魔法少女リリカルなのは 炎の紋章を持つもの   作:コウチャカ・デン

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第29話 「海鳴市へ」

 なのはの襲撃から丸一日たって、ようやくなのはに海鳴市への帰還の許可が出た。医師曰く『この若さで、これほどの量の魔力を奪われた前例はない。いくら回復が早いとはいえ、いや、早すぎるからこそもう少し様子を見るべきだ』と言われたためだ。

 

「お母さんもお父さんも心配してるよね……」

「(そして僕は恭也さんに怒られるんだろうな……)」

 

 一応連絡は入れているとはいえ、襲撃を受け倒れたのだ。なのはの両親の心配は相当なものだろう。

なのはが魔導師となったことは、友人に目撃された後に両親と話をしたらしい。その時も、やはり一人で危険なことに首を突っ込んだことを怒られた。そんなことがあったのにまた家族に黙って出て行って入院までしたのだから、今回も相当怒られるだろう。

 

(まあ説明する時間もなかっただろうし、そのことはフォローするけど……ユーノは何をおびえているんだ?)

 

「で、でも怪我自体は大したことないし、検査も念には念を入れるためだったから、ちゃんと話せば大丈夫だよ!」

「僕たちも事情は説明するし、そもそもジュエルシード事件の際は最後まで戦うことも許可してくれたんだろう? そんなに心配することないだろう」

 

 ちなみに今回海鳴市に来たのは、もともとここに住んでいたなのはと居候のユーノ(なのはが魔法のことを話してからは、人の姿で高町家で過ごしているらしい)、それにクロノとフェイト、最後にマークと子犬フォームとやらを採用したアルフだ。局員としてクロノがこの一行の責任者になるのだが、周りから見ればマークが引率しているように見えるのは仕方のないことだろう。

 

「……やっぱりハラオウン提督も来たほうがよかったんじゃないか?」

「仕方無いだろう……艦長は今後の拠点の準備やらの手続きで手が離せないんだ」

 

 高町家への挨拶は本来の責任者であるリンディが行うべきなのだろうが、最悪の事態を考慮すると1秒だって時間が惜しいのだ。だが、諸事情によりアースラがしばらく使えなくなってしまったため、新たな拠点を確保に奔走しなければならなくなってしまった。その結果アースラの№2のクロノが出張ることになったのだが……

 

(はっきり言って不安だな……交渉事とかそこまで得意そうには見えないし……)

 

 実際のところは、執務官であるクロノは全般的に高い能力を持つのであって、そもそもマークの基準がおかしいだけなのだ。

 

「それと、役職名は口に出さないようにとのことだったはずだぞ?」

「む、そういうクロノも『艦長』って言ったぞ」

「ぐぅ……使い分けなきゃいけない状況が長く続いたからな……どうしても仕事中という意識が無くならなくて」

「要努力だな」

 

 確かに『闇の書捜索』という仕事ではあるが、場所が場所なので役職名を使うのはまずいと判断されたのだ。それなりに長いこと『母』と『上官』を分けてきたクロノにとっては大変かもしれない。

 

(まあ、フェイトもナノハも楽しそうだし……別にいいか)

 

 一行は夜の郊外から高町家へと歩み続ける。季節は秋から冬へと移り替わる肌寒い道行であったが、なんだかんだでにぎやかな道程であった。

 

 

「……事情は分かりました。娘を守ってもらったこと、感謝します」

「いえ、管理局に所属するものとして当然のことをしたまでです」

 

 なのはの父である高町士郎の感謝に、クロノは無難な言葉で返す。ただ士郎にも思うところはあるようで、かなり固い言葉になっているのは初対面であるマーク達も感じることができた。

 

「正直なところ、私たちは魔法について造詣が深いわけではありません。なのはが戦いに巻き込まれたことに気付くことすらできなかったんですから、協力できることなら精一杯やらせてもらいますよ」

「助かります。さすがにここでは一切のつてがありませんから」

 

 娘が危険にさらされていたのに、気付くことすらできなかったことを悔いるように言う士郎の姿は、なのはにとって逃げるなどと言う選択を考えることすらせず、ただ危険に首を突っ込んだことを怒られるより堪えただろう。

