魔法少女リリカルなのは 炎の紋章を持つもの   作:コウチャカ・デン

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第34話 「内への牽制」

「リーゼアリアとリーゼロッテ、ね……自己紹介はいるか?」

「別にいいわ。ナーガ一族のマークさん」

「昨夜のことがあってから、クロスケに大体聞いたからね~。聞きたいことはもちろんあるけど、今聞くべきことじゃないし」

 

 マークは以前から依頼されていた犯罪者の捕縛のため管理局に赴いたのだが、そこから現場に向かう際にこの二人をつけられたのだ。

 

「……グレアム提督の使い魔、と言っていたか? 基本的に指導と監督が役目で、手は出さないが自分の身は自分で守れると思っても大丈夫か?」

「もっちろん!」

「わたしたちが手を出さないといけないような状況になるようなら、今後あなたにこのような仕事は任せられないと判断することになりますね」

「それなら問題ないさ」

 

 最低限のことだけを再確認したマークは、さっさとターゲットが潜んでいる建物へと足を踏み入れる。もう少し話すことがあると思っていた二人が、慌ててそれに続いた。

 

「えっと、目標については確認しないのかな?」

「ロイ・ルーズベルト、テロリストとして目下指名手配中。砲撃魔法を得意としている……これぐらいで問題ないだろ」

「じゃあ建物については!? 周囲について……」

「そのくらい、見りゃわかるだろ」

 

 目標の居る位置は……と、リーゼロッテがさらに問いただそうとしたが、マークの足が迷いなく動く様子を見て止める。どうやっているのかはさっぱりだが、マークにはもう居場所の見当がついてるようだった。

 

「……あのなぁ、こんな建物の中で潜伏に向いた場所なんてそう多くないんだぞ? それに加えて、資料に乗っていた目標の経歴なんかを考えればある程度予測できるだろ」

「なにそれ? 一体どんな技能なのさ……」

「軍師、あるいは参謀の技能だな。相手の行動を予測して何手も先を読んで、初めて策が成り立つんだ。居場所の予測なんて基本中の基本だぞ?」

 

 もちろん予測だけじゃなく、人を使って確認できるならそれに越したことはないんだがな、と付け加える。だが、リーゼ姉妹はこれを基本と言ってしまうようなマークに対して、開いた口がふさがらない思いだった。

 

「……で、でも、まだそこにいると決まったわけじゃ……」

「……いま、先行させたサーチャーで確認したわ。ドンピシャよ」

「便利な魔法があるんだな」

 

 資料と言っても紙の二~三枚、まさかと思ってサーチャーを放ったが、マークの言葉を裏付けることにしかならなかった。

 

「これができなきゃ参謀を名乗れないっていうのなら、管理局からその役職はほとんどいなくなるでしょうね……」

「あ~……あくまで俺にとってはだぞ? そもそもリーゼアリアが使った魔法があるなら、こんな予測にあまり意味はなくなるからな。リアルタイムで敵の位置を把握できるなんて、敵の行動予測なんかよりずっと有用じゃないか」

 

 そもそも軍師の基本と言ってもマークの知る軍師は少なく、自身を加えても両手の指に届かなかったりする上に、そのすべてが大陸規模の戦争を勝利へと導いた規格外なのだが、残念なことにそれを指摘できるものはいない。

 

「まあそう思っているのならいいけど……それより、昨夜マーク君が『竜族』って名乗ったって本当?」

「本当だ。とはいえ、それを証明するようなものは今のところこれだけだけどな」

「なにそれ?」

 

 リーゼロッテの疑問に応えるべくマークが取り出したのは、昨夜のペンダントだ。はっきり言って、これを証明と言われてもわかる人にしかわからない代物である。

 

「……何らかの力を秘めているようだけど、魔力じゃないわよね?」

「俺はこれを竜石と呼んでいる。竜のエーギルによって形作られた石だ。……エーギルってのは、生命の持つ力とでも解釈してくれ」

「つまり、この石を使えば竜の力が手に入ると?」

「……エーギルの使い方を知っていれば使えるかもな」

 

