魔法少女リリカルなのは 炎の紋章を持つもの 作:コウチャカ・デン
それは一瞬の出来事であった。文字通り死ぬ気で魔王の足止めをしたはやては、再び肉体の制御を奪い取られてしまった。それは先程より強く、そして深く魂が押し込まれるというおまけつきで、もう二度と先程のような妨害はできないだろうと確信させられた。
「とはいえ、こんなことになるのは予想外や……」
そこにあったのは永劫に続く闇である。ただ、その場に恐れを抱くようなことはなく、むしろこの場は魔王からその精神を守るための避難場所のようにも感じられた。
もちろんそう感じたのは、何も根拠のない事ではない。はやてはその根拠である二人の男女に改めて向き直り、説明を求める。
「当然、いろいろ説明してくれるんやろな?」
「もちろんです、主よ」
「まあ、聞きたくないといわれても聞いてもらうつもりだったし」
その二人の男女のことは、この場所がはやての内側とも呼べるところであるからか、どんな存在か自然と理解できた。
銀髪の女性の方は闇の書の管制人格であるが、魔王に書の大部分を乗っ取られた状態にある。そして銀髪の男性の方は、かつて魔王に肉体を乗っ取られ大陸に戦乱をもたらした存在。そう、それはいわば……
「……先輩、とでも呼びましょうか?」
「やめてくれないかな、君を後輩にするつもりはないよ」
男は苦笑しながら否定するが、現状はやてはその道を全速で転がり落ちている最中だ。つまりそこから導かれる回答は一つしかない。
「逆襲の一手があるん!?」
「やっぱり頭の巡りがいいね、会話が楽でいいよ」
「とはいえ、どれも決め手に欠ける手ですので、過剰な期待は持たないようにお願いします」
男は気楽そうに、女は深刻そうに前置きをするが、すでに決意を固めたはやての前にはさほど効果は無かったようだ。
「どれも外からの手助けを前提としたものですが……一つは守護騎士プログラムを利用したものです」
「君の肉体を取り戻すことを諦めて、プログラムで仮初めの器を作りここから出る。当然人ではなくなるから、外に出た後何かしらの処置を得ないと存在できなくなってしまうけど、一番成功率は高い」
しかし、魂にかかる負荷がとても大きく、成功して外に出られても廃人になってしまう可能性も高い。
「流石に選びにくいんやけど……次は?」
「二つ目は魔王の魂の封印だね」
「元々魔王を封印していた『聖石』がまだ闇の書内にありますから、やはり外からの後押しがあれば可能と言えば可能でしょう」
ただし、魔王もそのことは理解しているだろうから、最も警戒されている策であるだろう。
「それって誘われてるって意味とちゃうん?」
「まず間違いなく。で、最後の方法ですが……」
「意志の力で魔王を肉体から追い出す……さっき君が魔王から肉体をわずかに取り戻したけど、それの完成版ってところだね」
「……死ぬ気でやって止めるまでしかできんかったんやけど?」
事実上不可能と言っていいだろうそれは、一応成功例があったりする。ただその人物は、初回の魔王討伐を行った5人のうちの1人で『聖女』と呼ばれる伝説クラスの人物だったりするが……
「魔王を極限まで弱らせてもらえれば、理論上は可能です」
「今の魔王の再生能力とか見たら想像できへんけどね……」
微妙に自分の体のことを言っているとは思えないセリフだが、過剰な魔力放出に耐え切れず吹き飛んだ腕が次の瞬間には完治しているのを見てしまえば、そんな感想になっても仕方のないことだろう。
「まあ、それは置いといて……結局選択肢は無いんと同じやな」
「いや、選ぶ道ならもう一つあるよ?」
その言葉に、人を捨てるしかないと諦めた少女が顔を上げる。だが、最後に残された選択肢も相当なものであった。
