魔法少女リリカルなのは 炎の紋章を持つもの   作:コウチャカ・デン

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第38話 「防戦・反撃・切り札」

「はあぁぁぁっ!」

「ふっ!」

 

 鋼と鋼がぶつかり合い、轟音と火花を散らす。ただそのこと自体はシグナムにとって思惑通りで、マークにとっては舌打ちに値する事態であった。傷ついた剣をかばいながら戦おうとしたマークの行動を、シグナムの一撃が上回ったのだ。

 

(ちっ! 足場が悪い!)

 

 あまりにシグナム達が普通に動いていたからつい忘れていたがこの戦場は砂地であり、何も考えずにいれば動きが阻害されるのは当然のことであった。

 

「どうした? 以前戦った時はこんなことでつまずきはしなかっただろう!」

「こっちはお前らみたいな便利な魔法が使えないんだ、よっ!」

 

 マークはシグナムを正面に対処しながら、後方に回ろうとした赤い少女に牽制の一撃を加える。いくら悪条件が重なっているとはいえ、敵の動きを見過ごすほど間が抜けてはいなかった。

 

「ふんっ! やるじゃねーか!」

「お褒めに預かり恐悦至極……なんて、この程度で言われたって嬉しくないな!」

 

 お互いに言葉を交わしながらも武器を交える手は止まらない。いや、この場合は武器を振るいながらも言葉を放つことを止めないというべきか。

 

「鉄槌の騎士ヴィータと鉄の伯爵グラーフアイゼン」

「今更だな……ナーガ族が戦士マークとこいつは銘無しだ。ただの量産品、戦場に数多ある剣の一振りだ」

 

 ただし、とマークはシグナムとヴィータ相手に剣戟を交わしながら続ける。

 

「越えてきた戦場は、決して凡百のものではない!」

 

 ただの量産された剣でありながら、英雄の持つ聖剣に匹敵する戦歴を持つ大剣。神器には及ばずとも、歴戦の戦士にふさわしい得物だ。

 その大剣の一撃は大地を穿ち、歴戦の騎士を相手取るのにふさわしい威容を見せる。

 

「ッ!」

 

 その一瞬の隙を生み出したのは、間違いなく油断によるものであった。シグナムはマークを知っていたからこそその力を危惧し、結果この状況を作り出すことに成功した。

 だが、マークの持つ『炎槍』を知っていたからこそ、『大剣』を振るうマークを甘く見てしまった。

 

「そこっ!」

「っく!」

 

 だがその一瞬の隙をマークは見逃した。より正確には、マークの戦場はシグナムの戦場よりほんの少し広く、そちらの方へその刃を向けた。

 

「そう簡単に、俺らをやれるだなんて思うな!」

 

 シグナムにとってはもう一つの戦場であった場所に、マークが青銅のナイフを投じる。それはこの場にいる、マークにとって唯一の仲間に対する援護射撃。その投擲は仮面の男に、ザフィーラに弾かれるも、フェイトが危地を脱するに十分な時間を作り出す。

この場にいるマークたちの敵が四人で、マークがそのうちの二人と戦っているのなら逆もまたしかり。フェイトもまた、ザフィーラと仮面の男の二人を相手取っていたのだ。

 

《助かった!》

《防御と回避を優先しろ! 盾は攻撃しやすいだろうが、あれはもともと攻撃を受けるのが役目だ!》

 

 余裕が無い様子のフェイトに助言を行いつつも、マークは二つの戦場が近づきすぎたり離れすぎたりしないように細心の注意を払う。できることならもっと近くで戦いたかったが、そうするとフェイトの持ち味を殺しかねない。お互いがフォローしあいながら戦うには、共に戦った時間が短すぎるのだ。

 

(飛行魔法とあの速度があれば、そう簡単にやられはしないだろう……なんて、気休めにも程がある!)

