魔法少女リリカルなのは 炎の紋章を持つもの 作:コウチャカ・デン
今回の話し合いが終了となった後、みんなそれぞれ思うところがあったのか、バラバラに出て行ってしまう。例外は管理局組だがリンディは本局に飛んでいき、クロノはまだ本調子でないのか倒れるように寝てしまった。最終的に部屋に残ったのはマークと、伝達事項があるエイミィだけであった。
「結局さ、マーク君ってフォルブレイズクラスの武装をいくつ持ってるの?」
「たくさん」
これから話すことの前振りとして、エイミィがダメもとで尋ねてみるが、やはりというべきだろうか抽象的な表現で済まされてしまう。だが流石にそれだけで済むとは思わなかったようで、マークもそれなりの説明を行う。
「俺が神器と呼んでる武装は確かに強力だけど、あれは元々『対魔王』『対竜』用に特化した武器というものだ。人に対しての使用は想定されていない」
とはいえ、『対魔王』『対竜』用の神器が人に対して使えないわけではないし、『対人』用と言って差し支えない神器も存在しているのだ。言い訳としては弱いという事は、マークも十分に承知している。
「まあ言いたい事はわかるけど、流石にあの威力になったら使用に制限をかけなきゃ周りが落ち着かないよ。なのはちゃんのスターライトブレイカーみたく、わかりやすい欠点があれば話は別だったんだけど……」
「チャージ時間か……一応俺の魔法でもそう言った動作が無いわけじゃないんだが……」
近接戦で剣士と等速で攻撃を行える時点で、そんなもの欠点として認識されないだろう。
「とにかく、炎の魔法『フォルブレイズ』に、雷の魔法『トールハンマー』、最後に光の魔法『アーリアル』……この三つは使用に許可が必要になると思うよ」
「やっぱり……だがちょっと待ってくれ。神器クラスの魔法に制限をかけるのは、主に威力が問題だったわけだろ? それなら、今の俺はリンカーコアが損傷していることも考慮に加えてほしい」
そういえば、とエイミィも思いを巡らせる。現状マークのリンカーコアは蒐集によるダメージにより、最大の約七割しか活動していない。これに非殺傷設定を付加する封印の効果も加えれば、マークの魔力は約五割まで落ち込むことになるのだ。
「確かにこの状態で切り札まで禁止は流石に酷だね……理論上は、出力が半分以下にまでおちてるんだし」
「ついでにこれ以上魔法を禁止されたら、剣で戦うほか無くなるって事も伝えてくれ」
「了解」
確かに強敵と戦うのに強力な魔法が使えないとなれば、能力に制限の加えられていない剣に頼らざるを得ない。そうなってしまえば、何のための魔法の制限だという事になってしまう。
「あ、剣と言えば……魔王の障壁を貫いたあの槍だけど……」
「わかってる。あれは人に対しては使わない」
あの槍とは、万物を貫く槍『グラディウス』のことであるが、実は障壁を抜いたのは槍の力だけではなく、マークの奥義あってのことである。もちろんそんな誤解は訂正せず、ただ槍の使用のみを制限するとのみ告げる。
世の中には知らない方がいいことも多いのだ。
「……他の武器についてはスルーだね。計器は魔王の魔力のせいで常時振り切れてたし、映像だけならそこまではわからなかったみたい」
「まあ、魔法の方が見た目は派手だからな」
結局魔王の障壁を抜いたのが『グラディウス』だけだったというのも大きいだろう。特に『ジークムント』などは、シグナムの一撃に酷似していることも見逃された要因であろうか。
「とりあえず、俺に対する制限はそんなとこか?」
「後日、リミッターが正常に作動しているかチェックしに、本局へ顔を出す必要があるかも。もともと犯罪者用の封印だし、一時解除は想定されてなかったらしいから」
「わかった」
そうして一通りの話が終わると、マークは立ち上がり玄関へと向かう。
「あれ、出かけるの?」
「ああ、ちょっと話をしとかないといけない奴がいるからな」
「そっか、気を付けてね~」
エイミィはなんとなくすずかのところかとあたりをつけ、魔王戦の事後処理に戻りながらマークを見送る。前線組とは違い、後衛組は戦いが終わった後こそが本番ともいえる。まだまだやらねばならないことは、山のように残っているのだ。
「……クロノ君早く復帰してくれないかな?」
マークが出て行った後、戦闘でも事務仕事でも頼りになる少し年下の男の子のことを思うエイミィの声は、誰にも届くことなく消えて行った。
「はやてちゃん……本当に大丈夫なの?」
「もう、何度も大丈夫やて言うとるやろ~。シャマルは心配性やな~」
「でも……」
話し合いが終わりすぐに病室に転移したはやてであったが、それでも顔色はあまりよくない。昨夜の戦いで最も重症であったのはマークだったかもしれないが、総ダメージ量が多かったのははやてなのだ。騎士たちが心配するのも当然と言えるだろう。
「まあ落ち着け。石田医師も特に体に変調をきたしているわけではない、と言っていただろう。ゆっくり休めば問題ないはずだ」