「何もしない」
「……それはアカンやろ」
「そうでもないよ?」
外にいる人たちの選択にすべてを委ねる。あるいは信じて待つというのは、性急に事を進めるより辛く、難しい道であるのだ。だがここで、今まではやてに選択肢を示すだけだった管制人格から始めて否定的な言葉が出る。
「正直そればかりは賛同しかねます。外にいる方たちのうち最も強い力を持つ方が魔王討滅を目指していますから、静観しても事態は好転しないかと思われます」
「でも、今後どんな状況になろうとこれ以上成功率が下がることはないんだ。それならあの子たちを信じてみるのも手だよ?」
「しかし、あのような極限の戦闘を続けられる保証はありません! いつ決定的な事が起こるかわからない以上、一刻も早く離脱しておくべきです!」
「彼が居れば、仲間をそう簡単に死なせるようなことはないよ。そうでなければ流石にこんな提案はしないって」
はやてを置いてけぼりにして口論を始めた二人であったが、今日この時まですでに散々討論した議題であったためか、比較的早く静かになる。だがはやてには口論の内容により気付いたことに意識が行ってしまっていた。
その反論の仕方に、聞き覚えがあったのだ。それは常日頃からはやてが性急に事を勧めないように諌め、戦ってはいけないと諭し続けた声の持ち主であった。
「いつも私に警告してた声の片割れ、あんたやったんやね」
「……それは今話すことではないよ? そんなことより、これからどうするか決めないと」
「そやね……」
幸い、外には魔王と戦った経験のあるマークがいる。はやてを助けようとしてくれる友人と騎士がいる。
そしてこの身の内にも、はやてを守ってくれる騎士が居て、頼りになるかもしれない先輩がいる。
「まあせっかくこれだけの好条件がそろったんやし、最高のハッピーエンドでも目指してみようやないかっ!」
魔王が絶望を糧とするならこの希望が毒となれと、はやては高々と宣戦布告を謳いあげた。
「エクセリオン、バスターッ!」
なのはの放った一撃が魔王とマークの間を貫き一時的に距離を開かせるが、すぐにまたマークの炎槍が魔王に迫る。もちろん魔王も黙ってはおらず、数十に及ぶ血塗られた魔力刃がマークやなのはに襲い掛かる。
そんな姿を横目に見ながら、フェイトはザフィーラとシャマルからこれまでの経緯を聞き出していた。
「……じゃあ、マークははやてに取りついた魔王と戦ってる、って解釈でいいのかな?」
「そうだったら何の問題もないのだけど……彼ははやてちゃんごと魔王を討滅するつもりよ」
その会話の間にもザフィーラはスケルトンの頭部を打ち砕き、フェイトはゾンビを両断し続ける。幸いと言って言うべきか空を飛んでいた魔物どもは、マークやなのはの攻撃に巻き込まれほぼ壊滅状態にあるため、上空からの奇襲は最低限しかない。
「マークがそんなこと……!」
「事実だ。空を見ればわかることだろう?」
それでもフェイトは信じられなかった。いや、そもそも彼女がマークたちの戦いからそれて騎士たちのもとに来たのも、そのことから目をそらしたかったからかもしれない。
フェイトにとってマークは母と姉を救った英雄でもあったのだ。それがフェイト達の友人を手にかけようとしているだなんて、そんなこと認めたくなかった。
「ううん……マークがそうするなら、そうするだけの理由があるはず」
『フェイトちゃん!』
そんなフェイトの盲信とも思える発言をエイミィも危険に感じるが、それは杞憂に終わる。フェイトにとってマークは英雄であるだけではないのだ。
(……マークは、わたしのことを相方だって言ってくれた。わたしがマークの相方だって言ってもいいって言ってくれた!)