 

 それでも幸い攻撃力の高い相手は自分の方に集まっているから、一つのミスで墜とされることもないはずだと、マークは自分に言い聞かす。だが、その程度の助勢・助言で互角に戦えるようなら誰も苦労はしない。拳打を主体と置いた戦いをする二人に、フェイトは瞬く間に追い詰められていく。

 

「あまり我らをなめるな!」

「よそ見しながらあたしたちに勝てるなんて思わねーことだ!」

「このっ!?」

 

 そしてフェイトを助けようと動くマークの隙を見逃すほど、シグナムもヴィータも甘くない。振り下ろされた剣と戦鎚がマークの大剣を盛大に叩き、軋ませる。

追い詰められそうな仲間の援護を行う事で、マークも次第に余裕を失っていくという悪循環。戦いの天秤は間違いなくシグナム達に傾いていた。

 

「バルディッシュ、ソニックフォームを!」

 

 その状況を覆そうと先に動いたのはフェイトであった。自身の装甲を極限まで排除して、より一層の速度を得るという諸刃の剣のようなシステムは、確かにその有用性を示すことになる。

 

「でやぁぁぁ!」

「なっ!」

「いつのまに!?」

 

 その速度はザフィーラと仮面の男を振り切ってなお止まらず、マークたちの戦いに割って入ることすら可能にした。しかし、その速度ですらシグナムとヴィータに一撃を加えるには至らない。否、フェイトには最初から一撃を加えるつもりなどなかったのだ。半端な一撃を加えて警戒されるのではなく、より強大な一撃でひとり墜として貰おうと考えたのだ。

 

「『華炎』」

 

 次の瞬間に振り下ろされた一撃はまさに必殺。武器に属性が付加されてないため無色の魔力付加となったが、大地を抉る一撃は二人の騎士を吹き飛ばし、決して軽くないダメージを与えることに成功した。いや、その表現は誤りか。

 

「なんつー一撃……!」

「いや、奴の一撃がこの程度のはずが……」

 

 そう、今の一撃はあくまで『軽くないダメージ』しか与えられなかった程度のものであり、マークの本来の一撃には遠く及ばなかった。

 それもそのはず、マークはこの戦いでの戦果をもはや諦めていたのだ。勝ちを得に行くにはリスクが高すぎると判断した以上、これ以降の戦いはどのように損害を抑え、手札を切らずに済まそうかと考えていたのだ。

 そんな中フェイトが賭けに走り、チャンスを見出したとしても、それに即座に反応することはできなかった。その結果が先程の中途半端な一撃に繋がったのだった。

 

《悪い、しくじった……》

《ううん、わたしも先に合図をすべきだったから……》

 

 だがこの一連の連携で、マークはその誤差に気が付いた。それは共に戦う経験以前の問題で、そもそも戦いの心構えからすれ違っていたという事に。

 

(ああ、くそ! 何が相方だ、何が仲間だ!! そうであるなら信じて当然のことだろうが!)

 

 直前の戦いで自身の衰えを感じ、自覚のないままに委縮していたのだろう。それに加え、フェイトを『相方』として以上に『守るべきもの』として見ていたのだろう。

 

(戦場に立つのなら、そんな考え侮辱にも程があるってもんだろ! 確かにまだ年若く成長中だろうが、相方なら対等であるべきだろう!)

 

 ならば、相方がまだ諦めずに戦っているのだからと決意を新たにしたところに、フェイトに一度は振り切られたザフィーラ達が即座に追いつき、マークたちに襲い掛かる。しかしマークはそれを危なげなく大剣ではじき、今度こそ共に戦うためにフェイトに声をかける。

 

「思うままに飛び回れ……安心しろ、髪の毛一本傷つけさせはしない!」

「! わかった!」

 

 それは勝利をつかむための賭けであった。後方支援をさせるより、その速度を存分に発揮できる前線の方が危険ではあるがお互いの持ち味を発揮できる。それでも相手の数の利まで覆せるほどではないので大剣はそのままに、左手にナイフを構える。

 フェイトの愚直な突進を見ながら、マークは思考を加速させる。それは先程までの防御のためのものとは違い、敵を討つための思考。そして戦局は逆転する。

 

「まさか、これほどとは……!」

「読まれている……いや、もはや掌握されているというべきか!」

 

 フェイトが戦場を縦横無尽に駆け抜け、マークのナイフが迸る。言葉にしてみればそれだけのことだが、たったそれだけのことで四人もの戦士が圧倒される。

 

「基本的にはさっきまでとやってることは変わってないってのに!」

 

 そう、フェイトだけならばいくら速かろうがこの人数ならば補足できないはずがないのだが、その瞬間をマークのナイフが狙い撃つ。それならばとマークに向かおうとすればフェイトの速度につかまり、またマークの大剣に迎え撃たれ止めることがかなわない。

 

(一瞬で、戦局をひっくり返すというのか!)

