃げ出さなかったのだから、資質はあると思われる。

 

(英雄の資質、か……確定はできないが、彼女なのかもしれないな)

 

 マークの封印は、必要が無くなったから解かれたのだ。ではなぜ必要なくなったのか? 共に封印された存在を滅せるものが誕生したからだ、とマークは考えている。

 

「まだ推測の域を出ないか……」

「何か心当たりがあるの?」

「心当たりというか、そういった宿命を持つ子なのかなって」

「宿命、ね……」

 

 それは生まれたときから背負わされた役割か……リンディはそのようなものを認めたくなかったが、その言葉にどこか納得してしまった自分がいることにも気付いていた。

 

 

 その後、リンディと別れたマークは本局の技術部に出向いていた。

 

「邪魔するぞ」

「あ、マークさん……タイミング悪いですね、ついさっきまでなのはたちが居たのに」

「ん~……まあ状況報告とかもあったしな、後でちゃんとお見舞いには行くさ」

 

 ユーノが惜しそうに言うが、ここに来た本命は違う事なので軽く受け流す。ちなみにまだなのはと会っていなかったのは、結界のせいで戦闘中のデータが取れなかったらしい管理局に対して、口頭で説明をすることになったためである。ついでに、これを事細かに解説して管理局の面々をうならせていた。

 

「それで、こっちはどうなんだ?」

「はい、両機とも破損がひどいですけど修復は可能です。あと局の人と話して、強度を上げようと試みているんですが……」

「難しいか……」

 

 リンディも言っていたが、今後『闇の書』の担当になるのなら、今回のように途中で武器が破損するなど論外だ。だからと言って簡単に強化ができるのなら、そもそも今回のような事にはならなかったはずなので相当困難なのだろう。

 

「できれば頼みたいことがあったんだが……忙しそうだしまたにするよ」

「どんなことですか? ……って、僕じゃなくて技術官の人に話さなきゃ意味がないですよね」

 

 マークの目的の人を正しく理解しているユーノに軽く感心するマークだったが、しばらく頼めそうもないと思って軽く頼みたかったことを述べる。

 

「いや、防具について……『バリアジャケット』だったか? それを俺用に作れないかと思ってな……あとは念話の代わりになる通信機か」

「あれ? マークさんは立派な防具を持ってたじゃないですか?」

 

 そう言って不思議そうな顔をするユーノに、マークはその不便さをため息をつきながら訴える。

 

「着るのに時間がかかりすぎるんだ。ここに来るまでは行軍中どころか、戦時下においては常時着ていたし問題なかったんだが、ここでは基本的に着ていられないだろ?」

「なるほど、そうでしたね……ジュエルシードの時も、今回も、相手に合わせて動く形になりますもんね」

 

 だからせめて破れない服を……と思ってのことだったのだが、タイミングが悪かったようだ。

 

「修理が終わったらまた来るさ」

「お役に立てず、すみません」

「ユーノが謝ることじゃないって」

「あ、あの!」

 

 そう言って立ち去ろうとしたマークに、ユーノが声をかける。

 

「その……僕に戦いを教えてくれませんか!」

「無理だ」

 

 そう言ってマークはユーノの願いを一刀両断したが、それで諦められるようならもとよりユーノはマークに頼まなかっただろう。

 

「そこを何とか、お願いします!」

「お願いされてもなぁ……それ以前に、なんでまたそんなことを?」

「……今の僕じゃ、なのはを守れないんです。でも、なのははきっと戦い続けるから、僕も力をつけないと……!」

 

 そこまで聞いて、ようやくマークはユーノの言いたかったことを理解した。それと同時に、やはりマークにそれを聞くのは誤りであると判断する。

 

「とりあえず言わせてもらうが、どんなに頑張ってもお前は戦場でナノハに勝つことはできないぞ?」

「うぐっ」

 

 別にユーノが弱いというわけではないとマークは思うが、ここは相手が悪いというほかないだろう。話を聞いた限りでも、一月足らずでフェイトの実力に迫る力を得た少女なのだ。それを前にしたら並大抵の努力や才能では越えるどころか、足元に立つことすら危ういだろう。

 確かに、ユーノの『最前線に立つことになるだろうなのはを守りたい』という気持ちも理解できる。だからと言って適性のないところで頑張っても、双方を不幸にするだけの結果に終わるだろう。

 

