魔法少女リリカルなのは 炎の紋章を持つもの   作:コウチャカ・デン

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第33話 「不信」

「それで、昨日はなぜあんなことを言ったんだ!?」

「ん、あんな事って?」

 

 ヴォルケンリッター達との戦闘から一夜が明け、フェイトとアリシアが学校へと行くのを見送った直後だ。クロノの問いにとぼけた返事を返したマークは食卓へと戻りコーヒーをおかわりしていた。

 

「わざわざあの場で正体と弱点をばらしたことだ!」

「ああ、それか……」

「それは私たちもぜひ聞きたいわね。……隠しておきたかったんじゃないの?」

 

 昨夜の事後処理に忙しく、あまり寝てないだろうリンディも口をはさむ。そんな中でも子供たちにしっかり朝食を作り、見送りまでするのだからできた親なんだろうとマークもこの場では見当違いな事を思う。

昨夜は自分から話題を誘導し、なるべく違和感が無いように話したつもりだったんだが、と前置きするが、どうやら話し方の問題ではなく話したことが問題のようだった。

 

「そんなに焦るな、ちゃんと話すって」

「……はぁ」

「貴方が焦らすようなまねをするからだろ……」

 

 リンディが思わずため息をつき、クロノも少しいらだちを見せながらも席に着く。そこへエイミィが2人に飲み物を持ってきたのを確認して、ようやくマークも話し始めた。

 

「……もともと絶対秘密にするつもりはなかったんだ。もしそのつもりだったらフェイトにだって話はしなかった」

「じゃあ、いずれ管理局にも話すつもりだったの?」

「それなりに時間をおいて『見定めた結果、信用に値すると判断した』ってアピールをしながらな」

 

 無闇矢鱈と信じたのではなく、自分なりの理屈があって信じたのだと印象付けたかったと、マークは訴える。そうでもしなければ利用しやすいと思われかねないと考えたわけだ。

 

「……もともと話すつもりだったというのはわかったわ。でもなぜあの時だったの? 時を選べば、もっとゆっくり浸透させることができることぐらいわかっていたでしょ?」

 

 そう、戦闘直後で他の部署の魔導師がいるときにわざわざ話す内容ではなかった。あのような場で突然話したせいで、それこそ余計なうわさまで流れてしまっている。

 

「確かにその点については軽率だったと思うが、そうでもしなきゃ余計な事をフェイト達に聞かせることになったと思ったからな」

「余計な事?」

「『管理局内に内通者がいる』……まだあの子たちには味方を疑うようなことはさせたくない」

「……」

 

 それはあの戦場に捕縛していたはずのシグナムが現れたことから、もう確定事項として扱われている。ただどんな方法を使ったのか、一晩たった今でも脱出経路や手引きした人数など一切わかっていないのだ。

 

「あの子たちは俺と違ってお前らを、引いては管理局という組織を全面的に信頼しているからな。どんな理由であろうとそれを覆してしまえば、もはや何を信じていいのかわからなくなってしまうだろう」

 

 個人的な理由から動いたものが居ただけならまだいい。その動いた奴というのが何らかの派閥の一員だったりしたら……

 

「組織に対して、嫌悪感を抱きかねないわね」

「現場の被害を無視して、足の引っ張り合いをしていることになるからな」

「そして、管理局を経由せずに個人で動きでもしたら……」

「危険人物と認識されてしまうかもしれない……ってこと?」

「まあ、かなり極端な事を言っているという自覚はあるがな」

 

 だが、子供というのは平気で極端な事に走りかねないのだ。あるいは妥協というものを知らないと言ってもいい。

 

「まったく……あの場でよくそんなことまで思いついたわね?」

「これでも、お前らの何十倍も生きてるんだ。経験則ってやつだよ」

「……そんなに長く生きてるんだったら、もっとうまい話のそらし方をしてくれ」

 

 まあそれももっともなんだがな、とクロノの愚痴のような呟きにマークが苦笑しながら答える。

 

「本局に内通者がいるという話題を越えるものが、これ以外思いつかなかったんだ」

「……確かに、そんなものがいくつもあったらたまらないよね」

 

 そして、ここまでやったとしてもフェイト達はいずれ内通者の存在に気付くだろう。

 

「結局は自己満足だな」

「それでも、マーク君が守ろうとした思いは、あの子たちに伝わると思うわ」

 

 それはそれで恥ずかしいな、などと言った後、マークはいきなり顔つきを改める。

 

「それで、今後をどう見る?」

 

