魔法少女リリカルなのは 炎の紋章を持つもの   作:コウチャカ・デン

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第31話 「蹂躙」

「いや~、これはもう一家に一人マーク君の時代だね~」

「……まあいいけど、それよりエイミィって俺のこと『君』付けだったか?」

「いいのか、それで……」

 

 今まで行っていた作業がひと段落したところに挟んだ休憩では、残念ながらまだ荷物は箱の中であるため缶コーヒーでの一服となっていた。というのも、本日ようやく海鳴市への引っ越しが行われているのだ。

 

「前は『さん』付けだったよ? ただ、これからここで生活するんだから、『君』にした方がいいかな~って。ほら、私たち外見年齢はそこまで変わらないでしょ? ダメだったかな?」

「なるほど、いや構わないさ。ただ、実際の年が年だからこんな呼び方をする奴は少なかったからな」

 

 慣れない呼ばれ方なので、いくらか反応してしまうだけ。それこそ呼び捨てか『殿』『様』等と呼ばれてばかりいたのだから、それぐらいは勘弁してほしいところだろう。

 

「それにしても、本当に力持ちだよね。予定より一時間も早く荷物の運び入れが終わっちゃうんだもん」

「……そうだな、行軍なんかで荷物を運ぶのはそこそこ慣れていたからかな」

「だが、ここを拠点とするのにここまで物資が必要だとは、正直思ってなかったよ」

 

 アースラの整備はそれなりに時間がかかるという事もあるが、それ以上にかなり長い期間マークたちがこの地で過ごすための処置でもあるのだ。ひょっとしたらいずれ『管理局地球本部』として定着してくるかもしれない、などと益体もないことを考えるマークであった。

 

「それは認識が甘いってもんだよ、クロノ君? 特に闇の書の探索のため、かなり広範囲をカバーできる機材を持って来てるんだから」

「そうだな……辺境に砦を立てるのに、生半可なものでは何の意味もないのと同じようなもんだ」

 

 クロノはマークの微妙なたとえに思わず突っ込みそうになるのをこらえ、言われてみればとばかりに質問を繰り出す。

 

「……そういえばマークさんは元軍属だったな。軍人として今回の件はどう見る?」

「ん~、時間はかかっても、危なげなく終わるんじゃないか?」

「言い直そう……戦力的にはどうだ?」

 

 マークの基準を聞くことで、マークの出身世界の戦士たちの実力を把握したいという思惑もある。だがそれ以上に、フェイトとなのはを巻き込んでの戦いになることに対する不安があった。

 

「シグナムとの対比になるが……総合力ではクロノでも劣ることになるだろうな」

「それほどか……」

「ただまあ、元々とんがった能力を持つフェイト達なら勝ち目はあると思うぞ?」

 

総合力でいえばクロノの安定感は抜群だが、その分意外性というか、起死回生の一撃のようなものが無いのだ。そのため同じバランス型であるシグナムと戦うのはかなり厳しくなる。

 

「こうやって聞くと、同じバランス型で圧倒したマーク君の実力がよくわかるよね」

「いや、俺も膂力の突出型だぞ?」

 

 そのマークの言葉に、思わず二人は固まってしまう。

 

「……確かに傀儡兵と戦っていた時にはすごい力だと思ったが、技も速さも十分あるだろ?」

「魔力もかなり高いし……それで突出型なの?」

 

 マークはこれを聞いて思わず苦笑してしまう。確かに全体的に高い能力を持っていると自負しているが、それでも上には上がいることを知っているからだ。

 

「技については武器を思い通りに振るえる程度だし、速さだってフェイトのほうが速い位だぞ? 魔力にしたってナノハには劣るし」

 

 だからと言ってマークは二人に負けるとは思わない。膂力に任せた瞬間的な速さならフェイトを越えると思っているし、魔法攻撃にしたって神器を使わずともなのはのスターライトブレイカーを瞬間的には越えることができる。

 だが、フェイトのように相手の視界から消えるような機動はできないし、なのはと正面から撃ち合って勝てる魔法は使えない。

 

「それでも十分とんでもないよ!?」

「結局総合的な『速さ』と『魔力』では劣っていると言えるし、逆に膂力だけは追随を許さないという自信がある」

 

 それゆえの突出型だ。そして、それゆえに突出型にはそれぞれ弱点も多いのだ。よく言われるのは『力には技』と言ったものであろうか……

 

「じゃあ、マーク君でもすごい技を持った相手とかだったら負けることもある?」

「さすがに踏み込み過ぎだぞ?」

「あ、ごめん……」

 

 マークは管理局に敵対する気が無いとはいえ、それでも個として強い力を持った存在を危険視するものはそれなりにいるのだ。

 

「まあそうだな……俺の膂力を無効化できるほどの使い手なら恐ろしいだろうな」

「結局答えちゃうんだ……」

「それほどの奴には会ったことが無いしなぁ……」

 

 正直に言ってマークの身体能力を超える攻撃を繰り出すような存在は、英雄と呼ばれた存在の中でも少数派だ。

 

