魔法少女リリカルなのは 炎の紋章を持つもの 作:コウチャカ・デン
魔王との戦いから何かと忙しく動き回っていたクロノ達がやっと一息つけるようになったのは、なのは達がそろそろ終業式を迎えるころであった。
今回の事件が闇の書だけであったのならもう少し早く片が付いたであろうが、奇しくも魔王などと言う存在が現れ、マークが竜と化して戦ったことで処理しなければならない案件が爆発的に増加したためであった。
「中でもマークの竜化についてはかなり面倒なことになった……いや、こればかりはまだ話がついたとは言い難いな」
「厳密に言えば先天固有技能と呼ばれるものに分類されるんだろうけど……まあ、より分かりやすくなのはちゃんの『集束』と同じように、レアスキルとして登録されることになるみたいだね」
クロノとエイミィの説明を聞きながら、マークは登録に必要な書類へ記入を行う。今回の上層部の会議でマークの処遇がやっと確定することになり、今まで保留となっていた書類が多数必要となったのだ。
「普段はもちろん、緊急時もできるだけ使用を控えてほしいとのことだが、流石にこれはマークの判断に委ねられることになっている」
「マーク君の持つ神器級の武装と同じ扱いと思ってくれたらわかりやすいかな? こっちで封印したり、制限を加えることはできないから、口約束のレベルでもいいから『使わない』って言わせたいみたい」
「……了解。安易な使用は控えよう」
魔王が現れるという特殊な状況だったとはいえ、『アーリアル』を筆頭に高位の魔法をかなり使った自覚があるマークは、しばらく自重しようと心に決める。
「研究関係はかなり自由にやることが可能だが、今やっていること以外のものに手を付けるなら申請の書類を出してくれ」
「人事からは『助手が欲しいなら言え。半月以内には用意する』って伝言を預かってるよ」
今のマークは『プロジェクトF』の把握で忙しく、助手よりも教師の方が欲しいという本音を飲み込み、頷くにとどめた。
「あとは局員としての教習かな?」
「研究員としての入局だが、マークの能力を思えば実戦に出ないというのはありえない。いろいろな事情があったとはいえ、士官になったんだ。それ相応の業務を担って貰わないと困るという事だろう」
「え~……」
一応マークも生体研究という忙しい日々を送っている。魔王対策として、何度か訓練中の武装局員へ指導を要請されてもいる。はやてに悪意が向かないよう、片手間程度だが被害者の会とかいう連中ともかかわりを持ち始めてもいる。いろいろ迷惑をかけている手前、アースラの業務の手伝いも行い、すずかの訓練にも顔を見せている。
そしてそれらの忙しさをフェイト達に見せないように気を使っていたのだが、さらに業務が増えるとなるとそれも難しい。
(フェイト達なら、何か手伝えることはないかって聞いてきそうだな……)
あくまでこの世界、この国でのことではあるが、子供というものはよく遊び、また学ぶべき存在だ。ならばこの世界にいる間だけでも、そのように在って欲しかったのだ。
だがマークが管理局で本格的に働き始めたら、責任感の強い、いや、誰かの役に立つ存在でありたいという意識の強いフェイトは間違いなく管理局への入局を決意してしまうだろう。
「どうしても嫌なら、研究に専念すると言えばいいと思うが……」
「いや、ここで断って印象を悪くしたくない。組織に所属する以上、義務は当然果たすべきだからな」
この一言のために、正式な局員として単独で現場に出る前に、後日訓練校に通うことが決まったマークであったが、この事を知ったなのはとフェイトも一緒に通う事になったというのは余談である。
「とりあえずはこんなもんかな?」
「ああ、後は形だけでもデバイスを作って終わりだ。そう言えばバリアジャケットを作ってもらうとか……」
以前修理に出した鎧は返却され、砕かれた『鋼の大剣』や『ギガファイアー』の魔道書と共に保管してある。そして返却の際に依頼したバリアジャケットの作成と、武器のデバイス化はすでに完成の報告を受け、受け取るだけとなっている。
「この後ナカジマ夫妻に話を聞くことになってるから、その後にでも受け取る予定だ」
