魔法少女リリカルなのは 炎の紋章を持つもの   作:コウチャカ・デン

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第49話 「退院パーティー」

「はやて、退院おめでとう!」

「「「「「おめでとう!」」」」」

「ありがとうね!」

 

 後日の検査も問題なく済み、月村邸にて『八神はやて退院おめでとうパーティー』は、問題なく開催されることになった。

 参加者はパーティーの提案者であるアリサと場所を提供したすずか、主賓のはやては当然として、なのはとフェイト、ユーノさらにアリシアも無事に参加している。それに加え、忍と恭也に美由希、エイミィやアルフにヴォルケンリッターが最初に退院を祝う一言を述べてから、少し離れたところで軽く料理をつまみながら話をしている。

 

「流石にリンディさんとクロノは忙しくて来れなかったけど、マークも用事が済み次第来てくれるって」

「お父さんたちも翠屋があるから無理だって……でも、お祝いのケーキは持たせてくれたから。それにしても、アリサちゃんもよくこのメンバー全員に声をかけようと思ったね」

 

 はやての退院を祝いたい気持ちは十分にあるが、それでもやはり気まずいのか、フェイトとなのははぎこちない表情を浮かべていた。

 アリサとしては気に入らないが、それも仕方のないことだ。マークの三すくみの考えは、マークやはやてが管理局にその力を危険視された時の対策だ。マークにはやて、それになのはの力が均衡し、互いを抑止してこそ効果を発揮する。

 それなのにこの三人が仲良くして一つのグループであると認識さてしまえば、最悪の場合は全員が危険因子とされかねない。

 

「そこまで気にする必要はないわよ。大体、あんたたちが仲良くしてもそれを告げ口するような人なんて、ここにはいないでしょ?」

「そうだけど……」

 

 確かに、話が上に行かなければ危険視されることもないだろう。今はリンディ達が順次報告を行っている最中であるわけだし、まだはやて達の情報は本局に十分に集まっていないだろう。今後危険視されるかもしれないと、その可能性を恐れ過ぎて本心に乗っ取った行動ができないというのは違うような気もする。

 

「確かにエルフ耳みたいに『最悪への備え』は必要かもしれないけど、それも過ぎればむしろ害悪よ」

「過ぎたるは及ばざるがごとし、やね。まあ、わたしがそんなこと言うのも問題かもしれんけど、もうちょっと肩の力抜いてもええんとちゃう?」

 

 ある意味予想通りの問答をする少女たちを横目に、年長組でも同じような話が展開されていた。

 

「で、彼はどう考えているの?」

 

 美由希の問いかけは、この面子の中で誰よりもマークの近くにいたエイミィに対するものだ。とはいえ、問いかけられた本人も難しい顔で肩をすくめざるを得ない。

 

「そんな話をする暇なかったって……でも、どちらかと言えば人間関係より力の差を埋めることの方を気にしてるようだったかも」

「確かに、いくら三すくみとか三つ巴の関係があっても、あの人に並ぶ力が無ければ何の意味もないからな……」

 

 なのはも大変だ、そうのんきに語る恭也を軽くにらみながら、それでも忍は軽く疑問を述べる。

 

「なんて言うか、戦力関係のバランスとるの下手そうな印象があるんだけどなぁ……」

 

 より正確に言うのなら、交渉事全般得意そうには見えない。そして、そんな印象を持ったのは忍だけでなかったらしく、賛同の声が上がる。

 

「あー、結構力技で解決するタイプだってのに同意だね。『こうするのが正しい』『相応の対価は払う』が基本かな? 細かい気配りとか、根回しだとか、そういうところは駄目みたいだよ」

「……結構な言われ様だな」

 

 エイミィの容赦ない批評に、恭也がわずかに同情の念を見せる。だが、マークと管理局の交渉の窓口になっているエイミィの言葉に偽りはないだろう。

 

「……そもそも交渉の必要が無かった。あるいは、別の者に任せていたという事か」

「前者の方が可能性は高いんじゃない? マーク君の居た場所がどんなところだったかにもよるけど、戦いにおいて彼の力は誰もが欲しただろうしね」

 