その言葉があるから、フェイトはマークのことを『英雄』と言う偶像としてではなく、『人』として見ることができる。
「エイミィ、魔王について何か分かることはない?」
『ちょっと待って! 今調べてるよ!』
だからフェイトは、マークに考えがあって行動しているという可能性の他に、マークが私情で動いてるかもしれないという可能性に気付くことができた。
(わたしも母さんのためにって言って、いろいろやっちゃったから……)
フェイトも、母であるプレシアもかつては自身の感情に任せて犯罪を行ってしまったのだ。マークだって激情に流される可能性もあるかもしれないと考えることができた。
『あった! 昔の会話のログに、魔王の封印についても!』
それはジュエルシード事件の直後の会話であったが故に残されていたもので、その記録の発見をきっかけにフェイトも当時の会話を思い出し始める。
「そうだ……『聖石』だ!」
『わたしもお兄さんに、ま王の話を聞いたおぼえがあるよ!』
フェイトが当時の会話を思い出したのと同時に、ブリッジに来ていたアリシアも声を上げる。それはマークと本局で過ごした時間に聞いた英雄譚。まさかこんなことに役に立つとは思わなかったが、人生何が起こるかわからないものだ。
「その話、我らにも聞かせてもらえるか?」
「シグナム……」
「シグナムだけじゃねーぞ!」
「えっと……ヴィータ?」
そして、ついに他の世界へ蒐集に出ていた騎士たちが帰還する。さらにあと数分もすれば、本局に増援の要請をしているだろうクロノ達も到着するだろう。
「魔王をどうにかする手段はマークが知ってるはずだから、まずはマークに別の選択肢を選べるだけの余裕を持たせないと……!」
「……なるほど、今の彼は魔王と戦うだけで精一杯と言うわけか」
結局フェイトが出した結論は、『マークには魔王をどうにかする手はあっても、力が足りない』というものであった。この推測はほとんど正解と言ってよかったが、ある一点だけは決定的に間違っていた。
確かにフェイトやなのは達が力を貸せば、魔王を倒すことはできるだろう。それにヴォルケンリッターやクロノ達が加われば、より確実になるのも間違いじゃない。だが、はやてを救うにはこれでもまだ足りないのだ。
「ザフィーラはシャマルを守りながら後退してくれ。戦線に復帰できるまで回復するには、もう少し時間がかかるだろう?」
「わかった」
「……仕方ないわね」
「共同戦線を張るのに異論が無いのなら、臨海公園に向かって下さい。そこにアリサ達がいるから」
しかし彼女らにはそのことを知るすべはない。いや、知っていたとして何が変わるというのか。
答えは『何も変わらない』だ。まこと残念なことに、ここには無理だといって友人を、家族を見捨てられるような賢い選択をできる者はいなかった。
「ふんっ、ジークムントを使ってこの程度かっ!」
「ちっ、防戦一方のくせに何を言うか!」
上空で続く激戦は、未だ均衡を保っていた。いや、お互い決め手に欠いた状態による停滞に陥っていたといった方が正しいかもしれない。
マークの神器による一撃は必殺を保ち続けているし、魔王の肉体の破損を無視した防御はいまだ鉄壁を誇っている。そしてお互いがこの状況を打破することができなくなった理由が、はやてを救おうとこの戦いに割って入って少女であることを、当の本人だけが知らない。
(魔王がなのはを狙って、俺がそれを阻止している……か。それにしても、ここに割って入ったはいいが、何をすればいいのか全く分かってないな……)
そう、はやてを助けるという一心で乱入したなのはであったが、ではどうすればはやてを助けられるのか全く見当もついていなかった。もちろん、あの時なのはが来なければ決着がついてしまっていたのだから、その行動を責めることもできないのだが……
「いい加減に諦めたらどうだ?」
「誰がっ!」
もはや何度目かもわからない一閃は、またしても自壊と再生を代償に止められてしまう。だが、マークはこうなるとわかっていてもこの攻撃を止めることができない。もしこの猛攻がやめば、魔王の一撃が確実になのはを貫くだろう。
(せめてあと10年……いや、5年もあれば違う選択もできただろうに……!)
