魔法少女リリカルなのは 炎の紋章を持つもの   作:コウチャカ・デン

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第42話 「三つ巴」

 リンディを説き伏せザフィーラの先導で向かう先に巨大な魔力を感じたと思ったら、海鳴全域を覆う結界までが発生するという事態に、流石のマークも険しい顔つきを通り越し無表情になっていた。

 

「おいっ! 何があった!」

『海鳴大学病院で魔力反応があったの! 反応した量が量だったから、緊急で広範囲結界を発動したんだけど……! ゴ、ゴメン! ちょっとなのはちゃんたちの方でも問題があったみたいだから、ちょっと待って!』

「一人でやろうとするな、分担して情報をさっさとよこせ!」

 

対処に手間取るエイミィを怒鳴りながら、マークは結界により人気が無くなったのをいいことに本気の疾走を始める。それは不条理にも、四足で走る獣型のザフィーラの疾走に並ぶものであった。

 

《主の通っていた病院だ!》

「くそっ! 後手に回ったか……だが、病院なら跳べる!」

《ぐふぁっ!?》

 

 闇の書の主である八神はやての家などと言われても、マークには場所がわからなかった為行えなかったが、病院と言う公共の施設が目的地に変わった為、ザフィーラの首根っこをつかみ『リワープ』の杖を使い一気に転移を行う。

だが、マークの考え得る最速を持ってすら事態の進展には間に合わず、病室から放たれた閃光に切り裂かれる人影が堅い地面に投げ出されるのを、見ていることしかできなかった。

 

「シャマル!!」

「おい、生きてるか?」

 

 人化したザフィーラが人影に駆け寄り、マークが閃光の発生源からその二人を隠すように立ちふさがる。そして、その手に握るのは炎槍『ジークムント』という最悪を想定した装備であり、その警戒は残念ながら無駄になることはなかった。

 

「ふんっ、あと半月もあれば闇の書も完成できたものを……いや、貴様の名を聞いた時から、こうなることは予測できていたがな。なぁ、神竜の末裔マークよ」

「全く、嫌な予感ばかり当たる……まあ、思っていたより浸食が進んでいないみたいなのがせめてもの救いと思うべきかな? 魔王フォデスよ」

 

 閃光の奔った後のがれきから出てきた少女の姿をした魔王に、ため息をつきながらマークは言葉を返す。状況は最悪でこそないが、極めて悪いと言わざるを得ない。

 

「主に何があったというのだ……!」

「はやてちゃんが……魔王って……」

「……簡単に言ってしまえばあれは、かつて肉体を滅ぼされ魂を封印された魔物たちの王。人の絶望を糧とし、魂を喰らう存在だ」

「概ねその通りだ。そして心の闇に付け込み、このように肉体を乗っ取ることもできる。……大切な家族を再び失うかもしれないという恐怖に付け込むのは、実に簡単だった」

「キサマッ……!」

 

 マークの言葉に続き語る魔王フォデスは、ザフィーラに睨まれながらも実に楽しそうであった。

 だからマークは、やはりこの存在が人にとって猛毒であることを確信する。そしてはやてと呼ばれた宿主に、この猛毒に耐えられないだろうという事を。

 

「本当に残念だ……あの騎士たちを心酔させた主と会うのを楽しみにしていたんだが、この手で殺さないといけなくなるなんてな……!」

「ほう? 貴様のような甘い奴にそれができるのか? 前回も優王女が事を為すのを見ていることしかできなかった男が!」

 

 共に変化は一瞬であった。魔王は闇の書を片手に漆黒のバリアジャケットを装着し、マークも管理局の制服が破れるのも構わず紺の鎧を展開する。

 

「消し飛べっ!」

「滅びよ!」

 

 魔王を倒すために創られた双聖器である炎槍ジークムントと、闇の書によって得た膨大な魔力がぶつかり合う。その攻撃の余波は病院の一角を吹き飛ばすが、双方にダメージを与えるには及ばない。

 

「マーク! どういう事だっ!!」

「悪く思うな、っていうのも無茶な話か……だが、お前の主はすでに魔王に肉体を乗っ取られた状態だ。だから、事を起こす前にせめて俺が殺してやる」

「何が『せめて』だ! そんなこと、決してさせるものかっ!!」

 