 ただし、それを行うためにはマークから知識とモノを奪わなければならない。そんなことに労力を使うくらいなら、まっとうな訓練を積んだ方がましな結果になるだろう。

 

「まあ、そんなことを企むような奴は、我が全身全霊を持って屠らせてもらおう」

「はは……一応嘱託とはいえ局員なんだから、屠っちゃだめだよ?」

 

 リーゼロッテは一応先輩として注意をしておくが、実際そのような事が起こった時、マークを制止できる自信がこれっぽっちも湧かなかった。

 

「……テリウスには、貴方みたいな実力者がたくさんいたりするのかしら?」

「今はわからんな……まあ、元腹黒宰相か黒竜王子ぐらいなら期待できるだろうが」

 

 半ば独り言のつもりだったリーゼアリアの一言を拾ったマークは、自身の希望も含めた返事を返す。とはいえ神器クラスの強力な武器を失った彼の世界に、新たな英雄クラスの人物が現れた可能性は低いだろう、との予想も心の中で付け加える。

 その答えがあったことに驚きながらも、リーゼ姉妹はひそかに安堵した。どんな理由かは知れないが今のマークの出身世界には、マークほどの使い手がほぼいないという事だ。やはり管理世界に住むものとして、余所の世界の方が強大な力を持つという事は受け入れられないのだ。

 

「話はここまでだな……いくぞ!」

 

 話しながら来たせいか、いつの間にか犯人がいる部屋の前まで来ていたのに気付かなかったリーゼ姉妹は、マークの声掛けに反射的に構えるが戦闘は始まらなかった。

 

「とりあえず出てこい! 言いたいことがあるなら聞いてやるぞ?」

「ちょっ、マーク君!?」

 

 他の事件ならまだしも、今回の件はテロリストの捕縛が任務だったのだ。このような声掛けがプラスに働くとは思えない。そして、その想いを裏付けるかのように、砲撃魔法の一閃が走り、マークに直撃した。

 

「はぁ! まさかこんな素人が来るなんてなぁ!」

「流石にこれはないわよ! 大丈夫なの!?」

「今の非殺傷なかったよ!?」

 

 当然のように回避行動をとっていたリーゼ姉妹が顔を青ざめ、犯人がまずは一人と笑みを深める中、爆炎の中からそれは当然のように現れた。

 

「一応さ、主義主張のある奴なら、と思っていたんだが……先制攻撃をして高笑いするような奴なら話なんて聞く必要ないよな?」

「は……? 無傷、だと……」

 

 今回は突発的な戦闘でなかったため、当然のように鎧を着こんだ状態であったマークには、まったく意味のない一撃であった。構えることもせずに立つ姿は、何ら手を打つことなく今の攻撃を無効化したのだと強調するかの様ですらあった。

 

「……感傷だな。ただ共通点が一つあっただけで、話がしてみたいと思うだなんて」

「こ、この……!」

 

 思わず自嘲するマークに杖が向けられるが、それに対して特に対処をするわけでもなくただ立ち尽くす。だが、それだけで十分であった。ただそれだけで杖を向けた男は何もできなくなる。

 

「無様だな……自身の能力を疑い、俺を恐れた時点でお前の負けだ」

 

 そう、マークが何をしたわけでもない。男が彼我の実力差を感じ取り、勝手に何もできなくなっただけ。もし自身の力を信じるか、敵に向かう勇気があればこのような事にはならなかっただろう。

 

「う、うあぁぁあぁぁっ!」

 

 それはあまりの力の差による恐怖か、一度は硬直した男であったがそれを振り切り、砲撃を放つ。

 

「無駄だ」

 

 だが今度はその一撃がマークの体に届くことすらなかった。マークが取り出したのは『炎の剣』。その剣による無造作な一撃で、男の砲撃を切り払ったのだ。

 

