魔法少女リリカルなのは 炎の紋章を持つもの   作:コウチャカ・デン

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第50話 「久々の休日」

 ようやく一息付けたリンディは、親友たるレティ・ロウランと久しぶりの食事に来ていた。とはいえ食事とは名ばかりで、今回に限っては愚痴とヤケ酒と言った方がしっくりくる荒れ模様であった。

 

「全く……少しは現場に立つ私の身にもなってみろって話よ……」

「天竜に魔王少女の処遇のこと? それとも新たな英雄である星光の魔導士かしら?」

 

 どれもアースラ預かりの問題児たちの二つ名である。とはいえ一般職員にまで流布しているものではなく、正確には一部の事情を知る者たちの隠語のようなものでもある。

 

「一人ずつならまだ対処のしようもあったけど、全部まとめてなんてもはや狂気の沙汰よ……まあ、他の所が引き継ぐなんて言い出したら、絶対拒否するけど」

「やりがいを感じてるってことでしょ? ならいいじゃない。こっちは大変なのよ? 局員の平均レベルの底上げなんて、人員不足の今やることじゃないでしょ」

 

 マークたちへの処遇はとりあえず様子見といった意見が多いのだが、どこにだって極端な事を言い出す輩は存在するものだ。そしてその妥協案として出されたのが『武装局員の再訓練』だ。マークたちの戦闘に介入できる武装局員の育成を主題としたこの計画は、早急に結果を出せと言う無茶な指示と共に、成長の見込みのある局員の引き抜きという、人員不足時にあるまじき手段が使われている。

 

「確かにあの映像を見せられたら、エース級の育成が必要だってのもわかるけど……」

「確かに普段からの人員不足については聞き及んでいるけど……」

 

 二人とも、何より無い袖は振れないことも大いに理解していた。

 

「マーク君の話では、魔王の出現は闇の書と同じようにしばらく余裕ができるって予測だけど、ひょっとしたら魔物がどこかで発生するかもしれないって」

「聞いているわ……非殺傷設定に慣れきった今の局員では対処は難しいかもしれない、でしょ?」

 

 これこそが人員不足を無視してまで再訓練を行う理由だ。これから起こるだろう魔王という災害への対策として、発生したての魔物を利用する。できればマークに戦闘訓練を頼みたいという者もいて、なかなか混沌とした状況になってきている。

 とにかく、人員の強化をするなら今しかないのだ。そんな理由もあり、今までスポーツ競技者という事で控えられていた、ミッドチルダで行われている公式魔法戦競技会の上位入賞者などにも勧誘が行われるという話も出ている。

 

「マーク君の要請したある研究記録の代償として、さらに情報を引き出そうとする馬鹿もいるし……」

「死者蘇生プロジェクトの方ね……ロストロギアの実物はあっても、解析の方は遅々として進んでないみたいだし、『ここまで情報があるのなら~』って大口叩いてしまって引けなくなったって話よ。自業自得ね」

 

 それでも死者蘇生の実在を知ってしまった者たちにとって、『できませんでした』では済まなくなってしまったのだ。それこそ言いがかりに近い言い分でマークから情報を引き出そうとする程度に、彼らは追い詰められ始めていた。

 

「さらに人員不足の問題はマーク君の一族の力があれば……なんて理由で彼の故郷を探す者がいるって噂もあるわね」

「流石にこれは無いでしょ。天竜様一人でも持て余してるのに、これをさらに増やそうだなんて正気の沙汰じゃないわ」

 

 このような感じで、本人のあずかり知らぬところで問題が多発しているのだ。流石にはやてやなのははまだ話題に上がっていないが、それも時間の問題であろう。

 

「はぁ……そうなのよ……武装とか竜化の問題とかもあるのに、はやてさんのこともなのはさんのことも、結構な難題なのよねぇ」

「なのはさんのことはフェイトさんも含めて、今は嘱託や外部協力者だけど、ちゃんと訓練学校に入れて正式な局員にしたいって人たちもいるみたいよ?」

 

 それもあったか、とリンディは頭を抱える。なのははともかくとして、フェイトは死者蘇生関係もありしばらくミッドチルダに近づけたくないというのが本音である。

 はやての……というより守護騎士たちの行為の一応言い訳は作っているが、これはマークの証言が中心になってしまう。この方法はプレシアの時にも使ったので、今回もそれで押し通せるという保証はない。

 彼女たちの貴重な休日は、この後も延々と続く愚痴によって過ぎ去っていった。

 

 

「……というわけです。申し訳ありません、結局闇の書を取り逃がすことになってしまって……」

「いや……それは仕方あるまい。むしろこれほどの存在を相手取って無事帰ってこられたことを喜ぼうではないか」

「それでも、です」

 

 その一方でクロノは、グレアムに対し今回の件の報告を行っていた。報告とはいっても個人的なものであるので、堅苦しい書類などを持って来ていたわけではないが、『後は任せてほしい』と勇んで出撃した結果がこれでは何とも肩身が狭い。

 

