魔法少女リリカルなのは 炎の紋章を持つもの   作:コウチャカ・デン

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第40話 「戦支度」

「それじゃあマークさんは前のなのはちゃんみたいに……?」

「うん、魔力を盗られてしばらく戦線離脱するって……でも、マークさんは魔力を全部取られる前に逃れたから普通に戦えるのにって言ってたよ」

「一応絶対安静って言われてたけど、ひょっとしたらまた病室を抜け出してるかもしれないぐらいだよ」

「なに? またってことはもう抜け出した前科があるの?」

 

 守護騎士たちとの戦闘の次の日、いつものように学校に来たなのは達はアリサとすずかに昨日のことを話していた。最初こそマークが蒐集されたことに苦い顔をしていたが、今は苦笑に変わっている。

 

「じゃあ、守護騎士の一人を捕縛して、情報もある程度手に入ったのね? それじゃああとは敵のアジトを確認し次第、危険な魔導具を封印して終わりってこと?」

「うん、今マークさんの提供してくれたアイテムをレイジングハートに付けてくれてるから、それが終わったらわたしの方は準備完了!」

「本拠地についても捕縛した守護騎士と交渉中だけど、クロノが今年中にはどうにかするって言ってた」

 

 そして、ここまで条件がそろった以上、無理に守護騎士を探して戦闘を行う必要が無くなったのだ。最終決戦は交渉に変わるだろうとのことだ。

 

「ならやっとはやてのことを紹介できるわね」

「今まではいつ召集されるかわからなかったから行けなかったけど、もう大丈夫だからね」

 

 少し前にアリサが知り合ったという少女と会いたいというのは前から言われていたことだったが、いつ戦いが起こるかわからない状態で会いに行くのはなかなかハードルが高かったのだ。

 

「きっとすずかちゃんとは特に気が合うだろうね」

「そうでしょうね、あの時すずかが自分で本を返しに行ってたら、間違いなく友達になってたと思うわ」

 

 出会った場所を思い、自分たちが紹介された時のことを想像するなのはにアリサは同意する。

 彼女たちはまだ知らない。この日常が、戦場と薄皮一枚隔てたところにあるという事を。そして、その薄皮が今にも裂けようとしているという事を。

 

 

「……これで最後、か」

 

 そのころマークは、病室にてアルフが回収してくれた鋼の大剣の破片に、最後の手入れを行っていた。ジュエルシードの時に最期を迎えた魔道書と同様に、これもまた思い出の欠片として保管されることになるのだろう。

 ただ、かつてからは想像もできない自身の行為に、自然と言い訳のような言葉が口からあふれる。

 

「確かに俺は武器を雑に扱うようなまねはしないが、破損に気を付けることはない。戦いが終われば手入れも行うが、壊れればそこまでだと割り切るだろう。実際に、今まで使いつぶしてきた武器は三桁を確実に超え、ひょっとしたら四桁に届きかねないしな」

 

 それでも、今持っている武器だけは例外なのだ。

 

「今の俺が持つ武器はすべてかつての戦友からの餞別で、形見だ。これを消耗品として捨て置くことはしないさ」

 

 形見と言える武器を破壊されたマークだったが、それをしかたがないことだと穏やかな表情を浮かべながらさらに言葉を連ねる。

 

「形あるものはいつか滅びる。だが過去はなかったことにはならないんだ。そして、過去は今を縛るものではなく、支えるものであるべきだと思うようになったんだ」

 

 それは、武器が破壊されたことは重要じゃないというのと同時に、今後の誓いでもあった。

 今までマークは平和を謳歌し幸せになることを目指してきたが、それはマークがそうしたかったからではなく、友に願われたからである。そしてマークの今の行動は、相方であるフェイトを助け、共に在りたいというものだ。ただここで問題となったのは、フェイトのいる場所が戦場であったことだ。

 それゆえに発生した矛盾を、マークは変化の過程として容認していたのだが、ついに限界を感じた。そして出した答えが先程の言葉となったのだ。

 

 つまり、友の願いを踏まえてなおフェイトと共に在ることを願ったのだから、それを優先するべきだという結論を出したのだ。

 

 何も劇的な経験の内から導き出したわけでもないし、絶対の真理と言うわけでもないその結論は、マークの経験から導き出した、今のマークがそうすべきと考えたという答えだ。

 

(まあ、別に幸せになることを諦めたわけでもないし、かまわないだろ?)

