魔法少女リリカルなのは 炎の紋章を持つもの   作:コウチャカ・デン

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第41話 「闇をのむ魔」

「だから大丈夫だって言ってただろ?」

「だからって地球にまで逃げる必要はないだろう! あと少し発見が遅れていたら、あなたの捜索に数百人規模の人員を投入する計画まで立ち上がっていたんだぞ!?」

 

 病室から逃亡したマークが発見されたのは、そろそろ夜も更けてきた時間だった。正しくは、マークは地球における本拠地に玄関から帰ってきたのだから、発見という表現はおかしいかもしれない。

 

「マークからしたら大したことじゃないのかもしれないけど、みんな本当に心配してたんだよ?」

「ホントだよ! 出かけるときはちゃんとどこに行くのか言っとかないと! わたしだってできるんだよ?」

「あー……ゴメンナサイ」

 

 フェイトとアリシアに怒られてようやく謝るマークだったが、おそらく反省したのは脱走したことではなく、行き先を告げなかったことに対してだろう。フェイトにすら、次の時は書き置きを残して失踪する未来を思い描くことができた。

 

「それで、何をしていたの? わざわざ地球に来たのには理由があるんでしょ?」

 

 どうやって本局から移動したのかは後回しにして、リンディはその目的を明らかにすることを優先した。

いくら本人が問題ないと言っていても、マークが怪我をしている事実は変わらないのだ。それにもかかわらず今行動を起こしたという事は、それだけマークが焦っているという事だと判断したのだ。

 

「一応……ね。俺の魔力も蒐集されたし、闇の書の暴走が起こった時の対策を少々」

「……確かに今どれだけのページが集まっているか把握できてないけど、もういつ暴走してもおかしくないと考えているの?」

「念のためだ。打てる手を打っておかないと、後で後悔することになるからな」

 

 とはいえ、マークがやったのは月村家、高町家、アリサ・バニングスにお守りを渡しただけだ。ただしそのお守りのいくつかが、ロストロギアに含まれる可能性のある力を持つ物であることはさすがに黙っている。

 

「だから後悔しないためのお守りをアリシアにも用意……しようと思ったんだが」

「できなかったの?」

「いや、どうにも極端なものしかなくてな~」

 

 アリシアになら神器クラスの逸品を出すことに抵抗はないが、それをしてしまえばリンディが大変なことになってしまう。具体的に言えば、上層部への説明やら書類の作成やら……流石のマークもこんなことでいらぬ恨みを買う趣味はない。

 

「無難なのは、一時的に魔法への抵抗力を上げる消耗品か、持ってるだけで効果を発揮する類の装備品か……」

「消耗品とかはやめてもらっていい? 絶対解析したいって言い始めるのが出てくるから……装備品の方ならマーク君の持ち物という事で何とかするから」

「ならこっちかな?」

 

 そう言って取り出したのは宝玉だ。ただし以前に忍に換金を頼んだものとは大きく異なり、一目で何かしらの力が込められているのがわかる。

 

「わぁ、きれい……」

「これは『ルドルの宝珠』と呼ばれるもので、効果は防御力の上昇。まあ、一般的な成人男性にナイフで突かれたとしても、傷一つつかなくなるだろう」

「……あれね、不可視のバリアジャケットを展開するアイテムと思えば何の問題もないわよね」

 

 どうやらリンディの中で『越えてはいけない一線』を越えてしまったらしい。無理やり自分の常識の中で処理することで、今回の出来事を無かったことにしたようだ。確かにアリシアが持っていればその程度の効果なので、その認識でも構わない。

 

(例えばフェイトが持ったら、障壁を張らなくても恭也の攻撃位ならノーダメージで済むことになるとか……言わない方がいいよな)

 

 情報は宝とはいえ、世の中には知らない方がいいこともあることを再確認したマークであった。

 

「えっと、その……マーク?」

「どうした、フェイト?」

 