 

「まあ、名目上は確かに『護衛』だが、管理局ではもう襲われることはないだろうと予測されているそうだ……安心していいだろう」

「そう……ですか……」

 

 残念ながら確信を持って言えることではないが、それでも複数回襲われた例はないためそこまで心配する必要はないだろう。もし襲撃を受けたとしても、今回は最初からマークやクロノがいるのだ。

 

「俺から言わせてみれば、うまい言い訳ができたからちょっと遊びに来たって言った方がしっくりくる」

「マークさん……その物言いはさすがにどうかと思うぞ?」

 

 ちなみにマークが主張した裏向きの主張はフェイトの『編入試験』だ。もともとマークたちの住居にしようとしていた家では、闇の書探索と言う仕事の拠点とするには狭かったので新しく探すことになってしまったのだ。そのため立てていた予定が狂ったのを立て直すのに、『護衛』と言う仕事をうまく使ったのだ。

 

「まあとにかく子供たちは明日のこともありますし、今日のところは終わりにしましょう?」

「そうですね……それではしばらくお世話になります」

「こちらこそよろしくお願いします」

 

なのはの母である桃子の鶴の一声でこの場はお開きになり、フェイトはなのはの部屋に、クロノはユーノが借りている客間に、マークは恭也の部屋に泊まることになった。

 

「それで、まじめな話なんだが……」

「さっきの話も不真面目だったつもりはないんだが?」

 

 子供たちが休んでから、マークは恭也と士郎に先程の続きの話をすることになっていた。やはりマークが引率のように見えていたのだろう。

 

「説明自体はちゃんと聞いているから問題ないが……管理局として、この一件はどう見ているんだい?」

「重要な案件ではあるようだが……今回ここに来た面子が一線級だ。増員は期待しない方がいいと思うぞ?」

「……さすがに若過ぎやしないかい?」

 

 以前護衛の仕事をしたことがあるという士郎からしてみれば、形だけのこととはいえ護衛としてきたのが3人と一匹と言うのは心もとないのだろう。さらに責任者が自分の半分の年齢にも達していないとなったら……

 

「いくら若いといっても、クロノは相応の努力を重ねて、その実力を上官に認められたからここに居るんだ」

「そうだね……失言だった、忘れてほしい」

「よろしい」

 

 あえて偉そうに答えたマークに、微笑ましいとばかりの笑みを浮かべる士郎はやはりマークの実年齢を知らないのだろう。

 

(まあ、局員でもない人たちに一組織が教えるわけないか……キョウヤは俺がマムクートだって知っているが、どうしようかな?)

 

 少し迷ったマークであったが、自分からわざわざ話すことではないかと流すことにした。

 

「具体的なことは本拠地を確保してから始めるってことだから、今は娘が友人を連れてきたって感覚で構わないだろう。その後のことは家族で話し合うなり、局員と話すなりしてくれ」

「だからこうやって……って、マーク君は局員じゃないのかい!?」

「……友好的な関係を結びたいと思っている被保護者だ。そもそも、なぜそんな考えに至ったんだ?」

 

 ジトリとした目を恭也に向けるマークだったが、気まずそうに眼をそらされた。

 

「あまりに普通に現れたから、もともと特殊な部署で働いていたんじゃないかって思ったんだ……ほら、潜入とか」

「そんな繊細な事、天地がひっくり返ったって出来ない。持ってる手札が良かったから、何とか話し合えただけだ」

 

 いくら手札がよかったとしても、組織を相手取った交渉では使い手が未熟ならあっという間にむしり取られただろうに、などと士郎は思ったが口には出さなかった。

 

「それじゃあ協力者として、君は今後をどう見るかい?」

 

 おそらく娘は手を引くことはしないだろう、と士郎は考えている。それは事実で、今まさにフェイトとなのははお互いの決意を語っていた。

 

「対策本部が置かれるという事は、この件は長引くとみて間違いないと思う。間違いなく戦いになるだろうが、保有戦力は引けを取らない以上よほどのことが無い限り無難な終わり方になるんじゃないか?」

 

 情報が少ないからこれ以上のことはわからないな、と付け加えるマークに士郎もおおむね同意する。初戦の突発的なものでさえ1人確保することに成功しているのだ。準備が整えば、戦いが起こるたびに何かしらの成果を上げられるだろう。

