魔法少女リリカルなのは 炎の紋章を持つもの   作:コウチャカ・デン

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第44話 「星の光」

「油断じゃ、ないな……まだまだ闇の書に対する認識が、甘かったか……」

 

 マークは自身のダメージを確認しながら、ゆっくりと立ち上がる。『フォルブレイズ』に焼かれたことに追加し、高所からの落下のせいか節々が痛む。

 

(四肢の欠損はないし、五感も正常に働いている。……ただし、翼膜がやられたな。飛べなくはないが、空中戦は厳しい)

 

 やはり『竜殺し』である神将器の威力は凄まじかったが、マークがただの竜でないことが幸いした。もしマークがただのマムクートだったら、もう二度と立ち上がることは無かっただろう。

 だが、そんなことはどうでもいい。そんなことよりも目の前に横たわる少女の方が、マークにとってよっぽど重要であった。

 

「……マー、ク……? 無事……だったの?」

「お人よしにも程があるぞ、フェイト……」

 

 この期に及んでまだマークの心配をするフェイトに、マークは人知れず唇をかむ。右腕と、左足が無い。さらに腹部にも穴が開いていた。

 

「……致命傷だ。さすが魔王と言うべきだな。人の壊し方をよく知っている」

「……そう」

 

 もはやマークの知る最上級の治癒魔法を用いても、今のフェイトを救うことはできないだろう。それほど的確に、魔王はフェイトの体を壊していた。このわずかな時間すら、マークに無力感を味あわせるため意図的に作ったものだろう。

 

「……ごめん、ね」

 

 おそらくフェイトにもその思惑がわかったのだろう。フェイトの謝罪には、この命をマークに背負わせてしまう事への後悔ばかりがあった。

 しかし、今回ばかりは相手が悪かった。魔王は、マークの戦闘力こそ危険視していたが、かつて彼が最も力を入れていた研究は死者蘇生であり、生命の創造なのだ。

 

「謝罪なんていらない。どいつもこいつも、俺を舐めすぎだ。仮にも神と呼ばれし竜の末裔だぞ? 死神ごときに後れを取るつもりはない」

 

 さらに言えば、病気は専門外だが怪我はその範疇ではない。そして治癒魔法がダメでも、マークにはもう一つの手段を持っていた。

 

「幸か不幸かは各々の主観によるだろうが……」

 

 マークは闇の魔道書と竜石を取り出し、つい一週間前に行ったばかりの術式を展開する。

 

「俺より先に死ねると思うなよ?」

 

 戦場の一角で起こった奇跡は、エーギルの感知ができないものにまだ理解されることはなかった。

そしてその奇跡を目にしたのは、主の危機を前にし不調を押してアースラから出てきた、掛け替えのない使い魔だけであった。

 

 

「フェイトちゃん!」

《ダメッ!!》

 

 魔王の一撃をくらい墜ちていくフェイトを追おうとしたなのはを、聞き覚えのある少女の声が止める。

 

「は、はやてちゃん!?」

《今追いかけたらフェイトちゃんの二の舞や! だから、今は堪えたって!》

「ほう、まだ外に干渉できるのか……」

 

 まったく同じ二つの声に混乱しそうになるなのはであったが、本能的にこの念話の主が魔王の策略などではなく、はやて本人であると確信する。しかし、それとこれとは話が別だ。

 

「で、でもフェイトちゃんが!」

《下にはマークさんも居るんや! あの人がいる限り、そう簡単に最悪なんて起きへん!》

 

 その言葉には、思った以上になのはの耳にすんなりと入っていった。そもそも死者蘇生すら行える人なのだし、さらになのはの知る限り最強の魔導師で戦士なのだ。それを思えば、むしろマークが戦線を離脱した状態で魔王の前に立つ自分たちの方がよほど危険な状態だと、なのはは現状を理解する。

 そして、なのはの意識が切り替わったことを確認したはやてが、この場を切り抜ける提案をする。

 