「では言い直そう。報告にあった魔王の危険性は、闇の書の暴走以上と思われる。それに対し闇の書の暴走ですら一人の死者も出さずに事態を収束させた者は、過去に誰もいない。……これは十分、誇ってもいい功績だ。気に病む必要などない」

「……ありがとう、ございます」

 

 だが、クロノがどう考えていようと、この結果は最善に近いものであり、文句のつけられる存在などいないのだ。むしろこれでクロノが下手な謙遜をしようものなら、大抵の局員は立つ瀬が無くなってしまう。

 

「だがまあ、納得できない気持ちも理解できる。局も魔王対策に動いているし、わたしも全力で支援させてもらうよ」

 

 そう、いくらこれが最善に近い結果だったとはいえ、闇の書は健在といえる。今回が何とかなったと言っても、次につながなければ何の意味もなくなってしまう。

 そのような考えもあり気を引き締めるクロノの前に、グレアムから一つのデバイスが置かれる。

 

「これは?」

「もう少し早くに完成させられれば良かったのだが……マーク君の提供してくれた魔道書から、興味深い術式が見つかってね。それを搭載するのに予想外に時間がかかってしまったんだ」

 

 その術式とは、増幅式とでもいうべき代物だ。マークが提供した『ファイアー』と『エルファイアー』の魔道書の差異を検査した結果見つかったその式をさらに分析し……ついにミッド式のデバイスに組み込むことに成功したのだ。

 

「実験機にカテゴリされてしまうため、最低限の安全しか保障されていないが、同一魔法効果は、現在武装隊で正式採用されているデバイスの二倍近くなる」

「それほどの……!」

 

 もちろん、その増幅式を搭載したのが最新鋭のデバイスであったこともあるだろうが、それを加味したとしてもとんでもない強化具合だ。

 

「元々氷結魔法の強化用として作られていたのだが、この増幅式との併用が難しいらしくてな……システムを組み直すのにさらに時間がかかってしまった」

 

 もちろん、時間をかけた甲斐のある一品になったが、と付け足すグレアムは満足げである。

 

「マーク君から提供された術式を使用したという事もあり『竜杖アスカロン』と名付けられたこの杖だが……先ほども言ったように実験機でね、まだ使い手が決まっておらんのだよ」

 

 そこまで言ってから言葉を切るグレアムに、クロノは苦笑を返す。確かに未完成の実験機かもしれないが、強くなれる可能性が目の前にあるのにそれを見逃すクロノではない。

 

「僕にモニターをさせてください。執務官は実戦も比較的多いですし、マークさん達の件もあり、本局に顔を出す機会も多いですから適任でしょう」

「ああ、よろしく頼むよ。……ただ、くどいようだが実験機であり、最低限の安全しか確保されていないという事を忘れないでくれたまえ」

「わかりました」

 

 グレアムの念押しに、クロノは気を引き締めながらデバイスを受け取る。これで魔王と戦える力を得たと思うと同時に、この力がマーク達への牽制であると理解して僅かに顔をしかめる。

 だが、そんなことを考えている余裕などない。今だってはやての処遇を決める会議が行われているし、マークの竜鱗の解析も進められているのだ。

 

「しかし……彼は今後どうするつもりなのかね? 対魔王戦の切り札とされてはいるが、それは上層部の者にしか通じない身分だ」

 

 死者蘇生のこともあり、基本的にはそれ以外の者たちにとって、マークはただの次元漂流者でしかない。そんな状態では切り札としての力を発揮できないし、それ以上に融通を利かすのが難しくなる。

 

「しばらく地球で隠居するというのは、ジュエルシード事件の後の方針でしたからね……はやてやなのはと三すくみを作ると言っていましたが、それもやめるみたいですが……」

「確認しておいてくれ。……犯罪者の確保ばかりでなく、護衛の任務も……いや、それをするにはまだ信用が足りないか? とにかく、できるだけ多くの人と接する機会を、こちらでも用意しておこう」

 

 フェイトのこともあり、研究員のような身分でいることを望むかもしれないという前に、グレアムが今後の展望をわずかに指し示す。それはより多くの人と関係を持たせることで、一人でも多くの味方を作らせるためであり、三すくみなんかより、よっぽど効率的な自己防衛方法だ。

 ただし、これをすると研究時間が大幅に削られる可能性もあるので、マークからすると有難迷惑かもしれない。

 

(研究するのと人脈を作るの……自分が二人必要だとか言いそうだな)

 

 そこまで考えたとき、ふと、クロノはある考えに思い至ってしまう。

 

「……そう言えば、プロジェクトFの情報は、どこが管理しているんですか?」

「ん? ……確か、死者蘇生プロジェクトの方で管理しているという話だったかな」

 

 噂では、無駄な大口を叩いて追い詰められているという話の所だ。それを思い出したとき、とても嫌な予感に背筋が震えたが、そんなことは流石に無いだろうと否定する。

 

(考えすぎだ……そうだな、明日から数日ほど休暇を取ろう。きっと疲れているんだ)