 

「それなら問題ないかな?」

「……思ってた以上に寛容だな。知らないわけでもないだろうに」

「その年でちゃんと理解できている君もすごいと思うよ?」

 

 どれだけ万全を期しても、防げないことはある。だが、だからと言って娘の行く道を阻むのも違うと思うのだ。

 

「本人にその意思があるのなら、早い遅いは周りのエゴだと思うんだ。幸い負けることも知れたみたいだしね」

 

 できれば娘と共に戦うことになる君たちのことも知りたい、と言う士郎たちにマークは少しだけ自分の話をして、ぜひ手合わせを、と言われ続けることになった。

 

 

「ついに出たわね、天の声の人!」

「残念だが神託を授けた覚えはないぞ、アリサ・バニングス」

 

 次の日、フェイトの編入試験の付き添いでなのはの通う学校に出向いたのだ。そこで出会ったのはビデオメールにも映っていたなのはの友人たち、月村すずかとアリサ・バニングスだ。

 

「え~と……天の声っていうのは、テレビなんかであるナレーションのことですよ?」

「む? テレビになんて出た覚えもないぞ?」

 

 フェイトとの出会いをひとしきり喜んだあと、アリサのマークに対する第一声がそれだったのだが、すずかの説明にさらに首を傾げるマークであった。それには苦笑しながらなのはが答えた。

 

「毎回ビデオメールに声が入ってましたよ? それでも一回も姿が映ることが無かったから『天の声の人』って」

「なん、だと……」

 

 大げさに驚くマークを見て、みんなが気付いてなかったのかと逆に驚いたが、マークが盗られた声が無いか確認し始めて、慌てて止めることになった。

 

「今まで大丈夫だったんだから、盗られてないよ」

「映ってた私たちだって大丈夫でしょ? 何を心配する必要があるのよ」

 

 それでも不満そうだか、不安そうにするマークを見て、思わず笑ってしまった四人を責めることはできないだろう。

 

「もういい……フェイト、そろそろ時間だ」

「あ、うん……じゃあみんな、後でね」

 

 短い時間であったが、何にも代えがたい友人たちとの出会いを堪能したフェイトは、編入試験では実力を出し切り、無事みんなと同じ学校に通うことになる。もっとも、この結果が本人に伝わるのはもう少し後のことであるが……

 

 

「ねえシャマル、わたしも練習すれば魔法を使うことはできるんか?」

「ええ、確かに適正はあるでしょうけど……」

「なら、最低限自衛できるぐらいの魔法を教えてくれへん?」

 

 それは守護騎士たちの将が捕まった夜を越えたときであった。いまだどうすればいいのかわからないが、それでも何かをしなければと、必死で考えた答えでもある。

 

「どんな選択をするにしても、今のわたしじゃ足手まといにしかならん……」

「はやてちゃん……」

 

 確かに今は足手まといでも、現状を良しとせず上を目指せばいくらだって変われる。否、変わらなければいけないのだ。家族を取り戻すためにも……

 

「わかりました……でも、これだけは約束してください。無茶な真似だけはしないって」

「うん、約束する! これからよろしくな、シャマル先生!」

 

 こうして少女は動き出す。もう一度、家族で笑いあえる日々を取り戻すため……そして、他方でも、それぞれの思惑を果たすために様々な事象が動き始める。

 

 

「予想以上の実力だね……」

「ええ、だが資料はいくつか手に入れることができた。……ここまでしてしまえば、もはや戻る道はない」

 

 そう、ある男のデータとあるデバイスを手中に収めた今となっては、たとえことがうまくいったとしても犯罪者となるしかないだろう。

 

「実行は彼らが完全に動き始めた直後」

「何としても『アレ』を完成させなければ……」

 

 その決意の一方で、今から行う行為への嫌悪も感じていた。だからであろうか……自分たちの行動が正しいと信じなければ動けなかった。邪魔をするものが悪と思わなければ実行できなかっただろう。

 そう、信じなければいけなかったがゆえに、自分たちの行動が過激になっていくのに気づくことは最後までなかった。

 

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