魔法少女リリカルなのは 炎の紋章を持つもの   作:コウチャカ・デン

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第52話 「和解への一歩」

 フェイトとなのはに誘われ月村邸にやってきたマークは、すずかが抜き放った『マーニ・カティ』をみて、思わず目を細めていた。

 

「懐かしいな……この剣身を見るのも、本当に久しぶりだ」

「あれ、マークさんの剣なのにですか?」

「いや、俺の剣じゃない」

 

 すずかの問いかけをマークは否定し、一同の首を傾げさせる。それに対してマークは、持ち主であることと使い手であることはイコールではないとだけ告げる。

 

「う~ん……ユーノとレイジングハートみたいなもんかな?」

「……何となくわかりました」

 

 マークの話に、一足先に月村邸にやってきていたユーノだけが納得の意を見せるが、彼もこの事をうまく説明できないようで説明を求めるなのは達の視線を前に、思いっきり目を泳がせていた。

 

「とにかく、俺では使えない剣なんだ。はっきり言って、それを無理に使うぐらいだったら『木の枝』を振り回してた方がましだ」

「……精霊の加護って極端なんですね」

 

 事実として『マーニ・カティ』が無ければ生き残れなかったかもしれない少女にとって、場合によってはこれが『木の枝』にも劣ると言われれば言葉に困るのも無理はない。

 

「まあ『マーニ・カティ』は格別だ。正直に言って、ここまで使い手を選ぶ武器はそうないからな」

 

 ただ、『マーニ・カティ』を超える武器ならたくさんあることは付け加えておく。マークの居た世界の武器屋で売っていた『銀の剣』だって、攻撃力なら五割増しだ。

 

「まあ剣の力は置いといて、鍛練を……」

「何でお前がここにいんだよッ!」

 

 そして十分に『マーニ・カティ』を堪能したマークがようやく指導に入ろうとした時、唐突に怒鳴り声が響き渡った。そちらへ振り返るとここまで案内して来たであろうファリンの後ろに、八神家一行とアリサがいた。

 

「……なるほど、そういうことか」

「何一人で納得してやがるッ!」

 

 何となく現状を理解したマークが、怒鳴るヴィータを視界に収めつつも子供たちを見やると、何やら謝罪と納得のアイコンタクトをしていた。

 

「おい、聞いてんのかッ!」

「ああ、そんなに怒鳴らなくても聞こえてるさ。……だが、お前だってちょっと考えればわかる事だろ?」

 

 そのはぐらかすような答えにまた怒鳴り返そうとしたヴィータであったが、マークにわからないと思われるのも癪であったので仕方なく推理する。

 結論はすぐに出た。それはマークもすずかにアドバイスをしに来たなんて言うものではない。自分たちの主が友人と結託し、マークと引き合わせたというものだ。

 

(アイツの考えた三すくみも廃案になったわけだし、仲よくするに越したことはねーんだろーが……)

 

 理屈の上ではそれが正解だとわかっていても、主がそれを望んでいるとわかっても、それでも感情が納得しない。

 

(つーかコイツなら仲間だろうが、それが最上だと判断したら切り捨てる! そんな奴、信用できない!)

 

 半ば以上、マークに敵意を向けることを許すための言い訳であることを自覚しつつも、それでも感情を止めることができない。ただ、あながち間違いでないのが恐ろしいところである。

 

(まあ、極力そんなことはしないがな)

 

 いまだ睨み続けるヴィータに苦笑しつつも、正確にその内心を読み取り心の中で反論する。仲間を切る必要があるなら、それは仕方ないことだと思う。だが、それがその時最も効率がいい程度のメリットしか無ければそんなことはやらない。

 

(せめて最終的な損害をそれなりに減らせる程度のメリットが無いと)

 

 つまりそれぐらいのメリットがあれば切り捨ててるのだ。もちろん、犠牲を最小にして成果を得るのがマークの軍師としての基本方針だ。時間や物資をいくら使ってでも、犠牲が無いに越したことはない。それに加え『指先一つで歴史を変える』とまで評価されたその実力が、基本方針以外の点でも優秀であったことを示している。

 

「それぐらいにしておけヴィータ。これ以上は主はやての迷惑になる」

「……ちっ」

 