 

 リンディやエイミィが聞いたら卒倒しそうな考えを浮かべつつ、クロノは帰路についた。ちなみに、帰宅したクロノがしばらく休むと聞いたエイミィは真っ青になり、次の日二日酔いで帰宅したリンディを見たときはいっそ真っ白になっていたという。

 

 

「そんなわけで、ぜひお知恵を拝借したいんや」

「拝借ったってねぇ……そもそもなんで仲違いしてるのかもよくわかんないし」

 

 ところ変わってバニングス邸。はやては五人の友人たちに、ある相談事を持ちかけていた。

 

「別に敵対してたからってわけじゃないんだよね?」

「うん、彼女たちもわたしとなのはには普通に接してくれてるし、クロノ達にもちゃんと交渉相手として接してたみたいだし」

 

 その相談事とは、守護騎士とマークの関係についてである。この間のパーティーで明るみに出たのだが、どうにも仲が良くないらしい。三すくみも取りやめるとの話であるし、はやてからしたらできれば仲良くしてほしかった。

 

「お互いがお互いのことを嫌ってるのかな?」

「う~ん……マークさんも微妙に挑発してたみたいだし、お互いって思ってた方がいいかな?」

 

 ユーノたちはマークが来る直前の会話を知らないため、自然とそう言う結論へと落ち着くことになる。

 

「じゃあ、出会った時から順番に考えてみようか……マークが最初に戦ったのはシグナムだったよ」

「わたしたちが初めて守護騎士の人たちと遭遇した時だね」

 

 フェイトとなのはが思い起こすのはヴィータによる襲撃であったが、はやてのことを思い微妙に詳細を省きながら説明する。とはいえ、魔王戦の後になるが、はやても騎士たちに事の詳細は聞き及んでいるので、その気配りのみありがたく受け取っておく。

 

「マークさんは特にシグナムさん達に対して、何か感想とか言ってなかった気がする」

「クロノに『強い信念を持った騎士だ』みたいなことを言ってたらしいよ?」

「……なんや、意外良い評価に聞こえるんやけど?」

 

 事実マークの守護騎士達への評価は高いのだが、残念なことにそれを知る者はここにおらず、それを察することができるほど、マークも守護騎士たちの話をしていなかった。

 

「それじゃあ、むしろ出会った当初は敵対こそしていたけど、人格的には好意的だったってことかな?」

「そう言えばシグナムも、敵対してた割には嫌悪感とか見せとらんかったで?」

 

 唯一当時のシグナム達を知るはやてが言うには、強敵として警戒こそしていたが、嫌悪などの感情は見られなかったという。

 なら原因は魔王戦となるのだろうか。

 

「はやてちゃんと戦ったからとか?」

「それだったらわたしも嫌われてるはずだよ?」

「それにわたしはマークさんとの戦いのこととか、別に気にしとらんしなぁ……」

 

 それ以前に、魔王に乗っ取られたはやてとは守護騎士たちも戦っている。しかし仲違いの原因が戦いに無いとすると、ますますわからなくなってくる。

 

「わたしたちが知らないうちに話をして、その時に何かあったってことになるの?」

「流石にそれは無いと思うけど……」

 

 そんな時間は無かったと言いたいところだが、マークはふらりといなくなって、いつの間にか帰って来ることも多い。一番印象に残っているのは病室からの脱走だが、それ以外にもちょくちょくいなくなっていたりする。

 

「考えてわからないんだったら、強引にいってみる?」

「強引って……何するん?」

「例えば……お互い不満を直接全部言わせて、思いっきりケンカさせてみるとか?」

「……『なかなかやるじゃねーか』『お前もな』みたいな感じ?」

「そう、そんな感じ」

 

 アリサの案に、河川敷で殴り合うマークとシグナムを想像するはやて達であったが、どうにも相打ちで二人が倒れている姿が想像できなかった。もっとも、日本の文化に疎いフェイトやユーノにははやての様な想像には至らず、半年前のジュエルシードをかけた決闘が思い起こされることになった。

 

「ま、まあケンカはともかく、ちゃんと話し合う機会を作るのはいいと思うよ」

「そ、そうだね、ケンカは別として、ちゃんと言葉を交わすことは必要だと思うよ!」

 

 少し顔をひきつらせながら、ユーノとフェイトは意見を述べる。そもそもマークとの一対一はシグナムとザフィーラがやっているのだが、どうやらはやてはこの案が気に入ってしまったようだった。

 

「流石に全力で戦うのはアカンやろから、いろいろ制限してもらえば……」

「制限した時点で思いっきりとは言えないと思うよ?」

「まあ結界使わずに、派手にならないようにとか言えば大丈夫じゃない?」

 

 フェイト達もそれならそうひどい事にはならないかと納得してしまい、こうして守護騎士とマークの模擬戦が決まってしまう。

 この後もうしばらく、彼らを集めるための策が練られることになったが、当然のように本人たちに内緒で事を進めることになったのは言うまでもないだろう。

 

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