魔法少女リリカルなのは 炎の紋章を持つもの   作:コウチャカ・デン

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第37話 「横やり」

「まったく……一体この身に何が起こっているのやら」

 

 管理局に捕捉されるためにいくらか戦闘行為をする必要があったシグナムは、その地に居た魔獣を倒し切り、その手に抱いた違和感をかみしめていた。

 

(これは、間違いなく強敵と呼べるだけの能力を持っていた……だがなぜだ? これの攻撃が、防御が『ぬるい』と感じてしまうのは)

 

 シグナムの経験は、今目の前に倒れている砂竜とでも呼ぶべき巨大な魔獣が強敵であったと判断している。だが実際戦った感想としては、その高い能力に反して迫力に欠けるものだったと言わざるを得ない。

 

「いや、そもそもあの一撃を知ってしてしまえば、そのような感想に至ってしまうのも仕方がない事と言えるか……なあ、フェイト・テスタロッサ?」

「何の話だか、さっぱりわかりません」

 

 急な問いかけだったにもかかわらず、遅滞なく返事が返ってきたことにシグナムは驚かない。逆に、来て早々何らかの問いかけをされたフェイトもまた驚くことはなかった。

 

「なに、至高の一撃を知ってしまえば、通常なら必殺と言われる一撃ですら凡庸な一撃となり下がるという事の確認だ」

「それなら……理解できます」

 

 星光の輝きや業火の理を知ったフェイトにはその気持ちが理解できた。特にマークの最大の一撃を受けたであろうシグナムには、かつて手も足も出ない一撃を受けたフェイトにとって共感できるものがあった。

 

「まあそのような感傷など、為さねばならぬ使命の前では何の意味も持たんがな」

「それもわかります」

 

 主を救うためならば、死地に向かう事すら厭わないシグナムと、かつて母のために管理局と敵対してきたフェイトは、ふしぎなほど似かよった性質をしていると言えた。

 そして、だからこそお互いを理解できる。話し合いの余地などなく、自身の目的を果たすか、一度壊れるまで決して止まらない、と。だが、それでもフェイトは言葉を投げかける。かつて自分が誓った通りの自分であるために。

 

「……どうしても、戦わなくちゃいけないんですか?」

「……くどいぞ、フェイト・テスタロッサ」

「それでも、です。これしか道はないと思い詰めて、周りが見えなくなって苦しんでる人を助けたいと思って私はここに居るんですから」

「……」

 

 確かにシグナムはこれ以外の道が見えない。それでも間に合うかどうかわからず苦しんでもいる。だがなぜフェイトはそのことに気付けたのか……

 

「意外とわかるもんですよ? わたしも少し前まではそうでしたから」

 

 その言葉は、シグナムをわずかにゆるがせる。それはすなわち、フェイトも過去苦しんで、そこから救われたという事に他ならないからだ。

 そして、その言葉から思い浮かぶ男のことを、意識がかすみゆく狭間に聞こえた『共に戦えたかも』などと言う言葉をシグナムは脳裏から消すことができなかった。

 

(何を馬鹿な事を……そんな不確定な希望に、我らの主の行く末を任せることなどできん! それに、闇の書のことを最も理解している自分たちでさえ、このような手段しか思いつかなかったのだ。部外者に何ができると言う!)

 

 だがシグナムはその揺らぎを、強い否定の言葉でふたをする。見かけからは想像もできないほど長い時間を戦場で過ごした経験は伊達ではないのだ。

 

「……それならば、言葉だけで我らが止まらないことも、また理解できよう」

「はい……それでも、言葉を交わさない理由にはなりませんから」

 

 たとえ話し合いが決裂に終わるとわかっていても、意志を示すことは大きな意味を持つのだ。

 そうして二人はそれぞれの武器を構える。己が意志を貫き通すために武器を握る姿に、もはや迷いなど欠片もない。

 

「それでは……」

「いくぞ!」

 

 砂地であるにもかかわらずそれができたのは飛行魔法の応用なのか、お互いに力強く踏み込みぶつかり合った一撃は、当然のようにシグナムに軍配が上がる。いかに強い意志を持とうが、体格差により発生するパワーの差を埋めることまではできなかったのだ。だが最初から力比べで勝てると思って無かったフェイトに、そのような一瞬の勝利は意味をなさない。

 

「はぁっ!」

「っぐ!」

 