《私が魔王の次の行動を念話で伝えるから、協力して時間を稼いで!》

「そんなことできるの!?」

「まあ、我の魂と同じ器の内にあるのだ。その程度は可能か……」

 

 驚愕するなのはやシグナム達に、あろうことか魔王から肯定の意が返される。いや、それ以前になぜ魔王は今まで沈黙していたのか、この機に攻撃してこないのか? そんな疑問を感じ取ったのだろう。魔王が自明の理とばかりに、自身の行動原理を披露する。

 

「十二分に力を発揮し、十重二十重に策を巡らせろ。そうして万策尽き、剣折れ矢尽き果てたときの貴様らの絶望を、我は愛でたいのだよ」

「……趣味が悪いなんてもんじゃねーな」

「褒め言葉として受け取っておこう」

 

 ヴィータが露骨に嫌悪を示すが、魔王にとってその感情こそが糧となるのだ。わずかな希望を抱かせ、突き落す。その精神的な落差をより大きくすることが魔王の生きがいと言って過言ではないだろう。

 だが、その傲慢ともいえる考えこそが今のなのは達を生かしていると思えば、これ以上の皮肉はないだろう。

 

《それでも、我らがチャンスを得られることに変わりはない。一瞬でいいから、奴の慢心を超えれば、勝ち目はある!》

 

 少なくとも、魔力量においては天と地ほどの差があるのだ。相手が手を抜いてくれるというのならそれに越したことはない。さらにはやてがある程度でも魔王の攻撃の先触れを教えられるのなら、かすかではあるが可能性が見えてくる。

 さらにここで、頼もしい援軍が到着する。

 

「僕たちの存在も忘れてもらっては困るよ」

「遅れてすまない……だが、おかげで人員もある程度確保できた」

「ユーノ君、クロノ君も!?」

 

 無限書庫から駆け付けたサポート型の魔導師であるユーノに、あまりの魔物の数に追加の援軍を要請していたオールマイティーな戦いができるクロノが、ようやく戦線に到着する。

 

「武装隊も、下の方の駆逐が終わり次第合流する手はずになっているから……」

「ほう! 駆逐と来たか! だがまだ甘いな……数をそろえた程度で、我に届くとでも思っているのか!!」

「させないっ!」

 

 個の質では魔王に届かないと判断したクロノが増援を口にするが、残念ながらそんなことでどうにかできる相手ではないのだ。なぜなら魔王とは文字通り『魔の王』であり、数でおせる程度であればそのような名で呼ばれることは無かったのだから。

 再び放たれようとする強大な魔力放出を防ごうとなのはもディバインバスタ―による砲撃を行うが、正面から撃ったところでは気休め程度にもなりはしない。

 荒れ狂う魔力はなのは達を翻弄するばかりか、街を砕き廃墟とする。それは撃墜された二人がいるであろう場所も含まれる。

 

「こんな……フェイトちゃん達は!?」

「うろたえんなよ、高町なのは……こんな程度でどうにかなる奴なら、もうとっくに勝負はついてる!」

「我らの目標は奴の持つ聖石! 主の警告を聞きのがすな!」

 

 さらに濃くなっていく絶望にのまれそうになった一同を叱咤したのは、やはり歴戦の騎士であった。

 先陣を切って突撃する二人の雄姿に、なのは達も続く。

 

「さあ、存分に抗い、咆えて見せろ! そのすべてを、我がすべからく葬り去って見せよう!」

 

 その姿に歪んだ嘲笑を見せながら、魔王は魔力弾による迎撃を開始した。が、魔王は気付いていた。撃墜からそれなりの時間がたつにもかかわらず、未だマークが復帰していないことに。

 動きが読めない神竜の重圧は、魔王ですら無視できるものではなかった。

 

 

 時を少しさかのぼり、海浜公園では士郎たちがまさに死闘の最中にあった。士郎の反対を押し切り、一行最大の攻性戦力である恭也が単身でサイクロプスに挑み、他の面子が何十といる魔物の群れが近づくのを防いでいる状態だ。

 

「いい加減、倒れろッ!!」

 

 すでに数十の斬撃をサイクロプスに与えた恭也であったが、血まみれになりつつも未だその巨体は倒れる気配を見せない。それほどまでにサイクロプスの肉体は頑強であった。

 だが、それ以上に恭也を消耗させていたのは、サイクロプスの肉を叩き切る手ごたえだ。スケルトンやゾンビとは全く違うその手ごたえに、その精神を大きく蝕んでいた。

 

(ああ、クソッ! 気持ちが悪い、なんだこれは……これが本当に戦うという意味だというのか!?)

