魔法少女リリカルなのは 炎の紋章を持つもの   作:コウチャカ・デン

49 / 89
第48話 「見えぬ想い、感じる想い」

 はやてに話を聞き、強くなる意志があることを確認した。少なくとも騎士たちはマークに良い感情を持っていないのは確認したので、管理局には『マーク対策』として持ち上げてもらえるはずである。

 すずかについては保留となってしまったが、『マーニ・カティ』を扱えた以上このまま放置するにはあまりにもったいない人材であると言えよう。後々は竜と戦える力を持った、『マーニ・カティ』と同じく精霊を宿す剣である『ソール・カティ』を手に、なのは達と共に在ってほしいとマークは思っている。

 なのはは一応『ファイアーエムブレム』について再度説明する必要があるだろうが、特にマークから求める物はない。マークが何もせずとも、彼女は身近な誰かを救う『英雄』としてあり続けるだろう。ついでに『魔王』に対する牽制として、管理局が動いてくれれば言う事はない。

 最後にフェイトであるが……マークは彼女についてのみ、どうしたものかと頭を悩ませていた。

 

「一番いいのは、ナノハやスズカと組んでくれることだったんだが……流石に今からは無理だよなぁ」

 

 管理局から見た今のフェイトの立場は、はっきり言ってマークの被保護者と言った印象が強いだろう。あるいは逆に、管理世界に疎いマークの保護者と言ったものかもしれない。何が言いたいかと言えば、フェイト・テスタロッサはなのは達よりマークに近いと認識されているのだ。

 

「さらに言えば、彼女の手足は俺のエーギルで出来ていて、俺のメンテナンスが必要である……なんて、今後ますます離れられないじゃないか」

 

 誰もいない公園のベンチに座り、ぬるくなった缶コーヒーをあおりながらマークはため息をつく。

 もともとマークにはフェイトから離れるつもりはなかったが、ただでさえマークと他のメンバーの実力差は大きいのにマークとフェイトがコンビになれば、なのは達が対抗するのは難しいのを通り越して絶望的になりかねない。

 

(だからといって、俺がなのは達を表立って強化しすぎるのも問題だし、相方であるフェイトを強化しないのは不自然だ)

 

 ではどうやって三組の力の差を整えるか、この点についてマークの知識はあまり役に立たなかった。そもそもマークは普通の人間がどうやって強くなっていくかを知らないのだ。

 

(俺の周りの人って、どいつもこいつも英雄クラスだったからなぁ)

 

 簡単に言えば、天賦の才があったり、他人の数倍の努力を当然のようにできる人だったり、実戦で己を高めることができる人だったり、あるいは類稀なるひらめきがあったり、周りの言葉を受け入れる度量や柔軟性がある人ばかりだったのだ。

 ひょっとしたら凡人もいたかもしれないが、良き師、良き仲間、良き戦場に恵まれた凡人はもはや凡人ではない。

 

「まあ、結局壁を越えてくれることに賭けるしかないか」

「何を賭けるの?」

 

 マークは自身の独り言に返事があったことを驚きつつ振り返ると、そこには出かけていたはずのフェイトがいた。

 

「……そりゃ同じ町にいるんだし、会う可能性は皆無じゃないけどさ」

「えっと、ごめんなさい?」

「いや、謝るような事でもないんだけどさ」

 

 何となく独り言を聞かれた気恥しさを感じたマークであったが、それで謝られるのも居心地が悪い。それでも一呼吸おいて平常心を取り戻し、改めてフェイトに向き直る。

 

「用は済んだのか?」

「うん、とりあえず今日は。……思ったより長引きそうだけど」

 

 そのフェイトの一言で、今まで何をやりに外に出たのかを悟る。フェイトは早々に新しい手足の慣らしをやっていたのだろう。よく見れば頬が紅潮し、結構な運動量をこなしたあとが見られる。

 

「軽く走るだけでも痛むだろうに……」

「うっ……さ、さすがに全力で走ったりはしてないよ?」

「『してない』じゃなくて、『できなかった』だろ?」

 

 右腕・左足はエーギル量の調整など行い性能を下げたとはいえ、それでも元の四割増しの性能だ。ものすごく極端な事を言えば、時速10㎞で走る右足と時速14㎞で走る左足は同居している状態なのである。今回はただ、走ろうとすると腕が痛むから、と言うのが主な理由だろうが、こんな状態でまともに走れるわけがない。

 

「そんなに焦る必要はない。堅実に、日常生活から慣らしていけばいい」

「それは、そうかもしれないけど……」

 

 マークからしてみれば焦ったって何の意味もないのだが、フェイトは一刻も早くこの状態に慣れて、魔導師として復帰したかった。

 

(マークの理想の未来の中に、わたしの名前は無かった……)

 

 三すくみの筆頭はマーク、なのは、それにはやてだ。その中心人物であるなのはにはすずかが付き、はやてには守護騎士たちがつく。だがマークには個人でこの二組と渡り合う実力があり、それがどういう意味なのかと思うと、どうしても悪い方へと考えてしまう。

 

(わたしが居たら、三すくみが成り立たなくなる? マークの考える未来に、わたしは邪魔になってない?)