 マークがいらぬことを再確認していたら、フェイトがためらいがちに話しかけてきたのだが、どうしてかもじもじして要件を言わない。何か言いにくい事なのかとあたりをつけ、マークは決心がつくまで待つ構えを見せたのだが、そうすると今度は落胆したように肩を落としてしまった。

 

「えっと?」

「ううん、やっぱりいいや……明日も学校だし、わたしは寝るね? おやすみなさい」

「……おやすみ?」

「おやすみなさ~い」

 

 部屋に戻るフェイトに、アリシアも続いて行ってしまった。はて、どうしたのかと首をかしげていたら、エイミィから窘めるように指摘をされた。

 

「きっと、フェイトちゃんもお守りが欲しかったんだよ」

「バルディッシュもいるし、必要ないだろ?」

「必要不必要の問題じゃなくて、マーク君のお守りだってことに意味があるんだよ」

「ふむ……」

 

 そうして考え込むマークだが、いまいち理解できているとは言い難かった。戦場においては効率を優先していた弊害だろう。

 

(そういえば、傭兵の間では『○○を持っていれば流れ矢に当たらない』とかいうジンクスがあったとか……○○が何かは覚えてないけど)

 

 当時はまだ流れ矢に当たろうが、何の痛痒も感じないような戦い方だったため聞き流していたが、しっかり話を聞いていれば今のフェイトの気持ちもわかったかもしれない。そんな見当違いの考えをしているマークであった。

 

「まあ、私がどういってもしょうがないんだけどさ、それはマーク君の今後の課題として……艦長、マーク君に話があるんじゃなかったでしたっけ?」

「ええ……聖王教会があなたとの会談を求めているって、以前話したかしら?」

「いや、初耳だな」

 

 少し前にリンディがユーノを伴って行った会談の際、次回はマークも参加するという話になっていたのだ。だがマークは意外なほど精力的に動き回り、中々機会を作れないでいたのだが、今回の戦線離脱を受け、先方には良い機会に捉えられたらしかった。

 

「なるほど、予言か……まあ、聞いておくに越したことはないだろう。それにしても、聖王教会か……」

「何か心当たりでもあるの?」

 

 聖王教会という言葉にどこか感慨深げに反応したマークに、リンディはひょっとして今回の件が起こるきっかけのようなものに心当たりがあるのではないかと感じたが、マークは首を横に振るだけであった。

 

「そうだな……一週間後ぐらいに会えるよう整えてもらえるか? それまでにリンカーコアの修復と、戦闘勘を取り戻すのをやっとくから」

「修復って……治療じゃなくて?」

「ああ、自然治癒だと数十年はかかりそうだからな。欠けた部分を新しく作る事にする」

 

 またとんでもないことを言うマークに、もはや呆れることしかできない管理局の面々であった。

 

 

「それで、なんでこんな僻地まで来たんだい?」

 

 そこは僻地も僻地、管理局の把握した世界の果てとでもいうべき場所であった。マークはリンディに無理を言って、『エルファイアー』と『メティオ』の魔道書を解析させる約束までして、ここに一週間なんの監視もなくとどまる許可を得たのだ。

 

「それなのに……何でアルフがいるんだよ……」

「フェイトに頼まれたからねぇ……魔力のほとんどが使えないマークのことが心配だからって言われちゃ、アタシじゃ断れないよ」

「……」

 

 余計な事を、とつい思ってしまうが、善意からの行動だとわかってしまうので口に出すことはできなかった。何より、こういった行動ができる子だから一緒に行動したいと思ったのだから、文句を言う方が筋違いというものだろう。

 

「はぁ、仕方ないな……ただしここで起こった事は他言無用だ。破ればたとえおまえでも容赦はせんぞ?」

「了解!」

 

 マークのため息交じりの忠告にアルフは元気に答える。

 

「それで、何のためにこんなとこまで来たんだい?」

「……今から行う術式を、誰にも知られないためにだよ」

 

 そう言って取り出したのは、闇の魔道書『エレシュキガル』と淡く輝く結晶であった。

 

「今まで使ってきたものとは別物ってわけかい? ……詳しく聞いても?」

「エーギルを使用した、リンカーコアの再生、いや修復……生成というのが正しいかな?」

 

