魔法少女リリカルなのは 炎の紋章を持つもの   作:コウチャカ・デン

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第35話 「それぞれの思惑」

「……以上が今回のロイ・ルーズベルトの捕縛までの経緯となります」

「ふむ、やはりと言うべきか……一筋縄ではいかない相手のようだな」

 

 それはより正確に言うのであれば、ロイ・ルーズベルトという犯罪者の捕縛の報告ではなく、マーク・テスタロッサという外部協力者についての報告というべきものであった。

 

「試験の際の回避能力・近接戦闘能力、更に高火力の魔法に加え、今回の件では戦略面でも高い能力や、強大な防御力に魔法を切り裂く技も持つことを見せてきたという事か」

「戦力という一点においては間違いなくエース級……というより、彼の居た世界において英雄であったと言われた方が納得できますね」

 

 この場に本人が居れば、大笑いしながら否定しただろう。マークが強いという事は間違いないが、どこかの英雄のように逆境を跳ね除ける力は無いのだ。別の言い方をすれば、マークの力というのは『万に一つの勝ちを引き寄せる』ものではなく『万に九千九百九十九の勝ちを得る』というものだ。勇者と魔王のうち、魔王側の力の在り様と言った方がわかりやすいであろうか?

 

「……現状そろった情報で考えると、間違いなく蒐集が終わる前にヴォルケンリッターが敗れるな」

「事実彼らの将は一対一の戦いに敗れていますしね」

 

 これが一対二、一対三になるとわからなくなってくるだろうが、あそこにはクロノもいるのだ。そんな極端な勝負には、まともに対処できる時ならばありえないだろう。

 

「戦場から排除するのは難しいか……遠ざけるにも限度はあるが、何とか直接対峙させることは避けなければならないな」

「いくらか情報を流しましょう……とはいえ、彼自身の行動はそこまでコントロールできないのでいつかはかち合うでしょうが」

 

 リンディ達の装備では、常時広範囲を索敵し続けることなどできない。ある程度順番に見て回るような形になるだろう。その範囲・時期を伝えれば、完成間近まで時間を稼げるかもしれない。

 そんなことを考えたからであろうか、グレアムは以前の事件の際リンディが感じたという違和感について聞いたことを思い出した。

 

「……確か彼女が言っていたな。ジュエルシード事件の関係者は、集うべくして集ったかのようだった、と」

 

 人が、物が、まるで導かれるかのように一所に集った事件であったと。そして今回、また同じ場所で事件が起ころうとしている。

 

「事が済んだら、一度調べてみるべきかもしれんな」

 

 何か原因があるのなら、それにふさわしいものが見つかるかもしれない。もしもそんなものがあるのなら、それはマークと言う人物を引き寄せるレベルのものだ。何らかの処置をする必要があるだろう。

 そんな先のことを考えるグレアムは、やはり認識が甘かったというべきであろうか。まだ彼は、手を尽くせばマークを戦場から遠ざけ、一時的になら排除できると信じていた。

 

 

「まったく、信じられないわね」

「重ね重ね申し訳ないな……ここに戻った理由が理由だったもんでなかなか、な」

 

 それは11月も終わろうとしていた時、すずかの一言によってようやく果たされたことであった。すなわち月村家の訪問、マークと忍の再会である。フェイトとアリシアが遊びに行くのについて行く形で、ようやくそれを果たしたのであった。

 

「まあ、事情がうちのなのはも関係してくることだ。そう責めないでやってくれ」

「だからってちょっと挨拶に来るぐらいの時間は取れたでしょうに……」

「いや、こればかりはいずれ行かなければと思いながらも先延ばしにしていた俺が悪いんだ。いかな叱責も甘んじて受けよう」

 

 恭也がとりなすが、確かにジュエルシード事件でマークは忍達に世話になったのだ。それにもかかわらず帰還後の挨拶を一月にもわたり後回しにしたことはちゃんと謝罪すべきだろう。

 とはいえここまでしっかり反省を示されれば、まだいい足りない文句を言うのも憚られる。

 

「……はぁ、もういいわ……その代わり、いくつか話を聞かせてもらうからね!」

「ああ、わかったよ」

 

 そうして語るのはマムクートについてだ。すでにフェイトに話したことがあるので、そのことを思い起こしながらとなるのでやりやすかったのだろう。マークの口はいつもより軽くなっていた。

 

「マムクートと言うのは、別名竜人族とも呼ばれる種族のことだ。かつては完全な竜であった存在がその身を保てなくなり、より世界に適した姿である人の姿をとったことが始まりと言われている」

 

 やはり当人から聞くのは衝撃なのだろう。神妙な顔をする忍達であったが、続くマークがハーフであるという言葉に、常とは違った言葉を返しマークを困惑させた。

 

「へぇ……マムクートって人との間に子供を作れるんだ」

「いや、まあ……そうなるな」

 

 もともと人型ですらない竜と人が結ばれ子をなせるというのは、忍にとって重要な事だ。たった一人の妹がそんなことで道を諦めてほしくなかったのだ。

 

(まあ、あの子はかなり本気みたいだし、そもそも可能性が無いわけじゃないってのは重要よね)