「竜殺しとか持ってこられたら話は変わるかもしれないがな」

「あ~……それも言っちゃうんだ」

「一応竜人族と言うのは管理局には伏せてある。真竜ナーガ一族と言うのもな」

「それでいいのか執務官……」

 

 少し、いやかなりお人よしな事を言う執務官にマークは呆れた顔を向けるが、お互い様だと返されてしまう。

 

「僕たちまで危険視されないように、弱点まで自分で答えてしまう君が言ってもな」

「そうだね、説得力ないよね」

「……ブラフだったりって考えないのか?」

「そんなこと聞く時点で語るに落ちているな」

 

 がっくりと肩を落としながらも、なんだかんだで甘い奴ばっかりだと、マークは自分の人との出会い良さに感謝しながら、引っ越し作業の続きに戻っていった。

 

 

 そんな引越し騒ぎもひと段落し、フェイトはなのはと同じ小学校に、アリシアは近くの公立校に編入をしたころに、ようやくフェイト達の新デバイスが完成した。

 

「強化しただけだから新デバイスってわけじゃないよ?」

「コア以外はほぼ新しいパーツに変更したって話じゃないか。新デバイスって言って過言じゃないだろ?」

「それでも違うんです!」

 

 マークの微妙な表現に反発しながら、二人はデバイスを受け取りに行ってしまった。何がいけなかったのかと考え込みそうになるマークに、クロノは苦笑しながらさっさと答えを告げる。

 

「あのレベルのインテリジェントデバイスなら、もはや相棒と言えるからな」

「そうか……それじゃあ配慮が足りなかったな」

 

 新しくした通信用のデバイスを使い謝ると、すぐにすぐに返事が返ってきた。

 

「……使ってみたかっただけじゃないだろうな」

「まさか、でも助かった。これで戦場での意思疎通には困らないからな」

「一応マークさんには前線指揮を執ってもらうことも多くなるだろうから、そのための投資だ。気にする必要はない」

 

 まだ少し疑いのまなざしを向けながらも、フェイトの要請で作った新しい通信機について答える。

 

「簡易AIが組み込まれているから、念話と同じ要領で使えるはずだ。……細かいところはデバイス任せで問題ないから、かなりの効果範囲が望めるようになる」

「実際使いこなせるかは別の問題だがな」

 

 そんな話をしながら、以前申請したシグナムとの対話……の前に、グレアムの用意した資料をある部署までとりに行った。

 

「あくまで犯人の個人情報をまとめたもので、居場所なんかは任務直前に聞くことになるんだな」

「さすがに居場所なんかの情報を持ち出すわけにはいかないからな」

 

 その資料につい目を通し、歩みが遅くなっていたところに緊急の通信が入る。

 

「どうした?」

「……ついに出たようだ!」

「そうか……彼らの大将との話は次回に持ち越しだな!」

 

 そうして彼らは駆け出す。彼らの代わりと言わんばかりに、独房へと向かった存在に気付くこともなく……

 

 

「やっぱり飛行できるようにしないとダメかな……」

 

 飛行ができないため戦場の端の方に転移されたマークは、前回と同じように全力で今回補足した相手のもとへと向かっていた。

 

「せっかく同時に戦場に来たのに、先制攻撃に参加できないなんて情けなさすぎるって」

 

 移動を始めて割とすぐに、上空で爆発が起こったのは確認している。だが思ったように移動ができず、対象を視認したときには、後から来たはずのフェイトとなのはが到着していた。

 

『状況は?』

『まだ始まっていない……と言いたかったが、なのはとあの赤いのが少し口論のようなものをした』

『ほう……』

 

 曰く一対一の勝負を申し込んだ、と。マークとしては頭を抱えたくなりそうなことだったが、クロノはそこまで悲観している様子はなかった。

 

『僕とユーノで闇の書の主を探す。だからマークさんたちで、彼らをある程度追い詰めてほしい』

「なるほどね……」

 

 ようは派手に戦って本命をあぶりだせという事だ。マークとしては一人ずつ確実にと思うが、短期決戦を目指すのならクロノの案の方が優秀だ。

 

「まあいいだろう」

「てめぇ……」

「マークさん……」

 

 鋼の大剣を取り出し、マークは戦場の中心へと降り立つ。それを見た、相対する赤い少女と浅黒い男が警戒を深め、なのはが熱くなっていたのを自覚したのか少し不安そうな顔をする。

 

「なのはは赤いのを、フェイトとアルフは俺と浅黒いのをやる。……白黒つけたいのなら俺らが終わらせるまでに何とかしろ」

「は、はい!」

 

 なのはは勝手に対戦相手を決めたことを怒られるのかと戦々恐々だったのだが、それを認められ一安心する。それに対して騎士たちは念話でこの場を切り抜ける策を練っていた。

 

『ヴィータ、突破は可能か?』

『……結界を破るだけなら問題ねーけど、アレに背を向けるのは危険すぎだろ』

 