 局内に内通者がいるとなれば、下手をすればこちらの手の内を完全に知られたという事もありうる。今後のプランを、どう変更するか、あるいは誰にどこまで話すかが重要になってくる。

 

「戦闘の映像は見せてもらったから、ここに居る面子はとりあえず信用している」

「……とりあえず、なんだな?」

「ああ、その気になれば周りに悟られずに裏切ることができる奴の存在を知っているからな」

 

 あれは王に仕える聖騎士だったかな? などと、かなり物騒な事を付け加えるマークは、その内容とはかけ離れた郷愁の念を感じる瞳をしていた。

 

「まあ、とりあえずであろうと、信用があるならいいわ。……本局への連絡は、極力信用を置ける人物に、レティとグレアム提督あたりなら問題ないでしょう」

「基本方針は特に変更はしない……というより、ほかに手段がない。魔力反応を探して、発見し次第人員を向かわせ捕縛する」

「既知の者が無く、索敵と世界間転移ができない俺には、口が出せん分野だな」

「適材適所ってやつでしょ! それより、高空に逃げられて戦えるの?」

 

 事実、昨夜の戦いではフェイト達に任せる結果になってしまったので、マークの参戦は難しいだろうとエイミィは思ったのだ。フェイト達に証言もあり、マークは陸戦魔導師として登録されていたりする。

 

「まあ、空中戦もできなくはないが……できれば遠慮しときたいな」

「あ、可能なんだ……」

 

 ちなみにこの返答により各々が想像した空中戦とは……

 

 クロノが、以前マークがフェイトに『飛竜でもいたら……』と言っていたと聞いていたため、『竜騎士』のようなものを想像し、

 

 エイミィが、自身のイメージする『竜人族』という言葉から『背中から竜の翼が生えたマーク』を想像し、

 

 リンディが、半ば投げやりに『真竜ナーガ一族』という言葉から『竜に変身して戦うマーク』を想像していた。

 

 誰も具体的な戦闘法を聞かなかったのは、万に一つ自分の想像を肯定されたくなかったからであった。

 

「ま、まあとにかくだ! 内通者の目的もわからない以上、こちらの打てる手も限られてくるわけだが、何か思いつくものはないか?

 特にマークさんは、闇の魔道書と呼ばれるものを所持しているんだ。なんでもいいから気付いたことは教えてほしい」

「何か、ねぇ……そういえば、闇の書の攻撃に、何というか……既視感のようなものを感じたが……プレシアの時みたくはっきりわからなかったんだよなぁ」

「……それでもやはり、マークさんの故郷の何かが干渉している可能性あり、か」

「う~ん、状況的には、あの時の次元干渉攻撃に似てなくもないかな?」

 

 言われてみれば、とマークもエイミィの言葉に納得する。あの時も結界の外から雷による攻撃が行われていた。

 

「そうなると、案外俺が感じた既視感というのも、それとナノハの魔力だったりするかもな。……ほら、あの子はもう蒐集されているし」

「もしそうなら手掛かりにはならないな……」

 

 残念なような、ほっとしたような微妙な表情をするクロノだったが、今はそれ以上に考えるべきことがあると、気を引き締める。

 

「本局からの情報にも細工をされる可能性はあるか?」

「ん~……そうあからさまにしてきたらかえって内通者の特定が容易になるし、そんなに多くはないだろうけど……」

「その数少ない一手を、重要な情報の隠匿に使われたら厄介ね……」

 

 やはり本局にも、信頼できる人物を情報収集に向かわせる必要があるかもしれない。

 

「人員も足りなければ情報も足りない……はぁ、マーク君が参加するから、長引くことはあっても大変なことになることはないと思ってたのに」

「戦力的にはそう変化してないぞ? クロノが戦った『仮面の男』も、見る限りはシグナムより劣るし……数という面でもまだこっちの方が勝っているしな」

 

 とはいえ、かなり見通しの悪い状況になったのも事実だ。これからは戦場に立つものより、後方支援に回る者の負担の方が大きくなるのは間違いないだろう。

 

「まあ頑張れ、応援はしてやる」

「えー、応援だけ? 手伝ってくれても誰も文句は言わないよ!?」

「なかなか無茶を言うな……」

 

 軍師もやったことのあるマークならやってやれないこともないが、その前に学ばなくてはいけない事が多すぎる。

 

「その機械の操作や、組織の状況他、すべてちゃんと教えてくれるなら構わないぞ?」

「あ~無理です、ごめんなさい」

 