 シグナムの予想を、忍が補足する。売り込む必要などなく、むしろ『ぜひ来てください!』とお願いされる立場、または、すでにどこかの国か何かに使える存在であったと忍は推測する。

 

「う~ん……私も最初はそう思ったんだけど、どうも違うみたいなんだよねぇ」

「どういう事?」

 

 しかし、その予想もエイミィは否定する。その理由を少し言いにくそうにしながらも、結局小声で話し始める。

 

「マーク君ってさ、次元漂流者なのに故郷に帰りたいとか、そういったこと一切言わないんだ……」

『……まあ、少し自制心のあるものならそうだろう。帰りたいと言って帰れるようなら、次元漂流者とは呼ばれまい』

「それもそうなんだけど……納得出来るかは別の問題じゃない?」

 

 未練がましく『帰りたい』と連呼するような性質でもなかろう、そのような考えが透けて見えるザフィーラの一言に、理性と感情が別のものだとエイミィは告げる。

 そう言われてしまえば、守護騎士たちは黙るしかない。理性と感情は別……結果だけ見ればはやてを救った一人であるマークのことを、彼女たちは快く思っていないのだから。

 

「とにかくさ、次元漂流者って、ここで何があろうと対岸の火事で、帰還を第一に考えても不思議じゃないと思うんだ」

「……それにもかかわらず、事件の解決に動いたのは不自然ってことか? でもそれぐらい……」

 

 ありえない事じゃない。日本にだって『一宿一飯の恩』なんて言葉もあるぐらいだし、保護されたマークがそう考えても別に不思議と言うほどのことではない。そう考えた恭也であったが、そこで一つの違和感を覚える。

 

「……半年もの間、一切帰還を望まなかった?」

 

 恭也が覚えた違和感を形にする前に、美由希が言葉にする。そう、あれほどの力を持つものなら、元の世界でもそれ相応の立場があったはずだ。それにもかかわらず帰還の意思を見せないのは、やはり不自然だ。

 

「うん。そこから考えると、こんなことあまり言いたくないけど……マーク君の帰還は望まれてないってことだと思う」

「望まれていない?」

 

 疑問に思う忍達だったが、今回の一件を思い出し考えを改める。

 

「今回マーク君が危惧したのは『過ぎた力を持つもの』として危険人物に指定されること。あくまで可能性だけど、元いた世界で同じような目にあったんじゃないかな?」

 

 こうして考えてみると三すくみの考えは、マークにしてもいささか性急で物騒な考えだ。ジュエルシード事件の時のことを思い返せば、なのはを英雄として持ち上げ、はやてを被害者に仕立て上げるだけと言う方がよっぽどマークらしい。

 

「……この予想が当たってたら、仲間や、命がけで守った人たちに裏切られたようなものですよね……」

「ま、まあ、確認したわけでもないし、本当にただの予想だよ!」

 

 シャマルの言葉に、もともとマークに良い思いを抱いていない守護騎士達でさえも、この話には顔をしかめる。思った以上に暗い雰囲気になってしまいエイミィが慌てて弁解するも、この空気が浮上してくることは無かった。

 

「な~に祝いの席でそんな暗い表情してるんだ? 特に守護騎士共にとっては主の快復だろ、まさか不満があるわけじゃないだろうな?」

 

 離れている子供たちにその状態がきづかれる直前、そんな空気を切り裂いたのは用事があって遅れてきたマークであった。マークは先程までの話題の人物の突然の登場に跳ね上がるエイミィを不思議に思いつつ、軽い挑発に反発する守護騎士たちを無視して、パーティーの主賓のもとへ向かう。

 

「とりあえず、退院おめでとう、ハヤテ。祝いの品でも用意しようかとも思ったが……その足が全快するときまでとって置く方向でいいかな?」

「ありがとうございます。別に二回とも祝ってくれてもよかったですよ?」

 

 マークははやてのいたずら半分のちゃっかりした返事に苦笑しながらも、祝いの席に何も持参しなかったのはやはりまずかったかと少し反省する。

 