 それは死者蘇生の研究過程にて作られた、人造生命体の創造の術式の応用だ。『エーギル』と呼ばれる生命エネルギーによって稼働するその術式は、確かに管理局の持つ知識の先を行くものだ。だが、術式自体はあくまで『先を行く程度』でしかない。

 

「管理局だって死者蘇生の研究をやってんじゃなかったかい? それならいずれ通る道じゃないか」

 

 その程度なら隠さずとも、遅いか早いかの違いにしかならないはず。確かに術式については、アルフの考える通りであるとマークですら思う。ただ、術式を動かすエネルギーについてはその限りではないのだ。

 

「この術式に使う『エーギル』というエネルギーは、魔力より使い勝手の良いエネルギーなんだ」

 

 それこそ、怪我の治癒から能力の強化、即戦力となる生命を創造できるレベルの使い勝手の良さだ。しかも基本的に創造者の命令には絶対服従だし、使い魔のようにその存在の維持に力を消費したりもしない。

 

「なんなんだい、その馬鹿げた仕様は……」

「この存在を『モルフ』と言うんだが……って、話がずれたな。問題はそのエーギルの集め方だ。基本的には闇の書の蒐集と変わらないんだが……奪われるのエーギルと言うのは、わかりやすく言えば生命エネルギーのことだ」

 

 その結果は言わずともわかることだろう。つまりまとめると、エーギルとは非常に強力かつ使い勝手の良い力である。そして、集めようと思えば生物を殺さなければならないという、非常に効率の悪い力でもある。

 だが、それは逆に『殺せば殺すだけ力を得ることができる』という意味でもあるのだ。

 

「もしこの知識が広まったりなんかしたら……わかるな?」

「あ、ああ……地獄が出来上がるだろうね」

 

 それも、戦う事の出来ない女子供から狙われることは想像に難くない。だからこそ、マークは闇魔法に関する知識や技術の提供を拒否したのだが、ここに一つの例外が発生した。

 

(闇の書の蒐集機能……もしこの知識まで回収しているようなら、流石に捨て置くことはできないな)

 

 何かしらの制約をかけるか、あるいは問題そのものを無かったことにするか……

 

「(どちらにしろ、主とは直接会う必要があるな)……よし、こんなもんか」

 

 何やら術式をいじり終わったらしいマークが魔法陣を展開する。複雑な陣が輝き、マークの手中にある結晶からエーギルが注がれることで、わずか数秒で術式が実行された。

 

「……これだけ?」

「ああ、これで全盛期の約7割まで戻るはずだ。こいつを使い切るわけにもいかないからな」

 

 マークの持つ結晶とは竜石と呼ばれるものであり、マークの力の結晶だ。今後補給の見込みのない代物であるため、それゆえに節約したのだというのがマークの意見だったが、もちろんアルフの感想は違う。

 

(確かに複雑な魔法陣だったけどさ、ほんの数秒でリンカーコアの再生をやっちゃうなんて、規格外にもほどがあるってもんだよ!)

 

 とはいえ、マークはかつて死者の蘇生すらやってのけた男だからこれぐらいはできて当然だろうと、アルフは自分を無理やり納得させる。

 

「あれ? でも、ここには一週間居るんじゃなかったかい?」

「ああ、後の時間はちょっとした訓練だな。戦闘勘を取り戻す……そうだな、せっかくアルフがいるんだし、組手にでも協力してくれ」

「ちょっ!? アンタの相手なんかしたら、命がいくつあっても……!」

「問答、無用!!」

 

 訓練用の剣を取り出したマークは、及び腰のアルフに嬉々として切りかかった。

 

 

「……この一週間、何をやらかしたの?」

「ちょっとした組手だ」

 

 指定された期間が過ぎて辺境の地からマークたちは回収されたのだが、魂が半分抜けかけたアルフを見て真っ先にそんな質問が出てしまったリンディに、マークはまじめな顔で答える。もちろん、その組手が八つ当たりであった事は秘密である。