 体をひねり離脱し、直後に神速の二撃目を繰り出すフェイトに、今度はシグナムが押されることになった。だがそれもまた一瞬の優勢に過ぎない。速さを除くすべてのスペックを上回るシグナムが、いくらか押されたとしても、それを押し返せないわけがない。

 

「バルディッシュ、カートリッジロード!」

 

 フェイトは咄嗟にカートリッジを使い出力を上げシグナムの剣をはじくが、本来の動作とかけ離れた動きゆえに発生した隙も大きかった。

 

「レヴァンティン!」

 

 その隙にカートリッジを使用した躊躇のない大上段からの一撃は重く、フェイトはいつかのように大地に叩きつけられる。

 しかしフェイトだってその時のままではないのだ。強化されたバルディッシュは折れることなく主の手にあり、本人にも戦闘に支障が出るようなダメージは見られない。

 

(やっぱり強い……ちょっとでも気を抜いたら、あっという間にやられかねない!)

 

 正直、フェイトには速度で翻弄すれば何とかなるという希望的な考えがあったのだが、今の攻防でそんな甘い考えは完全に打ち砕かれていた。速度差による一瞬の優位も、経験と技によって瞬く間に意味をなさなくなるのは、もはや戦慄を覚えるほどであった。

 だが、戦慄を覚えたのはフェイトだけではなかった。

 

(想像以上の速さだ……! 防御と合わせて、以前とは違うという事か)

 

 いまだ総合力では自分が上であると確信を持って言えるシグナムであったが、フェイトの速さはその差を覆すに足る速さであることを感じたのだ。

 

「だが、時間をかけるわけにもいかない!」

「そう簡単にやれるとでも……!」

 

 再びぶつかり合うもカートリッジで強化したフェイトと、強化を施さないシグナムの一撃はほぼ互角。本当ならシグナムも強化を施したいところであったが、ほぼ毎日しかも長時間戦場に立っていたため残りのカートリッジ数が心もとない。

 だが、互角程度ではまだシグナムの優位は変わらない。それだけの技術と経験の差がフェイトとシグナムの間にはあったのだ。

 

(速度と行動パターンの把握を優先して、その後一気にけりをつけるべきか……ギリギリだな)

 

 それは仮面の男から聞いた介入までの制限時間だ。武装局員が来るまでに確実に蒐集を行うため、一対一をする時間をあらかじめ決めていたのだ。必要なこととはいえシグナムにとって不本意極まりない事であったので、なんとしても手を出される前に決着をつけたかったのだが、やはりそう簡単にはいかないようだ。

 その一方でフェイトも形勢逆転を狙って思考を巡らせていた。

 

(このまま戦いが続けば、削り切られる前に増援が来るはず……あくまで、私がその前にミスをしなければ、だけど)

 

 高機動戦が続く現状はほんのわずかにフェイトが劣勢であるといった程度だが、それは一瞬で崩れかねない均衡なのだ。こんな極限まで集中した状態を増援が来るまで持たせるのも、かなりの賭けとなるだろう。

 

(でも、シグナムはきっと私のミスを待つような消極的な選択はしない……ならもうすぐ仕掛けてくるはず!)

 

 そして、フェイトの予想は見事に的中する。お互いの攻撃を裁く際に適度に距離を取り、最後の一撃を放つ間を作ったのだ。

シグナムが勝負に出るためにカートリッジを使用し、レヴァンティンをシュランゲフォルムに切り替える。それは今までのような直線的な攻撃ではなく、変化に富んだ攻撃に切り替わるという事だ。

 

(今のわたしじゃ、アレを完全には避けきれない……!)

 

 いくらフェイトが速いと言っても、連結刃による変幻自在の攻撃を躱し切るには経験が足りない。だが同時に、あのような繊細な動きが片手間で行うことはできないことも容易に予測できる。

 

(一度振り切れば、倒せるはず!)

 

 狙うはシグナムの攻撃直後、連結刃を長剣に戻すまでの間に全力の一撃を叩き込む。そう決断したフェイトは集中力を高めながら、周囲に合計5つのプラズマランサーを展開する。

 お互いに準備は万全。集中も極限まで高まった彼女たちに開始の合図はいらなかった。フェイトが踏み込むのと同時にプラズマランサーを発射し、そこにシグナムの連結刃が迫る。

 

「ッツ……!」

 

 浅くだが脇腹を切り裂かれながらも、フェイトは連結刃を躱しシグナムへと迫る。プラズマランサーは連結刃に阻まれるも、その役割を十分に果たしたと言えるだろう。

 

「はあぁぁぁ……ッ!」

 