 

 そして、恭也の戦いが長引くほどに、魔物の群れを押さえる面々もきつくなっていく。特に顕著であったのは士郎と美由希である。体力こそシャマルによって回復されていたが、すでに潰れた刃での戦闘にも限界がある。

 

(このままじゃ、持たない……どうにかして状況をひっくり返さないと!)

 

 だから、ここですずかが自分がどうにかしないといけないと思ってしまったのも、仕方のないことだろう。この激戦の中、拳を武器とするザフィーラを除き唯一十全の攻撃力を維持していたのは、『マーニ・カティ』と言う通常の武器とはかけ離れた精霊の加護を得た剣を持っていたすずかだけだったのだから。

 

「シャマルさん! ここを少しだけお願いします!」

「すずかちゃん!?」

 

 しかし、すずかは無理をした程度で魔物の群れを殲滅することなどできないことをしっかり理解していた。なら、何をすればこの状況を覆せるのか?

 

(あの一つ目を討つ! それが最速の方法のはず!)

 

 たった一体で恭也と戦うサイクロプスを討てば、当初の予定通りの戦場に戻るはずであると考えれば、これ以上の手があるとは考えられなかった。

 故に、最高最大の一撃をその巨体に加えるためすずかは駆ける。狙うべきは、皮膚の強度など一切関係ない、すべての生物の急所。

 

(あの目を貫く!)

 

 夜の一族の身体能力を余すことなく用いた一撃は、神速には及ばずとも、常人の速度をはるかに超える。だが、いかにすずかが速かろうと、その一撃はあまりに愚直過ぎた。

 その時魔物が何を考えていたのかはわからないが、自身に攻撃を加える恭也を無視し、その巨大な斧をすずかに向けたのだ。

 

「―――」

 

 死んだ、と思った。もはや駆ける足は大地を離れ、刃は突き出されていたため回避などできない。自ら斧に向かって突撃するような形で、短い生涯に幕を下ろすことになってしまったと、そう思った。

 

 そして、その次の瞬間、風が吹いた。

 

 海からの風ではない。かといって街から吹いた風でもない。ではどこから……そこまで考えたときに、すずかは靴底に着地の触感を感じる。斧はすずかを捉えられず、助かったのだと理解し振り返ると、そこには頭部を失った魔物が倒れ伏していた。

 

「……え?」

「ッ呆けている暇はない! 戻るぞ!」

「は、はいっ!」

 

 一部始終を見ていたはずの恭也の一声で我に戻り、再び魔物の群れと対峙するために走り出す。その身に残る不思議な感触については後でマークに聞くことに決め、刃を構えたその時、ついに待ちに待った援軍が到着した。

 

「もう大丈夫っすよ。後は俺たちに任せてください」

 

 その言葉に続く数十人の武装局員の登場に、アリサを筆頭に手札を失っていた面々が崩れるように座り込む。そして順次撃破されていく魔物たちを見て、ようやく剣士たちもその肩から力が抜ける。

 まだ戦場にいることは各々理解しているだろうが、それでも死地から抜け出し気が抜けてしまったのは仕方のないことだろう。いくら彼らが強かったと言っても、彼らは正式な訓練を受けた兵士と言うわけではないのだ。

 

「これで、僕らにできることは終わりかな……」

 

 その呟きは、翠屋から海浜公園を駆け抜けた皆の気持ちを代弁していた。魔導師たちの戦場は空にあり、彼らにはそこにたどり着く術がないのだ。もちろん、術があったとしても今の士郎たちでは何の役にも立たないであろうが……