 

 マークが心の内でそう尋ねても、もちろん答える者はいない。一応、マークにはかつての戦友たちが何と答えるか簡単に想像できたが、それでもそれは想像でしかない。

 

「……ダメだな」

 

 一人でいるとどうしても思考が悪い方へと傾いてしまうと、マークは剣の破片をしまい、ニット帽を少し深くかぶることで耳を隠して部屋を出た。

 その数十分後、部屋に訪れたクロノの額に青筋が入ったのは、必然と言えるだろう。

 

 

「えっと、それじゃあ旦那は暇を持て余してここに遊びに来たんすか?」

「そう言った解釈もできるが……いや、そんなに睨むなって、ちゃんと用があってきたんだ」

 

 マークが訪れたのは、先日の戦闘に参加した部隊の隊長と銃使いの隊員だった。ちなみに銃使いが隊長と一緒にいたのは、マークや隊長について回っていたので他の隊員から隊長補佐と認識されてしまったためだ。

 

「それじゃあいったい何の用っすか? こっちは見ての通り忙しいんすけど」

 

それはあまりに無茶な戦闘を行った弊害と言うべきだろうか。本来の作戦を無視してしまったツケは外部協力者のマークではなく、部隊の責任者である隊長に向かってしまったという事だ。報告書や始末書、その他諸々山のような作業がデスクに積まれていた。

 

「それじゃあ、それも含めて……こちらの都合に付き合わせ、迷惑をかけたことをここに謝罪しよう、申し訳なかった」

「……」

「……」

 

 その頭を下げる姿に、あまりの理不尽さに憤っていた頭が一気に冷却され動きを止める。それは隊長たちにとってあまりに衝撃的な様子であった。

 

「……何かしらの反応が無いとこちらも困るんだが」

「……いや、なんて言えばいいか」

「正直意外ですね」

 

 隊員改め隊長補佐の言葉は、マークにとってもある程度納得できるものであった。それは先の戦いでは隊長の言葉を無視してあれほど勝手な行動をしたにもかかわらず、今この場で頭を下げるという行動が全く同一人物に見えないという事だろう。

 

「まあ、あんなことをやっておいてと思われても仕方ないだろうが、これでも戦場を共にする者は大切にしたいと思っているんだ」

 

 あれほど無茶な突撃をして……そう反射的に言いかけた隊長であったが、現実が見れないほどの無能ではなかった。

 

「まあ、確かにあれほどの戦場で、死者も重傷者も出ていないし……相当気を使ってくれたんでしょうけど」

「貴方も死んでもおかしくない一撃をもらいながらも、即行で次の戦場へ行ったことも聞きましたし……」

 

こうして謝罪したのならそれでいいかもと言う思いと、こんなことであの死にそうな思いをしたことを清算できるものかと言う思いがせめぎ合う。

 しかしマークもそれぐらいは見越していたのだろう。せめてものお詫びにと、一つの腕輪を差し出した。

 

「……こういうのはちょっと困るんすけど」

「まあそうだろうな……だから、あくまでこれは『贈与』ではなく『貸与』と言う形で受け取ってもらえないか? 期限は一年で、効果は……説明しない方がいいかな」

「効果?」

 

 あくまで貸すだけだと言い出したマークに、何の意味があるのかと思った二人だったが、続いた言葉に考えを改める。

 

「あ~、何というか、これを装備していると特殊な効果があるんだ。だが、人に知られたらちょっと問題になりそうだからここは伏せておこう」

「そんな問題になりそうなものをお詫びにされても困るっすよ」

「人体や精神に害はないから安心してくれ。問題っていうのは数が無く、大勢に配れない事だ」

 

 つまり下手をすれば取り合いになったり、嫉妬やらなんやらで大変なことになるとマークは説明を付け加えるが、二人からしてみればどうにも胡散臭い。

 

「……おいティーダ、お前がつけろ。隊長命令ってやつだ」

「ちょっ!? ロイド隊長、流石にひどくありませんか!」

「……せめて俺が居なくなってからやれ。ちなみにその腕輪の名前は『魔道士の腕輪』だ。すぐにはわからないだろうが、一年もあればいくらか効果は出るだろう」

 

 他の隊員に会えなかったのは残念だが、と言いながらマークは用事は済んだと部屋を後にする。それからしばらく腕輪の押し付け合いが続いたが、最終的にティーダが指輪をつけることに決定した。

マークが言わなかったことなので当然ではあるのだが、その『魔道士の腕輪』が、魔力の成長を促進する効果を持つという事を、彼らは知る由もなかった。

 

 

 マークがロイドたちと話していたその時、クロノはマークを発見することができぬまま、約束の時間を迎えグレアムへの報告へと訪れていた。

 