 バルディッシュを振りかぶり、飛行魔法が使えるフェイトにとって一足飛びに踏み込める位置にまで至り、そこでまだ連結刃を振り切っていないことを知る。

 どのような軌道をたどったのか再びフェイトの前に現れた刃は、今度こそ驚愕に声も出せないフェイトを貫かんと迫り、その場にいた三者の間を裂くように奔った火閃に弾き飛ばされた。

 

「なっ!?」

 

 フェイトの驚きはいつの間にか現れた仮面の男の存在に、シグナムと仮面の男の驚きはフェイトを守るかのように戦場を切り裂いた一本の矢に対してのものだ。

 三人が三人ともこの場に現れるはずのない人物を思い描き、どんな手段を使ってきたのか、その場に想像通りの人物が現れたことを確認する。

 

「マーク……!」

「まさか……どうやって!」

「……」

 

 最も色濃く驚愕を現したのは仮面の男であった。それも男の立場を考えれば当然であろう。彼からしてみれば、下手をすれば数日かかるような任務を振られたにもかかわらず、ここに、この時に現れたのだ。さすがに彼の戦場でなにが起こったのかまではまだ知らないので、もう任務を無視してやってきたとしか思えなかったが、それもまたありえないという事を彼は知っていた。

 

(彼は誰よりも自分の立場を知っていたはずだ……隙を見せればすべてをむしり取られかねないのに、いったいどうやって!)

 

 それだけマークの持つ術式は魅力的で、ちょっとしたミスに付け込んででもそれを得たいと思う者も多いのだ。まあ、今回に限って言えばマークは力技で何とかしてしまったわけだが……

 もちろんそんな思いを知る由もないマークは、ただ現状の把握に努めていた。

 

(今のシグナムの一撃……初見では俺でも喰らっていただろうな)

 

 マークの攻撃を受けた直後に元の剣の姿に戻っていたが、連結刃なんてシロモノを見たのはマークの長い戦場の経験の中でも初めてだった。

傍から見ていたマークにすら、フェイトがその一撃を躱しきれたかに見えたのだ。マークが矢を放った本来の目的は、仮面の男がフェイトを横から攻撃しようとしたのを防ぐための一撃だったのだ。

 

(まあ、結果オーライだったからそれはいいんだが……予想より状況は悪かったみたいだな)

 

 二対一、いや、フェイトが仮面の男にまったく反応できていなかった以上、伏兵として控えていたのだろう。そしてその事実は最初からフェイトが目的であったことを示すものだ。

 その事実とマークの今回の狙いが交錯し、どう動くべきか一瞬迷う。だがその一瞬も敵は待ってはくれないのだ。

 

《フェイト、前!!》

「え? ッ!!」

 

 その一撃はこの場で最も驚きの少なかったシグナムのものであった。十重二十重に罠を張ろうが、マークならそれを越えてくるのではないかと言う、自分を倒した強敵に対する信頼とも呼べるものがあったと言えるだろう。

 かろうじて防いだフェイトも、脇腹の傷のせいか受け止めることはできず大きく弾き飛ばされる。それもマークの位置から離れるように……

 

「くそっ!」

 

 もともとマークの射程の遥か外であったのを無理やり介入していたのだ。存在に気付かれていなかったならともかく、気付かれてしまった今となっては弓による攻撃はほとんど意味をなさないだろう。

 それにもかかわらずマークは手に持つ炎の弓『パルティア』に矢をつがえ、弦を引き絞る。

 

(炎の魔法は速度が圧倒的に足りないし、何より攻撃範囲が広すぎてフェイトを巻き込みかねない……ある程度の速度と、狭い効果範囲を持つ攻撃はこれしかないんだ!)

 

 しかし先程までいた戦場で犯した失態がマークを蝕む。勝負を急ぎ過ぎた、あるいは平常心を欠いていたというべきか、ニアSランクの魔導師相手に手痛いカウンターを喰らってしまったのだ。鎧と生来の頑強さによりなんともない様に振る舞えてはいるが、並の人間なら上半身と下半身がサヨナラをしていただろう一撃は、流石のマークにもダメージを刻んでいた。

 とはいえ、本人の感覚では戦闘に支障をきたすほどのダメージではないし、何よりダメージを言い訳にするつもりは欠片もなかった。

 

《こっちに近づこうとか考えずに回避を優先しろ!》

《で、でも!》

《読まれているからむしろ危険だ! 俺の方で何とかするから!》

 

狙うべきはフェイトに攻撃を加える一瞬だが、マークのことを警戒されているという事と距離が離れすぎているという状況のため、容易に散開され躱されてしまう。

 しかし、フェイトがシグナムと仮面の男からわずかに距離を取ることができた。気休め程度の距離だが、フェイトの速度ならこれでもしばらく時間が稼げるだろうとマークは『パルティア』をしまい、『リワープ』の杖と『鋼の大剣』を取り出す。

 

(短距離転移用だが、目測で1300程度……問題ない!)