 かつての魔王の所行を見てきたマークには、これから魔王が行うであろうことが手に取るようにわかる。だが、騎士たちはそんなこと知りようがないのだ。

 ザフィーラが拳を握り、重症であるシャマルすらもその援護をしようと立ち上がる。その姿は数多戦場を越えたマークから見ても眩しい騎士の姿であり、魔王の内にいるはやてにとっても希望であった。

 

「なかなか良い決意だ。だが、ここは意志の力だけで踏み込める戦場ではないのだよ」

 

 しかし、その小さな希望こそがマークが恐れ、魔王の待っていたものだったのだ。ザフィーラとシャマル、そしてマークを、海鳴全域を覆うように幾十幾百もの魔法陣が紡がれる。

 

「な……!」

「これは……!?」

 

 そこに現れたのは、世界を黒く染めるほどの魔物の群れ。骸骨の兵士である『スケルトン』に、魔力によって蘇った死体である『ゾンビ』が、さらには人の上半身と馬の下半身を持つ魔物『タルヴォス』等が地上を覆い、空には浮遊する巨大な目玉に根が生えたような『ビグル』と、翼持つ魔物である『ガーゴイル』がひしめいていた。

 

「くはっ、やはりいいものだな、小さな希望を持った直後に絶望へ叩き落される者の顔と言うのは!」

「我ら守護騎士は、この程度の障害を前に絶望などしない!」

「ああ、ああ、そうだろうさ愚かな騎士達よ。だが、貴様らの主は違うだろう? 自分が助かりたいと思ったがゆえに、大切な人たちが傷付き苦しみながら死んでいくのだと、そう知らしめるには十分な光景だ!」

「……ッ!!」

 

 ザフィーラはあまりの怒りに思考が一瞬で沸騰しそうになるのをギリギリのところで耐え、射殺さんばかりに魔王を睨みつけるにとどめる。このような状況でも、守護者としての理性が無謀な特攻をするのを押しとどめた。

 それでもやはり冷静ではないのだ。その睨みつける相手が魔王であるのと同時に、自らの主であるはやてであることが繋がらなくなる程、彼の感情は憤怒に満ちていた。

 

「さあ戦え、か弱き者どもよ。せっかく生かしてやっているのだ、せいぜい好い声で哭きたまえ?」

 

 魔王の号令のもと魔物たちが奔り、戦いが始まる。騎士は魔物に阻まれ魔王にたどり着けず、竜は姫ごと魔王を殺すと宣言した。囚われの姫を助け出す英雄は未だ現れない。

 

 

「一体何がどうなってるの!?」

「まあまあ、落ち着きなさい、なのは」

「だってここは結界の中なんだよ! なのに、なんでみんながいるの!?」

 

 はやてのお見舞いに行くお土産として、ケーキを持って行こうと翠屋に寄ったなのは達だったが、そこで急に結界に閉じ込められるという事態に遭遇していた。

 その事態に動揺したなのはであったが、周りにいるアリサやすずか、この店のパティシエである桃子にバイトの忍は冷静……いや、結界に興味津々であった。

 

「エイミィ、とりあえず何があったか教えて?」

『ちょ~っと待って貰えるかな! ……お待たせ、とても強い魔力反応があったから、広範囲の緊急結界が作動させたの。今マーク君が向かってる』

「……うん、ここからでもわかったよ。次は、なんでみんなが結界内に居られるのか教えて貰える?」

 

 そんな中、一見冷静に対応し始めたフェイトだが、その実は全く逆だ。つまり、なのはとフェイトは自分が知っている分野が急に理解できなくなったことに、恐怖を感じているのだ。

 

『予想で申し訳ないけど……マーク君が渡したお守りのせいみたいだね。微妙にだけどこちらの計器にも反応があるよ』

「じゃあ、マークさんのお守りのおかげでこの結界の外に弾かれなかった、ってことですか?」

『流石に絶対とは言えないけどね』

 

 お互いの認識がわずかにずれていたが、事実確認としては問題が無いのでスルーする。

 

『アリシアちゃんはすでにアースラに避難しているから、みなさんもすぐに……!』

 

 避難してほしい、という言葉は最後まで続くことはなかった。それもそのはず、魔王の為したことは、少なくとも管理局の常識の遥か外にあったのだから。

 

「すごい魔力……!」

「これって……召喚魔法!?」

 

 なのはとフェイトの言葉に反応した面々が翠屋の外を見ると、いくつもの魔法陣が展開され、そこからスケルトンやゾンビを代表とした魔物たちが現れるのを見ることになった。

 