 

「魔力もある程度回復したし、勘も戻った。後は聖王教会と話をつけて、闇の書の件を終わらせたらしばらく休めるかな?」

「そうね……本来地球へは休みに来てたんだし、問題ないと思うわ」

「それならさっさと終わらせよう。闇の書と竜の記述が見つかったんだったか?」

 

 アルフを別室で休ませ、マークは今回の会談の内容を改めて確認する。聖王教会に所属する『カリム・グラシア』のレアスキルによる『預言』の一文に、闇の書と竜と思われる記載が発見されたというものだ。

 

「……何かしらの危機に関する予言の可能性もあるし、ザフィーラにも会談の内容を聞かせてみるか? 協力的になるかもしれんぞ」

「逆もまたしかりなんだけど……一週間、何の成果も挙げられなかった私たちが言っても説得力が無いわね」

 

 今まで通りにしていても情報を引き出せる可能性が少ない以上、賭けに出るのも悪くないという事だ。ただし、教会の重要人物に直接会わせるわけにもいかないので、会談を別室で聞かせるのみとなる。

 

「心境に変化があればそれでよし、無ければちょっと強引に行こうか……っと、ここか?」

「ええ、一応言っておくけど、不用意な言質は与えないようにしてね?」

「了解」

 

 マークはリンディの注意に軽く答え、服装を整える。一応重要人物に会うという事でいつものワイシャツと言うわけにもいかず、局員の制服を貸し出したのだ。もちろん管理局にとって、マークはこちらの所属であるという事をアピールするためでもある。

 そしてついに会談が始まった。

 

 

「初めまして、聖王教会所属カリム・グラシアです。こちらが私の護衛の……」

「シャッハ・ヌエラです。以後お見知りおきを」

「あ~……管理局嘱託のマークだ。それとも、ここに呼ばれた理由を考えれば、ナーガ一族と名乗るべきか?」

 

 すでに全員との面識のあるリンディを除いた自己紹介はつつがなく終わるが、いつもは割とすぐに本題に入りたがるマークが、珍しく別の話題を口にした。

 

「聖王教会……歴史上の偉人を崇拝する宗教だと思うが、少し話を聞かせてもらってもよろしいか?」

「あら、興味がありますか?」

「俺の知り合いにも、聖王と呼ばれる王が居たんでな。別人だとわかっていても、やはり気になる」

「まあ、それはすごい偶然ですね!」

 

 マークは素直によろこぶカリムを見て政治的な要素の薄さを感じ好意を持つが、逆に護衛のシャッハにはカリムに取り入ろうとしているようにみられ警戒されてしまっていた。

 

「マークさんの知る聖王とは、どのような方なのですか?」

「一言でいえば武闘派かな? 戦があれば最前線で指揮を執るような奴で、剣の才もある。カリスマもあったし、仲間思いで俺の考える理想の王の一人だ。……もちろん欠点も多かったがな」

 

 最後に付け加えられた一言につい微笑ましく思ってしまったカリムも、自身の知る聖王について語り始める。

 

「伝承において最後のゆりかごの聖王と呼ばれた方は女性でありながら、当時武技において最強と呼ばれていたそうです。マークさんの知る聖王と違い、剣を扱う事はなく徒手による戦いをする方だったそうですが、古代ベルカの乱世を平定するきっかけとなった人物とされています」

「ふむ、共に武闘派とは……これは意外と共通点とかありそうだな」

 

 同じく聖王と名乗る者の共通点に、マークは思わず感情が高ぶるのを実感する。自分の友に近しい存在があるというのは、思いのほかにうれしい事だったようだ。

 

「共通点ですか? ……そうですね『聖王の印』として、右目が翡翠、左目が紅玉のオッドアイが有名でしょうか? もう一つは虹色の魔力光ですかね」

「ほう……! 今俺が語った聖王の娘が、左目に聖王の印……こっちでいう『聖痕』があった。そして、聖王の儀を行う地が『虹の降る山』といわれていた」

「あら! 流石に同じとはいかなくても、本当に似ているんですね!」

「あ、あの……そろそろ本題の方に……」

 

