魔法少女リリカルなのは 炎の紋章を持つもの   作:コウチャカ・デン

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第32話 「焼き増し」

 その戦いは、フェイトの想像をはるかに上回るものであった。初撃こそ危なっかしく見えたが、それ以降は完全にマークが戦況を支配していたと言って構わないだろう。

 

《……これって手を出していいのかね?》

《一応、フォローするようには言われたけど……》

 

 はっきり言って必要ないだろう。ザフィーラは完全に防御に回っているにもかかわらず、マークの攻撃を防ぎ切れていない。手甲によって攻撃を流し、躱しているが、それでもマークの尋常じゃない膂力によって繰り出される一撃に体が流れ、弾き飛ばされている。もっとも、それ以前に……

 

《攻撃できるスペースは作ってくれてるみたいなんだけど……怖くて入れない》

《万が一あれに巻き込まれたらと思ったらねぇ……》

 

 例えるのであれば、削岩機に手を突っ込むようなものであろうか? 手を入れるスペースが見えていたとしても、二の足を踏んでしまうのは仕方のないことだろう。マークは重量武器を扱っているはずなのに、そうフェイト達に思わせるほど武器を軽々と扱っていた。

 だがフェイト達がそんなためらいを抱いているうちにも、時間は進んでいく。具体的に言えば、マークの暴風のような攻撃が苛烈さを増していった。

 

《すごい、ね》

《……うん》

 

 マークが何かを言ったが、フェイト達の位置からでは聞き取れない。もはやその戦いに入り込む隙は欠片もなく、フェイト達にできることは残っていなかった。残っていないと思ってしまった。

 

 だからマークが最後の一撃を大上段に構えたとき、マークに対して振り下ろされた一撃に反応することすらできなかった。

 

「……正直、手傷を負うのは久しぶりだ」

「幸か不幸か、これ以上ないタイミングだったと思ったんだが……」

 

 大きく下がったマークは、負傷し血を流す右腕をかばいながらも大剣を空から降りてきた相手に向ける。その先にいたのは、先の戦いでマークに敗れ、捕らえられたはずのシグナムであった。

 

「なぜ、などと無粋な事は言わん。戦場に立つのなら叩き伏せるのみ」

「……本来なら、貴殿との再戦は望むところではあるが、この場では私にとって優先すべきことが多すぎる」

 

 そう言ってマークが更なる闘志を燃やすが、シグナムはそれを冷静に受け流した。

 

《引くぞ》

《……可能か?》

《……やつは飛べん。高度をとれば問題ないらしい》

《……信じよう》

 

「はぁっ!」

 

 マークたちにとってはわずかな沈黙である数瞬を終え、ザフィーラの一撃が狭き戦場となっていたビルを打ち砕く。当然のようにマークは隣のビルへと跳び移り、シグナム達は高空へと離脱する。

 

「ほう」

「っアルフ!」

「あいよっ!」

 

 マークが思い切りの良い離脱に感心したのと同時に、フェイトとアルフが騎士たちを追い空へと駆けて行った。

 

「はぁっ!」

「むんっ!」

 

 フェイトは上空に逃げた騎士を追い、その速さを生かした一撃を加えるが、これをシグナムは容易に弾き飛ばす。

 

「速いな……だがこの程度で墜ちる我らではない!」

「元より、一撃で墜とせるなんて思ってない!」

 

 そう言って再びぶつかり合う二人は、その一撃を持ってお互いを強敵であると確信する。

 

「……私は、ヴォルケンリッターが将、シグナム」

「……管理局嘱託、フェイト・テスタロッサ」

 

 それは認めたからこその名乗り。そしてその名乗りには、フェイトが思ったものとはまた違った反応があった。

 

「なるほど、テスタロッサか……」

「何を……」

 

 その言葉に納得の意が込められているのを感じ、思わず眉をひそめる。

 

「なに、それならばその年でこの実力と言うのも納得出来るというものだ……手加減はできんぞ?」

「最初からそんなの望んでない!」

 

 シグナムの言う事はフェイトには半分もわからなかったが、それでも三度ぶつかり合う。

 

(考えるのは後でいい……とにかく、マークはここに来れないんだから、私たちがやらないと!)