『嘘、何この数! これは百や二百じゃ……!』

 

 ついモニターに表示された反応の数をつぶやいてしまったエイミィは、すぐさま失言に気付き顔をしかめる。

 

「……やはり、僕たちは避難できないね」

「ああ、流石にそんな数の相手をなのは達に任せるわけにはいかない」

「姉として、この戦場に妹を残して逃げ出せないよ!」

 

 結界の発生とともに姿が見えなくなっていた三人が、それぞれ得物をもって店内に現れる。ただ、高町家の長女である美由希は、なぜか忍に対してわたわたと言い訳をし始めたが……

 それはともかく、エイミィとしても彼らの気持ちはよくわかる。だが局員の立場としては、民間人を戦場に置き去りにするなんて決して許可できない事であるのだ。だからこそ、この場で責任をとるものとして判断する必要があるのだ。

 

『……局員として、魔法事件に巻き込まれた一般人を保護する義務があります』

「だが僕たちは……!」

『だけど! ここは管理外世界です! 現地住民への過度な干渉は禁止されています! 保護を強制することもしません!』

 

 それは半ばやけになった言い訳であったが、確かに正論でもある言い訳であった。

 

「恩に着るよ」

『そう思うのなら、無事に帰ってきてください。貴方たちの命を背負うつもりなんて、欠片もないですからね!』

「こちらとしても、背負わせる気なんてさらさらないよ」

 

 士郎はマークに渡されたお守りである『パビスの守り』を腕に巻きつけ、これからの方針を掲げる。

 

「僕たちはともかく、桃子さんたちは避難させてほしい。それと、情報の提供はこれで最後に……情報提供を続けたら、さっきの言い訳が効かなくなるからね」

『避難の件は了解しました。すぐに転移を行います。ただし、情報は今後も送りますよ? 流石に後は勝手にやれ、なんてこと言いませんって』

 

 エイミィはそう言って転移を行おうとしたが、ここでまた問題が起こる。否、正確には、魔王に先手を打たれることになった。

 

『え! 嘘、転移の妨害!?』

 

 それはアリシアを避難させた直後に打たれた一手であったそれは、これ以上逃がしはしない、憑代の絶望と成れという最悪の一手。

 その悪意を感じ背筋が震える思いであったが、残念な事に気を取り直すような時間はない。

 

「明らかにこちらを見ているね……」

「囲まれてしまえば対処のしようが無い! 魔物の少ない方へ一度退こう」

 

 幸いなことにゾンビどもは扉から店内に押し入ってくるような知能が無いようだったが、そこが出入り口であることはわかるのか、集まってきている。このままではいつまでも入ってこないという保証がない。それならば逃げ道が確保できる位置取りをするべき、と判断する。

 

『経路は指示します! 武装局員の到着まで、何とか持ちこたえてください!』

「父さんと美由希で道を切り開いてくれ。俺が殿を務める」

「そんな! 道ならわたしが……!」

「ダメよ、なのは」

 

 撤退の方針を打ち出す恭也に反論するなのはであったが、まさかのアリサからのダメ出しを出される。

 

「だって、お兄ちゃんたちはバリアジャケットとかの防具が無いんだよ!? だったら……!」

「それでもだよ。マークさんから切り札をもらったんでしょ? なら、なのはちゃんの戦うところはここじゃない。わたしたちは大丈夫だよ」

 

 なのはを宥めるすずかの手に、一振りの剣が現れる。それはマークが護身用にと渡した精霊を宿した剣であり、精霊に認められない限り決して鞘から抜けないはずの剣であるはずだった。

 そう、それにもかかわらず今すずかの手にある剣は、その剣身を晒していたのだ。

 

「で、でも……」

「それに、匂いは元から断てって言うでしょ? これは、なのは達にしかできない事なんだから!」

 

 さらにアリサが声を上げるが、それでもなのはが決断するひと押しにはならなかった。だがこの光景を見て、フェイトはジュエルシード事件の一幕を思い出していた。

 

「……行こう、なのは。そもそも士郎さんたちがここに残るって言い出したのは、なのはの助けになりたかったからだよ? だから、ここでなのはが足を止めたら、みんなの思いを不意にしてしまうことになると思うんだ」

「フェイトちゃん……」

 

 一度目を伏せるなのはにみんなが注目するが、次にその目を開いた時には、そこにいつも通りの不屈の闘志が宿っていた。

 