 自分よりも激しく反応したものが居たため冷静さを保てたシグナムが諌め、ひとまずこの場を収める。だが内心はヴィータとそう変わらない。むしろマークの実力を認めているがゆえに、なぜはやてを殺すという解決法を取ろうとしたのだとヴィータより強い憤りを感じていた。

 

「まあ、そっちが俺のことをどう思っていようが構わないが……管理世界に居辛くなるような真似だけはするなよ?」

「そこまで考え無しじゃねーよ!」

 

 もう素直に忠告をしているのかケンカを売っているのかわからない発言をしつつ、マークははやてに視線を向ける。

 

「それで、わざわざこんな場を用意したんだ。落としどころぐらい用意してるんだろ?」

「え? あ、え~と……その……お互い本音をぶつけ合えば、少しは仲良くなれるかなーって思ってただけやから……」

 

 一触即発の空気に委縮していたはやては急に話を振られたことに驚き、そして落としどころなんて全く考えてなかったことに焦る。今回は本音で話し合えば和解できるんじゃないか、ただそれだけしか考えてなかった。

 だがマークはその答えに一瞬虚を突かれたような顔をしてから、それなら仕方がないなと笑った。

 

「そうだな、まずは話し合うべきだったな。前言は撤回しよう。お互いの気が済むまで、存分に話し合おうじゃないか」

「…………はやてがそう言うなら、わかったよ」

 

 マークはどこか懐かしいものでも見たかのように、ヴィータ達はしぶしぶと話し合いに同意する。だが同意したのはいいが、マークにはこれと言って語るべきことなどないわけだが……

 

「そんなわけだし、先手は譲る」

「そっちはなんもなくて、こっちばっかり文句言うなんて、まるでアタシ等がいちゃもん付けてるみたいじゃねーか……!」

「そんなこと言われてもなぁ……」

 

 まるでマークがヴィータ達を悪役にしようとしているかのように思われたらしく、話はこじれてしまう。その怒りの矛先をのらりくらりとかわしつつ、結局のところヴィータ達がこんなにも意固地になっているのは、怒りのやり場がないせいだろうとマークは推測する。

 

(自分の主を殺そうとしてた奴が目の前でへらへらしてたら、そりゃあ冷静ではいられないよな)

 

 そんな感想を抱きつつも平然と殺し合った相手の隣に立てるマークは、別に感情が壊れていたりするわけではなく、ただ単に慣れているだけだ。どうにも彼の隣に立つ友は、懐が広いというか寛大というかおおらかというか……たとえ敵対したものが相手ででも話せる人物であることが多かったのだ。

 だが、まともな感情が芽生えてたかだか数か月の相手にそんなことを求めても仕方がない。なら怒りのやり場を整えてやるのが一番だろう。

 

「……このままじゃ話が進まない。いっそこっちで話をつけるか?」

「望むところだッ!」

「なんでそうなるん!?」

 

 マークが拳を作るのに即行で同意するヴィータであったが、これにははやて達も驚く。最初こそ河川敷での喧嘩みたいにならないかと思っていたはやてだったが、予想以上の険悪さにやめるべきだと思っていたのだ。しかし、そんなはやて達の思いとは裏腹に、マークはさらに挑発を続ける。

 

「別に四対一でも構わないぞ?」

「誰が!」

 

 その挑発にヴィータはあえて乗り、一瞬で騎士甲冑に姿を変えマークに怒りの鉄槌を振り下ろす。それは魔王戦に参加し、マークの実力を知るが故の不意打ち。せめてはやてに槍を向けたことに一矢報いるためのものであったのだが、それも甲高い音を立て弾かれる。

 

「ちょっ、ヴィータ!?」

「マーク!?」

 

 あまりに急な開戦に驚く面々であったが、それでもフェイトは咄嗟に周囲に結界を張る。これはエイミィの方でも観測されたが、通信すらなかったので訓練で何かやってるのかな、程度にしか思われなかったようだ。

 

「やるじゃないか」

「うるせぇ! それより、その武器はなんなんだよっ!」

 

 抜き打ちの速さを称賛するマークに怒鳴り返すヴィータであったが、その理由はふざけてるとしか思えないマークの持つ武器にあった。

 

「……ねぇ、あれってフライパンよね?」

「えっと……」

「私にもそう見えるわ」

 