 

 事実フェイトの立ち位置はどうしたものかとマークも悩んでいたが、翻せばフェイトの未来を一番気にしているとも言える。もちろんマークにとってそんなこと言うまでもない事なのだが、自分に自信が持てないフェイトに対してはやはり言葉にしなければ伝わらない事であるのだ。

 

「今までできたことができなくなって焦る気持ちはわかるが、今は体を休めろ。エーギルが充実しているから感じにくいかもしれないが、体が回復しているわけじゃない」

「わかった……」

 

 マークの考えがわからずとも、心配されているのはわかる。そうなればフェイトは折れるしかなく、体を休めることに同意する。

 そういう事で、今は休息こそが急務という事で家に帰ったマークとフェイトであったが、そこに現れた書類の山、正確には空中に現れたデータの数に驚く。

 

「なんなんだ、これは?」

「……簡単に言えば、大至急報告せよって言う報告書の山」

「アースラの計器が魔王のせいで逝かれたって話は聞いているか? そのせいで僕たちが報告しなければいけない事項がとんでもない数になったんだ……」

 

 つまり、アースラで観測したデータをそのまま送ると言ったことができなくなったため、現場のスタッフの推察で報告することになってしまったという事だ。映像も残ってはいるが、重要な所が大量の魔力のせいでゆがんだり観測できなかったりしている。

 そのため休んでいたはずのクロノまでもこの書類地獄に駆り出されているのだ。

 

「えっと、わたしで手伝えることなら……」

「いいの!? じゃあバルディッシュにデータを送るから、お願い! できたら確認するから私にデータをまわして!!」

 

 みなまで言う前にエイミィが捲し立てる。次の瞬間には、数十ものデータがバルディッシュに送られてきた。

 

「……」

「手伝おう」

「……お願い」

 

 マークの申し出をフェイトは受け入れる。本職の人たちの邪魔にならないように、フェイトの部屋で作業を行う事にする。基本的に書類仕事に縁のない二人であったが、フェイトはその学習能力の高さから、マークは並外れた経験量から、最初の方に何か所か直しを入れることになったが、何とか報告書を仕上げることに成功する。成功させてしまった。

 そうなると当然のように、次のデータが送られてくる。最初こそエイミィ達もそれこそ猫の手すら借りたいのだろうと思い、苦笑交じりで手伝っていた。

 

 

「……フェイトちゃん達、どうしたのかな?」

「事後処理にしてはさすがに長い気がするけど……管理局では相当な問題になってる可能性も否定できないからなぁ」

 

 簡単な話し合いから一週間、なのは達は管理局から何の音沙汰もなく、日常生活に戻っていた。

 

「半年前は、フェイトちゃん達がどうなったのかすぐに教えて貰えたのに……」

 

 なのはのつぶやきに、ユーノは答える術を持たなかった。ただ前例のない事態に混乱しているだけなのか、それともただの協力者には聞かせられない事態になっているのか判断がつかなかったからだ。

 それでも特に行動を起こさずに待っていたのは、管理局がどんな決断をするのか怖かったからだと言える。

 

「……はやてちゃんにマークさんは大丈夫かな?」

「マークさんの魔法を思えば、大丈夫だと思うけど……」

 

 しかしマーク本人の攻撃力を思えば、もはや気休めにしかならない。

 

(竜化時のブレスは、なのは達がやっとの思いで貫いた魔王の常時展開していた障壁を薄紙のように切り裂いて、それに戦場に張り巡らされていた結界を、直撃でないのに破壊しかけていたし……)

 

 下手をしたら、次元航行船すら一撃で落としかねない火力なのだ。せめてもの救いはその攻撃範囲の狭さだが、それが気にならないほどの威力であった。

 それだけでも危険視されて余りあるのだが、それに加えてはやての存在もある。

 

(蒐集の効果がどこまで及んでいるかによって、マークさんの存在の利点が無くなりかねない……場合によっては『比較的御しやすい闇の書の主さえいればいい』なんて考える人が出ないとも限らない)

 

