魔法少女リリカルなのは 炎の紋章を持つもの 作:コウチャカ・デン
「いつもは私が先に休みをもらうことが多いから、今回はクロノ君たちが先に休むことになったんだ」
「ん、それはいいが、なんで俺がその補佐役に残されているんだ?」
「まあいいじゃない、どうせプロジェクトFの資料が来るまで暇なんでしょ?」
「一応、今回の戦いで使った武器の手入れを、腰を据えてやりたいんだが」
マークはそんなことを言いながらも通信用として支給されているデバイスを取り出し、エイミィの仕事を手伝う用意をしている。以前『なんだかんだで手を出してしまう性格』と忍に言われていたが、まさにその通りであった。
「ああ、報告書の類はもういいよ。というより、マーク君たちに手伝ってもらえるレベルの報告書はもう残ってないから」
「……結構、これ手を出していいのかなって思えるのがあった気がしたけど?」
「……できれば見なかったことにしてくれないかな?」
そう言えばあまりの忙しさに『もうちょっとぐらい……』と基準が甘くなってしまった時もあったかもしれない、とエイミィはひそかに冷や汗を流す。
マークはそんな姿に軽くため息を漏らしながらも、この会話を無かったことにするために一度席を立ち、飲み物を入れることにする。
「ありがとう」
「どういたしまして……で、書類の類じゃないんだったら、何を補佐しろって言うんだ?」
いつものお茶を入れて席に戻ってきたマークはいぶかしげに尋ねるが、エイミィは当然のように武器の話だよ、と答える。
「……俺が書いた報告書の中に、武器の報告はあった気がしたけど?」
「それとは別に、もっと詳しいことを知っておきたいんだよ。あ、これは管理局がじゃなくて、私たちが、だね」
「なるほど」
確かに、近しい人にはマークにできることをある程度は理解してもらった方がいい。共に戦う者との連携は当然として、可能ならばその情報をうまく使って、マークがうまくこの世界に溶け込めるように取り計らってもらいたいところだ。
「納得してもらえたみたいだし……まずはこの剣でいいかな?」
「……ああ、ロイド達と反管理局団体を制圧した時のか」
エイミィが最初に出した映像は、おそらくロイド隊の隊員から提供されたものだろう。敵の大将を仕留めるのに使用した大剣が鮮明に映されていた。
「えっと、局の方には炎の変換資質を利用した技で通っているけど、これ剣の能力だよね?」
「両方かな? 炎が出たのは剣のおかげだけど、魔力を通したのは『華炎』って言う……いわゆる奥義だな」
「……ちょっと反応に困るなぁ」
剣についての話がメインのはずだったのだが、このマークの説明では『魔力付与斬撃』が奥義扱いであることの方に目がいってしまう。ちなみに管理世界において、近接戦での武器に対する魔力付与は基本中の基本だ。
もちろん、なのはのディバインバスター並の魔力を一撃の斬撃に乗せられる存在はまずいないので、基本の究極がすなわち奥義であるともいえる。
「何で困るのかわからないが……名称は烈火の剣『デュランダル』で、神将器と呼ばれる武装だ。その由来はエレブ大陸で起こった人竜戦役において活躍した……まあ、勇者の剣だな」
「その勇者がマーク君?」
「そんなわけないだろ」
人と竜の戦いに、混血であるマークは手を出すことはほとんどなかった。それでも戦役時にこの大陸にいたのは、この地に住む竜族を別の世界に繋がる『門』へと導く役目を担っていたからだ。
「まあ逃げた奴もいれば、残った奴もいた。戦った奴らはほとんど死んだが、生き残った奴らのために、砂漠で隠れ里を作ったりもしたな」
「……」
懐かしそうに語るマークに帰りたいのか尋ねたくなったエイミィであったが、寸でのところでその言葉を飲み込む。その様子に気付いたマークは、話がずれてしまったと、改めて武装の説明に戻る。