最終的に楽になるのはいつになるかわからない、それまでの負担は倍増という道をエイミィは選べなかった。

 

「俺みたいな素人の助けを期待するより、信用できそうなやつに声をかけてみるべきだな」

「うぅ……それができるんだったら苦労しないよぅ」

 

 嘆くエイミィに苦笑を向けながら、これ以上話すことが無いことを確認したマークは、本局へと出かけることを告げる。

 

「グレアム提督に頼まれた依頼をこなしてくる」

「まだ腕の怪我が治ってないだろう? 大丈夫なのか?」

 

 確かに昨日シグナムによってつけられた傷はまだ治っていない。マークの使用する回復魔法が自分に作用しないとのことで、通常の治療を行ったためだ。

 

「この程度問題ない。戦場に出る以上、死にさえしなければたとえ腹に風穴があこうと十全の戦闘力を維持して見せよう」

「いや、頼むからそんな怪我をしたらすぐ後退してくれ」

 

 結局マークは、怪我を心配するクロノ達を押し切り本局へと言ってしまった。

 

「確かにマーク君ほどの実力があれば、多少の怪我は無視できるんでしょうけど……」

「まあ、下手をこくような性質じゃないし問題ないと思う」

 

 この後、マークが非常識なことをやらかすのではないかとじわじわと不安になっていくことになるとは、クロノ達は思ってもいなかった。

 

 

「はぁ、昨日の夜にそんなことがあったなんてね……」

「表面上はこんなに平和なのにね……マークさんの怪我は大丈夫なの?」

 

 この時期の屋上は寒く、昼休みとはいえその場にいるものは少なかった。より正確に言えば、4人しかいないという、秘密の話をするには絶好のスポットとなっていた。

 

「私も最初は不思議だったよ。でも結界って便利なんだな~って、何となく納得しちゃった」

「マークの方は大丈夫みたい。一応包帯巻いてたけど、たいしたことないって言ってた」

 

 不用心のようだが、そこら辺の対策はバルディッシュ達が何かをしているらしい。この場に人が来る心配はないと言う。

 

「なのはが入院したり、天の声の人も怪我するほどなのに……ねえ、本当に私たちにできることはないの!?」

「え、ええと……」

「さすがに……前線も後方も、それなりに訓練が必要だし、難しいと思うよ?」

 

 わかっていても、苦境に立つ友人を放っておけないと思ってしまうのは、仕方のないことだろう。ただ、当の本人たちは苦境に立っている気などさらさらないようであったが。

 

「仕方無いよアリサちゃん……それにしても、マークさん自分の種族とかばらして大丈夫だったのかな?」

「すずかはそればっかりね? ……でもそうね、やっぱり異世界なわけだし、エルフとかドワーフだっているんじゃないの?」

「わたしは聞いたことないなぁ……フェイトちゃんは?」

「う~ん……わたしも無いかな?」

 

 やはり異種族というのは相当珍しいらしい。だがそうなると当然、自分が人間とは違う生き物だと言ってしまったマークが、どのような扱いを受けるのか気になってくる。

 

「マークが使った魔法が管理局でも再現できないものだったから、今は丁重に扱われてたよ?」

「でも少数派は肩身が狭くなってくるもんだし……人と違うところが増えれば増えるほど、ね」

 

 だがそれはマークにだってわかっていたことだろう。それならなぜあの場で? と思わなくもない。

 

「何かあったのかな?」

「……仲間として信用されたと思えばいいんじゃないかな? 弱点攻撃から守ってほしい、とか」

「うん、とりあえずはそうするつもり」

 

 すずかとアリサは、何となくだがマークのやりたかったことが分かった。それぞれそれなりのお嬢様なのだ。中には見たくなかった、知りたくなかった出来事にも遭遇している。そして大切な親友たちに、わざわざそんな暗いところを教えるつもりはあまりなかった。

 

(でも、羨ましいな……)

 

 すずかは思う。自分の正体を、弱点を教えられるほど信用された友人に、嫉妬を覚える。そして、その場にいることができない自分がどうしようもなく悲しい。

 

(わたしもそこに行きたい……ううん、絶対に、行く!)

 

 諦められないのなら、頑張るしかない。そして幸いというべきか、すずかにはそれを実現できる可能性を持った肉体がある。

 比較的聡明であったとしても、やはりまだ子供だという事だろう。なのはが当然のように戦えていたのも原因かもしれない。だが、それでもすずかは、魔法に頼らない、身体的な能力を駆使して戦場に立つことを誓った。

 

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