 だからこそマークは三すくみを考えたのだが、完成までに時間がかかりすぎる。魔王が行方知れずで対処の必要があるとはいえ、この先予断を許さない交渉になるのはユーノでも簡単に想像できた。

 その結果、三すくみの重要人物となるなのははこの一週間、すぐ目と鼻の先にあるフェイト達の家に行くことすらできなくなっていた。

 

「僕はそこまで神経質になる必要はないと思うんだけどなぁ」

「でも、万が一とか考えたらなんだか怖くて……」

 

 確かに、自分の軽率な行動がはやてやマークを危地に追いやってしまうことになったら……そう考えると恐ろしいが、まだそこまで繊細な事にはならないだろう。

 

「三すくみは、マークさんの考えた一つの理想的な未来図だよ? 今はまだそんな構図になってないんだから、気にする必要はないって」

「そうかもしれないけど……」

 

 結局、情報が無いから動きようがないのだが、情報を仕入れるためには動かないといけないという矛盾。フェイトやはやてのために、向う見ずな行動を起こした少女とは思えないほど腰が引けていた。

 そんな硬直状態を破ったのは、一人の来訪者であった。

 

「悪いな、突然訪ねたことになって」

「いえ、連絡はしてくれたのはわかりましたから……」

 

 やってきたのはマークであったが、どうやら手違いがあってなのはに連絡が回ってこなかったようだった。真相としては、一週間かけてようやく報告書の類を捌いた一同がダウンし、残ったマークは翠屋の連絡先しか知らなかったのが原因だ。翠屋からなのはに連絡されるまでの間に、マークが高町家に到着してしまったのだ。

 

「でも、マークさんは元気そうですね?」

「まあ、あいつらも竜と体力で比較されたくないだろうさ」

「……なるほど」

 

 ユーノは、一週間どころか一月だって不眠不休で戦えるというマークの答えに言葉もない。ただ一言、『好き好んで休みもなく動いているわけじゃない』と付け加えられたときは、マークもやはり疲れているのだと知って安堵したものだ。

 

「じゃあ、休む間もなくこっちに来たという事は、急いで伝えないといけないことがあるってことですか?」

「お、ありがとう……いや、今のところ早急に伝えないといけないことはないさ。ただ『覚醒』したナノハの状態を確認しときたかっただけだ」

「『覚醒』?」

 

 なのはが淹れたお茶に礼を言って受け取ったマークは、今回訪れた理由を簡単に述べる。曰く、『ファイアーエムブレム』によって潜在能力を解放された状態になっているという。

 

「確かにあのときは、集束がいきなり加速されたけど……あれが『覚醒』の効果ですか?」

「それだけじゃなくて、身体能力なんかも底上げされている筈だ。私見だが、二割ほど魔力も強化されているぞ」

「……」

 

 元々とびぬけて魔力が高かったなのはだが、それがさらに二割も強化されたのだ。別に特殊な訓練をしたわけでもなく、一瞬でそれを為したという『炎の紋章』の力に唖然とする。

 

「その反応を射る限り、理解できたようだな。仮にもエレブ大陸で秘宝中の秘宝だ、それぐらいはできる」

「それぐらいって……」

 

 管理世界にも、一時的になら能力を上げる装備もある。カートリッジシステムがその筆頭だろう。だが、永続的に能力を上げるような装備は、ロストロギアにだって存在しない。仮にまだ発見されてないだけであっても、それが何のリスクもなく実行されることはないだろう。

 

「とにかく、この効果については秘匿しろよ? 勘違いした奴が『自分にも使わせろ!』って大挙してやってくる未来しかないからな」

「わ、わかりました……って、回収しに来たんじゃないんですか!?」

「まさか! 魔王を退けた英雄様から武器を取り上げようなんて、そんな恐れ多いことこの小心者にはとてもとても……」

 

 言葉尻の僅かな違和感に反応するなのはを、マークはわかりやすくおどけてからかう。ただ、わざとらし過ぎたせいかなのはもすぐに驚愕の表情から真剣な表情に変わる。それを確認したマークは、仕方なしに肩をすくめ表現を改める。

 

「今ナノハの装備を弱体化させる利点が無い。できることなら対竜魔法である至高の光『アーリアル』も渡したいぐらいだ」

「……マークさんが魔王戦でその魔法を使ってくれて、本当によかったと心の底から思いますよ」

 

 あまりなのはを強化した跡を残したくない以上、マークが使用した魔法を使わせては逆効果だ。とはいえ技術的な問題が多く、渡すとしても十年はかかっただろうが……

 それと、ここまでの会話でマークは一つ確信を得る。

 