「うん、もう大丈夫」

「じゃあ、わたし達が入口にいる魔物を討ちますから、みんなはそれに続いてください!」

 

 そう言ってバリアジャケットを展開する二人に続き、戦える者たちは自身の武器を構える。

 

「それじゃあ……いきます!」

 

 フェイトのフォトンランサーとなのはのアクセルシューターが奔り、翠屋の入り口付近にいた魔物を駆逐する。それに士郎と恭也が続き、みんなが出る空間を確保した時には、二人は自身の立つべき戦場へと飛び去って行った。

 

『海鳴臨海公園に向かってください! そこが一番手薄です!』

「了解した……行くぞ!」

「はいっ!」

 

 先陣を切る士郎と美由紀の剣筋に迷いはなく、スケルトンやゾンビを一太刀のもとに切り伏せていく。組織立った動きのない魔物たちなら、いかに大群とはいえこの二人にとっては木偶人形と同じだ。

 それでも数の力と言うのは強大で、どうしても士郎たちの手の届かない個体は存在してしまう。

 

「さて、あれほど大口を叩いたんじゃ、ダメでしたじゃ済まないわね」

「最初からそんな終わり方をするつもりはないでしょ?」

 

 アリサはマークから受け取った『妖魔の術符』、魔道を使えない物でも魔法攻撃を可能とする符を構え、すずかはマーニ・カティを構える。

 

「いけぇ!」

「はぁっ!」

 

 術符で相手の体勢を崩し注意を引き、すずかがとどめの一閃を加える。二人で一組の堅実な戦い方は、現状文句のつけようがなかった。

 

「こちらも負けてられないな!」

 

 なのは達が中央へ向かった影響か、数こそそう多くないが難しい撤退戦の殿を務める恭也も、前を走るみんなから離されないように、それでいて近づき過ぎないように細心の注意をしながら戦う。

 

「まあ、出番が無いのはわかっていたことなんだけどさ……」

「そういじけないで、周囲の警戒でもしてましょう? 意外と重要な事よ?」

 

 そう忍を宥めながら桃子は、足止めを一時中断し離れすぎないようにこちらへ戻る恭也の後ろに何かを設置する。

 

「えっと、それは?」

「マーク君のお守りで『フレイボム』っていう、魔法でできた……」

 

 最後まで桃子が説明する前に、その『フレイボム』を踏んだ魔物が爆発とともに炎に包まれる。

 

「……地雷?」

「そんな感じのものらしいわ」

 

忍は結局戦いに参加できないのは自分だけかと少し落ち込みながら、魔物の動向を広い視点で見ながら戦士たちに指示を飛ばすのであった。

 

 

「こんな雑魚で壁の代わりになると思っているのかっ!」

「まさか、ただの露払いだ」

 

 空に数多浮かぶガーゴイルやビグルを炎槍の一振りで薙ぎ払い、その背の翼を広げ魔王に一瞬で接近するマークであったが、その一撃も莫大な魔力によって形成された障壁によって防がれる。

 だが、マークの神器による一撃を何の代償もなく防ぐには至らなかったようで、障壁を支えるため突き出された腕から鮮血が奔る。が、その傷も闇の書の自己修復機能により、瞬く間に治癒してしまう。

 

「憑代がどうなったって知らんという事か……!」

「はっ! その憑代ごと殺そうとしている奴のセリフとは思えんなぁっ!!」

 

 その傷がマークの一撃によるものではなく、その一撃を防ぐのに必要な魔力を無理やり引き出したためだと悟ったマークが責めるが、目を見開き狂喜する魔王の反論に口をつむぐ。

 

「誰が好き好んでこんなことをやると……」

《え……?》

 

 それでも反射的に出てきてしまった呟きは、事もあろうか憑代とされた少女に届いてしまう。

 

「なんだ、憑代は気付かなかったのか? そやつ一見無表情だが、内心は我に対する怒りと己の無力に対する怒りで満ちておるぞ?」

「黙れ」

 

 マークはより一層激しく炎槍を振るうが、その言葉を止めるには至らない。

 

「くくっ、図星をつかれて怒ったか?」

「ふんっ……どんな感情を持とうが、俺のやることは変わらない。俺にはその小娘より優先すべきものがあったというだけのことだ!」

《……小娘やない》

 

 かすかな呟きに、マークはわずかに動きを鈍らせる。マークは知らないが、はやてにも選択の時はあった。その時のはやての結論は『自分の幸せために、他人に迷惑はかけられない』というもので、その想いは今も変わらずここにあるのだ。