「じゃあ祝杯も兼ねて秘蔵の果実酒でも……」

「子供に何渡そうとしてんのよ!」

 

 スパンッ、とマークの頭を引っ叩いたのは忍だ。流石にお酒を小学生に振る舞おうという行為はやり過ぎだと判断したらしい。

 

「何って……リキアで軍師やってた時にもらった葡萄酒」

「そういう問題じゃない! お酒は二十歳になってから!」

「あはは……まあ、わたし達が二十歳になったらいただきます」

 

 そう言う事なら仕方ないなと、マークが一歩下がったところにエイミィもやってきて葡萄酒を取り上げる。

 

「何を……?」

「もちろん君もだからね、十八歳」

「……もう冬になったし、十九歳という事にしといてくれ」

 

 一瞬何の事だか分らなかったマークだが、そういえば戸籍の登録の際に、表面上は18歳にしておくと言われたことを思い出した。

 別にマークには普段から酒をたしなむ習慣はないが、禁止されるとふとした時に飲めないというのがつらく感じるものだ。

 

(この世に生を受けて数千年……まさかこの年で禁酒されることになるとは思わなかった……)

 

 思いのほかがっくりと肩を落としたマークに罪悪感を抱きそうになるエイミィであったが、見かねたユーノが別の話題を持ち出してくる。

 

「そ、そういえばマークさんの用事ってなんだったんですか?」

「ん? あ~、まあ、アレだ……ちょっと本局まで……鎧の修理が可能か聞きに行ってたんだ」

 

 そして後悔する。片方ならともかく、少なくともはやてとマークの両名を前に話していい内容じゃないだろう。平気な風を装って『どうだったん?』と、マークに結果を聞くはやての頬も引きつっていた。

 マークもこの話題はやはり話したくないのか、眉をしかめながらも言葉を返す。

 

「……『必要ない』って言われた」

「……はい?」

「だから『必要ない』って言われた」

 

 その様子から、マークはこの話題ではなく、対応した技術者に不満を抱いていたことがわかり、何人かがそっと胸をなでおろす。

 

「えっと、どういう意味?」

 

 フェイトが周囲の反応に苦笑しながら詳細を聞くと、何とも言い難い内容であった。

 

 マークが壊れた鎧を見せたときの第一声が『アンタなんで生きてんの?』だったらしい。一つ付け加えると、鎧には右胸部に大穴があいた状態である。

 

 次は材質の検査をしているときに『一体どんな扱いをしたらこんな大穴があくんだ?』と言われたらしい。一つ付け加えると、持ち主は目の前でぴんぴんしている。

 

 最後は見積もりが終わった時に『これ修理する意味あんの?』と来たらしい。一つ付け加えると、この鎧は実用性や性能より見栄えを重視している。

 

(これはまた……立場の差による認識の違いとしか言いようがないわね)

 

 一つ目は簡単だ。マークは戦闘で破壊された鎧の修理を頼んだはずだ。それなら鎧の持ち主は、鎧に大穴があくような一撃を受けたはずなのだ。常人なら死んでない方がおかしい。

 二つ目は仕方ないことだ。マークの素性を説明しなければ誰も、鎧を着ているときにこの大穴があけられたとは信じられないだろう。結果、保管方法あるいは運搬等が雑だったとしか考えられない。

 三つ目はむしろ善意からだろう。本人が使用しているという以上、どんな理由であれ胸部に穴が開くような鎧の使用は諌めるべきだ。技術者には、その鎧にどんな由来があるかなど知るはずもないのだ。

 

(第三者視点から見たら、恐ろしいほど噛み合ってなかったんでしょうね……)

 

 きっと、今頃リンディのところに技術者の方から文句がいっているだろう。フェイトに宥められるマークを見て、エイミィは苦笑しながらも話を進める。

 

「それで鎧は結局どうすることになったの?」

「アースラに残ってる映像記録を基に、外見のみ再現と言う形になるだろうな。流石に実用レベルまでの修復は困難だろうという話だ」

「あ、修復はちゃんと頼んだんだ」

 