「そうは言うけどよー……」
ザフィーラが諭すも、ヴィータが不満そうな声を出すのも仕方ないことだろう。だが、ゆっくりしていられた時間すらそう長くは続かなかった。来客を知らせるノックがあり、シャマルが扉を開けるとそこにマークがいたのだ。
「何でお前がここに来てんだ!」
「話すことがあるから来たんだよ」
顔を見せた瞬間に噛み付いてきたヴィータに、マークは苦笑しながら返す。ただ騎士たちの表情からは警戒心がにじみ出ており、自然と空気が張り詰めていく。
「ま、まあ、立ち話もなんですし……」
「いや、このままでいい」
「そう……ですか……」
なんとかその空気をどうにかしようとしたはやてであったが、この緊迫した空気を作っている原因の片割れにもすげなく断られてしまう。
そんな主の気持ちを知ってか知らずか、シグナムが口火を切る。
「それで、何の用だ」
「まあ、いろいろと確認にな」
早々に話を終わらせ出て行け、と言う意思を隠しもしないシグナムから視線をそらし、マークははやてだけを視界に収める。
「闇の書の機能はどこまで残ってる?」
「……闇の書やない」
「じゃあ夜天の書だ」
マークははやての決して譲れない主張をあっさりと流し、質問を続ける。はやてはなぜわざわざここでこんな問答をするのかと疑問に思いながら、自身の内にいる『先輩』へ確認を取る。
「……結構、意味をなさない欠片も多いし、まだ整理もできとらんみたいやから、正確には……」
「それで構わん」
「えっと……術式の記録と解析……それと最適化もできるみたいや。自動修復プログラムは切り離されてもうたから、欠片に残った術式から復元可能な魔法はおよそ九割。守護騎士プログラムは完全な状態や。
管制の子がいなくて代理の『先輩』が見とるんで、今把握できるんはこんなもんです」
隠し事は一切せず正直に答えたはやてであったが、その答えを聞いて考え込むマークに不安を覚える。
《わたし、なんか変な事言ってもうたか?》
《いえ、特におかしなことは無かったと思いましたが……》
その考え込む時間がやたらと長く感じ、ついシグナム達に念話をしてしまうが、彼女たちにもここまで考え込む理由はわからなかったようだ。もっとも、マークに悪感情を抱いている騎士達では、彼の思惑を図ることは難しいと言わざるを得ない。
それからさらにじっくり数分は思考を巡らせたマークが、ようやく次の質問を行う。
「その九割の中で俺の……異界の魔法はどの程度ある?」
「マークさんの魔法はかなり優先的に回収しとるから、ほぼ全部や?」
使用できるかは別として、はやてが生き残るため必要となる強力な魔法、特に対魔王用に使えるものは全て記録してあった。
「……俺がこっちに来て使ったことが無いものまで把握しているなんてな」
「蒐集はリンカーコアから直接やっとったらしいし、そういんもんやないの?」
実際マークは風刃『エクスカリバー』の使用を確認していたため、自身の魔法が習得されていたことは特に驚かなかったが、その習得数は予想よりはるかに上だった。死者蘇生は特殊すぎて始めから蒐集はできていなかったそうだし、エーギル関係が魔法扱いされていなかったのがせめてもの救いか。
「まあ、この程度なら問題ないか」
それでも予想外だったのはその程度。あまりよろしくない想定では死者蘇生やモルフ作成まで習得している可能性もあった以上、かなりやりやすい状況ともいえる。
(もちろん、俺のことが信用できずに黙っているという可能性も……無いか)
本来なら想定しておくべきなのだろうが、信用云々はともかく、はやてが何の考えもなく黙っていることはないだろうとマークは考える。仮にも魔王に寄生されたにもかかわらず生還した『聖女』とでもいうべき人材だ。
それに危険性を理解して黙っているならそれでよいし、何も考えてないならマークが手を出す必要もなく自滅するだろう。
「とにかく、現状は理解した。念のため言っておくが、できる限り神将器系統の練度を上げておけ」
「え、双聖器系統じゃなくて?」
はやてがマークの魔法を知るからこそ通じる言葉であったが、神将器が対竜武装であり、双聖器が対魔王武装のことだ。つまりマークの忠告は会談の『対魔王用の戦力として売り込む』と言う言葉と矛盾するわけだが……
「魔王にはもう勝利したんだ。もう、アレに人と戦う気概は残っていないさ」
魔王のように魂だけの存在となった以上、勝敗といった概念は大きな意味を持つ。魔と言う存在そのものがなくなるわけではないが、魔王として存在し続けることはできないだろう。
「再び『魔王』としてこの世に存在することになるのは、早くて数千年後ってとこかな?」
「それって対魔王とかの意味がなくなるんじゃ……」
そこまで想定しておきながら、魔王の生死が不明となっているのは、明らかに今後がマークにとってやりやすいように情報を操作した結果だろう。
「別に完全消滅したわけではないし、何より『書』の方は健在だ」
「……」