 

《あなたに殺される、わたしの名前は……八神はやてや》

 

 決して死にたいわけではない。だがそこには、決して譲れない信念があり、それが故に後悔などない。

 

「……ああ、確かに聞き届けたぞ、ハヤテ……俺は、お前を殺す男の名前はマークだ」

 

 そこにあったのは悲しい決意。自分が助かるために、他人を危険にさらすことはできないという英断を下した少女に敬意を示すように、マークはかすかに唇を動かす。

 

 その名、その命の輝き、確かにこの魂に刻み込んだと。

 

 だがそのような悲痛さを欠片も見せることはなく、マークは奥義を使うべくわずかに距離を取る。それに対し、今まで余裕すら見せていた魔王の動きがわずかに鈍る。

 

「『月光』」

「この、小娘がぁぁぁっ!!」

 

 必殺を込めて繰り出されたそれは、相手の防御の一切を貫く至高の一撃。さらに神器の力が上乗せされた以上、内部からはやてにその動きを妨害されたことも合わせ、迎撃すらできるものではない。紛う事なき、この戦いを終わらせるに足るものであった。そう、その一撃が魔王に届いたなら……

 

「ダメェェェッ!!」

「ッ!」

 

 叫びとともに奔った桃色の閃光がマークの眼前を通り、奥義を妨げる。追撃を行おうにも、はやてから再び肉体の主導権を取り戻した魔王に先と同じ一撃を当てるのは困難であると判断せざるを得ない。

 

「ナノハ……」

「その子は、はやてちゃんは……」

「邪魔だッ!」

「ぐぅっ……!」

 

 マークからはやてを守るように割って入ったなのはを蹴り飛ばし、直後に振り下ろされた漆黒に刃を炎槍で受け止める。

 

「残念、今のが入れば憑代の精神もそれで終わりだったろうに」

「そんなこと、誰がさせるかよっ!」

 

 今のなのはの言動で、なのは達がすでにはやてと既知であることを察したマークは、合流前に勝負を決められなかったことを悔いる。

 

「なぜ攻撃してこないのか疑問だったが……これが目的か、魔王!」

「その通りだよ、神竜。掛け替えのない友人をこの手で屠る……これほど愉快な演目も無かろう?」

 

 何十何百の罵詈雑言がのど元まで出てくるが、それを飲み込み思考を巡らせる。なのは達の言いだすことは簡単に予想がつき、それを為すのは事実上不可能と言って過言ではないからだ。

 

「……今の言動がすべてだ。諦めろ」

 

 わざわざ語る必要などない。はやての肉体は魔王に乗っ取られ、止める術などない。マークが蹴り飛ばさなければ、その命はなかったのだぞと。

 

「……諦めません」

《なのはちゃん……》

 

 それでも、だからと言って『はい、そうですか』なんて言えるものではないのだ。なのはにとってはやては大事な友達で、それを見捨てるなんてできるはずがない。

 

「マークさんに比べれば、わたしなんて何もわかってない子供で、ただ駄々をこねているだけなのかもしれないけど……! それでも、諦めることなんてできませんっ!!」

 

 誰になんて言われようが、それこそがなのはにとって譲れない信念なのである。そして、そんな信念を見せた相手を甘く見るほど、マークは自身の力を信じていない。信じていないが、今のなのはにはやてが救えると考えられるほど楽天的にもなれなかった。

 

「……ならば勝ち取れ、奪って見せろ!」

 

 文句を言うだけならば誰だってできる。だが、文句を言って泣きわめこうが、何が変わるわけではないのだ。

 ならばとるべき道は一つしかない。力を示し、証明すること。望まぬ結末を打ち砕き、夢見た未来を勝ち取るほかない。

 

「やってみせます!」

「そんな根拠のない信念で、我をどうにかできると思っているのか!!」

 

 なのはが気炎を上げ、魔王がその姿を嘲笑する。だが忘れてはいけない。マークは『勝ち取れ』と言ったことを、それはすなわち、譲るつもりはないという事だ。

 

 マークは変わらず双聖器である炎槍『ジークムント』を構え。

 魔王は漆黒の剣を霧散させその手に『闇の書』を開き。

 なのはは新生したレイジングハートをフルドライブモードに切り替える。

 

 そうしてここに、戦いは第二局に突入し、さらに苛烈さを増すことになる。

 

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