 

 それは責任感か、あるいは相棒の欠けたところを補える喜びか。

 

(……なるべく怪我をさせないよう、などと考えていたらこっちが墜とされかねん。だが全力で戦えば、殺さずに済ます自信が無いな……)

 

 だがそれは、主の進む道を血に染めないという誓いに反することだ。今回はさすがに時間が足りず準備できなかったが、シグナムには次からは何とかできる当てがあった。ならば今回は撤退のみを目指し戦うことにして、その旨を仲間たちに念話で話をつける。

 

 

「……あの中に混じることができないのは残念だな」

《マークさん、大丈夫なんですか!?》

《ああ、敵に加勢があったが、今はフェイトたちが戦ってる》

 

 戦局が動いたことを感じたユーノが、マークに確認を入れる。それに対し無難な返事を返しつつも、マークは現在の戦場の把握を行う。

 

《闇の所の主は?》

《ぼくの方ではまだです……》

《それじゃあ外の可能性の方が高いか……厳しいな》

 

 結界内と言う限定された空間でユーノが見つけられないのなら、闇の書の主はこの中にいないというのが妥当だ。だが外は探さなくてはならない範囲が広すぎる。そうとうな運がなければ見つけることはまず無理だろう。

 

《それより! なのはたちは大丈夫なんですか!?》

《……中々善戦しているようだし、大丈夫そうだぞ?》

《マークさん!》

《そうは言ってもなぁ……》

 

 一騎打ちを挑んだなのはに加勢をするのは無いし、フェイト達もなかなか気合が入っていたので手を出し辛い。とはいえその程度の理由で全く準備をしないのも無いか、と観念したマークは、自身の切り札をその身にまとう。

 

《何かあればこれでどうにかする……まあ、安心しろ》

《……信じますからね》

 

 実際念話でしかお互いを把握していないので、ユーノはマークが何を用意したのかはわからない。そんな状況の中マークが用意したものが、宝石の原石のようなものをぶら下げただけのペンダントにしか見えない物だと知ったら、さすがに本気で怒っていたかもしれない。

 

(……魔道書の方も用意しとこう)

 

 仲間との間にわざわざ亀裂を作るような趣味はないし、何より切り札を使わないに越したことはないのだ。命中精度に不安はあるが、射程・威力は申し分ない。と、そこまで準備したところでクロノから念話が入った。

 

《すまん、しくじった! そっちに攻撃が行くぞ!》

 

 そうして降り注いだのは黒い雷。ただし結界にぶつかり、いくらか対処に猶予があったのは幸いだろう。

 

《ある程度は俺が相殺する! あとは各自で防御しろ!》

 

 そうして発動するのは、マークの持つ最大の射程を誇る炎の魔道書。

 

「『メティオ』!」

 

 マークの手元から発せられた炎は、その名とは趣を異なり空へと昇って行った。本来であるのならこの後標的に向かって降り注ぐのであるが、狙いが上空であったためか減速することなくさらに上昇し……ついに結界を破った黒い雷と一瞬の拮抗を持って爆散した。

 

 

「……まあ、ちゃんと威力は削ったからこんなもんか」

 

 マークの『メティオ』は相性の問題もあったためか黒い雷に貫かれてしまったが、それでもかなり威力を減衰したらしい。本来雷系魔法に弱いはずのマークの魔防を貫くほどの攻撃力は保てていなかった。

 

「それにしても、なんというか……既視感と言うやつか?」

 

 今の一撃を知っている気がする……マークがそんなことを考えたその時だった。

 

《みんな無事か!?》

 

 そこへクロノからの念話が入る。タイミングから考えて、またしばらく通信なんかができなくなっていたのだろう。それに対し、結界内にいた面子が次々と無事を報告し、最後にマークも問題ないことを知らせた。

 

《! マークさんも大丈夫だったのか……》

《おい、その驚愕はどういう意味だ?》

《い、いや別に深い意味は……!》

 

 マークの無事にことさら驚いたクロノは、そのことを突っ込まれてしどろもどろになる。が、観念したのかその理由を白状した。

 

《正直、魔法に対する耐性は低いと思っていた》

「なるほど……今までが今までだったし、その認識も間違ってないな」

「確かに、言われてみればマークが魔法の直撃を受けたとこは見たことないかも……」

 

 そろそろ結界の効果が無くなるためか、一か所にみんなが集まってきたため念話を取りやめる。念話は便利ではあるが、直接話した方がやっぱりいいな、などとマークは思っていた。

 

「別に魔法に弱いわけじゃないぞ? お前らが使う『非殺傷設定』とやらに対応できてないだけだ」

「それを耐性が無いというんじゃ……そうか、だから今回は無事だったのか」

 

 そう納得するクロノだったが、何やらよくわかっていない人がいるようだったのでそれを言葉にする。

 