 このままだときりが無くなりそうな気配がしたためか、シャッハが恐る恐ると言った体で割って入る。それでようやくこの会談の目的を思い出したのか、カリムは慌てて予言の原文と訳をモニターに出した。

 

「もうちょっと話を聞きたかったんだが……」

「えっと……じゃあ後日教会の方へ招待しますね? いろいろな資料などもそろえておきますので」

「期待しておくよ……で、これが闇の書関係の預言か」

 

 リンディもこの会話には口を出しかけたが、それよりも早くマークが預言書の原文に集中しだしてしまったため、注意し損ねる。

 

「はぁ……前回聞いた話では『魔の宿りし闇と光を纏いし竜が相対するとき、大地は絶望に満たされ溢れ出すだろう』と言ったものでしたか」

「かなり強引な訳しかたであるというのは自覚していますが、概ねその通りです。もう少し詳しく言えば、闇の部分に『英知の結晶たる……』と言った一文があり、この事から闇の書のことではないかと推測されました」

 

 さらに前回の会談後に、ユーノの集めた闇の書のデータの中から解読に流用できそうな部分をかき集めた結果、さらに不穏な文章になりつつあるらしい。

 

「意訳になりますが、『闇の書が魔にのまれた』と言った意味になるのです。こちらとしましては、闇の書にさらなる改悪がなされたと……」

「でものまれたというのなら、別の何かに吸収されたと言った解釈も……」

 

 つい考察を重ねるリンディとカリムであったが、闇の書に対してはもう話尽くされていると言っていい状態なのだ。問題は……

 

「『光を纏いし竜』……こちらも問題なのです。残念ながら管理局の把握する竜種の中に、光を示しそうなものはおりませんし……」

「……まあ、神竜である俺のことと思うのが妥当かな? それより、正面から戦えば互角か、竜の方が劣勢であるみたいな表現だが、そんなの管理世界に存在するのか?」

「本当に竜なんですね……元々闇の書は無限再生機能を持つそうですし、それならば真竜と互角と言うのも考えられます」

 

 いくら再生能力を持つとはいえ、一撃で跡形もなく消し飛ばせば再生も何もないだろう。そこまで考えたマークだったが、そもそもそれができないから劣勢にならざるを得なくなるのだと考え直す。

 

(なら相手は一撃でやれないほどの巨躯を持つものか、あるいは……)

 

「そうか、転生機能があるから……いや、それでも被害が大きくなるようならひと思いに……まて、それが絶望があふれるという言葉で、すなわち転生させることでより被害が広がるような……」

「マーク君?」

 

 突如ぶつぶつと思考を垂れ流すマークだったが、ある程度まとまったのか今度は預言書を読み始めた。

 

「何か分かったんですか?」

「ん~……もし俺が戦って劣勢になるなら、それ相応の理由があるはずだと思ってな」

「まぁ、そうでしょうね……つまりその理由から考えたら、闇の書を呑みこんだ魔の正体がわかるという事ですか?」

「そんなとこだな」

 

 そう言いながら預言書の言葉を訳す。いや、訳すというのは適切ではない。マークの予想した答えと言うゴールに、予言書と言うスタートからたどり着けるかというパズルのようなものだ。

 

「……嫌な結論だな。ひょっとしたら手遅れかもしれないぞ」

「えっと、マークさん?」

「悪いが、この話し合いはここまでにさせてもらおう」

「ちょ、ちょっと!」

 

 パズルの結果は最悪。無理をすればそう読める、ではなく、答を知ってしまえばそれ以外の解釈ができない、と言うレベルの適合具合だった。

 マークは部屋を出てすぐに、走りながらザフィーラへと通信を開く。今回の話し合いの内容を聞けるようにしていたためか、マークの持つ通信機でも念話が可能であった。

 