「そ、それでも僕は!」

「言いたいことはわかるし、否定もしない。ただ、俺では教えられないだけだ。ほかの奴に頼め」

 

 そう言って、今度こそマークは部屋から立ち去る。ユーノが直前に何か言いたげにしていたが、マークに教えられることはないのだ。

 

(そうだよな、この世界の魔導師を知らない俺に、ユーノに正しい戦術は教えられないんだ。それだけに惜しいな、彼は伸びるだろうに……)

 

 ただマークと戦闘スタイルが違い過ぎるだけで、それなりに才能はあるだろう。そこまでわかっても、マークが教えてしまえば凡庸な魔導師で終わってしまう。できることと言えば模擬戦ぐらいだろうが、ユーノは単体で力を発揮するタイプではないのでやはり難しいだろう。

 マークはそう結論付け、次の目的地へと向かって歩き去った。

 

 

「お、やっと見つけた」

「およ? マークさんか、お疲れさま」

「マークさん……あ、その……」

 

 ようやく見つけた目的の人物であるエイミィとなのはだったが、なぜかなのはの様子がおかしかった。

 

「どうしたんだ?」

「その……指示を無視してごめんなさい!」

「ああ、なるほど」

 

 直接指示を出したわけではなかったが、参戦は不許可としたのに出てきたことを謝っているのだろう。とはいえ、フェイト達が劣勢に立たされているのを見て我慢できなかったというのを責めるのもさすがに酷だろう。

 

「まあ、とりあえず大事に至らなかったのだからよかった。それに、正規の訓練を受けていないナノハには難しい指示だったようだしな。今後は気を付けよう」

「え!?」

 

 それはマークにとって『無茶な要求をして悪かった』と言う意味だったのだが、なのはには『期待した俺が馬鹿だった』と言う意味に聞こえてしまった。

 

「魔力が回復しきるまで、無茶をしないでゆっくり休め」

「は、はい……」

 

 一度悪く取ってしまえば、後は連鎖的に悪い方へと考えてしまう。これは戦力外通知か、足手まといにはもう期待しないという事だろうか……だがそんななのはの様子も、今はただ体調がすぐれないだけだとマークも、エイミィですらそう思ってしまった。

 

「……ふむ、思ったよりもダメージが大きかったのかな? もうちょっと話がしたかったんだが、仕方ないか」

 

 エイミィに連れられ部屋に戻っていったなのはを見送りながらのつぶやきは、誰の耳にも届かず消えて行った。

 

 

「じゃあ、シグナムは管理局ってとこの人たちにつかまってもーたんか……」

「……ええ、まず間違いないと思うわ」

 

 そこにいたのは、つい数刻前にマークたちと戦った騎士と車いすに座った少女であった。

 

「ごめんなさいはやてちゃん……私たちの因縁につき合わせる形になっちゃって」

 

 

 『闇の書』の守護騎士としての因縁と、主である八神はやてに嘘をついたことに心が痛む。だが、ここは守護騎士としてではなく、はやての家族として譲れない場所であるため、その痛みを気取られるようなまねはしない。

 

「わたしのことはええんよ……でも、シャマル達は今は何も悪い事なんてやってへんのに……」

「……」

 

 その言葉にも黙ることしかできないのがつらい。そんな騎士たちの様子には気付かず、はやては今後のことを考える。

 

(過去を無かったことにはできないのだし、力づくで奪還するしかない)

(いや、そもそも管理局が以前と今の違いを把握していないだろうから、話し合えば道は開ける)

 

 極端な考えが頭にうかぶが、情報が足りな過ぎる。かといって情報を集めるにはシグナムのことを考えれば時間がない。

 

(犯罪者として裁かれてしまってからでは遅い)

(だが戦えばまた同じことが起こってしまう)

 

 戦うにしても、相手は組織である以上多勢に無勢だ。話し合うにしても、10歳の少女に対等な交渉なんて無茶にもほどがある。結局はやてにはどうするか選べず、相手の出方を待つしか手はなかった。

 だが、守護騎士たちにはそんな時間は残されていなかった。シグナムと言う騎士たちの将を失い、さらに切羽詰った状況に陥ってしまったのだ。

 

「だからって、やることは変わらない……」

「ああ……我等は、ここで立ち止まるわけにはいかない」

 

 少女と男は、飛び立つ。それが主にたいする裏切りだとしても、為さねばならぬと。『闇の書』が完成すれば何とかなると信じて。

 

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