「経年劣化も含めてかなり弱っているが、それでも対竜戦闘では無類の力を誇るだろう」
「……全盛期の力を持たないことを喜ぶべきか、それにもかかわらずこれほどの力を持つのかと恐れ戦くべきか、迷うところね」
映像にあるニアSランクという強者の守りを薄紙の様に打ち砕いた一撃を見て、エイミィはやはり微妙な感想を漏らす。
ちなみに『デュランダル』が業火の理『フォルブレイズ』や至高の光『アーリアル』と同列の神将器であると付け足したときの方が反応がよかったので、可能ならば魔法系の神器と一緒に語った方が理解しやすいのだとマークは理解した。
「次は魔王と戦った時に使った槍かな?」
「えーと……そうだね、前半戦で使った炎の槍と、後半戦で使った防御を貫いた槍。それに使用こそしなかったけど、竜化する前に取り出した剣も強力なものだよね?」
「……よく見てる事で」
二振りの槍はともかく、剣まで追及されるとは思ってなかったマークが苦笑するが、あの戦いで半端な武器を使用したと思うほど、管理局は甘くないのだ。
「最初に使った槍がマギ・ヴァル大陸において、魔王と戦うための武装である双聖器の一つ炎槍『ジークムント』で、投擲に使った槍が万物を貫く槍『グラディウス』だな。最後の剣が炎槍と同じく双聖器の氷剣『アウドムラ』だ」
残念ながらこれらの武器と同列の魔法は使用していないため、エイミィにそのランクをうまく表現できないかもしれないかとも思ったが、その力を示すのは『対魔王』の一言で片が付いた。
「『グラディウス』の方は……アカネイア大陸における三種の神器の一振りで、俺が知る限り最も古い神器だ」
「最古の武器が最強って……やっぱりロストロギア級なんだね」
いにしえに創られし、現代では再現できない神器……そしてそれに続く最高位の武装は、管理世界においてロストロギアと呼ぶにふさわしいものであった。
もっとも、マークはただの一言も『グラディウス』が最強だなんて言ってなかったりするが……
「まあ、俺がいた世界では……聖書とか魔書とか例外はいくつかあるが、基本的に魔法より武器の方が上位にあったからな」
「やっぱり聖剣とか魔剣とか?」
「それもある」
もうここまで来たら『まだ強力な武装を持っているのか』と、いちいち驚いたり呆れたりするのも億劫になってくる。エイミィはマークがお茶を入れ直しに立った隙に、小さくため息をつきながら考える。
(本局の意向としては、早くミッドに移住してほしいんだろうなぁ……)
それには監視がしやすくなるという意味もあるが、何より管理局に対して帰属意識を持ってほしいからだろう。フェイトとの関係を見る限り、ミッドをホームと認識すればよほどのことが無い限りこれを攻撃するとは思えないからだ。
事実として、敵対する者には基本的に同情などをすることはあっても容赦はしないが、味方と認識したものには意外なほど甘いのだ。
(死闘を演じた割には、はやてちゃんに含むものを持たないみたいだし……懐が広いって言うべきか、無頓着というべきか悩むね)
少なくともエイミィには、自分の胸に風穴を開けた相手の退院を祝う事はできないと思う。
そんなことを考えながらお茶を入れ直すマークを眺めていると、玄関から扉の開く音が聞こえてきた。
「ただいま」
「おじゃまします」
「お帰りフェイトちゃん、そしていらっしゃいなのはちゃん」
「ふむ、ちょうどいいな。お茶を入れてるんだが、飲むか?」
マークの申し出を、フェイトはまたすぐ出かけるからと答えることで柔らかく断る。その横でなのはが少しひきつった笑みを見せていたが、マークはわずかに首をかしげるだけで引き下がった。
「それでその、すずかの家に行くんだけど……マークも来ない?」
「えっと、すずかちゃんに剣を教えることになったんですよね? 全く来ないって、少し落ち込んでましたよ」
その直後になぜか月村邸に行くのに誘われたマークは、状況がいまいち理解できずに思わずエイミィの方を見てしまう。