 あまりのことに絶句する一部の思いを代表するアリサの質問に、マークの相方であるフェイトですら言葉に困るが、今見ているものが現実であるとシャマルの一言によって確定する。そう、今回マークが使っている得物は、紛う事なき調理器具である『フライパン』であった。

 しかし、そんな得物を持ち出したマークであったが、別にふざけているわけでもなければ、手を抜いているわけでもなかった。

 

「……あのフライパン、ヴィータの一撃を平然と受け止めているように見えるのは気のせいか?」

「ああ、私にもそう見えるな」

 

 そのことにいち早く気付いたのはザフィーラとシグナムだ。闇の書事件の際マークが使用していた『鋼の大剣』ですら激戦に耐えられずに粉砕されたのに、ただの『フライパン』がヴィータの一撃でへこむことすらないというのは明らかにおかしい。

 

「(正直、フライパンで戦ってるエルフ耳もギャグにしか見えないし、それについて真面目に考察してるのもシュールなんだけど)……それで、あなたたちは参戦しないの?」

「騎士として、このような場で多対一をする気にはなれんし、私とザフィーラはすでにあの男に敗れているからな」

「私は後衛型だから、彼とじゃ戦いにならないわ」

 

 微妙に内心を隠したアリサの質問に、シグナム達が応える。マークの戦いを見れば見るほどシグナムのやりきれない気持ちは大きくなるが、現状で私怨が残る状態で手合わせというには、騎士の誇りが許さなかった。

 

(それでも、本音で語るのなら問いただす必要はあるのだろうな……)

 

 シグナムがそう心に決めたとき、少し離れたところではヴィータが割と本気で歯噛みして悔しがりながら、マークに猛攻を仕掛けていた。

 

「何でそんな得物使っていながらここまでやれるんだよ!」

「そんなって……これでも負の女神の加護を得た神器なんだぞ?」

「は?」

 

 激しく撃ち合い拮抗していた状況の中、思わず呆けて止まってしまったヴィータに、マークは思わず一撃を加えてしまう。パカーン、といい音が鳴ったが何とか加減できたようで、ヴィータのダメージはせいぜいこぶができた程度だろう。

 

「あ、悪い……じゃなくて、以前に正の女神と戦った時、負の女神が加護をくれるっていうから貰ったんだが……当時はまだまだ若かったからな。ちょっとふざけてすり替えてみたんだ」

「なにやってんだっ!?」

「負の女神にも、当時の仲間にも怒られたな」

 

 実際は怒られたとかいうレベルではなかった。ヒトの未来をかけた一戦でのこのふざけた行為は、割と本気でマークの評価を一転させかけたのだ。それでも腐っても神竜というべきか、マークは『フライパン』を片手に竜鱗族を蹂躙し、精霊相手に無双したため、最終的には笑い話で済んだのだ。

 ちなみに正の女神が『フライパン』で引っ叩かれたことは、まともな武器で切りかかられるよりある意味ダメージが大きかったというのが後年の女神の感想であることをマークは知らない。

 

「まあ、加護と言っても俺からしたらとてつもなく頑丈になる程度の効果しかないんだけどな」

「……しょうもない加護だな」

 

 実際はヒトの身では傷一つつけられないはずの女神と戦うのに必須の加護なのだが、神の名を持つ竜の血を引く存在であるマークにとってはその程度のものでしかなかった。

 少しばかり気勢がそがれたヴィータだったが、マークの言葉の内容を吟味すると、再び怒りが帰って来る。

 

「何で……」

「ん?」

「何でそんな力があるのに、テメェはッ!!」

 

 それはシグナムと同じ疑問。否、疑問というには守護騎士たちは賢すぎた。それでも女神と対峙したという話は、心の内にくすぶる思いを言葉に変えさせるだけの力を持ってしまったのだ。

 

「神様とも戦ったんだろ? 魔王とも戦ったことがあったんだろ!? なのに、なんで……!」

「解放を狙って失敗すれば、それ相応の犠牲を払うことになる。……魔王を倒すという事と解放するという事は全く違う力がいるんだ」

 

 そう、殺す力と救う力は決してイコールで結べるものではない。マークの選択は、前者を振るうものとして最も効率的な選択なのだ。だが、必然性があったからと言って納得できる類の話ではない。