「そうか、やっと予定が噛み合ったんだったな」
夫のゲンヤが魔道の資質を持たない尉官という事と、妻のクイントは最前線に出られる実力を持った捜査官という事で中々予定が合わなかったのだが、ようやく時間が取れたのだ。
この二人と、現在娘たちの体を見ている第四技術部での話し合いは、資料を見たマークにとってあまり気が進むものではなかった。
「やっぱり専門外だと思うんだが……」
「機人だったか? まあ、念には念をとか気休めとかの類かもしれないし、そこまで気にする必要はないだろう」
純粋なクローン体ではなく、体内に機械を入れた機人という存在。マークはこのような相手に対し役に立つような知識は持ってないし、参考にできるとも思えなかった。
そうはいってもいまさら約束を反故にするわけにもいかず、とうとう当日を迎えてしまったのだった。
「面倒事が起こらなければいいけど……」
マークは軽くため息をつきつつ、クロノ達に書いた書類をわたし約束の場所へと歩みを進めるのであった。
「本日は忙しい中時間を作ってもらって感謝する。時空管理局陸上警備隊所属、一等陸尉のゲンヤ・ナカジマだ」
「同じく首都防衛隊所属、陸曹長のクイント・ナカジマです」
「え、えっと、本局第四技術部所属、メンテナンススタッフのマリエル・アテンザです」
「あー……本局総合特殊技術部所属、三等陸尉のマーク……だ」
とりあえず定型の挨拶をした四人であったが、そんな中微妙に言葉を濁したマークの挨拶はやはり目立つことになった。しかしそのことに軽い疑問を持つことはあっても、わざわざ深く突っ込む者はいなかった。
「とりあえずはじめまして……マーク三尉と呼んだ方がよろしいですか?」
「あ~、ただマークでいい。それと敬語もいらない、と言っても軍属には難しいか? おっと、それ以前に上官がいる以上俺が言葉を崩すのも問題か……」
「いえ、私も敬語は得意な方ではないので本当にいいのなら崩させてもらいますが?」
「俺も構わんぞ? それに今回の件は、どちらかと言えばプライベート寄りの一件だからな」
これまでいた軍では常に最上位の位置にいたためやらかしたマークであったが、今回は相手がおおらかで助かった形となる。今後は気を付けようとひそかに思うマークであったが、長年の習慣を即座に変えられるものではないと知るのはもう少し後の話である。
「それじゃあ失礼して……誰に俺のことを紹介されたか確認させてもらっていいか?」
「え? グレアム顧問官だけど……聞いてないの?」
首をかしげるクイントに対して、ちょっと確認したかっただけだと軽く答えるマークであったが、その裏ではため息をつきたくなる思いであった。
(どうにもわかりやすい奴ばかり俺のところに来ると思えば……俺がかかわる人物の選別までやってんのか)
簡単ではあるがマークの管理局に対する印象の操作というべきだろう。できるだけ話していて気持ちの良い人物をあてがい、闇の書の被害者の会のようなわかりやすい敵対者を送ることで行動を予測しやすくしているのだろう。
(別にそこまでしなくても管理局に敵対なんてしないのに……まあ、良き出会いがあるのはありがたいけどな)
そこまででグレアムに対する考察を終え、クイントに向き直る。ここにいる面子もグレアムの選別した『気持ちの良い人物』であるなら、せっかくの出会いを無碍にするのも馬鹿らしい。
「それじゃあさっそく本題に入ろうか。あんた達もそっちの方がいいだろ?」
「まあ、な。なんたって娘の一大事だ。一刻も早く専門家の意見を聞きたいってのが親心ってもんだろ」
場合によっては性急と言われるだろう展開も、今回のようなケースでは信頼を得られることもある。双方とももう少し人柄を確認したいという思いもあっただろうが、それもこの一言である程度分かるというものだろう。
ゲンヤはもとより知り合いであっただろうマリエルに資料を出すように視線を向ける。
「はい、ある程度の情報は前もって届いていると思うけど……」
「ああ、その身に機械を埋め込んだ機人と呼ばれる実験体を保護した、という話だと聞いている」
