魔法少女リリカルなのは 炎の紋章を持つもの   作:コウチャカ・デン

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第46話 「いまだ見えぬ明日」

「それじゃあ、まずはフェイトの体について語ろうではないか」

「いえ、なんていうか……言いたいことはわかるのだけど……」

「もうちょっとマシな言い方はできないのか?」

 

 マークの微妙な言い回しに、リンディが困ったように、クロノが呆れたように文句を言う。ただマークはそのような感情に気付いているだろうに時間がもったいないと、特に言い換えることはせず話を続ける。

 魔王との戦いから一夜が明け、ようやく戦闘に参加した面子が話のできる状態に戻ってきたのだ。その全員参加の話し合いの前にこうしてフェイトやリンディ、それにクロノにエイミィだけで話し合いたいとマークが持ちかけたのだ。

 

「とにかく認識を統一させよう。まずは管理局が、俺らが撃墜されてからをどのように把握しているのかを知りたい」

「……マーク君に続いてフェイトちゃんが墜とされて、マーク君がそれを治療し戦線に復帰、ってだけだね。死者蘇生すら行える存在なら、手足の一本や二本再生させることができても不思議じゃないって」

「やっぱり……何をしたかはちゃんと見ていたってことだな」

 

 マークからしてみればできれば見られたくなかった術式だったが、あの時躊躇していればフェイトの命は無かったのだから仕方がない、と割り切る。それ以上に……

 

「アレを再生とみている限り、解析するのは不可能だし……」

「……声に出てるよ?」

「おや、失礼」

 

 マークはエイミィの忠告にわざとらしく口をふさぎ、今のが失言であったことをアピールする。それは言外に『この場を不用意な発言をしてはいけない場所』にしたいという提案。すなわち取引がしたいという事だとリンディは結論付ける。

 

「そんな気遣いはいらないわ。それとも私たちは信用ならない?」

 

 だが、リンディはマークの配慮を切って捨てる。マークからしてみれば後々迷惑をかけないようにと言う配慮なのだろうが、もう遅いのだ。少なくともリンディ達はマークを切り捨てるという選択肢を取ることができないほど、マークに情がわいてしまっている。

 

「……好意的に見ているからこそなんだがね。まあいい、その代わり後で文句を言うなよ?」

「もちろんよ! あ、でも場合によっては愚痴ぐらい付き合ってね?」

 

 マークはさも仕方なさげに言うが、顔にはわずかに笑みが浮かんでいる。リンディもニコニコしているし、これでは最初からこうなることは織り込み済みだったようにも感じる。

 

「順序立てて言うとだな……フェイトの治療を行ったが、俺の行った治療は特殊なものであるから今後が予測できない。よって『プロジェクトF』の情報を開示してもらいたい。と言うのが一つ目だ」

「確かに面倒なことになりそうね……でもプロジェクトFは……」

 

 リンディはマークの一言で笑顔が一瞬で真顔に戻り、次いでフェイトを軽く窺う。このプロジェクトはフェイトにとってあまり良いものでないのは、周知の事実であるからだ。

 しかしマークからしたら、過去よりも今の方が重要だった。いやそれ以上に、プロジェクトもフェイトを構成する一部として、見ることができているのかもしれない。

 

「フェイトの手足も、正確に言えば『再生』ではなく『創造』だ。形は合わせているが、他人のものをつなげたと言った方が正しいし……一から説明しないとダメか」

 

 マークは簡単な説明をしだしたが、周りの反応を見て途中で断念した。そして『エーギル』のところから解説を始める。もちろん伏せるべきところは伏せたが、それでも結構な時間を喰ってしまう。

 

「要するに、今のフェイトさんの腕はマークさんの『エーギル』と言う生命エネルギーでできていて、それがもたらす影響がわからないからプロジェクトの情報を用いて最適化したい……これでいいかしら?」

「表面上はな。肉体全部を作れば『モルフ』と言う存在になるんだが、一部だけというのは俺も初めてやったから」

 

 リンディがまとめたことに、マークが一言を付け足す。ただし今リンディが言ったことも事実なので、まず裏側の理由が漏れることはないだろう。

 

「本命は、検査の名目で定期的に術式を使う理由を作る事。俺の創った手足が成長しないことを隠すためだ」

「成長しないという事は、ひっくり返せば老いないという事……擬似的な不老不死まで可能だなんて思ってもいなかったわ」

 

 リンディはマークが隠そうとしていたことの予想以上の大きさに、流石に頭を抱える。フェイトも自身の体の一部が不老となったことに驚きを隠せず、不思議そうに動かしたりなでたりしている。

 

「って、フェイトに話してなかったのか!?」

「話すような時間があったと思ったか?」

 

 フェイトの驚き様からそう察したクロノが怒鳴るが、マークに呆れるような声音で返されてしまう。それでもこんな重大な事を勝手に、と言う思いが消えていないクロノをみて、恵まれているとマークは感じてしまう。

 

(不服なら切り落とすか?)