 そんな士郎たちの視線の先では、ザフィーラはすでに戦場へと飛び去り、シャマルが応急処置を受けている。局員は魔物の討滅や護衛も行い、忙しそうに走り回っている。

 そこへマークからあるものを預かった狼がやってくるのは、もう少し先の話である。

 

 

「紫電一閃!」

「フランメ・シュラーク!」

 

 シグナムのもつレヴァンティンが、ヴィータの持つグラーフ・アイゼンが炎を纏い、魔王を挟み込むように放たれる。だが、その攻撃も今までと同じように、片手間のような動作で防がれてしまう。

 

「こんなのっ!」

「クッ!」

「チェーンバインド!」

 

 シグナム達が弾き飛ばされるタイミングに合わせて、ユーノが拘束を行おうと魔力の鎖を打ち出す。しかしこれも障壁のため魔王の体には届かない。

 これになのはやクロノの砲撃が加えられるのだが、やはり障壁により防がれる。こんな戦いともいえない状況が、なぜか続いていた。

 

「…………」

 

 そう、魔王はなのは達をあしらいながら、間違いなく別の人物を警戒していた。散発的な反撃も敵を仕留めるという意思は感じられず、ただここに居ないマークに対して隙を見せないことを重視しているのが、はた目からもわかるほどだった。

 

「それほどまでにマーク・テスタロッサが恐ろしいかっ!」

「……誰にモノを言っている。我は魔王だぞ!」

《広域! 横やっ!》

 

 シグナムの安い挑発に魔王が乗る。魔王にとってマークは、一度ならず二度までも自身を封じた怨敵なのだ。それを警戒して当然と思う一方で、たかが一個人を警戒しなければならないことに屈辱を感じていた。

 それゆえの爆発は突然でこそあったが単調であり、はやての警告もあり難を逃れることに成功する。横薙ぎの広範囲攻撃は何もとらえることなく霧散し、その魔王の背をアクセルシューターが打ち抜く。

 

「ちくちくと……! 闇に染まれ」

《ッ! 全力離脱!》

 

 はやてが慌てて魔王の意思を読み取り警告を発するが、それでも使用魔力の上限を無視してしまえば魔王の攻撃の方がなのは達の離脱速度より早い。

 そして、そのことを勘と経験から理解したなのは達は、極端な方法を選択する。

 

「シグナムさん! 道を作って!」

「わかった! レヴァンティン!」

 

 強敵を相手取る一体感は、最低限の言葉でお互いの目的を理解できるまでに高まっていた。それが故に、なのはの呼びかけにシグナムはボーゲンフォルムを展開し、最大の魔力を持って矢をつがえる。

 

「翔けよ、隼!」

「遅い、デアボリック・エミッション」

 

 やはり初動が速かった魔王の方が術式の展開が速い。魔王を中心に魔力が全方位に放射されるが、それにいまさら動じるほどシグナム達も柔ではない。

 

「シュツルムファルケン!」

「行くよ、レイジングハート!」

 

 膨大な魔力が迫りくるのにもひるまずに放たれた一撃は、一条の光となって魔王への道を示す。それに続くのは突撃砲撃仕様のレイジングハートを構えたなのはだ。

 それは拡散する一撃に対して、一点に集中した杭のような一撃であった。なのははシグナムの一撃に導かれ、ついに魔王に接敵する。

 

「この、小娘がぁ!!」

「エクセリオン―――」

 

 この時初めて、魔王がなのはに目を向ける。それはたかが人間如きに自身の攻撃が抜かれた驚愕か……ともかく、ここに至りようやくなのはが魔王と竜の戦場に足を踏み入れた。

 

「―――バスター!」

 

 ゼロ距離砲撃により炸裂する魔力はなのはすらも飲み込む爆発と化すが、それでも魔王を倒すにも、聖石を奪うにも至らない。否、正確には瞬時に回復され、ダメージの欠片すらも残らなかった。