たとえ力不足で翻弄されっぱなしとはいえ、魔法を知って一年足らずでこの戦いに介入出来た少女なのだ。肉体を乗っ取られてしまってはいるが、それでも死を覚悟し魔王の動きに内側から干渉できる少女なのだ。どうして今この時戦わねばならないのだと、マークは忸怩たる思いでいっぱいであった。
「戦いの最中に考え事とは、余裕だな」
「ッ!」
攻撃の手は緩めていなくとも、人の弱みを抉ることにたけた魔王はマークの考えることを容易く看破する。
しかし、魔王がこの一点を攻撃することはついにできなかった。それを防いだのは戦場に轟く雷撃であり、炎を纏う剣戟であり、すべてを破壊する巨大な鎚であった。
「む……」
「これ以上、あなたの好きにはさせないッ!」
「魔王如きには過ぎた器だ……!」
「はやては返してもらうッ!」
タイミングはほぼ完璧であった。魔王がマークへの攻撃に意識を裂いた直後であったにもかかわらず、それでも魔王には届かない。その事実は新たに参戦した者たちを少なからず竦ませる。が、はやてを救える可能性を前にしたら、この程度の脅威何度だって振り払える。
「マーク、聖石を使わせて」
「ネタは全部上がってんだ、いまさらとぼけんのは無しだからな!」
「ほう! 聖石を知っているのなら話は早い」
マークがかつての自分の口の軽さを悔やむ間もなく、魔王が口をはさむ。そして魔王は、マークが止める間もなくはやてを救う方法を暴露する。
「聖石による我の封印……なるほど、それであればこの憑代を救うことができるだろう」
そうして魔王が闇の書から具現化したものは、マークの持つそれよりはるかに力があると一目でわかる石であった。
罠だと断ずることができたなら、どんなに簡単だろうか。かすかな希望を与え、それを絶つことでより大きな絶望を得ようとする魔王の策だとわかっていても、偽りの希望だという事ができなかった。
「あれが聖石……」
「そうだ。この世で唯一残った聖石であり、貴様らが憑代を救う最後の手段だ」
だが、魔王のその一言にマークは一つの事実を思い出す。そしてそれに導かれるかのように、もう一つの神器の存在を思い出してしまう。それは偽りの希望を本物にする策であり、策を超えた奇跡を起こす術であった。
しかし、その策を見抜かれてはいけない。何が起こるか知られていては、その効果も半減してしまうからだ。
(俺の念話も危険か……魔王に隠れながら、みんなに作戦を伝えられるか?)
それでも、その可能性に気付いてしまったからにはやるしかない。失敗したときの代償は、その命で支払えばよいのだから。
(もとより、あの日失ったはずの命だ。未練はない)
思考は刹那に、この言葉の真意が伝わることを祈り、マークは最後の戦いを始める。
「あれは5個あった内、魔王に砕かれなかったただ一つの聖石。そして魔王を倒す最後の手段『ファイアーエムブレム』だ」
「え? それって……」
「ああ、確か貴様らはそう呼んでいたらしいな」
かすかに疑問を挟んだなのはに、マークの言葉は通じたのか確認することはできない。どうにか魔王の前から抜け出したいが、マークが戦線から離脱すればそこで勝負が決まりかねない。
「つまり、アレを奪取できれば……」
「はやてを救えるんだな!」
「くくっ、やれるものならやってみろ!」
二人の騎士が先走り魔王の持つ聖石を奪おうとするが、残念ながらスペックが違い過ぎる。なんの術式も展開していなくとも、魔王がその膨大な魔力を放出する腕を振り回すだけで騎士たちは近づくこともままならないのだ。
そしてその事実は、魔王の気に召さないようであった。
「まさか、これほどの……!」
「なんだ、この程度か? やはり最低限間引く必要がありそうだな……」
「さがれぇッ!!」
その警告は、魔王の魔力に翻弄されている騎士たちに届いても実行することはできず、マークは舌打ちをこらえ前に出る。騎士たちはともかくとして、広範囲魔法を使われてしまえばフェイトが危ない。
「ふん、燃えつき消えろ……」
「貫き穿て! 雷帝の鎚『トールハンマー』!」
魔王相手に出し惜しみをするような馬鹿な真似はしないと言わんばかりに、マークは今まで使用を避けていた魔法の使用を選択する。それはマークの持つ魔法の中でも闇の魔法を除けば、最高の威力を誇る神器による雷の一撃であった。
だが、この選択は誤りであったと言わざるを得ないだろう。所詮は研究書だと、マークは闇の書の力を軽く見てしまっていた。
「業火の理『フォルブレイズ』!」
それは、この世界にきてマークが使った最高の炎の魔法であり、竜との戦争に使われた『竜殺し』の神器であった。火竜すら焼き尽くす業火は魔王の魔力を受け、マークの放った雷撃をむさぼり喰らう。