(こっちが三すくみを目指しているとわかっていても反発しないってことは、戦い続ける意思があるってことだよな……スズカもナノハも、今の生活の何が不満なのかねぇ)

 

 二人の戦う理由を知らないマークとしては、否、知ったとしてもわざわざ戦場に出たいと思う心の動きは理解できないだろう。もっとも、二人を戦場に駆り出そうとしているマークがそんな感想を抱くのも不相応というものだろうが。

 

「……『ファイアーエムブレム』には、担い手を守る力も働いている。うまく使えば、持ち主の傷を癒すことも可能だ」

「本当にとんでもない代物ですね……」

 

 さらにとんでもない効果を公開したマークは、疲れた顔をしているユーノを眺めながらなのはの入れたお茶に口を啜る。

 

「……甘くないな」

「え? 緑茶ってそういう……!」

 

 マークがぽつりとこぼした感想に、なのは達はそれがどういう意味か一拍遅れて思い至る。

 まあ、これはこれで……などと言いながらゆっくりお茶を啜るマークの勘違いを正すべきか、なのは達はかつてない難題を前にした数学者のような顔で見ていたとか。

 

 

「とりあえず……退院が決まっておめでとう、はやて」

「明日の検査で問題なしやったら、やけどね」

 

 ところ変わって海鳴大学病院にて、アリサはいつものようにはやての見舞いに来ていた。

 

「ほぼ決定事項でしょ? すずかたちを捕まえて、近いうちに退院祝いのパーティーでもやるからそのつもりでね」

「別にそんなんええよ~。すずかちゃんもフェイトちゃんも忙しそうだし、なのはちゃんとユーノ君の間には入りにくいし……やっけ?」

「それとこれとは話が別よ。エルフ耳が何かやってるみたいだからここには来づらいみたいだけど、みんなはやてのことは気にしてるし、退院のことを聞いたら喜ぶわよ!」

 

 アリサの連日のお見舞いの言い訳を、パーティーを断る言い訳に使おうとしたはやてだったが、一刀両断されてしまう。はやても含め、三すくみのことをみんな気にしているようだが、アリサからしたらいい迷惑だ。

 

「まったく……せっかくみんなで友達になれたと思ったのに! 絶対一発ぶん殴ってやるわ!」

「ま、まあまあ……マークさんかて、良かれと思ってこの方法を選んだんやし……」

「だったら尚更よ! こんな方法がベストだなんて!」

 

 怒りが収まらない様子のアリサはだんだん声が大きくなっていくが、それでもここが病室だと思いだし、声を押さえる。

 

「大体、なのはやはやてぐらいの力量の人ぐらいたくさんいるでしょ? まだ初心者に毛が生えた程度の子供に、何をさせようとしてんのよ!」

「まあ、それは居るやろうけど……」

 

 問題ははやてが魔王に乗っ取られたという事と、なのはがそれを降したという事なのだが、それを言ったところでアリサの怒りは収まらないだろう。

 

「まあいいわ。別に私が勝手に友達集めてはやての退院パーティーやるだけなんだから、文句は言わせないわ」

「大丈夫なんかなぁ……」

 

 かなり強引な事を言っているようだが、アリサにも考えはちゃんとある。

 

「対外的には、一般人のわたしが、偶然アンタたちと友達になって、みんなを紹介した。あんたたちは私に魔法のことを話せないから、仕方なく参加しているって言ってればいいのよ」

 

 書類しか見てないような上の連中が、現場のことなんてわかるもんか! そう吠えるアリサに、はやては感心するほかない。

 

(そう言えばマークさんは、『自分たちを知らない奴が上に立ったら』って言うてたし、逆に言えば、『わたしたちを知ってる人』が味方であれば何の問題もないんよね……)

 

 マークやはやてが管理世界に牙をむくことが無いと知っていれば、わざわざこれを敵に回す必要はない。むしろそんな無駄に敵を作って何になるというのだ。そこまで考えて、はやてはようやくマークの真意を理解したような気になった。

 

「結局、あの人は口だけの人なんやね」

「ん、なんかいった?」

 

 はやてのつぶやきは興奮したアリサには聞こえなかったようだが、はやてはなんだか嬉しくなる。新しい家族との出会いや、優しい友人との出会い、そして不器用な竜との出会いに感謝の念を送る。

 

「いや~本当に、アリサちゃんと出会えてよかったなぁ~って」

「べ、別にこんなの大したことじゃないわよ。ちょっとタイミングがずれれば、すずかだって同じこと言っただろうし……」

 

 頬を赤く染めて何やら言い訳を続けるアリサを見ながら、はやてはいつまでもニコニコと微笑んでいた。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。