 

「そんな……」

「……ひょっとして、怒らせただけで終わりってことか?」

 

 そう、いかに戦場に立つことが叶おうとも、未だ魔王との力量差は歴然。この一連の攻撃の後に残ったのは、憤怒に染まる魔王と言う絶望の具現であった。

 そしてその目がなのはを標的と定めたとき、ようやくマークの反撃が始まる。

 

「ッ!」

 

 それは魔王がなのはを潰そうと魔力を放出しようとした直後、その背を取るように転移光を伴い現れた影が雷の大剣をもって魔王を襲う。

 突然の不意打ちに、攻撃に回そうとした魔力を強制的に防御へと回す。それは確実に肉体への負担となり腕から血がにじむが、所詮その程度でしかない。

 

「このっ……!」

 

 しかし、その攻撃以上にそれを放った者への驚愕が魔王の肉体を硬直させる。それはつい先ほど、墜ちたはずの少女であった。

 

「貴様……!」

「フェイトちゃん!?」

「バルディッシュ!」

 

 周囲の言葉を完全に無視し、カートリッジを使用し、更に一度は失った右腕に力を込め圧力を上げる。そしてついにその一撃は、ただマークでないというだけで力を抜いた魔王の障壁にひびを入れる。

 

「なっ!?」

 

 だが、その程度はできて当然なのだ。魔王によって一度は砕かれた腕であったが、今はマークの持つ竜石のエーギルを込め造られたものなのだ。それの持つ力が、見た目通りだなんて道理はない。

 そして当然、この一撃でマークの反撃が終わる道理もまた無かった。

 

「『月光』」

 

 かすかに聞こえたマークの声は遥か下方。ビルの屋上に立つマークの持つ槍では空にいる魔王に攻撃は届かないはずだった。

 しかしマークの持つ神器はその理を凌駕する。それは古より伝わる始まりの神器の一つ。万物を貫く槍『グラディウス』。それは数ある槍の神器の中で、数少ない投擲を想定したつくりをしたものであった。

 

「くそがあぁぁぁ!!」

 

 魔王は余裕などかなぐり捨て対物理・対魔法の障壁を合わせて四つ展開するが、その程度で止まる神器では、奥義ではない。瞬く間にその防御を貫き、障壁を展開していた右腕を消し飛ばす。それは精密な障壁の制御により攻撃をそらした魔王の妙技であったが、同時にこのような大雑把な攻撃でマークの反撃が終わるとも考えられなかった。

 

(次はどこから……!)

 

 自動的に再生が行われさらに魔力が搾り取られる中、マークを警戒する魔王であったが、追撃はマークからではなく、またしても転移された存在から行われる。

 

「旅の鏡だと!?」

 

 それは攻撃に意識が行っていたときに挟まれるからめ手の類であり、はやてを救おうとする者たちの切り札であった。そしてついに鏡からのばされた手が、聖石をつかむ。

 それと同時に、魔王を封印すべくこの戦場にやってきた少女の声が響く。

 

「はやては、あんたみたいのに絶対渡さないんだからっ!」

「わたしたちの友達は、返してもらいます!」

 

 アルフの背に乗って出てきたのはアリサとすずか。その手にあるのは聖石のレプリカだ。さらにその瞬間に合わせるようにマークによって戦場にふりまかれた百近い数のコピーが、シャマルの手にあるオリジナルと共鳴しその力を増幅させる。

 シグナムやヴィータ、遅れて戦場にたどり着いたザフィーラもばらまかれた聖石を手に祈りをささげる。

 

「――――――!!」

 

 もはや声にならない魔王の絶叫は、なのは達に勝利を目前のものと錯覚させるには十分なものであった。

 そう、思い出してほしい。この聖石を利用した封印は、魔王が最も警戒していた事象であり、聖石はつい先ほどまで魔王の手にあったことを。

 

「え?」

 