「う、そだろ……これは何の冗談……!」

 

 そうして男は現実を認識する間もなく、マークの投じた炎にのまれ意識を失った。

 

 

「まあ……こんなもんか」

 

 マークは男の意識が途絶えたのを確認し、今だ剣にくすぶっていた炎を払い鞘に収める。やはり鎧を着こんでいるときは、得物が腰にあった方が落ち着くなという程度のことだったが、あまり質量兵器を身につけるのは推奨しないといさめられることになるのはもう少し後の話である。

 

「圧倒的だったね……」

「AAランクだったか? クロノの一個下のランクと言ってもあの程度なのは誤算だったな」

「誤算って……」

 

 バインドが使えないマークが、手作業で男を縛りながらの言葉にリーゼ姉妹は反応する。これではまるで、もっと強い相手の方が都合がよかったみたいではないか。

 

「あ~……昨夜の件は知ってるだろ? 内通者のことだ」

「! まあ、そりゃあね」

「ちゃんと聞いているわ……でも、機密になっていることだから、こんなとこで話すのはいただけないわ」

「ん、悪かった……とにかく、俺が実力を示せば牽制になると思ってな。生半可な覚悟で手を出してきたとは思えないから、手を引くことはないだろうが……」

「……」

 

 確かに、とリーゼ姉妹は納得する。AAランクの砲撃を正面から喰らって無傷という防御力も、砲撃を切り裂く剣術も、そして相手の防御を貫いた炎の魔法も、どれ一つとして軽く見ていいものではなかった。

 

「まあ、嘱託になるときの試験の映像もあるだろうし、そこまで効果があるとは思えないが……下手に手を出せばやけどじゃすまないぞ、ってことを示すにはこれが一番手っ取り早い」

「……ひょっとして、昨日の今日でこの依頼をこなそうって思ったのはそれが狙い?」

 

 派手な魔法を使ったわけではないが、実力は示せたはずである。これにより少なくともマークに対する警戒度が上がれば、下手にアースラの面子に手を出すことはできなくなる。戦場でヴォルケンリッターに手を貸すにしろ、この男を敵に回せば正体がばれる危険がひときわ大きくなることだろう。

 

「いや、内通者への警告はついでだ。流石の奴らも今日は動かないだろうと思ってな。なるべく地球に居たいが……約束してしまった以上仕方がない」

「確かに二日連続で管理局に捕捉されるようなへまはしないでしょうね……」

 

 昨夜の件はシグナムの捕縛が響いて焦っていたのだとすれば、次は相当慎重に動くだろうという予測もたつ。そうなればしばらく犯罪者の捕縛に回っても問題ないだろうとマークは考えていた。

 

「まあ、索敵なんかは手が出せないんだ。俺は俺のできることをやらせてもらうさ」

 

 そう言って縛り上げた男を担ぎマークは歩き出す。後に続くリーゼ姉妹は、予想以上に規格外であったマークの言動のせいか、帰りに口を開くことはなかった。

 

 

「まったく、すずかも思った以上に重傷ね」

 

 本人は昼になのは達の話を聞いて何を思ったのか、アリサに図書館の本の返却を頼み早々に帰宅してしまった。

 

「『やりたいことができた』ね……まあ、本好きのあの子からしてみればしばらくここには寄りたくなくなるのもわかるけど」

 

 たとえ返却だけのつもりでも、ついつい本棚に向かって逝ってしまいそうになる衝動を抑えるのは大変だろう、とそんな葛藤をする友人を思い浮かべアリサはクスリと笑う。ただそのやりたいことについては眉をしかめたくなる思いであったが……

 

「友人としては応援すべきか、嫉妬すべきか悩むところよね……」

 

 話を聞いていればいやでもわかるその感情を応援すべきか、親友を取られたことに嫉妬すべきか……まあ、まだ特に周りがどうこう言う時でもないだろうと、しばらくは嫉妬することにしようと結論付ける。ただ、それ以外の感情もあることに、少しだけ胸が痛くなる。