「彼らは『非殺傷設定』を使っていなかった。だから今回はほぼダメージが無かったんだろ?」

「え!?」

「まあ、それであっているかな? だが、相殺していなければ流石にダメージは通ったと思うぞ? 特に雷系とは相性が悪いからな」

 

 クロノの説明に驚くなのはを無視して、マークは話を進める。なのはの驚きに反応したものもいたが、それ以上になのは自身でさえもマークの言葉に興味を持ったからだ。

 

「雷系って相性悪いの?」

「ああ、あれは基本的に竜の鱗を砕くのに適した魔法だからな」

「そんな話は聞いたこともないが……ミッド式の魔法でもその理が成り立つのかは調査が必要だな」

「えっと……そのこととマークさんってどんな関係が?」

 

 フェイトが微妙に不安げな声で尋ねるが、マークはただ自分の弱点だとだけ告げる。だが事情を知っているクロノはともかく、ユーノとなのはにはなぜそんな話になるのかわからなかった。

 

「俺が竜族とのハーフだからな」

「ちょっ! ……いいのか? そんなに簡単に話してしまって」

「心配してくれるのはありがたいが、そこまで長いこと秘密にしておく気が無いからな」

 

 自分がせっかく隠したことを、簡単にばらすマークに慌てるクロノであったが、それをマーク自身が切り捨てた。今も使う気はそんなに無かったが、それでも話す意味はあると考え直したためだ。

 それでも、どんな事情があったとしても、初めて聞く者にとっては呆けることしかできないほどの衝撃を伴う内容であるのは変わりがないのだが……

 

「とにかく、三歩進んで二歩下がった様な戦果だったが、それでも状況は進んでいる。フェイト達の強化デバイスもうまく機能しているみたいだし、どうとでもなるだろう……今日はこれで解散か?」

「……そうだな、後日に今後の方針を詳しくまとめるとして、今日はこれで終わりだ。マークさんはちょっと報告を手伝ってくれ」

「わかった」

 

 いくつか納得できないことを残したが、それでも今回の戦いは終わった。だがマークには、ついに自分が感じた違和感のことを話題にすることはなかった。

 

 

「なにはともあれ、シグナムが無事でホンマよかったわぁ」

「心配をおかけして、申し訳ありませんでした」

「まったくだって……でも、どうやって脱出して来たんだ?」

 

 無事シグナムが帰還を果たしたことに喜ぶ八神家であったが、それでも状況が大きく変わったわけではない。複雑になりつつある現状をうまく切り抜けるのは、並大抵の実力で果たせることではないのだ。

 

「……私の脱出を手引きした奴は『闇の書に望むことがある』と言っていた。鵜呑みにするのはどうかと思うが、もとより大きな組織と言うのはいくつもの意志が混在する場所だ」

「わざわざ敵対を選ぶ必要はない……という事か?」

「でもわたしたちが苦労してやってきたことを、横から盗って行ってしまう可能性だってあるわ。馴れ合うのは危険よ」

 

 目指すところは同じなのだから、同盟関係とまではいかなくても、協調してもいいのではないか、と。いくら怪しげな連中とはいえ、敵対関係に無い存在は救いになることもある。

 だが現在の主である八神はやてではなく、闇の書に望みであるのだ。完成の瞬間後ろから……という事だって十分あり得るだろう。

 

(ある程度のリスクは容認しなければ、アレを倒すことはかなわない)

(別にあの人を倒す必要はないのだ。むしろ正式な局員でない以上、交渉の余地だってあるかもしれない)

 

 また極端な考えがはやての脳裏によぎるが、まだ選ぶことはできない。どちらにしろ、一度はシグナムを倒した『マーク・テスタロッサ』に対してどんな対応を取るかと言う問題となるだろう。

 

「とにかく、今は管理局にこの場所がばれないよう行動するべきやろな……シャマルが前言ったことを、続けよか」

「……それが妥当でしょうね」

 

 それは複数の世界を渡り、そこでわざと発見されるという事。残念ながらある程度場所は特定されているだろうから、その範囲をできるだけ絞らせないようにするための行動だ。

 幸いと言うべきか、マークと言う人物は戦う意思を持たないものを攻撃するような非道はしない。もちろん敵対すれば容赦はしないだろうが、敵対したとしても人の話を一切聞かなくなるような人でもない。

 

「それじゃあ、とりあえずの方針は変わらずやな……みんな、無茶だけはせんといてな?」

 

 主の言葉に騎士たちはうなずき、ひとまず話し合いは終わる。だがはやては最後まで気付かなかった。なぜ、自分がマークと言う存在の人格を断定できたという事に。そして、騎士たちがどのような決意を秘めていたかという事に……

 

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