 

 先程までとは完全に逆になったこの状況に、シグナムは驚愕を隠せない。最初からマークとフェイトにこれができたのならば問題なく受け入れられただろう。だがそうではないのだ。先程までフェイト達にはこれができなかったからこそ、シグナム達の優勢が実現していたのだから。

 

(一瞬で、ここまで成長するというのか!)

 

 魔力が強くなったわけではないだろう。技術が向上したわけでもないだろう。ならば成長したのは精神力か? どれにしろ、このままではシグナム達に勝機はない。

 実際のところ、フェイトにはこれほどの高速戦を続けることは難しいし、マークにしたってナイフの残弾は多くない。あと数分もすれば崩れる状況であったが、それを許すマークではない。この状況が数分のものならば、その数分ですべてを終わらせるつもりであった。

 

「だが、まだだ……まだ倒れるわけにはいかない!」

 

 フェイトの神速の斬撃を紙一重で躱しつつ、シグナムが咆える。それに伴い、ヴィータとザフィーラもその力を、速度を増していく。その意志が、決意が肉体の限界を超えた力を発揮させるのだ。

 その想いを打ち砕かんとマークが一歩前に出たとき、魂からの叫びが戦場に響く。

 

「主を、その命を救うため、このような所で倒れるわけにはいかないんだ!」

「え……!」

 

 それは己を鼓舞するための叫びだったのであろう。しかしその叫びは戦うべき相手にまで届いてしまう。その叫びに、フェイトの神速が一瞬の迷いを見せてしまう。

 

「フェイト!」

「ッ!」

 

 その声に自身の速度が鈍ったことを知るが、もう遅い。マークのナイフも、フェイトが最速で駆け抜けることを前提に投じられていたため、シグナムを捉えることなく空を切る。

 そうしてシグナムの渾身の一撃は、フェイトに振り下ろされる。

 

「させるかっ!」

 

 だがその一撃に対し、マークは強引に割り込んだ。それは先程と比べてフェイトとマークの位置が近く、さらにマークが決着をつけようと一歩踏み込んでいたからこそできた荒業と言えよう。

 しかしそんな細かい理屈はどうでもいい。ただこのシグナムの一撃に、装甲を削りに削ったフェイトは耐えられないと感じたから、無理やり割り込んだというだけだ。

 

「……ッ!」

 

マークは奥歯が割れるほど歯を食いしばり、力の限りで大剣を下から振り上げる。もはや撃ち合うには、弾くにはタイミングが遅すぎたのだ。シグナムのレヴァンティンに十全の力が乗った状態であるのに対し、マークの大剣には三分ほどの力しか伝わっていないような有様であった。

それでもマークの渾身の一撃はシグナムの一撃とぶつかり合い、均衡を保つ。どれほど不利な状況が重なろうが、マークの膂力はその状況を凌駕する。それはマークが人をはるかに超えた膂力を持っていたからこその均衡であった。だから、その結果起こったのはごく当たり前のことと言えよう。

 

 それは小さな異音であったが、決定的、致命的な異音であった。

 

 次の瞬間、大剣は砕け散り、大剣のあった空間をレヴァンティンが奔る。全力を振り絞っていたマークは、それを認識することはできても反応することは叶わず、シグナムの一撃に切り裂かれた。

 

(馬、鹿か……何をやって……)

 

 おそらくマーク対策として非殺傷設定を使っていたのだろう。飛びそうになる意識をかろうじてつなぎ止めながら、マークは剣身を失った柄を握る。

 思考は濁り、かつ走馬燈がごとくという矛盾した状況になりながらも、何が起こったのかは理解していた。

 

(剣の限界か……)