 交渉は決裂したのかとも思ったが、そこら辺はしっかりやったらしい。ただし今後使う防具についての話まではしなかったそうだ。

 

「あれ以上同じ空間に居たら、本気で殴ってたかもしれない」

「……」

 

 技術者は、知らず知らずのうちに九死に一生を得ていたようであった。

 

「おっと、愚痴ばかり言って悪かったな。無粋な輩はこれで退散するよ」

「え~、せっかくやからこっちに居ればええやん……ハーレムやで?」

「僕は男だよ!?」

「こんなちびっこいハーレムなんていらんよ。五年後に出直して来い」

「半端にリアルな数字ね……このロリコン!」

「意味は分からなくても侮辱されてるのはわかるぞ?」

 

 無視しないで! と叫ぶユーノをスルーし、笑みを浮かべながらマークは子供たちの席から離れる。

 それに一歩先んじる形で席に戻っていた忍とエイミィは、今度は静かに敵意を燃やす守護騎士たちの存在に頭を抱えていた。せめてもの幸運は、マークが彼女らに敵意を持っておらず、のんきに食べ物をつまんでいることであろうか。

 

「アタシらのことは眼中にないってことか……!」

 

 訂正する。これはこれで厄介であった。

 

「別に……敵意を向けてくる相手に友好的に話しかけるのも、喧嘩を買うのも疲れる」

「まあまあ、祝いの席でそんなぎすぎすしない! やっぱり笑顔でないと!」

 

 言外に無駄な体力を使わせるなと言いたげなマークであったが、挑発する元気はあるらしい。本当に喧嘩が始まる前にエイミィがとりなした為どちらも引き下がるが、こうして沈黙を得るとどうしても直前の会話が思い出される。

 

「そう言えばマークは三すくみをどう思ってるんだ?」

「なんだ、藪から棒に……」

 

 その会話を務めて忘れるため、恭也は無理やり会話を絞り出す。言ってしまってから少し後悔しかけたが、マークは何でもないように答える。

 

「まあ目標かな? 目指す場所が明確な方がいいって、何かの本に書いていた気がしたから」

「……それだけ?」

 

 思わず再度問いかけるが、もちろん自己防衛のためもあると付け加えられる。

 

「えっと、言いにくいんだけど……アルカンシェルもあるし、そこまで危惧はされないと思うんだけど……」

 

 エイミィの一言にきょとんとするマークであったが、これも後日わかった事であるので仕方ない。アースラとは別の部隊が魔王の魔力を観測し、対処可能であると判断したとのことだ。

 管理局最大の攻撃力を誇る魔導砲は、たとえ竜化したマークであっても理論上葬り去る力を持つ。マークの力も、決して対処できない力ではないのだ。

 

「そうなのか? それじゃあ三すくみは必要ないか」

「結構あっさりと……それなら、武器の類も全部公開したほうがいいんじゃない? 手の内が知られていれば、対処方法も考えてもらえるでしょ、そうすれば自然と驚異も……」

「流石にそれは怖いな」

 

 一度示された目標はそう簡単に無くならない以上、なのは達はマークに並ぼうと努力を続けるだろう。そうであるなら、殊更三すくみの関係に固執する必要はない。

 ただ、続く忍の提案にはマークも賛同することは無かった。個人を信頼することはあっても、組織を信用することはマークにとって難しかったのだ。

 

(そうはいったものの、やっぱり三すくみは欲しいな……)

 

 少し話をしたことで口が滑らかになったのか、自然な会話に移った。しかしその後もマークはそのことばかりを考えていた。表面上は同意をしたものの、マークは自身が人ではないという事を身に染みて知っている。だからこそ人を愛おしいと思うのだが、同時に恐ろしいとも思うのだ。

 

(どちらにしろ……別方向でも防衛策を考えておくべきかな?)

 

 

 今は知らないことが多すぎる、そう考えマークが行動に出ることはまだなかった。そしてそんなマークの姿を見続ける少女がいたことに、気付く者はいなかった。

 

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