魔法少女リリカルなのは 炎の紋章を持つもの   作:コウチャカ・デン

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第3話 「初陣を越えて」

「帰ってこないね……」

 

 白いおそらく素人の魔導師と戦い、大事を取って帰還してから、何度目のつぶやきだろうか。

 

「はぁ~、フェイトもあいつの魔法は見ただろ?そんなヘマするような練度じゃなかったって」

 

 そうなのだ、いくら相手が素人とはいえ、空を飛ぶ相手を地上から完全に圧倒していた。さらに言えば、警察を言いくるめることもできるほど知恵もまわり、話術もある。だけど、いやだからこその不安がある。

 

「あれだけの知恵と力があれば、わたしたちのところにいる理由なんてないんじゃないかな?」

 

 そう、フェイトにあるのは『何かあったのか』という心配ではなく『帰ってこないんじゃないか』という不安だ。

 

「でも、いくら何でもマーク1人じゃ次元跳躍なんてできないだろ? ここに居なきゃ帰れないんだから、すぐに帰ってくるさ!」

 

 確かに彼が自力で帰れるのなら、フェイト達に世話になることなく本来いた世界に帰っていただろう。では、なぜここまで不安になるのか。

 そもそも、マークとは昨日であったばかりだ。そして昨日の会話もそのほとんどがこの世界の常識などの話で、自分たちのことなど片手の指で足りる程度しか話していない。

 

「本当にどうしたんだろう……」

 

 アルフはこのつぶやきはマークを心配してのものと思ったのか、今度は何も言わなかった。そうしてフェイトは、答を得ることなく、マークが帰ってくるまで何とも言えない不安を抱き続けた。

 

 

「いや、心配させて悪かったね」

 

 それからしばらくして、マークは何事もなかったかのように帰ってきた。正確には何があったから帰ってきたわけだが……

 

「何もなかったら2,3日帰らないつもりだったって……」

「本拠地の近くで敵対勢力と接触したんだから、それくらいの警戒は当然だろ?」

 

 確かに隣町での接触は、ここから遠いと言えるほどの距離はない。だが警戒するほど近いとも思えない距離だ。ここら辺が常識の差というものを表しているといえるだろう。

 

「あんたさ、さすがに神経質すぎると思うよ?」

「そうか?ま、ここがばれるよりずっといいだろ?」

「それはそうだけど……」

 

 さすがに一朝一夕でこの認識を覆すのは無理と感じたのか、フェイトは強引に本題に戻してきた。

 

「それはそうと、これ……どうしたらいいの?」

 

 そう、彼の手によって封印されたジュエルシードである。不思議な結晶によって封印されたそれは、少なくともフェイトの知識ではどうすることもできそうにない。

 

「そうだった。じゃあ俺がした封印を解くから、フェイト達の術式でやり直してくれ」

「わかった」

 

 ジュエルシードを必要としているのはフェイト達なので、封印もそちらに合わせておくに越したことはない。マークは『封印の剣』の核である一つの宝玉を取出し、掲げる。

 

「それは?」

「『炎の紋章』この封印を解く小道具だよ」

 

 そうして掲げられた紋章から光があふれ、ジュエルシードを覆っていた結晶を溶かす。

 

「ジュエルシード、封印!」

 

 その直後フェイトが再度封印を行い、問題なくフェイトの手の内に収まった。

 

「とりあえずこれで2つか」

「うん。……あの女の子も集めてるだろうから、急がないと」

 

 それは、あの子と競うということだ。正直、あの子にある程度集めてもらってそれを横から……という方が効率はいいんだが、という考えをマークはそっと脇に置く。あくまでジュエルシードを必要としているのはフェイト達であり、自分は手伝いをしているだけと割り切る。

 

(本人が納得する方法でやるのが1番だ)

 

「それはそうと、ずいぶんと強力な封印だったね! そっちが専門なのかい?」

 かなり力の入っているフェイトを和ませるためか、明るめな調子でアルフが訪ねた。マークとしてもことさら隠す気はないのか、自然な調子でその力について述べる。

 

「そうだね、そこまで厳密に分野を分けてはいないけど……あえて言うなら、封印・討滅が専門かな?」

「それじゃあ、戦闘が本職?」

 

 討滅というところが気になったのか、フェイトもその話に乗ってくる。

 

「ああ、基本的な立場は助っ人だけど、元いたところでは軍に所属していたことになるかな?」

「軍人……やっぱり犯罪者を追っかけたりしてたのかい?」

 

 声を低くし、あからさまに警戒を示すアルフを見て、ある意味予想通りの反応だと苦笑するマーク。ジュエルシードが危険物だということぐらい、誰に聞くまでもなく理解できる。なら、それを追う彼女たちは何者か?それはマークという身元不明者を手元に置くことや、強引に押し切られたとはいえ上司などに連絡することなく協力を許すことから容易に想像できた。

 

「正式に所属していたわけじゃないし、そういうことはあまりやらなかったな。人じゃない存在を追いかけていた時間の方が圧倒的に多いよ」

 

 事実、人同士で戦った内乱や戦争はあったが、犯罪者を追っていた時期なんてせいぜい山賊を狩っていたぐらいだ。最も多く戦ったのは『屍兵』と呼ばれる存在だったか。『魔物』や人造生命である『モルフ』と呼ばれる存在、果ては『女神』とも戦った。