 

 ついそう言ってしまいそうになったのをマークは堪え、当事者であるフェイトに向き直る。が、何かを言う前にフェイトが手足の仕様について問いかける。

 

「これって、マークで出来てるってこと?」

「まあ、そうとも言えるな」

「……なら、この腕が感じたことが、マークに伝わったりする?」

「それは流石に無い筈だけど……」

「そっか、なら大丈夫だね」

 

 それだけで納得してしまうフェイトに、マークは少し心配になる。もう少し危機感を持った方がいいんじゃないかとも思うが、これがフェイトの信頼の証だと思えば注意もしにくい。

 

「……まあいい、それで資料はもらえるのか?」

「そうね……部外者に見せるのはまずいから、管理局に研究員として所属することにすれば何とか、ってところかしら」

「それが妥当な所だろうな」

 

 組織として厄介な前例を作らないためには、やはり建前が必要という事だろう。さらに言えば、マークにとって管理局への所属は今回の話し合いの必須事項でもあったのだ。まさにリンディの提案は渡しに舟であった。

 

「なるべく早く手をまわしてくれ。……今は、とりあえずの応急処置として性能を落とすか」

「え、弱くするの?」

「ひ、必要ないよ!」

 

 エイミィを筆頭に皆が不思議そうな顔をし、フェイトがなぜかその処置を行う事を拒否する。それをマークは半眼で睨みつけ、右腕の付け根あたりを軽くつつく。

 

「あ、ぐっ……」

「やっぱり……腕の力に体がついて来てないんだ。こんな状態が続いたら壊れるぞ?」

 

 いくら相手が魔王だからと言って、たった一戦しただけでちょっとつつけばうずくまるほどの激痛を感じるほどである。マークは呆れながら注意するが、それでもフェイトは目に涙を湛えながら首を横に振った。それは痛みによるものではなく、自身の無力を悔やむものだ。

 

「でも……これぐらい強くないと、魔王クラスとは戦えない……助けたいと思っても、何も……!」

「だからと言って腕一本で出来ることもない。誰かを助けたいと思った時にベッドの上ではしょうがないだろ?」

 

 だがそのような感情だけでは、正論を覆すには至らない。フェイトも過ぎた力は身を滅ぼすとわかっているはずである。わかっていても、それでも願いのため力を求めてしまうのが人間というものかもしれない。

 今回は幸か不幸か過ぎた力を手に入れ、魔王と渡り合ってしまった。それでも力を与えることができる存在であり、また諭すことができる存在でもあるマークがいた。

 

「あと五年の間は地力を磨け。そうしたらその力に見合った強化をしよう」

「……わかった」

 

 マークの説得にフェイトが折れ、これでこの話は終わるかとも思ったがそうはいかなかった。マークが創る腕は、そこまでフェイトに合わせられなかったのである。

 

「わたしって……マークが再現できないほど弱いの?」

「いや……肉体を形づくるのに最低限必要なエーギルを用意すると、この強度になってしまうだけで……」

 

 今度こそ泣きそうになってしまったフェイトに、マークはわたわたと言い訳をする。そこへアリシアが起きてきて『フェイトを泣かせた!』とマークに飛び蹴りをかましたり、なかなか騒がしい状況になっていくのだが、クロノ達は止めようともせず来客があるまでただ眺めているだけであった。

 

 

「それでフェイトちゃんの体はどうなったんですか?」

「俺が直した部分の強度が、大体元の四割増しってとこで落ち着いた。しばらくはバランスを取るのに苦労するだろう」

 

 結局後から来た面々に騒動の理由を軽く説明する羽目になってしまい、わざわざフェイト達にだけ説明したのも半ば無駄になってしまったことにマークはわずかに脱力する。実はこの騒動が無くても、なのは達はフェイトの怪我を気にしていたので結局話すことになっていたのだが、マークはそのことを完全に失念していた。

 

「それじゃあ改めて……昨夜の戦いのことを……」

「その前にええですか?」

 

 気を取り直して本題に入ろうとしたマークに、はやてが待ったをかける。そして確認するのは、まるで昨日の戦いが無かったかのように平然としているマークの体について。

 

「マークさんの怪我は……えっと、大丈夫なんですか?」

 

 それははやてにとって、魔王との戦いの中で一二を争う重要な事項であった。一夜明けた今でも、はっきりと思いだせる。鎧を砕き、肌を裂き、肉を貫き、臓腑を潰した感触は、はやての右腕にこびりついていた。

