魔法少女リリカルなのは 炎の紋章を持つもの   作:コウチャカ・デン

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第30話 「日常の想い」

「いらっしゃいませ~……って、ナノハ達か」

「え? え? 何でマークさんが翠屋でウェイターやってるの!?」

「暇だったから手伝ってるだけだ。他意はない」

 

 翠屋の制服を着たマークは、フェイトの編入試験やアリシアの公立小学校へ歩編入手続きなど、リンディに頼まれていた雑事を済ませた後、いつの間にか翠屋の手伝いをすることになっていたと、軽く説明した。

 

「それより入口からどけ。客の邪魔になる」

「マーク君、口調は?」

「他のお客様の迷惑になりますので、お席へ案内しますね?」

 

 桃子に注意され、微妙に変な言葉遣いになったマークに案内されたなのは、すずか、アリサの3人はそのままマークを質問攻めにする。

 

「暇だったって……アンタの仕事はなのはの護衛でしょ?」

「……今は」

「マーク君、フェイトちゃん、もう終わりにしちゃっていいわよ~。もともと人数が足りなかったわけじゃないんだから」

「……」

「フェイトちゃんも手伝ってたんだ」

 

 桃子の言葉で、隠れることを諦めたフェイトがカウンターの影から現れる。その姿はマークと同じように翠屋の制服であったが、さすがに本格的に店の手伝いをやらせていたわけではないだろう。

 

「制服似合ってるね、フェイトちゃんもウェイトレスやってたの?」

「あ、ありがとう、すずか……ちょっとだけ、テーブルを綺麗にしたりするぐらいだよ?」

 

 真っ赤になりながら答えるフェイトに、なのはとアリサも褒め言葉を重ねる。マークはそんな様子を横目に見ながら、桃子からケーキと飲み物を受け取りテーブルに着く。

 

「モモコからだ。フェイトも、エプロンを外せばここで過ごしても構わないそうだぞ」

「あ、うん、わかった」

 

 休憩中に店員として扱われない最低限の衣装替えを行い、フェイトも席に着く。それからそろってお礼を言って、ようやく元の質問に話が戻った。

 

「いや、相手がいないのに何をしろって言うんだ? 奇襲をするのは基本的にこの地では不可能だしな」

 

 この世界で戦おうと思ったら、まず結界を張って外界と切り離さなくてはならない。そんなことをすれば何をしていたって気付くので、相手が攻めてこない限りはそこまで気を張っている必要はないのだ。

 

「それで翠屋の手伝いを?」

「ああ、かつての戦友が酒場を開いたことがあってな。それを手伝った経験があるから、何とかできるかと思ったんだが……」

 

 結果は微妙なものだった。大きなミスをするようなことはなかったが、営業に貢献するようなこともなかった。何度か接客態度を改めるように桃子に注意を受けたので、総合的にマイナスかもしれない。

 

「まあ、あんたの容姿に惹かれて店に入ったお客さんが居ればイーブンでしょ?」

「もともとここの店は看板に困ってないだろうが」

 

 アリサのフォローも軽く流したマークであったが、実はなのはたちが来るまでに何度か声をかけられていたりする。ただ、マークはそれを『いつもと違う人が居たから気になったって声をかけてみた』程度にしか受け取ってなかった。マーク以上にフェイトに話しかける客の方が多かったのも一因かもしれないが……

 

「マークさんがそう思っているのなら、それでいいですけど……今日限定ですか?」

「いや、アルバイトとして雇ってもらえることになってる。局の手伝いが不定期だから、諦めていたんだが……何かと融通してくれてな」

 

 さらに言えば、地球のことや管理世界について、知っておきたいことは山ほどあるのだ。戦い以外で収入を得たいとは思っているが、今はそれ以上にものを学ぶ時間が欲しいので週2日のみ翠屋で働くことにしたのだった。と、そこまで話したとき、事もあろうか店主が口を挟みに来た。

 