「ふむ……彼はもう少し、自分の言動が他者に与える影響と言うものを自覚したほうがいいな」

「まったくです」

 

 その言葉に深く同意を示したクロノの様子に、グレアムは苦笑する。グレアムからしてみれば、クロノもまた周囲に多大な心配をかけた一人なのだから。その意図が通じたのか、クロノはやや視線をそらしながら本題に入る。

 

「マークさんの怪我は、数日も安静にしていれば完治……と言うわけにはいかないそうですが、戦線に復帰できる程度にはなるそうです。ただ問題は……」

「リンカーコアの方かね……」

 

 そう、なのはと違ってマークはそう若くない。それどころか、これ以上が無いほどの高齢なのだ。現状リンカーコアの回復は絶望的とまで思われている。

 

「過去のデータによると、10代後半の魔導師なら7~9割の回復が一般的であり、その回復には約一週間から二週間がかかっています。ですが……」

「例外はあるし、何よりマーク君は2割ほどが蒐集を逃れている……か」

 

 もちろんこのデータが役に立つとはクロノは思っていないが、周囲を納得させるにはいいデータだと思っている。

 

「とりあえず、彼については経過を見るほかあるまい。それと、もう一つの話は本当かね?」

「はい……こちらを」

 

 グレアムはその瞳をかつてなく鋭くして、クロノの示したデータに目を通す。そのデータは『UNKNOWN』の文字も多く入っているが、いくつかはとんでもない数値をたたき出していた。

 

「マークさんの提供していただいた『ファイアーエムブレム』をレイジングハートに仕組んだ時の理論値です。残念ながら、十全に性能を発揮できるほどの強度がフレームに無いため、実戦でここまでの数値は出ませんが……」

「いや、十分だろう。特に理論上とはいえ、干渉値は他のデバイスの追随を許さないレベルだ」

 

 それこそ闇の書の自己修復プログラムを反転させ、自壊させることも夢ではないほどの干渉力と言えるだろう。

 

「正直に言って、これこそ封印を施すべきではないのかと進言したくなるほどの性能だが……」

「やめてください……」

 

 その理不尽なまでの力に、つい余計なことを口走ってしまったグレアムをクロノが窘める。これは闇の書対策の鍵であると同時に、マークの持つ神器でもあるのだ。管理局の総意としても、まだマークとは敵対したくない。

 

「ふむ……ともかく、これで闇の書をどうにかする手段を手に入れたわけか」

「はい……それで今回このことを報告した狙いですが、この事を局内に広めてほしいのです」

「なるほど」

 

 確かに、闇の書を封印・破壊する手段が手に入ったことが広まれば、内通者が闇の書にちょっかいを出す理由が半分だが無くなるのだ。

 

「残るは闇の書の力を利用したがる輩ですが……それならば何の気兼ねもなく潰せます」

 

 クロノの憤怒の念ともいえるものが滲み出すが、グレアムは動じない。なぜならこの部分に関しては、二人は同類であると言えるからだ。

だがクロノはその想いを振り切り、穏やかな表情でグレアムに告げる。

 

「だから、もういいんです。後は僕たちがやりますから」

「それは……」

 

 限界まで言葉を削られたひとことであったが、それだけでグレアムには十分であった。

 

(内通者が誰か、もうわかったようだな)

 

 決定打となったのはマークの告げた仮面の男の特徴だったが、この時点で特定しきったのは間違いなくクロノの力である。そしてそのことを胸に秘め、言外に手を引くようにというのもまたクロノの本心である。

 

「それでは、失礼します」

「ふむ……」

 

 言うべきことを言い切ったクロノが席を立つのに合わせ、グレアムが最後に贈るべき言葉を探す。探すのだが、かけるべき言葉は見つけることができなかった。

 

(これが、裏切るという事なのだろうな……)

 

 どんな言葉を思いついても、それを語る資格が今のグレアムには無いのだ。応援することも、祈ることさえ許されない。

 今の彼にはただ無言で、部屋を後にするクロノを見送るほかなかった。

 

 

「……はあ、それであっちこっち逃げ回ってるわけ?」

「逃げ回ってるわけじゃないぞ? ただ、一人で寝てるのに飽きたから散歩に出てきただけだ」

「それを逃げ回ってるっていうのよ」

 

 隊長たちとの話の後、ついに本局を飛び出し地球までやってきたマークは、月村家へとやってきていた。

 