はやてのもとにある欠片はともかく、本体の方はまた十年程度で転生することになるという予想だ。もはや魔王が存在しなくとも、その本体に魔王が封じられていたという過去は、もはや消えることはない。
「悪いが仮想敵として存分に使わせてもらう。お前らが周囲に認められるまでに必要な時間を作らなきゃならないからな」
「っ!」
まだあの子のことを『闇の書』と呼ぶしかない自身の無力さに、はやては思わず唇をかむ。しかし、そんな自分に向けた怒りは長くは続かない。怒りは決意に、八神はやてと言う存在を管理世界に必要なものとして、あの子の汚名をそそぐのだ。
「何かするときにはリンディ達に伝えろ。しばらくはこっちでバランスを整える」
「……恩に着ます」
それじゃまたと、マークは騎士たちに睨まれながら病室を後にする。もとよりはやてを殺そうとしたマークは騎士たちから嫌悪されるのは想定内であったし、三すくみを作ろうとしている以上、むしろこのような関係は望むところと考える。
だが、一つだけマークの想定の外にある存在があったため、その効果は半減する。はやての内にいる『先輩』は、それなり以上にマークのことを知っていたのだ。結果、マークに殺されかけたはやて本人がマークのことを擁護することになるのだが、それはもう少し先の話である。
「それで、結論は出たのか?」
「……平行線だな」
ところ変わって月村家において、姉妹の話し合いはお互い妥協点を見出すこともなく延々と続いていた。せめてもの仲裁役として恭也もいたが、どうしても忍寄りになり役目を果たせていない。
「この間はいいって言ってくれたじゃない!」
「あそこまで危険なものだなんて聞いてないわ!」
二人の話を要約するとこんな感じである。すずかはもう管理局とかかわる許可を得た気になっていたが、忍としては以前の話と危険度が桁で違うという事か。
「事実魔王戦は管理局の想定の外だったし、シノブがあんな戦場に身内を送りたくないという考えもわかる。だが、事はスズカの将来にかかわる話でもある。本人が望んでいるのに『危険だから』と言って否定するのもどうかと思うぞ?」
とりあえずマークは姉妹の間に割って入り、ヒートアップしていた二人を落ち着かせる。感情的になっては進む話も進まなくなる。
「そうかもしれないけど……とにかく、流石にあのレベルの戦場へ行くことは許可できないわ。すずかはなのはちゃんと違って魔法が使えないんでしょ? すずかが持っている力が管理局の求める力でない以上、そう簡単に認められないわ」
「それは……」
すずかも言葉に詰まるほどの正論であった。すずかが魔法を使えない以上、質量兵器に頼った戦い方になるが、それは管理世界において禁止されているものだ。
忘れがちかもしれないが、次元漂流者であるマークにしたって特別に許可されているのは質量兵器の所持であって、使用については奨励されていない。魔王戦と言う特殊な状況や、魔力を使用した奥義によってなんとかグレーゾーンを走っている状況なのだ。
(まあ、裏ワザが無いわけではないが……どうしたものか)
マークの持ち物の中には魔力を強化する特殊なアイテムも存在しているため、すずかを魔力持ちにすることも可能なはずである。ただし、それだけでなのは達に並ぶほどの魔力が手に入るわけではないし、何よりすずかが忍に認められる材料とはならないだろう。
「……この問題、俺が預かるわけにはいかないか?」
「マークさん!」
「いや、すずかの戦いは見ていたが、初陣とは思えないほど筋が良かった。魔王クラスとの戦闘が頻繁に起こるとは思えないし……そうだな、フェイトにも言ったが、五年の間様子を見よう。そこまでに一定のラインを越えれば、という事でどうだ?」
これで少なくとも五年間は実戦に出ることはないだろうし、さらにこの意志が長く続くかも見られる。マークと言う強者に預ける以上、意志が続けば将来的に戦場に出る可能性が高くなるが、危険性は段違いだろう。
(真っ向から反対するよりはまし、ね)
結局勉強などもおろそかにしないようすることといった条件をいくつか付け足し、五年間の修業期間を設けることになる。そして話し合いがひと段落したところで、すずかが戦闘中に感じた違和感をマークに告げる。
「……風、か」
「はい、一つ目の巨人と戦った時に、背中を押されたような気がして……」
マークは軽く考えるが、『マーニ・カティ』に風の属性などついてはいない。精々関連があるとすれば、それは前の持ち主が風の属性を持つ草原の少女だった位だろうか……
「詳しいことはわからないが、悪い事では無い筈だ。きっと、彼女が力を貸してくれたんだろう」
「……まあ、そのおかげで助かったわけですし……」
その想像は、とても微笑ましいものであった。剣に担い手の意思が宿ることを見たことがあるマークにとって、決してありえない事とも思えなかった。
だからすずかは嫉妬を覚える。マークの言う『彼女』が誰かは知らないが、親しい間柄だったのだろうと思うと、どうしようもなく羨ましかった。