「本当は鍛錬に付き合ってほしかったんだけどね」

「シロウ……何で俺よりも巧い奴の鍛錬に付き合わなきゃならないんだよ」

「僕より強い人が何を言ってるんだい?」

 

 士郎から見たマークの適性を言えば、明らかに間違った方向へと進んでいるように見えたので、つい口を出してしまった。そう言って士郎は笑うが、平和を享受したいマークからしたら余計なお世話である。

 

「詳しく聞いてもいいですか?」

「もちろん……って言っても、『手合せと店の手伝いどっちがいい?』と聞いたら『手伝い』と言われただけだけどね」

「そういえば以前、恭也さんとの手合わせも断ったんでしたよね?」

 

 すずかの言を聞きマークに視線が集まるが、マークは取り合わずに士郎に別のことを問いかけた。

 

「そんなことより、用件があってきたんだろ?」

「……はあ、まあいいけど。クロノ君から電話が来たんだ。『本局に顔を出すから来てくれ』だってさ」

「了解した。フェイト、ナノハ、行くぞ」

 

 スズカとアリサはまたな、と言い残してあっという間にマークは出て行ってしまった。二人の魔法少女もあいさつもそこそこに慌てて出て行ってしまう。

 

「なのはもフェイトも戦うのね……私も魔法が使えれば手伝えたのに」

「……今度わたしたちも何か手伝えないか聞いてみようか?」

 

 士郎は、友達が戦っているのに助けることができない、と落ち込んでいる少女たちに声をかけようとして止める。剣士として一線級の力を持っているのに戦いに参加できない士郎もまた同じ思いだからだ。

 

 

「修復したデバイスの説明って、俺来なくてもよかったんじゃないか?」

「マークさんは別の要件だ。……グレアム提督が話をしたいって」

「なるほど」

 

 話と言っても見当もつかないマークは首をかしげるしかなかったが、それよりもフェイト達にとっての朗報が勝った。だが、デバイスの修理が終わったのかと喜んだフェイト達に対しては待ったがかかった。

 

「確かに修復は終わったらしいが、フレームの強化にもう少し時間がかかるらしいんだ」

「え? 強化って?」

「以前聞いた時はかなり困難だって話だったと思ったが?」

 

 クロノの話に首を傾げるなのは達だったが、続く説明を聞いて納得した。

 

「なるほど……あの女騎士のデバイスか」

「確かにすごく頑丈だったよね……バルディッシュじゃ受け止められないくらい……」

 

 以前の戦いで捕縛したシグナムのデバイスからデータを取った結果、困難であったレイジングハートとバルディッシュのフレーム強化が可能となったのだ。その時の戦いを思い出したフェイトが少し沈んでしまったが、なのはと小声で何かを話すとあっという間に立ち直った。

 

「うん、次は絶対負けない!」

「意気込むのはいいが、熱くなり過ぎるなよ?」

 

 何となく不安を覚えたマークであったが、あまりうるさく言ってやる気を削ぐのも悪いと思い一言注意するだけに収める。そうして二人と別れたマークは、クロノと共にグレアムのもとへと向かった。

 

「失礼します」

「おお、久しぶり……と言うほどではないか、呼び出すことになって申し訳ないね」

「いえ、重要な役職に立つものが下手に動けないという事は理解している」

「そう言ってもらえると助かるな」

 

 軽く挨拶をして席に着いたマークは、出された飲み物が紅茶であったことに軽く落胆する。

 

「紅茶は苦手だったかな?」

「いや……こっちに来てコーヒーが気に入っただけだ」

 

 グレアムはあまりにストレートな物言いに思わず笑ってしまいながらも、次からはコーヒーを用意しておこうと約束をした。

 

「それで、今回はどのような用件で?」

「……そうだね、先に話を済ませてしまおうか」

 