「別に家に帰りづらかったり、翠屋にも行きづらいからここに来るのもいいけど、そうじゃない時に来ても罰は当たらないわよ?」

「いろいろ学ぶことも多くてな、なかなか時間がとれなかったんだよ」

 

 そう言って傍らに控えているノエルの入れた紅茶に口をつける。未だ地球や管理世界の常識を学び続けるマークは、自由にできる時間は少ないのだ。とはいえ、そろそろ情報や知識としてだけではなく、経験を積んでおくべきかとも考えている頃なので、今回の脱走はいい機会になるかもしれない。

 

「それにしても、これって毎日やってるのか?」

「毎日じゃないけど……あなたが翠屋でバイトをすることになったおかげで、結構な頻度でやってるわね」

「ふーん」

 

 そう言って忍と共に眺める先では、すずかと恭也が鍛錬を積む姿があった。忍の話によると、アリサの友人と連絡がつかずにお開きになってしまったという事だった。

 

「実際に二人の鍛錬を見るのは初めてでしょう? どう?」

「ふむ……」

 

 少し考え込むかのように唸ったのちに、マークは二人についての感想を述べる。

 

「まずはキョウヤだが……やはり双剣は珍しいと思う。とはいえ剣筋はまともそうだな。奇をてらったものでなく、筋の通ったものだ」

「小太刀二刀御神流って言うらしいわ。詳しいことまでは知らないから解説とかできないけど」

 

 マークの知る限り、双剣を実践レベルで使う者など片手の指で足りる程度しかいない。マークもやってみようとしたことがあったが、結果は散々なものであった。

 

「身体性能は剣士の典型……片手で剣を扱ってる分少し力が強めかな? 極端な欠点も見当たらないし、まあ、いいんじゃないか?」

「……その感想は、中堅クラスととっていいのかしら?」

「ま、中の下くらいかな? この環境なら上等だろ」

 

 身近に戦場もなかったのだから、これ以上鍛えるのは無理だっただろうというマークに忍も納得する。いくらか修羅場を超えた程度では、本物の戦場を越えたものから見てしまえば物足りないという事だろう。

 

「じゃあすずかは?」

「……流石の俺も、あの年の剣士は知らないな」

 

 魔道士として後方に立つものなら、すずかと同じくらいの年で最前線に出られるものを知っているが、剣士として戦場に立てるレベルの存在は初めてだった。

 

「一応参考までに言っておけば、俺の知る戦士系統の軍人の最年少はたしか13歳位だったはずだ」

「その軍、大丈夫なの?」

 

 忍の一言に、マークも苦笑するほかない。そういうのも、マークが今まで所属した軍の半数以上が、十代というとても若い大将を据えていたからだ。

 

「大丈夫、少なくとも魔王や魔竜なんかと対等に戦える軍だ。と、それはいいとして……スズカの評価だが、同年代なら並ぶ者はいないと言って過言じゃないだろう」

「あら、想像をはるかに超える高評価ね」

 

 あくまで同年代の内であることを強調したマークであったが、それにしたって大したものであることに変わりはない。

 

「……ちゃんと一人の戦士として評価したら、新人兵士か駆け出し戦士と同じ位だ。まだまだ未熟であることに変わりはない」

「新人だろうが駆け出しだろうが戦士として見れるレベルなんでしょ?」

 

 まともに認められるまで10年かかると思っていた忍にとって、この評価は正直焦りを呼ぶものであった。だが、実はマークの感想も似たようなものとはさすがに思わなかっただろう。

 

(ある程度戦えるようになった今の時期が一番危ないんだよな……『できるようになった』って気持ちが強すぎて、周りが見えなくなる奴は実に多い)

 

 ましてすずかはまだ子供であるのだし、その傾向はより強くなるだろう。とはいえ、その気持ちを折ってしまえば戦場で使えなくなってしまうので、なかなか指導が難しい時期なのだ。増長させず、卑屈にもさせずに教え導くというのは、少なくともマークにできることではない。未だ若い恭也にも難しいだろう。

 

「武装で補うのがベストか……何か用意できるか?」

「難しいわね……というより、できればまだ戦わせたくないんだけど」

「状況は待ってくれないからな。念のため身を守れるようにしといて欲しいんだ」

 

 それこそがマークが今日ここに来た本当の目的だ。もちろんすずかたちを危険な所へ連れて行く気などないが、闇の書の件がある。

 

「万が一だが、俺らの対処より闇の書の完成のほうが早い可能性がある。その暴走から身を守る手段を持っていてほしいんだ」

「必要なの? 別の世界で起こってる事なんでしょ?」

 