 その呆然とした空気が漏れるような声を出したのは、誰だったのであろうか。だが、それも仕方のないことだろう。あとわずかで封印がなされると信じた直後、そのオリジナルの聖石が砕け散ったのだから。

 そしてオリジナルに共鳴していたがゆえに、レプリカ・コピーも同時に砕け散る。それは最後の希望が潰えた瞬間であった。

 

「と、そう考えるほど我は馬鹿ではないぞ!!」

 

 そう、魔王を知る者にとって聖石が罠であることは明白であったのだ。確かにレプリカやコピーの存在は魔王にとっても想定外であっただろうが、その大本が掌握された状態ではそんなもの誤差と同じだ。

 だから、マークがそんなものを切り札としない事も、魔王にとっては確信を持てることだった。

 

「なら、防いで見せろ!」

「言われずとも!」

 

 傷付いた翼で魔王の上を取ったマークは、最後にして最大の一撃を準備していた。それはトールハンマーの時とは違い、封印を解除した正真正銘の本気の一撃……否、五連撃であった。

 

「奥義『流星』」

 

 本来剣士の奥義であるそれは、神速の五連撃をたたき出すもの。それを魔法に応用したマークは、五つの光を背負う。

 

「星の光に抱かれて消えろ、至高の光『アーリアル』」

「深遠なる闇よきたれ『ナグルファル』!」

 

 静かに詠われた詞により、光はまさしく流星のように魔王へと殺到する。それに対し、魔王の呼び出した闇はその光を激しく喰らい……最後には光が爆ぜた。

 

 

 そして訪れた静寂。その沈黙は、戦いの結果を見守るだけでなく、はやてが無事に解放されたことを祈るものでもあった。

 しかしマークだけは違う。この一撃が決まっていれば、はやては跡形もなく消し飛んでいるし、生き残っていれば、この戦いにマークが負けたという事だ。

 

(もう、魔力はほとんどない……もし、生きているならば……信じさせてくれ)

 

 そして光が収まり、視界が戻ろうとしたときに、その答えが出た。それは激痛と共に、マークの敗北を告げる一撃であった。

 

「ご、ふっ……!」

《マークさん!?》

「流石に、今の一撃は効いたぞ……瞬時に回復するはずの傷が、未だ癒えぬほどにな!」

 

 翼が傷付き、機敏に動けないマークの胸を貫いたのは魔王の右腕。心臓こそ逃れたが、鮮血を吐くその姿は、はた目から見れば致命傷とも呼べる傷であった。

 

「だが、我はいまだ倒れていない……切り札を切り損なった貴様の負けだ!!」

「あ、ああ……俺の負け、だ……そして……」

 

 お前の勝ちだ。

 

 その呟きは、魔王に向けられたものでないことは明白であった。そのことを魔王が訝しむが、気付いた時にはもう遅い。

 

 よく、あれだけの言葉で気付けたな。

 

 光が集う。それは魔王がふりまいだ莫大な魔力であり、マークが放った神器の一撃に使用された魔力である。

 

 そして、この瞬間までよく耐えた。

 

 本当にわずかなヒントしかなかった。それは炎の紋章こそ切り札だという言葉と、かすかな期待。それだけで正解を導き出した少女は、やはり英雄の器であるとマークは確信する。

 

 もう、我慢する必要はない。全力で、その想いのすべてを叩きつけろ!

 

 そして、ついに魔王がその真意に気付く。それはユーノの隠蔽の結界に包まれた、マークたちの真の切り札。

 

「スターライト―――」

 

 カートリッジが排出され、さらにその輝きに力が宿る。しかし魔王の腕は未だ神竜の胸を貫いており、放すことはできない。この手を離せば、その時こそマークの切り札が切られるだろう。

 

(まさか、この時を見越していたとでも言うのか!?)

 

 切り札を切らない事で魔王の注意を引き、今もまた、切り札を切っていないが故に魔王はこの手をはなすことができないのだ。

 

「―――ブレイカー!」

 

 炎の紋章により、その意志を力に変えた炎を纏った一撃が二人に迫り、飲み込んだ。

 

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