 

 それは人の武器である剣を、人以上の膂力で振り回したのだから砕けて当然の帰結であろう。それが神器であるのなら、人の常識を超えた武器であったのなら起こらなかった現象であっただろうが『鋼の大剣』は違う。

 いかな戦場を越えようが、どれほどの意思を込めて振るおうが所詮は量産品。どれだけ至高に近づこうとも、決してそこには届かない平凡な武器に過ぎなかったのだ。

 

(……まだ、生きてる)

 

 自然とまわり続ける思考は、濁っていても的確に次の段階へと移行する。先程何が起こったのか理解したなら、次は現状を把握しようとし始めたのだ。

 

 剣が砕かれた。

 

 一撃をもらった。

 

 四肢に欠損はない。

 

 武器もまだこの手にある。

 

 敵はまだ目の前にいる。

 

 ならば―――

 

「『華炎』」

 

 柄だけになった大剣にあらん限りの魔力を注ぎ、目の前の敵を迎撃する。その生涯のほとんどを戦場で過ごした男の、反射的な行動であった。

 

 

「がっ……!」

 

 一瞬のうちにあまりに多くのことが起こった為、シグナムは半ば混乱の中にあった。渾身の一撃を放つに当たり、なぜかフェイトの動きが鈍ったことに始まり、マークの乱入に、冗談のようにあっさりと砕けた大剣。そしてシグナムの一撃がきれいに入って倒れようとしたマークからの奥義というカウンター。

 ただ唯一両者にとって幸運だったのは、大剣の剣身が砕けていたことであろうか。それによりマークの一撃から物理的要素が排除され、単純な魔力による攻撃となったのだ。だが両者のダメージは甚大だ。そしてそこへ、当然のように追撃を加える存在が居た。

 

「マーク!」

「ッ!」

 

 朦朧としながらも奥義を放ったマークであったが、その意識がおちていたわけではなかった。いくらか鈍ろうが神速の域にあったためか、それなりに離れてしまったフェイトの呼びかけに覚醒するが、それとほぼ同時に胸部に焼くような痛みを覚える。

 

「想像以上にてこずったが、これで終わりだ。……貴様の魔力をいただくぞ」

「そうは……!」

 

 させまいと剣を振るおうとするが、その直前にバインドで縛られる。そしてそれはフェイトも同様だ。マークですら、いったいいつの間にやられたのか全く分からないほどの手際であった。

 

「つーかテメェ、いつの間に!」

 

 ヴィータのそれが何に対しての言葉かマークには分からなかったが、マークは自分の中から何かが抜けていくのを確かに感じていた。

 

(これは……!)

 

 魔力を使い過ぎた感覚ととてもよくていたが、全く違う事がマークには理解できた。

 

(魔力じゃない……もっと根本的な何かを吸っているのか!?)

 

 しかし今は何が吸われているかは問題ではないと判断し、あらかじめ考えていた対応策を実行する。

 

(奴らが魔力を収集していたのは知っていた……そして、魔力を奪われるのなら、それ以外の力で対応すればいい!)

 

 次の瞬間、マークを中心に何かが炸裂する。それはいまだ管理世界にて認知されていない力であり、マークにとって生まれたときから慣れ親しんだ力であった。

 

 『竜石』それは竜の力をその内に秘めた、神器を押しのけ切り札と呼ぶにふさわしい一手。

 

 それはマークを縛っていたバインドを引き千切り、マークの背後にいた仮面の男を吹き飛ばす。さらに足元の砂を大量に巻き上げ、その場にいるすべてのものの視界を奪った。

 

「今のは一体……?」

「流石に答えられないな……これは、俺の切り札だから」

 

 シグナムが思わずつぶやいた一言に、ごく自然な一言が帰ってきた。それはまだいいのだが、その声が発せられた場所がおかしかった。

 

「ッ!」

 

 騎士たちが声のあった方へ向き直る。それはすなわち、彼女らの視線が集まっていた爆心地とは全く違う場所にその声の主が現れたという事に他ならない。マークの強襲にはその場の全員が警戒していたはずなのに、それにもかかわらず見逃したことになるのだ。

 

「そんなに驚くことはないさ……ただ、『俺は飛べない』って先入観がなければ気付けただろうがな」

 

 その言葉にシグナムは背筋が凍る。それは今まで優位を保てると思っていた領域が失われたことを意味していたからだ。

 そこでようやく、砂に覆われていた視界がようやく晴れる。そこにいたのはやはりマークであり、捕縛されていたはずのフェイトであった。

 

(いや、それ以上に、あれが、本気のマーク・テスタロッサという事か……!)