 

 マークの持つ中でも稀有な存在である『自分を対象とする』事の出来る杖だ。それを使用し、改めて切りかかるシグナムとそれを防ごうとするフェイトの間に大剣を盾にしながら割り込むように転移をする。

 

「マーク!」

「ほう……転移までできたのか」

 

 二人の驚嘆の声を聴きつつ当然のように自然落下するマークは、戦場を地上に移すためフェイトの腕をつかみ引きずり落とす。

 地上に降りると持っていた『リワープ』をしまい『ライブ』の杖を取出す。そしてあっという間にフェイトの治療を行ってしまった。

 

「……まだ戦えるか?」

「問題ない……とは言えないけど、大丈夫。やれるよ」

「よし、なら優先するのは仮面だ。アレを倒せれば今後の展開が楽になるはずだ」

「? うん、わかった」

 

 フェイトが見る限り、戦闘力が高そうなのはシグナムの方であったため少し首をかしげるが、とりあえず頷く。これでようやく二対二で戦う態勢が整ったが、マークは直前の戦闘でのダメージがあるし、フェイトだって治癒魔法を使用したとはいえ消耗度はシグナムより数段ひどい。

 

(現状だと互角と言ったところか……『フォルブレイズ』は許可が必要だし、さっきの戦闘で使ってしまった烈火の剣『デュランダル』を使うか?)

 

 それともこのまま管理局の増援がつくのを待つか……そこまで考えたとき、マークはこの場に結界が発生するのを感じた。

 

「これは……!」

「ラケーテンハンマー!」

 

 結界がミッド式であったため増援が来たのかと思った瞬間、背後から攻撃を受ける。何とか再び鋼の大剣を盾としようとするが……

 

(受け……きれない!)

 

 咄嗟に受け止める体勢から受け流す方向に変更するが、わずかに遅かった。その一撃は鋼の大剣の剣身を削り、流した方向に一筋の溝が掘られる結果となった。

 

「何であなたが!?」

「……いや、赤いのだけじゃないみたいだぞ」

 

 フェイトの驚愕に、マークはさらに鬼札が加わったことを告げる。その視線の先に居たのは盾の守護獣であるザフィーラがいたのだ。

 

「なるほど、こっちが誘い出した気でいたが、実際は逆だったという事か?」

「我らの決め事がうまく嵌っただけだ。まさかこれほどの状況を作れるとは思っていなかったさ」

 

 それは戦場に『マーク・テスタロッサ』が現れたら最優先の撃破目標とする、というものだ。その決まりの通りに集まったら仮面の男が結界を張り、このような状況が偶然出来上がっただけなのだ。

 だが今となっては結果がすべてだ。一時的に対策本部の戦力を薄くして、敵をおびき寄せ捕縛するというマークの考えは覆され、マークとフェイトはかなり消耗した状態で4人もの敵と対峙することになってしまった。

 

(ナノハとアルフは振り切られたか……結界がある以上すぐに駆けつけるのは難しいだろうが、ミッド式なら解析を期待できるか? いや、わざわざ内通者が張った結界だ。そう簡単にはいかないだろうな)

 

 いくつかの戦術をシミュレートしたマークは、いつになく消極的な案を採用する。それは攻撃には出ずただひたすら防ぎ続けること。

 

(こっちはフェイトとの訓練もやってないが、あの騎士達は違う……数多実践を越えてきた猛者に、生半可な連携など隙にしかならないだろう)

 

 ならば攻撃をせずになるべく隙を減らす方が、まだ最終的に勝つ見込みがあるはずだとマークは結論付ける。

 最悪フェイトだけは逃がす手を構築し、切り札の使用も検討したマークは剣身を削られた鋼の大剣を構える。その目からはいまだ諦めや自暴自棄の輝きは見られず、シグナム達は改めて敵の強大さを認識する。

 

「それじゃあ第二幕と行こうか!」

 

 その言葉こそが開戦の号砲となり、この戦場へと響き渡った。

 

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