 最初にあの男を見たときは一気に頭に血が上りそうになったが、その実力を認識して怒りは一気に引っ込んだ。仲間を倒した男のことを許す気などないが、それでも戦場で無用な無謀をすることはベルカの騎士として決してない。

 

『わざわざこっちに聞こえるように言ったのは、我らの選択も同じと言う自信からだろう』

『ああ、私があの白いのを速攻で落としてザフィーラと合流……しかねーな』

 

 防護に秀でたザフィーラが戦局を保ち、攻撃に特化したヴィータが打ち砕く。単純だが効果的で……至難の業だ。

 

「それじゃあ……行くよ!」

 

 なのはの掛け声とともに、戦端は切られた。赤い少女となのはは上空に、浅黒い男とマークたちはその場にとどまる。

 

「……そういえば騎士と言っていたな。名乗りが必要か?」

「そうだな……ヴォルケンリッター『盾の守護獣』ザフィーラだ。貴様は?」

「管理局嘱託、ナーガ一族が戦士マークだ」

「……同じく嘱託、フェイト・テスタロッサ」

「フェイトの使い魔アルフ」

 

 名乗りが終わるも、この戦いの中心であるマークとザフィーラはまだ動かない。ザフィーラとしてはもともと時間稼ぎが目的なのでおかしくないが、マークがなぜ動かないのか周りには理解できなかった。

 

「……来ないのか?」

「圧倒的不利はそっちだろ? 初手は譲ってやるよ」

「……」

 

 ザフィーラにとってこれは有利な展開と言えるはずだ。先ほども述べたように彼の目的は時間稼ぎなのだから。だが、マークの言葉は毒のようにザフィーラに染み込んでゆく。

 

『実力をお互いに把握していない初撃が、最初にして最後の好機』

『たとえヴィータが戻ってもダメージが無いわけではない』

『それに奴らにはまだまだ仲間がいる』

 

 それらの考えがザフィーラの背を押す。目指すは『初撃決殺』アレさえ倒せば何とかなるという甘い誘惑にのまれる。

 

「かぁっ!」

「なっ!?」

 

 それはマークにとっても予想外の一撃。すなわち、無手による攻撃。人の身にて繰り出せる最短最速の一撃は、大剣と言う武器を待ったマークに反応はできても防御まではできない一撃となるはずだった。そう、そのはずだった。

 

「ば、かな……」

 

 あたりに響いたのは肉を打つ音ではなく金属音。速度も、狙いも、タイミングも完璧だった。必中だったはずの一撃は、マークの常識はずれの力によって引き寄せられた大剣によって阻まれたのだ。

 

「さすがに無手のまま突っ込んでくるとは思わなかった……が、これで初手は終わりだ」

「!!」

 

 大上段からの一撃を皮切りに、反撃が始まる。否、これはもはや蹂躙と言って過言ではないだろう。マークの一撃は、ザフィーラの防御の上からダメージを与えるに十分だった。もちろん『盾の守護獣』の名は伊達ではない。

 

「ぐ、があああぁぁ!」

 

 声を張り上げ、全力で防ぎ、弾き、流し、堪える。フェイトもアルフも、見ていることしかできない苛烈な攻撃の中、ザフィーラは耐え続ける。

 

(思ったより固いな……だが、あっちの勝負が終わるまでは持たんか)

 

 そんな攻撃を加えながら、マークはなのは達の戦いを観察する。確かになのはが押してはいるが、このペースでは間に合わないだろう。できるだけ、フェイトが見ていても大丈夫なように流血が起こるような攻撃は控えているが、限界は近い。

 

(それにしても……フェイトはまざれないか)

 

 それが連携の問題か、追撃を行うほど非情になれないのかはまた後で聞かなければ、と思ったところでマークは異変に気付く。

 

(まだ……耐えられるのか?)

 

 もうマークの想定した限界は越えた。だが、それでも目の前の敵は倒れない。

 

「やるな……」

「こんな、所……で、倒れるわけにはいかない!」

「……そうか」

 

 そこでマークは目の前の男の評価を改める。この男は限界を偽っていたのだと。その証拠に一気に攻撃のレベルをあげても、まだ喰らい付いてくる。

 

「余裕のあるうちに……か」

「ぐっ!」

 

 戦いを長引かせるための知恵か、マークもなのはに決着をつけさせたいと思ってしまったが故の罠だろう。だが、その罠も敗れた。ならばもうザフィーラに手は残っていない。マークは最後の一撃を繰り出すべく刃を放つ。

 

「はあああぁぁ!」

「おおおおぉぉ!」

 

 そしてついにマークの繰りだした横薙ぎの一撃を、ザフィーラは防ぎ躱しきる。ダメージは少なくないが、それでも防ぎ切ったと……

 

「普通だったらな。だが、俺が普通じゃないのは、初撃を防いだ時点でわかっていたはずだ」

「そ……んな」

 

 圧倒的膂力によって無理やり大上段に構えを直し、繰り出されようとする一撃を前にし、ザフィーラにできることは残されていなかった。

 

 そして剣は天より翔け、鮮血が舞った。

 

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