 

「まあとにかく、勝った方が正義を主張するような戦場ばかりだったからな。事の善悪より、俺自身の使命の方を重視していたかな? ……だから心配することないって」

「え!?」

「あたしたちのやってる事なんて、お見通しってわけかい」

「目的までわかってるわけじゃないよ? ただ、非合法なんだろうなってのはすぐわかったけど」

 

 そうして2人はともに笑みを浮かべる。とはいえ笑いあうというにはあまりにも攻撃的なものであった。

 

「まあ、だからと言って何が変わるわけでもないんだけどね」

 

 そういってマークの獰猛な笑みから力が抜ける。その豹変ぶりに、アルフだけでなく今まで少し引いていたフェイトまで唖然としている。

 

「うん、この話はこれでおしまい! 今後は……そうだね、おそらく学校に通っているあの子の動けない午前中と昼のうちはバラバラに探索して、夕方前から合流ってことでいいかな? あ、俺1人だと連絡とか封印に支障が出るし、二手に分かれる方がいいかな?」

「う、うん。それでいいと思う」

「あたしとしても問題はないけど……」

 

 そうして、いつの間にか主導権を握ったマークによって今後の計画が立てられていった。

 

 

「そういえば、もう食事は終わったのか?」

 

 ある程度話がまとまったのを機に、空腹を覚えたマークが訪ねた。

 

「ううん、マークが帰ってからと思ってたから」

「それは悪いことをしたな」

「ホント、もう腹ペコだよ」

 

 改めて謝り厨房へと向かう。だがそこには特に何もなかった。

 

「……君たちは何を食べるつもりだったんだい?」

「えっと……これ?」

 

 そういってフェイトが指差したのは、クッキー状の非常食の様なものだった。

 

「せっかく人里にいるんだ、もうちょっとマシなもの食べようじゃないか」

「でもわたし料理できないし……」

「あたしもできないよ?」

「フェイトはともかくとして、アルフまでできないのか……」

 

 マークの居た世界では、アルフぐらいの年で結婚しているものも多かった。それを思うと自然とため息が出そうになるが、ここでもその常識が通じるわけじゃないと思い直し必至で飲み込む。

 

「じゃあ、いまから簡単なものを……いやもう買ってきた方が早いな」

 

 昼に街を歩いた時に見た商店の数とその質は、彼を圧倒して余りあるものだった。そこには完成した料理を売る店もあったし、そちらに行った方が早いだろう。幸い、友から大量の財宝を持たされたので金には困らない。とはいえ毎食買ってくるのも面倒だし、外で済ますにもフェイトの気が休まらないだろう。

 

「俺が作るか、一応軍で食事当番になったこともあるし……そうとう昔だけど」

 

 封印される直前ぐらいになると『そのような事をあなた様にさせるなんてとんでもない!』ということで基本何もさせてもらえず、暇を持て余していた。問題があるとすれば、ここの材料とマークの知る調理法が合うかどうかぐらいである。

 

「ま、今は食事だな。腹が減っては戦もできまい」

「わかった。ちょっと準備してくる」

「え~これから移動か~」

 

 フェイトは素直に、アルフは文句を言いながらも特に遅滞なく準備に行った。

 

「……ああ、なかなかいいもんだな」

 

 他人から見れば平穏と呼び難いものかもしれないが、今までのように世界の危機を背負うでもなく過ごすこのぬるま湯は、彼にとって心地よいものであった。

 

 

「う~ん……炎を放つ剣を持った男、ねぇ」

「やっぱり見つからなかった?」

 

 ところ変わって、海鳴でも有数の大きさを誇る屋敷の中で、ある女性たちが話をしていた。

 

「まあ、うちでもすべての異能者を知ってるわけじゃないしね。とはいえ、放っておくわけにもいかないし……」

 

 20歳くらいの女性が悩んでいるところに、メイドの一人が声をかけた。

 

「人相書きが出来上がりました……このような顔つきでよろしかったでしょうか」

「うん、これなら本人を見て見間違えることもないと思う」

「どれどれ……あら、なかなかいい男じゃない」

「お姉ちゃん!」

 

 おどける姉をしかる妹。もし夕方のあの場にいたものがいたものが居れば気付いたであろう。人相書きの男がマークで、この場で姉をしかった少女が、ジュエルシードの封印を目撃した子供であると。

 

「まあまあ、でも何かの行き違いで攻撃されたりなんかしたら、たまりませんからねぇ~」

「そうですね、幸い『目撃者は消す』といった方向性でないようですが……」

「なんにせよ、話し合いの席は設けないとね」

 

 そして、子供の話と切り捨てなかったこの女性たちは、いったい何を思いこの話を受け入れたのかと。いや、なぜか、などと問う必要もないだろう。要は『知っていた』のだ。異能の存在を。

 

「やっぱり恭也にも頼んでおきましょう。準備を怠って大怪我なんかしたくないし」

 

 こうして実力者がまた一人、マークと話し合いを行うために追加された。残念ながら、マークに平穏が訪れるのはいささか先の話になりそうである。

 

 




この月村家の設定はとらハでしたね……うまく設定できていない部分について、ご指摘いただけると嬉しいです。
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