マークのあまりに率直な言葉に若干頬をひくつかせるマリエルであったが、迂遠な表現で説明をまごつかせるのもどうかと思い直し、できるだけ簡潔に詳細を述べる。
「一言で言ってしまえば、調整がうまくいかなくて結構危ない感じなの。年齢は七歳と五歳で、成長速度との兼ね合いが……」
「なるほど……」
基本的にマークの悩みとほぼ同じであった。フェイトは手足一本丸ごとであるのに対し、ゲンヤとクイントの娘たちは体内に機械を入れているかの違いがあるので、深刻さの度合いは大きいのだろう。
「更に体内の機械なんだけど戦闘を前提とした強度で作られていて、まだ幼いあの子たちには負担になってるみたいで、すぐに熱を出してしまったりして調整にも支障が出ているの」
「……」
最初こそ専門外だと高をくくっていたマークであったが、予想以上に共通した問題があることにその考えを改める。それからさらに細かい仕様についても説明されて心が折れそうになったが、何とか最後まで話を聞けたのはそのおかげというべきだろう。
「とりあえずクローン生成時に起こる問題について、いくつかまとめた資料を持って来ている。参考にしてみてくれ」
「わかりました」
機人に対してどこまで役に立つかわからないが、プレシアが研究の初期にまとめていたものを基にした資料をマリエルに手渡す。一応、前もって渡されていた資料から考えられる問題点を手当たり次第あげていたのだ。
さっそく目を通し始めたマリエルを放置しゲンヤとクイントに向き直ったマークは、とりあえず思いついた考えを述べてみる。
「成長については俺も行き詰ってるから何とも言えないが……その機械を非戦闘用に改めることはできないのか?」
「俺らがその程度考え付かないと思っているのか? サイボーグとは違って体の中身をごっそり交換できるような存在じゃ無いんだ。今は機能にリミッターをかけたり、一部パーツを下位互換しながら騙し騙しやっている状態だ」
ゲンヤの物言いがとげとげしいのは、それだけマークに期待していたからこそだろう。だが、まだすべてを説明する前から過剰な期待を押し付け失望している形になっていることに気付き、すぐさまバツの悪そうな顔をして謝罪するあたり、やはり悪い人間ではない。
「やっぱり話を聞いてすぐに打開策が思いつくはずもないわよね……」
「ああ、一時的なら生身の肉体の強化とかで凌げるかもしれないと思うが……」
「できるの!?」
根本的な解決にはならない。そう続けようとしたマークをクイントの驚きが遮る。
「一時的なものでしかないが……可能か不可能かでいえば可能だ。ただし、そう何度も使える手段じゃないな」
「そう言えば、次元漂流者だって話だったわね……」
恒久的に能力を上げるアイテムもあるのだが、そちらは初対面の相手に使うつもりはないマークであったが、一時的な強化ならその限りではない。もちろんマークの持つアイテムは補給の当てがないので、長期にわたって使用を続けることが難しい。
「……一月、ううん、半月でいいからなんとかならない?」
「……やってやれないことはない」
肉体の強度を上げるだけであれば、そのような用途の杖と薬がある。持っているだけで加護が得られる武装もあるが、さすがにそれを貸し出そうとは思わない。
(そう言えば薬の使用は窘められていたような……)
ふとリンディとの会話を思い出し、とはいえやれると言ってしまった手前仕方がないので後日代用品を用意することに決めるマークであった。
「じゃあ、これは鍛えるしかないわね」
「大丈夫なのか? それに、そんな短期間で何とかなるものなのか?」
「やらないよりはずっとましでしょ? しばらくこっちに時間を取れるように仕事はあらかた済ませてきたし、最低限体のバランスが取れれば熱を出して寝込むなんてこともなくなるでしょうし」
希望的観測も含まれていそうなクイントの主張にマークは黙りこむ。体に過剰な負荷がかかり熱を出しているのなら逆効果ではないかと考えるが、強化により適切な負荷になれば体を鍛えるのにちょうどよくなるのか判断に困ったためだ。
「まあ、ほどほどにな」
「それぐらいわきまえているわよ」