 

 最近体を鍛え始め、恭也にも剣を習いたいと言い出したことから、もう何を言っても止まらないと忍は確信した。幸い同い年であるなのはと言う先駆者もいるし、そこまで危険では無いのだろうと、そう思っていた。

 ただそんな思いを知らないマークからしてみれば、何やら急ににやにやし始めた忍のことが不気味に見えてしょうがなかったわけだが……

 

「ま、まあ、そんな経緯があるせいで、マムクートっていうのは基本的に生存競争に敗れた敗者なんだ。俺は役目を持っていたからその後も生き続け、今このときに目覚めることになったというわけだ」

「ん? 何らかの役目を持っているというのは初耳だな」

「ああ、あまりこの時代に生きる者たちにとっていい話じゃないからな……つい話しそこなっていた」

 

 できることなら自分の手で済ませたいのだがと言いながらも、それが不可能だと知っているかのように話すマークは言葉を濁す。がだ、ここまで聞いて引き下がる忍達ではなかった。

 

「……俺達では滅ぼすことのできなかった存在である『魔王』と『邪竜』と討滅だ。俺がこの地に来たのは、それらを滅ぼせる存在がここに居たからだと思われる」

「またなんていうか……ぶっ飛んだ話だな」

 

 どこかのファンタジーでは魔王を滅ぼせる勇者を呼んでいたが、マークたちは魔王を滅ぼせる者のもとへ飛ばしたという事だろう。どちらにせよ無責任な話である。

 

「俺らだって相応の努力はしたんだ……神器を作り、英雄が万の軍勢を率い、竜が滅びを抱えながらも戦ってなお滅ぼせず封印することしかできなかったんだ。幸い奴らも全盛期の力を失って久しいし、これぐらい勘弁してくれ」

 

 そんなとんでもない存在をどうしろと言うのだ、そんな疑問が喉まで出てくるがどうにか抑え込む。ここにマークが来たのは、それらを倒すことができる存在がいるが故ならば、そう恐れることはないと無理やり納得する。

 無理やり納得して、ふと気づいてしまう。ならばその存在が誰であるかという事に……

 

「いや待て、それってまさか……」

「まだ確定ではない。もしそうだとしても、流石に今はまだ若過ぎる」

 

 戦うことができるようなるまで五年か十年か、そのマークの一言がダメ出しだろう。忍たちは、その勇者となるべき子がフェイトかなのはであることを確信する。もし違ったとしても勇者のパーティーよろしくみんなで戦うことになるだろう。

 

「って、このままじゃその中にすずかもまざることになるわね……」

「? どうしてそうなる」

 

 マークの疑問にすずかも剣を習いたいと言い始めたことを伝える。もちろんすずかの思いは、なのは達の力になりたいのだろうともう一つの理由で隠して。

 

「……まあ同年代と比べれば身体能力も高いし、剣士としての適性もあるかもな。友の助けになりたいという思いだって否定することはしないが……」

「戦場に出たことのあるあなたから見たら不安だろうが、それでもかなり強い意志を持って挑んでいる。せめて目指すことは認めてあげてほしい」

 

 実際訓練方法を指導した恭也が言うには、普通なら泣いて逃げ出してもおかしくない訓練を施したそうだが、それにもかかわらずまだ続いているらしい。

 

「本人が選んだというのなら、俺に口を出す権利なんてないんだろうが……生半可な努力ではナノハたちの足手まといにしかならないと伝えといてくれ」

「え? なのはちゃん達ってそんなに強いの?」

「単純に魔力を競うものであれば、俺の知る中でも上位の150人ぐらいには入るぞ?」

 

 それを聞いてなんだか微妙な顔をする忍達であったが、その150人と言うのはすべて他の世界の英雄たちだ。その中に十歳にならないうちから名前を連ねるという事がどんなにとんでもない事なのか、マークはわざわざ言う様な事をしなかった。

 

「どちらにしろ、今回の事件が終わればしばらく戦うことはなくなるだろう。それまでに参戦できるほどの技が簡単に身につくわけもないだろ? 基礎からみっちり鍛えてやるといい」

「元よりそのつもりだ。……だが正直なところ、俺が思っていたより長引いているように感じるんだが大丈夫なのか?」

「……」

 

 マークとしては、無用な心配をかける意味はないと思うのと同時に、実際戦場に出たものの家族に虚偽の報告をすべきではないという思いがせめぎあった結果の沈黙だったのだが、忍達にはそうは取れなかった。

 

「そんなにまずいの?」

「そう言うわけじゃ……」

 

 だが言葉を濁してしまった時点でマークの失態であろう。仕方なく現状について白状するしかなかった。

 

「……内通者ねぇ、それは確かに子供たちには言えないわ」

「いくら内通者とはいえ、管理局が傾くようなことはしないだろう。ある意味不測の事態をなくすための手だと思えば、そう悪い手じゃないんだ」

「敵の行動のコントロールか……もしそっち方面なら、ある程度情報を仕入れたところで局内で公開し、一気に殲滅と言った作戦か?」

 