 

「みんな、何かしらやりたいことを見つけちゃうなんてね……あーあ、なんだか置いて行かれた気分」

 

 そうはいっても、いまだ10歳にすらならないことを思えば、まだまだ時間はたっぷりある。これから中学、高校、そして大学へと進めばもっといろんな道が見えてくることを思えば、今やりたいことを決めてしまうのも早計だと思える。そう思っても、わかってはいるが……

 

「……ダメねぇ、……せっかく図書館に来たわけだし、何か気分転換に読んでみようかしら?」

 

 気分を変えるには何がいいかと考えながら、適当に棚を見て回る。とはいえ、図書館なんてめったに来ないから、どんな話がどこにあるのかいまいちわからず困っていると、ふとある人が目に留まった。

 

「車椅子……? って、ダメじゃない! 危ないわよ!」

「えっ?」

 

 思わず声をかけてしまったのは、目的の本に手を伸ばし、微妙に車椅子の後輪が浮きそうになっていたように見えたからだ。

 

「まったく、誰かに声をかけなさいよ! 転んで、怪我してからじゃ遅いのよ!」

「ご、ごめんなさい!?」

 

 そのやり取りが本人たちが思っていた以上の声量であり、駆け付けた司書の人に怒られることになったのは仕方のないことだろう。

 

 

「あ~、とりあえずごめんなさい。驚かせちゃったわね」

「べつにええよ~、それより、心配してくれてありがとーな」

 

 司書の人に軽く怒られ、目的の本を得てから談話スペースに移動し、二人は他の人に迷惑にならない程度の小声で話をしていた。

 

「それじゃあアリサちゃんは普段は図書館にはこーへんの?」

「そうね、今回は友達日本の返却を頼まれて……せっかく来たんだから何か読もうかって思ってたのよ」

 

 最初こそぎこちなかった会話も、ものの数分で打ち解けることができたのは、やはり子供同士ゆえであろうか。

 

「はやては結構ここにきてるんだっけ? それならお勧めの本とかあったりする?」

「そやね~……どんなジャンルがええか教えて貰える? いわゆる乱読家やから、大抵のもんならおすすめのをいえるけど」

「そうね……せっかくだし、剣と魔法のファンタジーみたいのある?」

 

 それなら、と勧められた本は、長年愛されてきた円卓の物語だったり、映画化もされた魔法学校に行く少年の話だったり、アニメにもなった異世界に召喚された少年が貴族の女の子の使い魔になる話まで、多種多様なものであった。

 

「おすすめ多すぎでしょ……」

「……まあ、自覚はしとるで? でもせっかく図書館にいるんやし、いろんなものの中から選ぶんもええやろ?」

「それもそうね」

 

 そうしてアリサが選んだのは、数年前にアニメ映画化もされた魔法使いの話だった。

 

「ええの? 勧めておいてなんやけど、剣はあんまり出てこーへんで?」

「いいわよ。……魔法使いの成長の話だったかしら? 副題の『影との戦い』ってのも気になるし」

「まあ大まかに言えば。一応学院やら竜退治やらもあるけど、ヨーロッパの方の物語やったはずやから、日本人が思っとる魔法とはちょっと質が違うで?」

「はやて……アンタはこの本を勧めたいの? やめさせたいの?」

「そら面白い思った本やし、勧めたいんやけど……」

 

 今まで人に本を勧めたことが無いから、微妙に自信が持てない。そうはやてがいうと、アリサは笑って切り捨てた。

 

「万人にとって面白い本なんてないでしょ? あとは好みの問題なんだから、自分はこれが好きでいいじゃない。おすすめなんてそんなもんでしょ?」

 

 あとで感想も聞かせるから連絡先教えなさいよ、というアリサに、はやては笑顔に戻り答えることができた。

 

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