 そして、守護騎士たちはそれらのことがわからないほど愚かではなく、飲み込めるほど達観してはいなかったという事だ。

 

「まあ、こんな話は年寄りの言い訳ととったっていい。ただ、ハヤテとはしっかり話し合うべきだと思うぞ?」

「どういう意味だ!?」

 

 さらに激しくなる剣戟の中、マークは初めてヴィータにとってわからないことを言う。

 

「あの子、結構自分の命を軽く見ている節がある。流石に殺すと言った俺に同意するのは達観のしすぎだ」

「……!」

 

 その一言に、感じたのは驚愕か恐怖か。あるいは別の感情だったのかもしれないが、それを確認する前に、マークの一撃がヴィータの意識を刈り取った。

 

 

「へぇ……これが女神の加護を得た『フライパン』か」

「その昔、夜襲を受けたときに戦闘に使ってしまって以来武器として保管している。……これを使って料理なんかしたくないからな」

 

 ユーノが『フライパン』を見る目にわずかな期待が見えたため、マークは一応の忠告しておく。その一言だけで顔をひきつらせたという事は、マークが何を言いたいのか理解したという事だろう。誰だって敵兵の血肉のついたフライパンで作った料理など食べたくはない。

 と、そんなことを話しているとヴィータを寝かせてきた八神家一行が戻ってきた。

 

「あ、ヴィータちゃん大丈夫でした?」

「シャマルの診察では、軽い脳震盪という事だ。数刻もしないうちに目を覚ますだろう」

 

 念のためシャマルも付いていると付け足すシグナムに、一同はほっと溜息をつく。

 

「俺って信用無いのな」

「別に信用してないわけじゃないけど、頭はやっぱりデリケートなところだから」

 

 少し落ち込んでいますとアピールするマークを、フェイトがフォローする。その様子を見て苦笑しつつも、シグナムはマークに向き直り今回の一件を終わらせるべく言葉を紡ぐ。

 

「結局、我等の思いは主はやてを傷つけたことに対する怒りがほとんどだ。……それも、勝手な思いだと理解しているが、やはり貴方を許せそうにない」

「シグナム……」

 

 主がさほど気にしていない、否、むしろ魔王に乗っ取られ傷つけたことの方を気にしている以上、この怒りは主の意にそぐわない余計な事だとも思うが、それでも守護騎士たちはこの場でマークを許すことはできなかった。

 とはいえ、ヴィータと戦うマークを見て、一応マークの言い分も聞いてある程度すっきりしたのも事実だ。

 

「またの機会に、今度は私も手合わせ願おうか?」

「構わんよ。まあ、結果はわかりきっているがな」

「言ってくれる……!」

 

 マークの挑発に好戦的な表情を浮かべるシグナムであったが、以前ほど嫌悪の情は感じられなかった。

 それからすずかに顔を向け、今回の件を謝罪する。

 

「庭で戦闘を始めてしまい申し訳なかった。またの機会にわずかながら指導をするという事で、今回の件の謝罪としたい」

「はい、わかりました。それでは、またのおこしを楽しみにしています」

 

 とりあえず後を引かないように真面目に答えたすずかに頭を下げ、これ以上面倒事を起こさないようにとシグナムとザフィーラは屋敷を後にした。はやてはヴィータが起きたらそろって帰るつもりらしい。

 

「それじゃあ、遅くなったが鍛練を始めるか」

「はい!」

「せっかくだし、わたしたちも参加していい?」

「いいぞ? ただし、俺は人にものを教えた経験がほとんどないから、最初は加減できないぞ?」

 

 フェイトを筆頭に参加を申し出る子供たちに一言釘をさすが、マークとて鬼ではない。一応最初の鍛錬は、人の作ったマニュアルに沿って行う予定ではある。

 

「エレブ大陸、リキア同盟の一つ、キアラン領で聞いた『兵士強化マニュアル』……一応兵士じゃない分少し減らして、いや、スズカたちの体力を知るためにも全部やってもらった方がいいか?」

 

 精兵ですら悲鳴を上げかねないマニュアルを思い起こしながら訓練内容の一端を言い渡すマークに、すずかたちは喜び勇んでついて行ったとか……

 

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