 だが、マークからしてみれば数多く経験した戦場の一つの数多負った怪我の一つでしかないのだ。だから、答える言葉はほんの一言だけ。

 

「問題ない」

「まあ、今回に限っては事実よ。さすがは竜の再生力ってとこかしら?」

 

 マークがあまりに簡潔に答えたのを、リンディがさりげなく事実を隠しながらフォローする。しかし『今回に限って』とわざわざつけるあたり、普段のマークの自己申告が信用されていないのがうかがえる。

 

「そう、ですか……」

「……お互い殺し合って、生き残った。それだけだ」

 

 それでも罪悪感を持っている様子のはやてを見かねてか、マークはわずかに言葉を付け足す。事実マークの一撃だってはやての腕を消し飛ばしたりしていたりするのだ。だから罪悪感を覚える必要などないと、言外に語る。

 

「さて、今度こそ本題に入るぞ!」

 

 その場の空気を切り替えるかのようにマークは手を叩き、この場に集まった面子を見渡す。最初からいた面子に加え、なのは、恭也、忍、すずか、はやてにシャマルが今回の話し合いのメンバーだ。

 ちなみに高町夫妻は翠屋があるため、アリサは家族が今回のことを知らないため、シャマル以外のヴォルケンリッターは円滑な話し合いの邪魔になりかねないため欠席である。ちなみに……

 

「一応、質問は預かっているから問題ない」

「伝言で『今度そのエルフ耳触らせなさい』って……」

「話し合いであるのなら、人数をそろえても邪魔にしかならないのはわかる。不意打ちなどする必要が無いほどの力の差があることも理解している」

 

 という事で、参加できない者も納得するらしい。それはともかく……

 

「基本的に、昨夜の戦いは管理局として特に一般人に干渉することはしない……で、いいんだな?」

「ええ、みなさんが巻き込まれたのはマーク君のアイテムを持っていたからと言う線が濃厚ですから。流石にそれらのものは回収させてもらうことになりますが」

 

 もともとマークがアイテムを渡したのは、闇の書が暴走した際の自衛の手段といった要素が強かったため、事件が終わった今恭也達に断る理由は無かった。ただ、自衛以外の理由を強く持つ者にとってはそうはいかない。

 

「持ち続けるという選択肢を選んだら、どうなりますか?」

「ちょっと、すずか!?」

「えっと……?」

 

 それはなのはやマークと同じ場所に立ちたいと願うすずかには当然の選択ではあったが、マークのアイテムを無理やり取り上げるという選択肢のないリンディは、本来の持ち主に伺いを立てるしかない。

 

「…………アリと言えば、アリかも?」

「ちゃんと説明してもらえる?」

 

 それなりに長い時間考え込んで出したマークの微妙な結論に、リンディが詳細を要求する。それに対しマークは少し困った風に頭をかき、あくまで今後の案の一つとしてだが、と前置きして話し始めた。

 

「最後に話そうと思っていたんだが……はやての今後についてだ」

「え、すずかちゃんの話やなかったん?」

 

 いきなり話が飛んできたはやてが首をかしげる。だが、続く言葉に全身を固くする。

 

「魔王に乗っ取られた存在であるはやてを危険視する存在は、必ず出てくるだろう。もちろん魔王と独力で戦える俺も他人事じゃない」

「それは……!」

 

 無いとは言えない。魔王にしろマークにしろ、個人で持つには大きすぎる力なのだ。ちょっと慎重な人間ならば、魔王に乗っ取られた過去を持つ人間や、正体のはっきりしない存在に対し対策を練ることぐらい考えるだろう。

 

「だがうまく使えば有用な力でもあることは確かだし、何より魔王の消滅は確認できていない」

「なるほど、魔王対策として自分たちを売り込んでいくつもりか……確かにそれならば邪険に扱われることはないだろうが……」

 

 明確な脅威があるなら、マークたちの存在はむしろ歓迎されることになるだろう。だが、確実に本題からずれている。

 

「マーク君の考えはわかったけど、それとすずかちゃんの剣はどういう関係があるの?」

「まあ、話は最後まで聞け。……最初は魔王対策で好意的な関係を結べるだろうし、一度できたつながりはそう簡単に切れない。だが、魔王の脅威が忘れられてきたら? 俺たちのことを直接知らない者が管理局の上層に収まったら?