そこに均衡などなく、行われるのは一方的な蹂躙。ただでさえリンカーコアが傷付いた状態であり封印までなされているマークでは、肉体が壊れるほどの魔力を扱う魔王に抗えるはずもなかった。
数瞬後に起こった爆発はマークを飲み込み、この場で唯一魔王と対等に戦えるはずの竜が墜ちた。
「マークッ!!」
「まさか……一撃だと!?」
「安心しろ、命に至るほどの手ごたえは得られなかった……それより、よそ見とは感心しないな?」
「しまッ!」
すぐさま落ちていくマークを追うフェイトに対し、そのあまりの威力に戦慄し硬直してしまったシグナム達。これだけ聞けば不覚を取ったのは硬直したシグナム達に聞こえるかもしれないが、そうではない。
フェイトは、マークを追う事で魔王に背を向けてしまったという事だ。そしてその背に、魔王の無慈悲な一撃が迸った。
そんな致命的な事態が起こっている戦場の一角でも、また絶望的な戦局に追いやられていた。
「ッ! 武器がもうもたない……!」
「こっちも術符切れよ……!」
初めに手札を切らしたのは美由希とアリサであった。しかしそれも仕方のないことだと言えるだろう。それと言うのも、比較的敵の少ないルートを選んだというのに、あまりに魔物の数が多すぎたためだ。
「こっちのフレイボムも品切れよ」
「追って来る魔物も増えてきている……このままじゃ支えきれないぞ!」
そして戦うものが減れば進撃速度も自然と衰え、結果追いすがる魔物が増えるという悪循環。もはや一行の命運は尽きかけていると言って過言でない状況であった。
「まだよ……これで足止めぐらいできるはず!」
そんな状況でも忍はあきらめず、マークから譲り受けた光の結界を後方に展開し追いすがる魔物を遮断する。
「忍……こんなものがあるんなら……」
「効果時間が短いのよ! 魔物が集まって一気に来られたら防ぎきれないでしょ!?」
一時的に後方の魔物の足止めに成功するが、こんなものは気休めにもなりはしない。事実結界の効果時間が終わり、たまった魔物が一斉に襲ってきたらその時点で全滅は確実なのだ。
「恭也、すずか、士郎さんに合流して道を切り開いて! 公園にたどり着いて迎え撃てれば希望はあるはず!」
「了解!」
「わかった!」
忍の指示に即座に動く二人であったが、士郎も合わせもはや疲労は隠しようがない。劇的な進撃は望めないだろう。
だが、そんな中一筋の希望が舞い降りる。
「アリサちゃん、すずかちゃん!」
「シャマルさん!?」
「加勢する!」
特にザフィーラの参入には緊張を隠せない面々であったが、シャマルと共に来たことからすぐに受け入れることができたのは幸いだったであろう。また一人戦い手が増えたことで、何とか公園にたどり着く目安がつく。
さらにシャマルの回復も加わり、体力を回復させた美由希もなんとか戦線に加わる。
「大丈夫なのか!?」
「体力を回復してもらったからなんとか! でも刃が潰れてるからあまり期待しないで!」
恭也の問いに半ば鉄の棒と化した剣を振るいながら答える美由希であったが、こんな戦いはシャマルと言う回復要員がいるからこそできるものであった。
そんな、やっと持ち直した一行の中で、特に異彩を放つものが居た。その少女は初めてふるう剣にもかかわらず未だ十全の戦いを見せ、あまつさえ恭也に並びかねない戦跡を誇っていた。
「ひょっとして、これが導きの精霊の力?」
激戦の中のつぶやきは誰にも届かずに消えて行ったが、使い手であるすずかには表現しがたい確信があった。何となくだが、切りつけるべき場所が見えるのだ。
そのラインは時がたつほど鮮明になり、体が軽くなっていくような感覚も感じられた。
(戦えてる……わたしでも、戦える!)
それは戦いによる高揚と言う全能感であった。本来ならこの後天狗になるか、その間もなく死ぬかの二択であったであろうが、魔王はそれさえも許さなかった。
それは、一行がやっとの思いで公園にたどり着いた時に現れる。
「……これってあれかしら? ダンジョンを進んだ先にいる、この面のラスボスって奴?」
「違うでしょ? ラスボスは中央の方だから、せいぜい中ボスか小ボスじゃない?」
思わず軽口が出たのは絶望感を拒否する逃避であったのだろうか、忍達の前に現れたのは一体の巨人。一つ目で、巨大な斧を担いだサイクロプスであった。
さらに、悪夢のような現実はこれだけでは終わらなかった。後方に残してきた光の結界がその効果を失い、魔物の大群が改めてこちらに向かってきたのだ。
「これは、流石に……」
その言葉は最後まで紡がれることは無かったが、誰もが同じ言葉を思い浮かべていた。