 マークとしてもいささか性急かと思ったが、いつまでも呼び出された理由がわからないのは気持ちが悪かったのでさっさと質問してしまった。それに対して少し言葉を選ぶかのような間を開けて、グレアムは今回呼び出した用件を語り始めた。

 

「以前の武力要請を覚えているかね?」

「当然だ」

「そのことなんだが……君が『闇の書』捜索に加わることになったと聞いてね、どうしたものかと悩んでいたんだよ」

 

 どういう事だ? そうマークは眉をひそめると、グレアムは言葉を続けた。

 

「いつ何が起こるかわからない状況にある君に頼みごとをするのは気が引けてね……とはいえこの手の任務は待機時間の方が長い」

「そういう事か……そこらへんは俺ではなくリンディと話してくれ。俺が居なくても戦局がそう変わらないと判断するなら、こっちに出向くことに反対はしない」

 

 そう言ってマークは判断を管理局に一任してしまった。これにはさすがのグレアムも驚きを隠せない。

 

「い、いや……それは……いいのかい?」

「もともとこの話は、俺みたいなのに頼みたい任務があったから出た物だろう? 流石に帰る間もないほど詰め込まれては困るが、余裕のある日程であれば構わないさ」

 

 確かに管理局が人手不足であるからこその申し出であったが、ここまで好条件で受けてもらえるとは思っていなかった。……いや、それは違った。

 

「……貸しを作ってしまったようだね」

「おや? この程度で貸しと思ってくれるのかい?」

 

 その言葉にグレアムはしてやられた気持ちになる。ひょっとしたら、前回にこの話が出たときに乗り気でなかったのもブラフだったのかもしれない、と思えてきてしまう。

 

(とはいえ、前回もそうであったが結論は出ている)

 

 できるだけ、それでも不自然にならないように地球から離れていてもらいたいのだ。ならばこの程度の貸しは許容範囲であるだろう。それに加えて、もう一つ手を打っておく。

 

「あと、役に立つかはわからないが……『無限書庫』も解放しよう。我らとは異なる知識を持つ君なら、また違ったものが見えてくるかもしれない」

「『無限書庫』?」

「次元世界のあらゆる情報が集まった場所だ。……ひょっとしたらマークさんの出身世界の情報も見つかるかもしれないな」

 

 首を傾げるマークに対してクロノが簡単に説明を加える。グレアムとしては『闇の書』対策にどうかと思っての提案に見せようとしたのだが、別方向で解釈されてしまったようだ。

 

「そうだな……今度覗かせてもらおう」

 

 もはや帰る場所などないと思っているマークにとっては意味のないものだが、それでも好意として受け取った。

 

「用件はこんなとこか?」

「ああ……仕事については後日、いや、いくつか資料が手元にあるから渡しておこう」

「準備のいいことで」

 

 なんだかんだ言って手伝ってもらう気満々だったグレアムに対して苦笑を漏らしながらも、マークは資料を受け取りその場を後にした。

 

 

「そう言えば、シグナムはまだここに居るのか?」

「シグナム? ああ、女騎士か……居るはずだが、会いたいのか?」

「いや、あれがあそこまで強い意志を持ったのがどんな理由だったのか聞きたかっただけだ」

 

 おそらく尋問の類は行われているだろうと予想したマークは、結果のみをクロノに尋ねるが良い返事は帰ってこなかった。

 

「思いのほか口が堅いらしい。いまだ何の情報も口にしていないとか……」

「ほう……意外、でもないか。強い信念を持った奴だったし」

 

 そう納得するマークだったが、クロノからしてみれば情報を引き出せないのは思った以上にきつい。

 

「もしよければ話をしてみないか? 実際剣を交えた君になら、何かしらの反応があるかもしれない」

「いいだろう。いつだ?」

「一応申請をする必要があるから……今度なのは達のデバイスが完成したときにでも」

「了解した」

 

 もう一度あの騎士と話ができる。それはマークにとって思いのほか心躍ることであったのだが、本人はそれをあまり自覚していなかった。

 

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