 はっきり言って希望的を通り越して楽天的な見解だが、そうであったら後腐れが無くていいのだ。……まず間違いなく違う目的である以上、意味のない想像ではあるが……

 

「内通者を探るためいろいろと現場でやってはいるんだが、簡単に尻尾を出してくれなくてな……それどころか索敵にわざとかかって、こっちが駆け付けたころには逃げ出しているといった挑発までされる始末だ」

「うわぁ……ストレスたまりそうねぇ」

 

 実際クロノはかなりきている状態だ。なのはやフェイト達が学校に行っていたり、就寝した後の時間にそういった挑発をされているので、おもな被害はクロノとマークにもろにかかってくるのだ。

 

「挑発が目的だと理解しているようだし、うまく受け流さないといけないという事もわかっているようだが……実行するのは難しいんだろう」

「そりゃそうでしょう……むしろ平気な顔をしていられるあなたの方がおかしいわよ」

 

 挑発だとわかっていても、目に見えるところに居る敵を捕縛できないというのはどうしてもストレスになってしまうものだ。もちろんマークとクロノの立場の差と言うものも関係しているだろうが、それにしてもマークは平常心過ぎる気がしないでもない。

 

「言っただろ? いろいろやっているって……こちらにも策があるなら落ち着いていられるもんさ」

「そしてそれをクロノ君には教えてないのね……趣味が悪いわよ?」

 

 忍の指摘に苦笑するマークだが、お互いなぜ策を伝えないのかは理解している。何処から策が漏れるかわからないからだ。

 

「なんだかんだでリンディや俺が本局に顔を出さないといけない機会が多くなってきている……まあ、事件はここだけで起こっているわけじゃないし、仕方のない事ではあるんだがな」

「結果、クロノ君が追いつめられて来ている、か……」

 

 おそらく内通者がどこかでほんの少し手を加えているのだろう。それでも理不尽な命令でもないため、ほんの少しずつ削られることになっているのだ。

 そんな効果的な手を打っているにもかかわらず自身の影すら見せずに行うその手管を、マークはかなり評価していた。

 

「策とは言ってもかなり行き当たりばったりなものだ。とはいえ、もうすぐその策を使えるタイミングが来るから、まあクロノのストレスを吹き飛ばす程度の戦果はもぎ取ってやるさ」

 

 そう言って笑うマークはやけに迫力があり、忍と恭也はやはりマークも平気そうな顔をしてそれなりのストレスをため込んでいたのだと理解させられることになった。

 

 

「ふう……これは思ったより大変なことになるかもしれないわね」

「本当に……その、僕も聞いていいことなんですか?」

 

 リンディはある人物との会談を行うために本局にまで来ていたのだが、予想以上に大変な相手であったため、少し前から無限書庫にて闇の書の情報を集めていたユーノに同行を依頼したのだ。

 

「いやなら断ってくれていいのよ? ……正直、こんな立場じゃなきゃ断りたいぐらいだもの」

「その物言いは正直すぎますって」

 

 最初は闇の書について情報を提供できるかもしれない、その程度の相手かと思っていたのだが、実際本局まで来てその名を聞くと、予想以上の大物であった。

 

「聖王教会の預言者様、ね……噂程度には聞いていたけど、関わり合いになるとは思ってなかったわ」

「予言に闇の書に関すると思われる記述と、竜と思われる言葉が見つかった……でしたか」

 

 上層部はそれなりに気にしている予言らしいが、それでも的中率はそう高くないとか……いずれも噂であるが、個人的に闇の書に因縁もあるし、組織のしがらみとしても会わないわけにはいかない。

 

「それでもタイミングが良すぎる……マーク君と接点を持つためのこじつけの可能性もあるのよ」

「なるほど、それで今一番局の関係者の中で闇の書に詳しいだろう僕に白羽の矢が立ったという事ですか」

 

 マークの情報は秘匿されてはいるが、それでも人の噂と言うのは止められるものではない何処からか聖王教会にも話が入ったのだろう。

 せめてマークから甘い汁を吸いだそうとしている輩くらいは止めないと、と思ったリンディはユーノと結託して相手のあら捜しに出るほか手が無かったのである。

 

「もちろん本当に予言に闇の書やマーク君が関係している可能性もあるし、予言した本人は何の悪気もない可能性だってあるわ」

「本当に、責任重大ですね」

 

 せめてもの抵抗として、予言者本人と護衛1人が本局に来ること、と言う無茶な要求をしたのだが、それすら実行したのだから教会の本気具合がうかがえるというものだ。

 

「とはいえ、ここまで来た以上は腹を括りますよ。僕は、戦場では役に立てないんだ……なら、戦場以外で助けになることをしないと」

「……まあ、期待しているわよ、ユーノ君! ここで一発、できる男だってとこを見せつけてやりましょう!」

 

 人の上に立つものとして、なのはが撃墜されて以降ユーノが悩むさまを見ていたリンディは、ここぞとばかりにユーノを焚き付ける。

そうして向かう先に居た少女との会談は予想以上に混沌とした情報を得ることになり、後日マークの意見を聞くために再度集まることになったのであった。

 

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