 考え出したらきりがないとはいえ、俺達の力が脅威になることに変わりはない。その感情を抑えるために、できるだけ純粋な管理局に所属する強者が欲しい」

「それがわたし……?」

「正確にはナノハとスズカだ。スズカが前衛に立てば、ナノハも十全の力が発揮できるだろう」

 

 少なくとも出身世界すらわからないマークより、魔王に乗っ取られたことのあるはやてより、すずかの方が信用はしやすいだろう。そしてなのはには、マークと敵対していた過去もあるし、魔王を退けた実績もある。

 

「確かに……並外れた実力者が三組もいれば、どれか一つから度を超えた脅威を感じることもなくなるでしょうね」

「魔王の脅威が失われるまで時間はあるし、これが俺の考える理想図だな」

「……わるいけど、返事は後日に。少し家族で話してからにさせて」

 

 もちろん、マークの持つ案はこれだけではない。それこそマークの出身世界を探すためとか理由をつけ、管理局にさらに手を広げさせるのも一つの手であるだろう。マーク自身が、管理局の上層に食い込むような手柄を上げてしまうのもありだ。

 

「どんな決断をするにしろ、できる限りのフォローはしよう。まあ、最終的に一番苦労するのはリンディ達だがな」

「お手柔らかにお願いするわ……」

 

 最後の最後に丸投げするようなマークのセリフに、話し合いの場に苦笑が漏れる。ともあれ結論は、はやてたちが管理局の現状をある程度知ってからになる。

 

「先に今後について話すことになってしまったけど、はやてさんたちの処遇についても言っておかないといけないわね……」

「……はい」

 

 ある程度弛緩した空気が、リンディの言葉によって再び引き締まる。だがそれもすぐにマークの一言で打ち砕かれることになった。

 

「『夜天の書』は、聖石より魔王の封印を受け継いでいたが、当代でついに封印が破られる。善戦むなしく当代の主は魔王にのまれるも、現地の協力者により解放。魔王の撃退に成功する……でどうだ?」

「ヴォルケンリッターによる魔力の蒐集は、魔王の封印の強化のため……管理局と敵対したのは、魔王の存在を可能な限り世に出さないためってとこかしら」

「……はい?」

 

 マークとリンディが語りだした『シナリオ』は、魔王にすべての責任を押し付ける都合の良い作り話であったが、事実はやては何も悪いことをしたわけではないのだ。はやてに取らなくてもいい責任を取らせるなんて選択をする気は無く、そのためならこの程度の虚偽は許容範囲だろう。

 

「流石にそこまで甘えるわけには……」

「子供は大人に甘えるものよ?」

「そうだ。それに話が分かりそうなやつには真実を報告する。これはあくまで表面的な話だ」

 

 夜天の書の欠片しか残っていないとはいえ、はやての持つ魔力は強大で、集めた術式も九割がた健在だ。はやてを味方に引き込むのを肯定する者もまた多いだろう。

 

「今は流されておけ。その方が『扱い易い』と考える奴が多くなって楽だ」

「……マーク君の時は大変だったんだよ! 危険性と有用性が上限いっぱいって感じで!」

 

 エイミィが当時の苦労を延々と語り、半ば泣き落としのような形ではやてに都合よく流されることを同意させる。

 ここまで来たら話は早い。はやてたちを被害者の立場に持っていき、魔王の危険性を訴えるだけで今回の事件は終焉を迎える。もちろん細々とした手は山ほど打つ必要があるだろうが、少なくとも大事に至ることはないだろう。

 

「あとは、あなたが隠していた神器の件かしら?」

「聞かれなかったから言わなかった……じゃ、済まないよな」

 

 リンディに睨まれ、両手を上げ降参を示すマークはすぐに代替案を出す。

 

「俺の鱗を差し出してなんとかならないか? これを貫ける魔法を開発すれば、対竜魔法の研究が進むだろ?」

「貴方の使った神器の効果などの説明も必要よ? あと、フォルブレイズ同様使用制限が設けられると思うわ」

「まあ、提出を求められないだけよかったと思おう……」

 

 まだいくつか懸念事項があったが、ここまでで一度話し合いを終了させることになった。と言うのも、マークの神器の話が思いのほか長くなりそうなのと、はやての処遇を局の総意として確定させなければならなかったからだ。もちろんすずかと忍の話し合いの時間を設けるためでもあったが、すずかを見ていると説得の余地はなさそうである。

 

「じゃあ、シロウの分はまたにするとして……」

「ああ、これだな」

 

 最後に恭也と美由希からアイテムを回収する。忍やアリサ、桃子はもう使い切っているため回収できないが、仕方のないことだろう。

 

「ところで、美由希のこれはなんだったんだ?」

 

 そんななか、消耗品でありながら結局使われなかった美由希に渡した小瓶に対する疑問を恭也が投げかける。

 

「それは……俺の知り合いの竜の涙だ」

「飲めば効果があるって聞いてたけど、飲み辛くて……」

 

 美由希が言い訳を述べるが、多くの人が同意する。赤の他人の涙を好んで飲みたいとは思えないからだ。

 

「……一時的に身体能力を上げる効果があったのに」

 

 マークが規格外な効果を述べても、やはり苦笑しか起こらなかった。

 

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