 蒐集されるのは魔力を持った者のみなので、あまり危機感を持っていなかった忍だったが、続く言葉に考えが甘かったことを思い知らされる。

 

「管理局の把握した闇の書の主の潜伏場所候補の中に、人の住む世界は少ない。主がランダムで選ばれる以上、この世界の住人が選ばれる確率は結構高いんだよ」

 

 そして、人はそう簡単に日常を捨てられる存在ではないし、『木を隠すなら森の中』なんて言葉もある。闇の書完成まで無人世界に隠れるなんてことはありえないだろう。

 ひょっとしたらこの世界で闇の書が暴走するかもしれない。そして、剣を一本持っているだけで生存できる確率が増えるかもしれない。マークにとって、未熟な戦士に剣を持たせるには十分な理由だ。

 

「もちろん、武器を持ったことで喜び勇んで危険な所に出て行って死ぬ可能性もあるし、どっちもどっちなんだがな」

「縁起の悪いこと言わないでよね……」

 

 簡単に死ぬ可能性を口に出すマークに軽く抗議する忍であったが、必要な事であることはわかるので、その言葉に力はない。

 

「ちゃんと言っておけば、すずかも無謀な事はしないと思うし、武器を持たせることは仕方無いとしましょう。ただ……あの子に合うものを作るとなると時間がかかるわ」

「いくら身体性能が高めとはいえ、まだ体は小さいからな……まあお前には世話になってるし、俺の持ってる武器なら細身の剣かレイピアあたりを……」

 

 マークは、そう言って考えているうちに、ふと思いだした。なかなか強力な武器であるにもかかわらず、マークには使えない武器が存在したことに。しかも細身の剣に次ぐ軽さを誇るため、振り回すだけなら問題ないだろう。

 

「と、まあシノブといろいろ話し合った末、スズカに俺の剣を貸し与えることにした」

「え、と……ありがとうございます?」

「もう少し詳しく説明してくれないか? 俺にもよくわからないんだが……」

 

 善は急げということで、さっそくすずかに剣を渡すことにしたまではよかったが、その過程の説明をすっ飛ばしたマークの言葉に、すずかはもちろん恭也も付いてこられるはずがなかった。

 

「本物の剣を持つことで剣士としての自覚を持たせると同時に、常に起こりうる万が一への備え、ってとこかしらね」

「……かなり抽象的だが、何となくわかった。すずかは?」

「えっと、力を持つことを自覚して、ちゃんと考えろってこと……ですか?」

「まあ、そんなとこかな」

 

 実際は万が一への備えといった側面の方が強いが、心構えをしておくという意味ではどちらでも構わない。

 そうしてマークが取り出したのは、刀に酷似した外装を持つ剣であった。

 

「直刀……まさかあなたが刀まで持つとは思わなかった」

「カタナ? なるほど、ここではこの形状の剣をそう呼ぶのか……それはともかく、これは精霊の加護を受けた導きの剣『マーニ・カティ』だ。神器には及ばずとも、それなりに強力な武器だから、大事に使ってくれ」

「は、はい!」

 

 そうして『マーニ・カティ』は、マークの手からすずかに渡り、かすかに輝いたかと思ったら、すずかの手の甲に吸い込まれるかのように消えてしまった。

 

「えっ!?」

「問題ない、昔俺が施した封印に手を加えただけだ。正確には、すずかの掌を出現位置に固定し直したというものだが……呼べば出てくる」

 

 マークの言葉通り、すずかが呼んだら『マーニ・カティ』はその手に収まった。いくら軽いとはいえ、それでも木刀の倍以上の重さがあったのだが、何とか振り回すことぐらいできそうである。

 

「心構えができるまで鞘から抜くな。手入れの仕方は……またにしよう」

「はい! ありがとうございます!」

 

 それからマークはお守りとして、すずかに技と幸運の成長率を高める『剣士の腕輪』を渡す。その際すずかが真っ赤になりながら受け取った理由を、マークは不思議に思うだけで考えることをしなかった。

 

(まあ、スズカはこれでいいだろう……精霊に認められなければ抜くことができない以上戦場に出ることはできないし、最低限の護身にもなる)

 

 そうしてマークは、忍に一時的に進入禁止域を作る『光の結界』を、恭也にマムクートの鱗を編み込んだ『腹巻き』を渡し、逃げるように去っていった。

 ちなみにマークが効果などを教えたのは『光の結界』のみで、ただお守りとして品を渡された恭也は『腹巻き』を使うか結構深刻に悩んだことをここに付け足しておく。

 

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