《聞いていたな?》

《もちろんだ……》

《じゃあ単刀直入に言わせてもらおう……主の居場所を言え。今の預言を信用するなら、俺が何とかできるかもしれない最後の機会だ》

《……》

《もちろん予言が真実である保証もないし、何より俺の考えが正しいとは限らない。さらに言えばもう手遅れの可能性もあるがな》

 

 マークの想像が正しければ、闇の書をのみこんだ魔と言うのはいつかアリシアに話をした『魔王』である可能性が高い。

 そして魔王と言う存在は人の絶望を糧とし魂を喰らう、すなわち人と言う存在の敵だ。

 

《選択肢は二つ。俺を信じるか信じないか……》

《信じよう》

《……ほぅ、まだ俺が危惧していることを説明もしていないのに?》

 

 マークの問いかけに即答したザフィーラに、むしろ挑発するかのように再び問いかける。だがザフィーラの答えは思いのほか共感できるものであった。

 

《戦場で拳を交えた人物だ。信用できるかどうか程度の判断はつく》

《ハッ、確かに! 俺も、お前らに対して出会う時が違えばと、考えたことがあった位だしな!》

 

 そうして出た結論をやっと追いついてきたリンディに伝え、ザフィーラを案内役として釈放させることを要求する。

 そしてザフィーラに聞かされた目的地に、流石のマークも表情を険しくすることになる。

 

 

(ああ、この速度から察するに、奴にこの場が知られたか……)

 

 それは突然の出来事であった。

 

(本当なら、闇の書の完成を待ちたかったのだが……やはりそれほど甘くはないか)

 

 いつもはやての脳裏に響いていた攻撃的な声が急に近づいて来て、また離れて行った。いや、より正確には、その声に本来いる場所を盗られ、そこから弾き飛ばされたような感覚であった。

 

(何が起こっているかわからぬか、憑代よ?)

 

 それと同時に体の感覚まで失われていき、最終的には自分の体の中に閉じ込められたような感覚を得た。

 

(ほう! なかなか適切な表現ではないか! ああ、確かに我がこの体を奪ったことで、貴様の魂は行き場を失っている。閉じ込められたという感覚はそのためだろう)

 

 その言葉に、じわじわと不安と恐怖が滲み来る。この声が何を言っているのか、この声は何をやろうとしているのか……肉体を奪われているためか、はやてはその答えがするりと自身の中に入ってくるのを感じる。

 

「どうしたの、はやてちゃん?」

《ダメや! 逃げて!!》

 

 急に顔を伏せ動かなくなったはやてに、シャマルが戸惑った声をかけた直後、はやての念話による警告が発せられたときにはもう遅かった。

 

「ガッ、ハッ……!」

「風の癒し手、か……一思いにヤるのもいいが、それだけでは詰まらんな?」

 

 一瞬でシャマルの首を捉えたのははやての左腕であり、その声もまたはやてのものであった。だが、違う。シャマルは必死に、はやての姿をした何かを見極めようと、言葉を紡ぐ。

 

「な、なにも……の……!?」

「見ての通りだ……だが、そうだな、しいて言うのであれば……」

 

 はやての形をした何かの表情が、ぐにゃりと歪む。それは狂気に彩られた狂喜で、見るものを戦慄させる。

 

「我は『魔王』だ」

「ま、お……!」

 

 苦痛と困惑、そして恐怖がシャマルの表情を彩るのを、恍惚といった風情で眺める姿は、まさにその言葉がふさわしい。魔王と名乗ったはやての姿をした何かは、で横になっていた体を起こし、ベッドの上に立ち上がることでシャマルの体を宙に浮かす高さを得る。

 

「あ、ぐっ……」

「ああ、その顔もまたいいが、まだ足りぬな……ときに、貴様はどのような表情が好みだ?」

 

 それは答えを求めるものではない。はやての姿をした魔王は、右手に膨大な魔力を集め、その漆黒の魔力を剣の形に固定する。

 

「我は、そう……近しいものを目の前で殺され絶望する表情が非常に好みだな」

《やめ……!》

 

 はやてが制止をする暇もなく、漆黒の剣は振り下ろされた。

 

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