それがどうやら伺いを立てているように受け取られたようで、別にかまわないと言われてしまう。
「別にここに居てもやることないし、非常時に連絡がつくようになっていれば、どこに居ようがすぐに出動できるでしょ? それに闇の書関係は落ち着いたわけだし、そう呼び出されるようなことはないよ」
「……わかった」
いつの間にすずかに剣を教えることになったのか疑問に思いつつも、マークは出かける準備を始める。それをほっと安堵のため息をつきながら待つフェイト達に、マークは気付けなかった。
「(これでこっちは何とかなったね)」
「(うん、後ははやてちゃんだけど……断られる姿が想像できないし、大丈夫だよね!)」
ちなみに教える云々については『この件を預かる』というくだりからのすずかたちの勘違いなのだが、マークも自分と同じ人から外れた存在であるすずかなら教えられるかもと、割と乗り気だったりする。
そして時を同じくして、八神家でも似たような会話が繰り広げられていた。
「私が……ですか?」
「ええ、今はなのはのお兄さんに教わってるらしいけど、やっぱり魔導師の人にも見てもらった方がいいと思って……」
「それやったらシグナムに頼んでみようかってことになってな。これからすずかちゃんちに行くし、さっそく声をかけよって」
アリサと共に一度帰宅したはやてが、騎士たちに話の経緯を伝える。管理世界で戦うことになるのなら、やはり魔導師に(正しくは騎士であるが)教わった方が近道なのではと考えたのだと。
「正直、私は人にものを教える柄ではないと思っているのですが……」
「そんな難しく考える必要はないわよ」
「ちょっと稽古を見て、手合わせして、長所と短所を指摘する……そんなもんでええと思うし、そこまでしっかりとした師弟関係を結ぶわけやないんやから」
意外なほど気乗りしないシグナムに少々焦る二人であったが、これも別段不思議な事ではない。シグナム達守護騎士は、ある程度の経験による成長はあっただろうが、最初から完成した状態で作られた存在だ。成長の過程を知らないし、ただ歴代の主に従うだけだったので、他者に指導するイメージが持てないのだ。
「(う~ん……これじゃ予定通りというわけにはいかんか? 日を選らんどったら年を越してしまいそうやし……)」
「……また何か企んでいるんですか?」
そのやり取りを聞いた瞬間に、今回守護騎士たちを連れ出すのを諦めたアリサは思わず頭を押さえるが、思わずつぶやいてしまったはやての一言を拾ってしまったシグナムは、ため息をつきながら外へ出る準備を始める。
「え? 今の話の流れで、なんで準備を始めるの?」
「まあ、家族だからかしらね」
アリサの疑問に答えたシャマルも、すでに外出の準備を整えている。というのも、この半年の間に、はやてのちょっとしたいたずらやサプライズがあったのだ。ただ、その中に不快になるようなものは無かったので、何となく気付いても現場に一度足を運ぶのが慣例になっていたりする。
しかし、今回は友人も巻き込んだ大規模なもののようなので、それがどんな結果になるのか気になるようで、ヴィータやザフィーラもついて行く気が満々である。
「(流石に全員一遍はまずいかも……?)」
「(手間が省けたと思うわよ! ……そうとでも思わなきゃ、やってられないわよ!)」
今度はちゃんと内容が聞こえないように小声で話しながらも、幸先はかなり不安である。一対一ならともかく、全員を宥めながら話をさせられる自信は全くなかった。
だからと言って来るなとは言えない。もし言ってしまえば、今回の件がいつもと違うことを強調するようなものだ。
(こんなこと考えるのも変やけど……フェイトちゃん達、失敗しとってくれへんかなぁ)
三十分もない月村邸までの道のりは、はやてとアリサにとってとても長い道のりとなったそうだ。