 

 自分たちに気付かれずに移動できた以上、そこにフェイトが居ても何ら不思議はない。ただ、そんなことよりもマークに起こった変化の方が重要であった。

 

「……耳と、翼か……他も見えないところで変化があると思った方が無難か?」

 

 その確認するような声音に、マークは口角を少し上げることで答える。シグナムの言うように、外見上の変化はその二点に尽きる。

 耳が細長く伸びて、その身を包めるほどの大きさの、鱗に覆われた一対の翼が生えていた。

 だがそれ以上のことを確認する前に、外部からの強大な一撃に結界が破られる。

 

「ふむ、なのはのスターライトブレイカーかな? ともあれ、こちらも援軍が来たようだ」

「……ヴィータ、シグナムを連れて離脱しろ」

「そんなことできるわけ……!」

「全滅さえしなければどうにかなる! 行け!」

 

 今が最後の引き際だと察したザフィーラのその言葉を受け、歯を食いしばりながらヴィータはシグナムを連れ離脱をする。それに対してマークは追う気配を見せず、あまつさえ飛び出そうとしたフェイトを止めることすらしていた。

 

「マーク、どうして……?」

「情けをかけたつもりか!?」

 

 そんな疑問や批難も、マークは軽く受け流す。

 

「正直に言えば、お前らの捕縛は二の次だ。本命の仮面に逃げられた以上、無理をしてまで追う必要性を感じない。……もちろん、お前が残ったからこそ言えるセリフだがな」

 

 その言葉にザフィーラとフェイトが周りを確認し、仮面の男が離脱済みなのに気付く。だがザフィーラも、マークの言葉を鵜呑みにするほどお人よしではなかった。

 

「……ここは馬鹿になってくれるとありがたい。いくら敵対関係にあるとはいえ、今の俺は殺しをしたくないんだ」

 

 それは、今戦えば殺してしまうという脅しとも取れる物言いだったが、不思議とザフィーラも矛を収める気になってしまう言葉であった。

 

「……いいだろう。どちらにせよ捕らえられるのなら、ダメージは少ない方がいい」

「え?」

「助かる」

 

 戸惑うフェイトを置き去りに、構えを解いたザフィーラは、この後に来たなのはとアルフにおとなしくバインドで縛られ、連行されることになった。

 

 

「今度はザフィーラが……」

 

 その夜、報告を受けたはやては眠れない一夜を過ごしていた。それは家族がまた一人管理局につかまってしまった戦闘が原因であった。

 

(大事な家族が捕縛されてしまったんや……今までのような日和見は、もうしていられへん)

 

 それは、管理局との対話か戦争という二択に、答えを出さないといけないという事だ。だがそんな選択が簡単にできるようなら、はやては今日まで迷い続けることはなかっただろう。

 しかしそれでもはやては一度たりとも弱音を吐くことはせず、今日まで堪え続けてきたのだ。そんな彼女を、毎夜のように誘惑し、励ます声があった。

 

(諦めてしまえ。そもそも組織を相手して個人が勝てるはずないのだ)

(諦めてはいけない。そもそもこの問題は勝ち負けの問題ではない)

(戦え。世界が我が望みを認めないのなら、そんな世界は必要ない)

(戦ってはいけない。相手を否定して得られるものなど何もない)

 

 はやてはそんな言葉の数々に、それぞれ納得できるものと反発を覚えるものがあったが、どうしても最後の一歩が踏み出せなかった。だがその声は情け容赦なく、はやてに答えを出すことを急かし続けた。

 その明け方、はやてはついにそのような状況に堪えかねたのか倒れ、病院に入院することになった。

 

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