念のため一言注意して、後日もう一度話し合ってから娘たちを鍛えることに決める。杖に込められた強化魔法はともかく、薬については研究所で解析して身体に害がないことを確認してから使用を検討することになる。
「思ったよりは進展があったと言っていいかしら?」
「根本的な解決にはなってないがな」
「こんな話し合いの一つ二つで万事解決するようなら、今回お前さんを紹介されることなんてなかっただろうさ」
「そうですね~、この資料があればある程度の問題は洗えますし、それ以上はちょこちょこ改善していくしかないと思いますよ?」
マークにしてみれば進展が無かった話し合いだったが、クイント達はそう思っていなかった。実際に出た成果以上にこのような問題に向き合う仲間が増えたことは、クイント達の助けになっているのだ。
「まあ、成長や部分強度の問題は俺も積極的に対処しなきゃならない事だったし、今後の研究はある程度共有することを約束しよう」
「ある程度?」
「俺の本来の研究課題は死者蘇生と不老不死だが?」
「……いい、そんなの知りたくない」
最後にしっかりと協力を公言し、これにて第一回の話し合いは終了となった。
それに伴いマークはマリエルに対し、研究者としてではなく一人の戦士として改めて話しかける。
「それじゃあこっちの要件をいいか?」
「はい……こちらが完成品ですね」
「あら、デバイス?」
部屋を出ようとしたナカジマ夫妻であったが、ついマークたちの会話が耳に入り口を出してしまった。
「はい、第四技術部総出で仕上げた自信作ですよ! と言っても剣は持ち込みでしたし、バリアジャケットのデザインも指定されてましたから、私たちがやったのはいかに要望のスペックに近づけるかだけでしたけど……」
「それが重要なんじゃない」
そう言いながらスペックシートを出すマリエルの手元をクイントが見ると、なかなか興味深い数字が並んでいるのが見えた。ただそのシートをマークは見ることはなく、さっそくデバイスを起動しジャケットと剣を展開していた。
「ふむ……やはり強度は落ちてしまったか」
「要望にあったカートリッジシステムを組むのにどうしても……外装の強化も検討しましたが、そうなると剣のバランスが変わってしまうので最終的には87%の数字になっています」
元の銘を『リガルソード』という、片手持ちのロングソード。シグナムの持つレヴァンティンと同様に柄の部分にカートリッジを組み、その部分が少し弱くなったという事だが、剣身に濁りは無く、名剣に数えられる一振りだという事が見ただけでわかる造りとなっていた。
そしてバリアジャケットであるが、残念ながらこれを見てジャケットだという表現をするのは問題と言えよう。
「甲冑?」
「もともとマークさんの持っていた鎧のデザインをそのまま使用しています。これは物理的な強度は少し落ちますが、魔法に対する抵抗値は段違いですよ!」
以前の鎧と区別するためか、少し明るめの蒼を基調としたものとなっているが、今までのバリアジャケットの常識に無い鎧姿は新鮮さを越えて奇妙にさえ見えた。
「これはちょっと……動きにくいんじゃない?」
「慣れているし、問題ない」
マークからしてみれば、魔法によって造られたこのバリアジャケットは以前のものより動きやすいくらいだったのだが、それを聞いたクイントは頬をひきつらせていた。
「ふむ、強度に関しては十分だ。これほどのものは元の世界でもそう見なかったし……ああ、これならば問題ない」
「よかった~、これで駄目だしされたら私たち路頭に迷う……」
「次はこの剣を頼みたい。バリアジャケットは後日設定してもらうから置いといてくれ」
「……」
名剣を扱う楽しさより、マークという重要人物から預かった得物をいじるというプレッシャーが技術部全体を覆って息苦しかったのだ。それにもかかわらず次の剣、それも先のものより強い力を持っていると思わせる剣を渡されてしまったのだ。
そんなマリエルの嘆きを理解するものはここには無く、マークは『ソール・カティ』に望むスペックを語り、クイントとゲンヤはただただ感心の嘆息を漏らすのであった。